私のキャリアデザイン

「ハッピー☆キャリアデザインを考える」
京都創成大学経営情報学部 准教授・キャリアサポート部長
税理士・CFP・臨床心理士・シニア産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
寿山 泰二
「ハッピー☆キャリアデザインを考える」

Ⅰ. キャリアデザインは自分の人生哲学を具現化するもの
「人生」とは何か、「幸福」とは何か、その答えを導き出すにはひたすら生きていくしかないように思います。また、ひたすら生きたとしても、その答えはそう簡単に見つかるものでもなく、正解が用意されているわけでもないようです。試行錯誤して生きていく中で、自分なりに納得し、たとえ不本意であっても受け入れることができた答え「納得解」こそが、その人にとって正解と呼べるものなのかもしれません。「人生」や「幸福」に限らず、人が生きていく上での正解というものは、決して1つしかないというものではなく、人それぞれで、人の数だけ存在するものだと思うのです。

そう考えると、キャリアデザインは、自分の「人生論」や「幸福論」といった「哲学」を具現化するための実践的方法論と言えないでしょうか。単に、人生設計・将来設計をするためだけでなく、自分の「人生論」や「幸福論」を形成するため、「納得解」を導き出すための方法論としてキャリア理論を学ぶことはとても有用だと思います。代表的な「キャリアアンカー理論」や「プランドハプンスタンス理論」の中にも「人生」「幸福」に関する多数のヒントが詰まっています。「適性」や「偶然」を活かした生き方から自分に合った「納得解」を探してみるのもいいでしょう。

もし、既存のキャリア理論で自分の求める答えが見つからなければ、自分独自のキャリア理論を構築して「納得解」を創り出せばいいのです。どうせキャリアデザインするなら、自分自身の思考・行動・感情をうまくコントロールして「ハッピー☆キャリアデザイン」を目指しましょう。「幸福」は自分の心の中にたくさん眠っているものです。その種を掘り起こし、育て、花を咲かせ、実を結ぶような自分独自のキャリア理論の構築こそが、自分の目指す「人生」そのものなのだと思います。

Ⅱ. ワンイヤーデザイン理論を実践しよう
私のキャリア理論である「ワンイヤーデザイン理論」を紹介しましょう。簡単に言えば、毎年、自分の夢・目標に対して実践してきたことを振り返って整理し、その夢・目標に対する接近割合を数値化し、達成できたこと、できなかったことを外部環境要因(経済状況や法改正等)と内部心理要因(モチベーション等)に分類、熟考、修正、考えうるすべての選択肢を列挙し、そこから次年度の夢・目標を新たに選択・決定するものです。要するに、1年ごとにキャリアの「棚卸し」と夢・目標の「洗い換え」を行って、PDCAを実践していくものです。

2008年9月のリーマンショックに端を発した金融危機により、世界のトヨタでさえも、2兆円あった営業利益が1年足らずで一気に4500億円の赤字へと転落、大卒採用計画数は、前年の49%減の480人へと大幅に削減、大学生の就職志望企業ランキングも、トップテンの常連で前年6位だったものが、96位にまで大きく後退してしまう変動の時代です。先の見えない状況であればあるほど、私たちは、1年1年の変化に応じた対処策を講じていく必要があるのではないでしょうか。

どんな時代であろうとも、アンテナを常に張り巡らせ、情報収集を心がけていれば、そこから自分の行く先は必然的に見えてくるものです。「キャリアチェンジ」も決して偶然ではなく、必然なのかもしれません。また、外部環境要因だけでなく、内部心理要因も毎年変化(成長・衰退)するものです。変化は新たな夢・目標を生み出します。どうしても前に進めないのなら、いつまでも同じ夢・目標にこだわり続ける必要もないと思います。外部環境要因や内部心理要因に合わせて、その都度、自分が納得いくようにキャリアデザインしていけばよいと思うのです。

キャリアデザインは人生の下絵です。節目だけでなく、必要に応じて何度でもキャリアデザインすればよいと思います。もちろん、大きな夢・目標は、そう簡単に実現するものではありません。用意周到に練った計画でさえ実現しないことも多い世の中です。だからといって、自ら努力することを怠ってはいけません。目標達成を目指す地道な努力があるからこそ、実現したときの達成感・満足感が大きいのだと思います。計画には、修正・改善等はつきものです。「ワンイヤーデザイン理論」を実践して、自分なりの「幸福」を手に入れてみませんか。

Ⅲ. 大学のキャリア教育に本当に必要なもの
経済産業省が、企業の「求める人材像」と社会人基礎力との関係を調査したところ、企業規模に関わらず、「前に踏み出す力」を求めていることがわかりました。一方で、若手社員に「不足が見られる能力」として「前に踏み出す力」と「考え抜く力」を挙げています。「前に踏み出す力」は、大学の4年間だけでそう簡単に身につくものではないように思います。私が大学生のエンプロイアビリティを調査してみたところ、「行動力」よりも「論理力」の方が低い自己評価結果が出ました。「考え抜く力」の不足が、「前に踏み出す力」を阻害しているようにも思われます。

「問題解決」においても「行動力」は確かに必要ですが、その前に、まず何が「問題」なのか、次にどうすれば「解決」できるのかを「考え抜く力」が必要だと思います。その解決策を実行に移すときに必要なのが「行動力」ではないでしょうか。つまり、現代の大学生に対して必要なのは、「行動力」不足よりも「論理力」不足を先に補っていくキャリア教育ではないかと思うのです。

たとえば、「論理力」を専門的に養成するキャリア教育科目(「クリティカルシンキング」や「ディベート」など)をもっと積極的に導入して、グループディスカッションやグループワークなどを活用しながら実践的に磨いていけば、「考え抜く力」を十分に鍛えることができると思います。沈思黙考して行動につながらない「考え抜く力」ではなく、行動につながる、行動を伴う「考え抜く力」を養成することがポイントだと思います。その上で、あるいはそれと並行してキャリアデザイン、キャリア形成、インターンシップといった実践的なキャリア教育科目を実施していけば、現在よりも「前に踏み出す力」も確実に身につくのではないかと思います。

「論理力」を鍛えれば「創造力」「現実検討力」も増し、認知の修正が自分でできるようになって、「ストレスコントロール力」の向上にもつながると思います。さらに、学生にとって就職活動における自己分析や企業研究がより客観的で有用なものになるばかりか、何より就職後においても、自分の人生をしっかりと考える「デザイン力」の基礎となり、本来のキャリア教育の目標の1つであるエンプロイアビリティ、すなわち、離職しても、また新たに自らの力で就職することができる「持続的就業力」の獲得につながっていくと思うのです。

「人生」には正解が1つしかないと教育・指導するのではなく、正解は何通りもあって、その中から自分が実践できる答え、自分が受け入れることができる答えなどを自分自身で見つけ、考え、行動に移せるような教育・指導方法が、自分の人生における「幸福」をもっと大きく拡げていくことになるのではないでしょうか。

大学のキャリア教育は、「家」づくりにたとえると、「基礎工事」部分に相当するものだと思います。各自が自分の「人生哲学」に応じたデザインを自由に新築・増築・改築等していけるように、地震や台風などにも十分に耐えうるしっかりとした土台づくりを支援していくことが、大学のキャリア教育に課せられた社会的役割ではないかと思っています。