ごあいさつ

さらなる発展のために

日本キャリアデザイン学会会長 脇坂 明(学習院大学 経済学部教授)

日本キャリアデザイン学会会長
脇坂 明(学習院大学 経済学部 教授)

中村恵前会長のあとを引き継ぐ形で、会長に就任しました脇坂でございます。私の専門は、労働経済学をベースに女性のキャリアを研究してまいりました。企業内での女性キャリアを中心におく研究でありましたので、男女均等施策とかワークライフバランス(WLB)施策についても調査を行ってまいりました。実践的にも学習院大学でWLB指標を開発し、企業や病院で利用いただきました。

そういった分野の研究や実践であったため、経済学といった一つの学問体系ではおさまりきらず、ほかの学問の研究などを大いに参考にしてきました。この学会に関わることになりましてから、一段と学際的な研究、あるいは学際的なモノの見方の重要性を再認識しました。なお本当は学際的という言葉より、第11回研究大会で用いた創造的相互作用のほうがよいです。その内容は、さわりだけ『キャリアデザイン研究』Vol.11に掲載されています。

キャリア研究はもちろん、キャリアに関連することの実践は、学際的にならざるを得ない性格を有しています。本学会の存在意義も、そこにあると思います。一人の研究者、実践者が、多くの学問体系の研究成果を自分一人で精査することは、自己の専門分野でも大変なのに、ましてや自己の専門以外の分野の先行研究の成果は、なかなか難しいでしょう。

現実的で望ましい方法は、先行研究のうち、どれに当たるべきかを、その道に詳しい人に聞くしかないでしょう。その場を提供するのが、本学会ではないかと思います。その意味で、私自身、この学会をまだまだうまく活用・利用できていないと思います。

本学会10年の研究を振り返った2014年のシンポジウムでは、キャリアをより根本的に考えるべきとの発言が多く、このシンポの流れから、佐藤厚会員の提案で、OJT(On-The-Job Training)を今一度、探ってみようということになりました。中間報告を2016年研究総会で行いましたが、今後も深く議論していくべき課題であると思います。男女のキャリアの違いやいわゆる「正規・非正規格差」もOJTの違いが大きく関連していると思われます。

また学校教育と企業内教育(訓練)の相対的位置づけも研究課題だと思っています。このへんは、とくに国際比較の観点が重要になってくると思います。要は、キャリアを形成していくときに、学校現場にしろ職業訓練機関にしろ、企業現場にしろ、どのような職種では何がなされ何が課題になっているかを、いま一度、洗い出していくことが必要ではないかと思っています。

この課題も、創造的相互作用からより良質の概念や知見を生み出す場を提供したいと思っています。とくに、やや不足であった企業実務の会員同士の勉強や懇親の場を積極的に提供していきたいと思っています。

さて「キャリア」という用語の概念は、先行研究をふまえた本学会発行の「キャリアデザイン支援ハンドブック」に、歴代会長の渡辺、川喜多、中村氏によるものが掲載されました。共通理解は進んできたのではないかと感じています。ここから、やや哲学的な話になりますが、学会名のもう一つ「デザイン」については、深く議論されていないのではないか、と感じています。デザインは訳せば設計であり、良い設計図を作成することがキャリアデザインとなります。それにできるだけ正確にしたがって人生を送っていくことが望ましいキャリアというイメージがひとつあります。

言うまでもなく計画通りにいかないことが人生でありますので、それに対して企業や社会が悪い、あるいは謙虚な人は自分の努力や能力が足りない、という結末になります。これでは、あまりにも単純すぎるキャリアデザインのイメージではないでしょうか。その原因は、おそらく「デザイン」をどう考えるかによると思います。梅崎修会員から聞いた話を紹介します。地域などで建築デザインするときは、はじめからここに何を作り、ここに人や店が集まる、という方法よりも、大まかに場所をきめて、あと住民や企業などが話し合い交渉しながら街づくりをするほうが、良い街や空間ができるようです。

だから「デザイン」でありながら「デザイン」でない、正確にいえば、デザイン概念のレベルが複層になっており、高次のレベルからレベルを落として現実化していくというもののようです。私が学生のころに流行った、少し胡散臭い「弁証法」の議論と似ていますが、質の高い考え方のようにみえます。これが「キャリア」の場合にも適用できそうな気がします。本人にしろアドヴァイザーが作るにしろ、その「デザイン」は、のちに変更修正されることを前提にしたものを原点におく。変更修正という言葉じたい、複層化していない、一次元での用語であり、私が考えているイメージではありません。細かくデザインしても無意味で、偶然こそがキャリアを作っていくという見解もあります。でもその「偶然」をのちのキャリアにいかせたのは、前もっておおまかな「デザイン」があったからであり、このようなものを意識的に作り、これを実践や研究につなげることが建設的にみえます。「planned happen- stance」(計画された偶発性)の理論もこの流れにあるのではないでしょうか。

先ほど述べたOJTも、企業経営自体の問題で仕事が全く違ってしまう、最悪なくなってしまえば、通常のOJTの議論では、キャリア論につなげることができません。OJTで社員や企業が何を目指しているのかを、より深く考えることは、創造的相互作用からしかできないと思っています。皆様の研究や実践に期待しています。

(2016年9月15日付・学会ニュースレターより転載)