私のキャリアデザイン

「天職は経験から探すべきではない」
嘉悦大学 短期大学部 准教授
柏木 理佳
「天職は経験から探すべきではない」

天職は経験から探すべきではない。
18歳で豪州の大学に留学した私は「何になりたいの?」「なぜわざわざ英語や経営を習いに外国まで来ているの?」と会う人みんな人に聞かれました。

それからというもの「私は何になりたいのか?」「天職」とは何か?と考え続けてきた。天職から想像できるものすべて、輪廻の本まで読みあさりました。結局のところ、本から得た情報では「人は何をしたいのか、探し求めていくことが天職である」と書いてあったと記憶しています。

その後、東京にあるアメリカの貿易会社に勤務したが、利益追求型のドライなビジネスに数ヶ月で上司がクビになる状況は新入社員にはストレスで入院することになります。そして「人に親切にできる仕事がいい」「海外にいける仕事がいい」と香港を基点に世界をフライトするフライトアテンダントの仕事に転職。しかし「もう一度ビジネスにかかわる仕事がしたい」という気持ちは変わらず、入社時に「この仕事は3年間限定の職業」と決めてフライト中も常に「天職何だろうか?何ができるのだろうか?」と考え続けていました。3年近くが経ったが、結果は出ずに中国に留学することを決意。その後、中国語を学んでシンガポールで会社設立に携わります。ところはビジネスは自分の思い描いていた想像とは違い失望するとともに自分の無能さを痛感することになります。

「私は無能だ」と落ち込んでいたとき、ふと天職とは何かとまた考えてみました。4万以上もの職業のうち私が経験したのはたった3つです。私の最大の失敗は「私は経営を学ぶことが好きでビジネスに興味がある」と思い込んでいたこと。適職を無視して自分の興味ばかりを追及していたことです。

転職活動を考えたとき「働いた経験のある職種」から探すことが多いと思います。多くの人がそれしかできないと思い込んでしまうからでしょう。

30に分類した仕事内容には適職が
ところが、経験がなくても一つの職業は30種類以上に分けられます。貿易事務は、英文で手紙を書いたり、英語で電話応対をしたり、秘書業務として上司のスケジュール管理をすることもあったり、工場からの調達のスケジュール管理、営業への受け渡し、出張中の現地でのアテンドや製品の品質管理などもあります。フライトアテンダントも機内の掃除からクレーム対応、時間の管理、保安要員としての補佐、現地の観光情報、時差の管理、免税情報、VIPとの会話、接待などもあります。

これらは一見、まったく違う産業に転職しているようですが、実はどんな仕事にも必ず共通点があります。それを見つけることができればチャンスにつながります。今の仕事が「おもしろくない、辞めたい」と思っている人でも、30に分類してみると何かほんの一つくらいは楽しいことがあるはずです。それが適職ともいえるのかもしれない、見逃してはいけない職業かもしれないのです。

再び私に「何になりたいの?」と自問させられたのが、UNTACや新聞記者と同行したカンボジアでの衝撃でした。カンボジアでは日本に報道されるのとは違った凄惨な光景でした。私は一週間、40度の熱が下がらずマラリアにかかり、途中から別行動になった記者が内戦の中で取材を続け命を落としたのです。私は「仕事に命をかける姿」に強く心を打たれ、再び「私は何になりたいのか?」と職業について強く意識するようになり、「もっと人の役に立ちたい」と思うようになりました。

変化している自分の価値観に敏感に!
他界した記者はどう評価されていたのか私には知ることなく、終わりました。興味だけを追求して好きな仕事を一生続けても世間からは認めてもらえない人、また好きな仕事ではないけど評価され、そこそこ出世する人、給料の高い職業がいい職業と思う人と、これまでは両極端な3つの価値観にわけられました。でも、これからはもっと多様化されるでしょう。フリーターが増加するなど若者の職業意識が低下しているといわれている中、大学でもキャリアの授業が職業意識を高め、その時代その時代の新しい自分なりのキャリア形成ができることを期待したいです。

柏木理佳 プロフィール
http://www.kashiawgirika.com