キャリアデザインマガジン 第98号

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□    キャリアデザインマガジン 第98号 平成22年7月5日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 キャリア辞典「セーフティネット」(1)

2 私が読んだキャリアの1冊 出井智将『派遣鳴動』

3 キャリアイベント情報

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【学会からのおしらせ】

◆関西支部2010年度第1回研究会が開催されます。

 日 時  平成22年7月24日(土)15:30~18:00
 テーマ  「正社員就職とマッチング・システム
         ~ 大学生の就職とキャリアセンター」
 講 師  林 祐司(首都大学東京大学教育センター准教授)
 参加費  会員/無料 非会員/3,000円
      *なお、研究会終了後、懇親会を予定(※懇親会 3,000円程度)
 会 場  新大阪丸ビル新館 9階904会議室(大阪市東淀川区)

 ※詳細は学会ホームページをごらんください。
  http://www.career-design.org/content/view/179/41/

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1 キャリア辞典

 「セーフティネット」(1)

 2002年から2006年にかけて、国立国語研究所は「外来語」委員会を設置して、
公共性の高い場で使われている分かりにくい「外来語」について、その言い換
えの検討を実施した。その結果、4回にわたり176語の外来語の言い換えが提案
されたが、第2回の提案の中に「セーフティーネット」が含まれている。当時
の評価では、この語を理解しているのは全国民の50%未満、60歳以上に限れば
25%未満とされているから、当時はまだ耳慣れない用語だったのだろう。ちな
みに、提案に記載された「意味説明」には「経済的な危機に陥っても、最低限
の安全を保障してくれる、社会的な制度や対策」との定義がある。さらに「手
引き」には「社会保障制度、金融機関破綻の際の預金者保護制度など、一部の
危機が全体に及ばないようにするための安全保障制度や安全対策を指す」との
解説があり、語源について「サーカスなどで落下防止のために張る網を指す語
が,社会的な安全保障の制度を指すようになったもの」と記載がある。

 これに対して国立国語研究所の委員会が提案した言い換えは「安全網」だっ
た。用例としては「社会保障制度の最後の安全網である生活保護制度がその期
待される役割を適切に果たしていけるよう」と示されている。直訳だが、語源
からくる雰囲気を伝えるには最適かもしれない。委員会はその他の言い換え語
例として「安全保障制度」「安全対策」も提案しているが、前者は軍事的な安
全保障の印象が強く、後者ももっぱら交通安全や災害対策などを想起させるだ
ろう。

 もっとも、2002年当時に較べれば、現時点では外来語のままの「セーフティ
ネット」の認知度もかなり上昇しているのではないか。この語が近年「公共性
の高い場」で用いられた最初の目立つ例は、小泉政権発足後の2001年6月に閣
議決定された経済財政諮問会議の「経済財政運営及び経済社会の構造改革に関
する基本方針」、いわゆる「骨太の方針」においてだと思われる。amazonのサ
イトで「セーフティネット」「セーフティーネット」などを書名に含む和書を
検索してみたところ29点ヒットしたが、2001年6月以前の本は2冊のみとなって
いるから、2002年時点であまり認知されていなかったのも無理はない。しかし
それ以降、競争促進策の採用が進んだり、低成長が続く中で雇用問題や「格
差」、「ワーキングプア」などに注目が集まったりしたこともあって、セーフ
ティネットはほぼ常に重要な政策課題のひとつとされてきた。この間に相当の
周知が進んだことは想像に難くないし、実際に2008年のリーマン・ショックを
受けて同年10月に打ち出された総合経済対策である「生活対策」においても、
雇用と金融(資金繰り)の両面で「セーフティネット」が連呼されていて、
「安全網」との言い換えは行われていない。ちなみにamazonの検索で「安全
網」を書名に含む和書は1点のみで、しかも漁業書だ。どうやら「セーフティ
ネット」は日本語に言い換えるまでもなく普及しているようだ。
                        (編集委員 荻野勝彦)

2 私が読んだキャリアの1冊

 『派遣鳴動-改正派遣法で官製派遣切りが始まる。』
            出井智将著 日経BPコンサルティング 2010.5.31

 この3月、日雇派遣・製造派遣・登録型派遣の原則禁止、インハウス派遣の
規制強化などを含む労働者派遣法案が国会に提出された。現時点では継続審議
となっているが、1986年の労働者派遣法制定以来、規制緩和が重ねられたが、
今回は規制強化へと大きく舵を切ったことになる。

 こうした動きの直接の引き金となったのは、おそらくは2008年6月、たまた
ま直前に派遣労働者であった青年が引き起こした秋葉原通り魔事件ではないか。
そして、これを強く加速したのが2008年から2009年の年末年始に日比谷公園で
開催された「派遣村」だろう。このイベントはそのタイミングのよさと演出の
巧みさで世間の耳目を大いに集め、非正規労働や貧困の問題を社会にアピール
することに成功し、その意味においては有意義な取り組みであったのだろうが、
そのいっぽうで派遣労働に対して「派遣労働→派遣切り→収入と住居の喪失→
貧困」というネガティブで画一的なイメージを抜きがたく植え付けてしまった
ことも否定できまい。もはや派遣労働は「なにもしないことは政治的に許され
ない」ほどに話が大きくなっていた。

 しかし、実際には派遣労働者も多様であって、たとえば厚生労働省が2007年
に実施した調査によれば日雇派遣で働く人の半数近く(45.7%)は今後も日雇
派遣での就労を望んでいるという。同様に、製造派遣で働く人のすべてが派遣
切りにあったわけでもないし、登録型派遣で満足度高く働いている派遣労働者
も数多い。

 こうした中で、法改正による「原則禁止」は本当に派遣労働者のためになる
のだろうか。疑問を呈する意見も多い。この本の著者は製造派遣を主力事業と
する中堅人材派遣外者の経営者だが、その見解は「改正派遣法で官製派遣切り
が始まる。」というこの本の副題に明らかだ。実際、リクルートワークス研究
所の試算によればこの法改正で18万人が職を失う可能性があるという。

 もちろん、すべてではないにせよ、派遣労働に巷間指摘されるような問題点
があることも間違いない。いったい、本当の問題はどこにあるのか。この本で
は、業界インサイダーの立場から、外からは見えにくい問題を指摘する。その
内容は現場感覚に裏打ちされて説得力に富む。

 著者はまず、若者の就職がきわめて厳しい状況下におかれていた時期に、派
遣がその受け皿としての役割を果たしたことを主張する。そして、経済・産業
の現実をみれば、派遣労働なくして海外への技術流出は避けられないことを指
摘する。改正派遣法が政党間の取引材料にされたことに憤るとともに、労働団
体と派遣業団体との間での対話を通じて一定の前進がはじまりつつあることも
紹介する。そして、著者自身の派遣した派遣労働者の事例から、派遣での就労
が労働者のキャリアに有意義な貢献をなすことができることを訴える。ここで
の著者の主張を一貫しているのは、「派遣は立派な働き方の選択肢であり、一
律に『可哀相』と決め付けるべきではない」という信念だ。派遣労働が現に社
会的に不可欠な存在にまで拡大している以上、いつまでも「直接雇用が原則だ
から」と派遣を例外扱いしているところに根本的な問題の一つがある。

 もう一つの根本的な問題は、実は業界内部にある。著者自身は、人材派遣業
の社会的意義に誇りを持ち、社会のため、働く人々のために貢献すべく日々の
経営に苦闘しているのだが、いっぽうですべての派遣業者がそういう存在では
ないことも率直に認めている。金儲けのためには手段を選ばず、法や規制の抜
け穴をくぐり、あるいは正面からそれに違反することも厭わないという悪質な
派遣業者も決して少なくないのが現実なのだ。悪質業者の取り締まりはもとよ
り、業界の自浄作用を高めていくことが求められる。

 そう考えると、今回の法改正には「官製派遣切り」と並ぶ大きな問題点があ
ることがわかる。それは、著者の経営する企業のような「良質な派遣業者」が
失われてしまいかねない、ということだ。これからの時代、もちろん公共職業
紹介の必要性はなくならないが、人材ビジネスを通じた労働力需給調整の役割
が高まることも確かだろうし、人材ビジネスそれ自体が雇用を生み出すことも
期待されている。人材ビジネスを健全な産業として育成することこそが求めら
れている現状において、良質な派遣業者を減らすような法改正を行うことが好
ましいとはおよそ思えない。

 派遣法改正法案は、鳩山前首相退陣のあおりをうけて幸いにも継続審議とな
った。これを機に、あらためて派遣労働の位置づけや規制のあり方について頭
を冷やして考え直してみる必要があるのではないか。この本が伝える現場の声
は、十分な説得力を持ってそう思わせる。関係者必読の一冊であろう。
                        (編集委員 荻野勝彦)

 ※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
  日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。

3 キャリアイベント情報
  ~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~

◆自治体職員有志の会第7回シンポジウム「地域主権を担う自治体の変革と
 プロ職員の条件」
 平成22年7月31日(土)13:00-17:30
 於 エソール広島(広島県女性総合センター、広島県広島市)
 http://www.geocities.jp/ksiget/220731hiroshima/

◆京都大学高等教育研究開発推進センター・(財)電通育英会 大学生研究
 フォーラム2010「企業人材教育の現在-大学には何ができるのか?」
 平成22年8月2日(月)10:30-17:30
 於 京都大学百周年時計台記念館(京都府京都市)
 http://www.dentsu-ikueikai.or.jp/forum/forum2010.html

【編集後記】

 本号から約14か月ぶりに「キャリア辞典」を再開しました。この間に政権交
代もあり、用語の意味合いも微妙に変化しているようにも思われます。旬な用
語を取り上げていきたいと思いますので、どうかご愛読ください。(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.career-design.org/

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
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行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。

 編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail cdgakkai@hosei.org
   〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1

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