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□ キャリアデザインマガジン 第97号 平成22年6月14日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 私が読んだキャリアの1冊(1)
佐藤博樹・佐野嘉秀・堀田聰子編『実証研究 日本の人材ビジネス』
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
尾高煌之助・松島茂・連合総研編『イノヴェーションの創出』
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆東京地区2010年度第3回研究会が開催されます。
日 時 2010年6月26日(土) 13:00~15:00 ※12:30開場
テーマ 教育の職業的意義(レリバンス)
-若者・学校・仕事の結びつきや関係性について-
講 師 本田 由紀(東京大学大学院教育学研究科教授)
参加費 会員/無料 一般/3,000円
会 場 共立女子大学 本館 1008号室
※詳細は学会ホームページをごらんください。
http://www.career-design.org/content/view/181/1/
◆関西支部2010年度第1回研究会が開催されます。
日 時 平成22年7月24日(土)15:30~18:00
テーマ 「正社員就職とマッチング・システム
~ 大学生の就職とキャリアセンター」
講 師 林 祐司(首都大学東京大学教育センター准教授)
参加費 会員/無料 非会員/3,000円
*なお、研究会終了後、懇親会を予定(※懇親会 3,000円程度)
会 場 新大阪丸ビル新館 9階904会議室(大阪市東淀川区)
※詳細は学会ホームページをごらんください。
http://www.career-design.org/content/view/179/41/
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1 私が読んだキャリアの1冊(1)
『実証研究 日本の人材ビジネス-新しい人事マネジメントと働き方』
佐藤博樹・佐野嘉秀・堀田聰子編著 日本経済新聞出版社 2010.3.5
東京大学社会科学研究所人材ビジネス研究寄付研究部門は、株式会社スタッ
フサービス・ホールディングスの奨学寄附金にもとづいて、2004年から2010年
にかけて6年間設置され、多くの研究成果がもたらされた。調査プロジェクト
は数え上げるのが困難なほどの多数にのぼり、いずれもが大規模なアンケート
調査や聞き取り調査、あるいはその双方を実施している。成果物としても「研
究シリーズ」として2004年10月の佐藤博樹・佐野嘉秀・藤本真・木村琢磨『生
産現場における外部人材の活用と人材ビジネス(1)』から2010年3月の木村
琢磨・鹿生治行『登録型派遣業における営業担当者の仕事と技能』にいたる17
冊を数えるし、「資料シリーズ」も5回にわたって実施された「人材ビジネス
の市場と経営に関する総合実態調査」の結果を中心に7冊にのぼる。そのほか、
この研究をもとにした出版、論文も数多く、博士論文5本など研究者の育成に
も大きな成果を残した。
この研究部門が開設された2004年は製造派遣が解禁された年でもあり、「失
われた10年」を抜けて労働需要が回復する中で、人材ビジネスは新たなマッチ
ングのしくみとして注目されていた時期だ。しかしその後、2006年のNHKス
ペシャル「ワーキングプア」の放送や、その直後の安倍内閣の発足あたりを契
機として非正規労働問題が大きな注目を集めるようになり、人材ビジネスに対
しても「不安定・低賃金雇用の温床であり、ワーキングプアの元凶」といった
否定的な論調が拡大していった。それが頂点に達したのが2008年から2009年の
年末年始に日比谷公園で開催された「派遣村」であったと言ってもそれほど大
きな間違いではあるまい。
こうした中で、派遣労働は大幅な製造派遣の再禁止など規制強化の方向に向
かうことになったが、しかし、この「派遣村」自体、直後から「集まった人の
どれほどが(元)派遣社員だったのか」といった疑問が呈されていた。ことほ
どさように、こうした世間での議論も、法改正の検討も、人材ビジネスの正し
い実情が必ずしも周知されないままに展開されていたきらいは否めない。実際、
急速に拡大した人材ビジネスについて、その実情を明らかにした調査は乏しく、
その中でこの研究部門は非常に貴重な存在だったはずだ。
この本は、この「人材ビジネス研究寄付研究部門」の集大成ともいうべきも
のだろう。3人の共編者はいずれもこの研究部門の中心的な役割を担った。研
究対象は派遣と請負が中心だが、一部で民間職業紹介も取り上げられている。
研究の視点も、人材ビジネスの機能と経営管理、生産・設計・事務・営業・介
護さらにはコールセンターなどのさまざまな職種・業種における派遣や請負の
人材活用、派遣・請負人材の動機づけや技能形成・キャリア形成、さらには人
材ビジネス従事者の人材育成など、まことに広汎であり、重要なポイントを網
羅している。それゆえにまことに大部ではあるが、わが国人材ビジネスの現時
点における実情を広汎に知ることのできる信頼できる研究書である。内容をみ
ても、世間で人材ビジネスや派遣・請負労働者に対して持たれているイメージ
とはかなり異なる現実も示されており、政策論においてもきわめて貴重な貢献
であって、今後の議論に大いに生かされることを期待したい。
逆にいえば、こうした実証研究の成果が十分に踏まえられず、主に政治的要
請によって派遣法改正が行われようとしている現状は遺憾というよりない。た
とえばこの本の第1章は登録型人材派遣、第2章は資本系人材派遣(いわゆる
「インハウス派遣」)の経営管理について述べられていて、これらはいずれも
今回の改正法案では禁止を含む厳しい規制が課されることとされているが、こ
れらの章と後続の関連の各章とをあわせ読めば、これらを禁止することへの疑
問はかなり大きいことが知られよう。
もちろん、この本からは現在の人材ビジネスが抱える課題や問題点なども多
数浮かび上がってくる。決して人材ビジネスが現状のままでよいとされている
わけではない。大切なことは問題があるから一律に禁止するということではな
く、実態をふまえてより健全で高付加価値な産業として人材ビジネスを育成し
発展させていくことであろう。そのための議論の基礎として、この本をはじめ
とする人材ビジネス研究寄付研究部門の業績はおおいに有意義だろうと思われ
る。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
『イノヴェーションの創出-ものづくりを支える人材と組織』
尾高煌之助・松島茂・連合総合生活開発研究所編 有斐閣 2010.5.10
連合総研のプロジェクト研究から生まれた本だという。グローバル化が進展
する中で、日本企業が良好な雇用機会を生み出していくには、産業革新、イノ
ヴェーションが決定的に重要となる。働く人たちが実力を発揮し、満足のいく
職業生活を実現し、自己実現をはたすには、なにを考え、どう行動すべきかと
いう問題意識は、労働組合系のシンクタンクにまことにふさわしい。このプロ
ジェクトでは、この課題に対して、比較的情報蓄積が豊富な製造業を中心とし
た諸産業に対する聞き取り調査を中心に取り組んだ。
まず第1章では、トヨタ自動車の事例をもとに、製品技術・生産技術・製造
技術などの各分野の技術者がそれぞれの領域に特化して働くだけではなく、互
いに連携することを通じ、その相互作用によって連鎖的にイノヴェーションが
創出されるという」が仮説として提示される。
第2章以降は、それを検証すべく、具体的な事例研究となる。第2章では自
動車部品二次サプライヤー、第3章では産業機械(紛体機器)、第4章では鉄
鋼(薄板鋼板)、第5章では化学(汎用樹脂)、第6章では製造業を離れて情
報通信、そして第7章ではソフトウェア産業が取り上げられる。
これらの各章でも、そのあり方や促進のしくみにはニュアンスの相違がある
ものの、「技術の相互作用」は確実に観察される。製造業では、人事異動を通
じたキャリア形成や、取引先との人事交流、各分野の技術者が集まるプロジェ
クト・チームの設置や、各分野の橋渡しを担う組織の常設といったものが重要
な役割を果たしている。第6章の情報通信においては、研究開発から事業化の
間にある「死の谷」を克服するための、グループ企業横断的な総合プロデュー
ス活動の役割が紹介される。第7章はわが国の「弱い分野」であるとされるソ
フトウェア開発においても、いわゆる日本的な雇用慣行・人事管理を強みとし
て競争力を高める可能性を指摘している。
第8章では、今回の調査の範囲において、「技術の相互作用」がイノヴェー
ションに結びつく「職場連繋(linkage)モデル」が成立していること、それ
を可能とする環境として、職種・担当業務を厳格に運用せず、人々が他界に協
力しあう「相乗り」型の日本の職場が適していることが示される。そして、こ
の国際的な独自性が成立した制度的・社会意識的淵源が示される。著者らの結
論は、グローバル化の中でもこのモデルは引き続き有効というところにあるよ
うだが、しかし異なる業種・業態においてや、今後の環境変化の影響など、課
題も多く指摘されている。
この本は事例研究、それも成功事例のそれに基づくものであり、一般化には
一定の留保が必要だろうが、しかしていねいな聞き取り調査から導かれた結論
には説得力がある。もちろん、諸外国でもわが国に劣らずイノヴェーションが
行われているわけだから、著者らの提示したモデルが唯一のものでは当然ない
し、比較上優れているかどうかも確証があるわけではない。しかし、わが国の
しくみが国際的にそれなりにユニークなものであり、しかもイノヴェーション
を生み出す体系としてかなり効率的に成立しているのであれば、その独自性を
国際競争に生かすべきとの主張は有力であろう。
また、この研究では、製造技術、つまり製造現場の技能工の持つ技術の重要
性を強調していることにも注目すべきだろう。多様な職場に働く多くの人がイ
ノヴェーションの担い手となるこのモデルは、多くの人に希望と誇りをもたら
し、一段のコミットをうながすのではないか。この点をとっても、安易な海外
への追随は戒められるべきと思う。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆東京都労働相談情報センター男女雇用平等セミナー「経営戦略としての子育
て世代活用術」
平成22年6月22日(火)・25日(金) 各14:00-16:00
於 東京都南部労政会館(東京都品川区)
http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/seminarform/index/detail?kanri_bango=seminar-osaki-000011
◆日本労使関係研究協会 労働政策研究会議「非正規雇用をめぐる政策課題」
平成22年6月26日(土)10:00-17:30
於 労働政策研究・研修機構霞が関連絡事務所会議室 (東京都千代田区)
http://www.jirra.org/kenkyu/year.html
◆京都大学高等教育研究開発推進センター・(財)電通育英会 大学生研究
フォーラム2010「企業人材教育の現在-大学には何ができるのか?」
平成22年8月2日(月)10:30-17:30
於 京都大学百周年時計台記念館(京都府京都市)
http://www.dentsu-ikueikai.or.jp/forum/forum2010.html
【編集後記】
本誌第86号でご紹介したフェファー/サットン『事実に基づいた経営』をご
記憶でしょうか。この本では「危険な半分だけ正しい常識」が紹介されていま
した。今回の労働者派遣法改正法案の「直接雇用が正しい」「正社員が望まし
い」というのもまさに「危険な半分だけ正しい常識」の典型のように思われま
す。鳩山前首相の退陣のあおりで今国会では派遣法改正は成立しないようです
が、これを機に、もう一度アタマを冷やして再考してほしいものです。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.career-design.org/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
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行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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