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□ キャリアデザインマガジン 第95号 平成22年5月24日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 私が読んだキャリアの1冊(1)
高橋伸夫『組織力-宿す、紡ぐ、磨く、繋ぐ』
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
大久保幸夫『日本型キャリアデザインの方法』
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆日本キャリアデザイン学会第7回研究大会のテーマが決定しました。
大会テーマ 「 キャリア・ルネサンス ―逆境からの挑戦― 」
日 程 2010年10月23日(土)・24日(日)
会 場 神戸学院大学
〒650-8586 神戸市中央区港島1-1-3
◆関西支部2010年度第1回研究会が開催されます。
日 時 平成22年7月24日(土)15:30~18:00
テーマ 「正社員就職とマッチング・システム ~ 大学生の就職とキャリ
アセンター」
講 師 林 祐司(首都大学東京 大学教育センター 准教授)
参加費 会員/無料 非会員/3,000円
*なお、研究会終了後、懇親会を予定(※懇親会 3,000円程度)
会 場 新大阪丸ビル新館 9階904会議室(大阪市東淀川区)
※詳細は学会ホームページをごらんください。
http://www.career-design.org/content/view/179/41/
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1 私が読んだキャリアの1冊(1)
『組織力-宿す、紡ぐ、磨く、繋ぐ』
高橋伸夫著 ちくま新書 2010.5.10
なんであれ「組織」に属している人であれば、それがなんらかの「力」を持
っているという感覚はあるだろう。「組織」が構成員の力の総和以上の力を発
揮した、という経験を持つ人も多いに違いない。そして、構成員が変わっても
「組織」の力はそこにある、という実感を覚えることはないだろうか?
「組織力」とはなにか。どこから来てどのように作られ、そしてどのように
伝えられていくのか。この本は、それを経営学の理論を通じて、まことにわか
りやすく、面白く伝えてくれる。
この本では、副題にあるとおりの「宿す、紡ぐ、磨く、繋ぐ」の順に議論が
展開される。第1章の「組織力を宿す」は「組織力はどこから来るのか」を述
べる。組織の重要な機能のひとつに「勢いをつける」ことがある。重大な意思
決定というものは、多くの場合十分な判断材料がなかったり、考慮すべき要素
が多すぎて時間が足りなかったりする。そうなると「勢いで」決定するしかな
くなるが、その「勢い」を与えるのが組織の力だという。その決定が合理的か
どうか、保証の限りではないし、検証も難しいだろう。そこでその決定が合理
的であったとする理屈が事後的に付与される。「組織の合理性」とは自分たち
の行動をもっともらしく説明できる歴史を事後的に作っては変える回顧的なも
のであり、それが長年にわたって続けられることで意思決定に「勢い」を与え
る組織の力が宿されるのだとういう。
第2章は「組織力を紡ぐ」とされている。そもそも、組織とはどのように出
来上がるのか。どうやら、組織とは事前にデザインして、そのとおりに構成員
を集めてきてはめこめば出来上がる、というものではないらしい。「仕事がで
きる人」を集めただけでは組織にはならないのだ。「組織化」とはこれとは逆
に、構成員がともに仕事をすることを通じて徐々に相互につながった行動の回
路が出来上がっていくことで、まさに糸口を撚り合わされるように一群の人の
集団がひとつの組織へと紡がれていくプロセスなのだという。したがって、組
織にとって大切なのはこうしたプロセスを実現できる「仕事を任せられる人」
だということになる。
第3章は「組織力を磨く」である。どの組織にも組織力はあろうが、強固な
組織力のもとに成長を続ける組織もあれば、そうでない組織もある。ここで重
要なのが、組織として「こうすればこのくらいはできる」という「経営的ス
ケール観」であるという。生産規模や生産性、累損解消までの期間などの見通
しを持って、それに向けた投資を行っていく。このときに、短期的な利益や合
理性に傾かず、時間的射程距離を長くして、未来に向けた投資を重点に組織を
運営していくことが必要となる。それが組織力を磨き、人と組織を長期的に成
長させるのだという。
そして第4章の「組織力を繋ぐ」だが、この章はたいへん短い。長期にわた
って築かれた組織の力は、上司や先輩が部下や後輩に受け継ぐことで守られて
いく。仕事への報酬は、目先のカネではなく、次の仕事、より大きな仕事で報
いる。その仕事への報酬は、さらに大きな仕事、より高い立場となる。こうし
て世代交代は進み、組織力は繋がれる。それを支える仕組みが長期雇用、いわ
ゆる正社員だという。そしてこの章の最後では、中高年に向かって「若者に厳
しく要求するばかりではなく、正社員として雇い、自身の後継者として育てて
ほしい」と訴えている。
その後に、「付章」として「組織化の社会心理学」がおかれている。付章と
はいうが、第4章の2倍のボリュームがある。これは第2章の記述のベースと
なっているワイクの『組織化の社会心理学第2版』の解説である。難解で鳴る
文献だが、著者の解説をもってしても依然として難解であり、完全に理解しな
くとも(つまり、読まなくとも)著者の主張したいことは十分に伝わるものと
思う。ただ、この本は読みやすさに多大な配慮を行っており、結果としても非
常にわかりやすく面白いものになっているが、その分学問的な厳密さを欠いて
いるという部分はあるのだろう。付章はそれを補完しつつ、この本をきっかけ
に経営学をさらに学ぼうという人へのイントロダクションにもなっているのか
もしれない。
多くの人は職業キャリアを組織人として送っている。「組織力」、ひいては
「組織」への理解を深めることは、職業人生を有意義なものとする上で重要な
ことに違いあるまい。この本はそのためのガイダンスとして極めて優れており、
一読すれば多くの有益な示唆を得られるだろう。一人でも多くの組織人に手に
取ってほしい好著である。強くお薦めしたい。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
『日本型キャリアデザインの方法-
「筏下り」を経て「山登り」に至る14章」』
大久保幸夫著 日本経団連出版 2010.4.1
キャリア研究が米国を中心に発展してきたことは間違いないだろう。「キャ
リア・レインボー」のスーパー、「キャリア・ダイナミクス」や「キャリア・
アンカー」のシャイン、「プランド・ハプンスタンス」のクランボルツといっ
たスター研究者たちが提唱した理論はわが国でも紹介され、応用や実践の取り
組みも進んでいる。
一方で、グローバル化が進展する今日においても、雇用慣行や労働市場とい
ったものは基本的にローカルなものである。日米ではこれらにかなりの違いが
あり、米国の理論を日本にそのままあてはめるのが難しい部分も出てくる。極
端な話、米国ほどには転職が一般的ではないわが国においては、「キャリア・
デザイン」と言われると「転職のすすめ=リストラの道具」という連想が働く
場面も少なくあるまい。
とはいえ、わが国でも転職は増えているし、ひとつの勤務先に勤め続けるに
してもキャリアのあり方は多様化している。経済や企業組織が順調に成長して
いた時期には「新卒就職→ジョブローテーション→管理職昇進→定年退職」と
いう典型的なキャリアモデルが存在したが、現在では転職に限らず子会社への
出向や海外駐在、専門職としての昇進といったキャリアも加わり、ジョブロー
テーションのあり方も変わってきたし、管理職になれば定年まで管理職とも限
らなくなっている。こうした中で、わが国の雇用慣行や労働市場の実情にマッ
チした、日本型のキャリアデザインを考える必要性が高まっているように思え
る。
この本は、わが国における「日本人・大卒・ホワイトカラー・男女」のキャ
リアデザインの方法について、著者がこれまでの研究成果などをもとに日本人
の理想的なキャリア形成モデルとして提唱している「筏下り型のキャリアから
山登り型のキャリアへの転換」を中心に記述している。「筏下り」が職業キャ
リアの前半期、「山登り」が後半期のモデルである。
職業キャリアの前半、とりわけ初期においては、自らの能力、適性、希望な
どが必ずしも明らかでない。この時期には、ゴールを意識せずに、あたかも激
流を筏で下り、流れにもまれるように、おかれた環境の中でさまざま仕事に前
向きに打ち込むことを通じてさまざまな経験を積み、職業人としての基礎能力
を高めていく。
職業キャリアの後半においては、筏下りの時期に培った強みや専門性などを
ふまえて自らゴールを見定め、主導権を持って計画的・戦略的に、まさに山登
りのようにプロフェッショナルへの道を進み、頂点=ゴールを極めることをめ
ざす。
重要なのは、筏下りから山登りへの切り替えで、著者は仕事を始めてから十
年から二十年を想定する。筏下りも経験を重ねれば楽になる。そのまま筏下り
を続けるのではそれ以上の成長はない。自分の能力、適性、希望などを自分な
りに把握し、自らの将来のゴールをイメージできるようになったときが山登り
への切り替えの時期だという。
この本では、こうしたキャリア形成モデルをふまえて、その方法論を14の章
に分けて解説している。第1章から第4章は、キャリアやキャリアデザインに
関する基本的な知識の解説と、筏下り・山登りモデルの概観にあてられる。続
く第5章から第9章までは、「筏下り」の時期に獲得すべきものやそのために
取り組むべきことの具体的な解説となる。第10章から第13章までは「山登り」
の時期に関するもので、ゴールとなるべき「プロフェッショナル」の姿と、そ
れをめざす上での心構えなどが中心となる。第14章では、ゴールに到達して山
登りが終了したあとのキャリアについて述べられる。
この本の最大の長所は、わが国の労働市場、人事管理などの実態に即応した、
非常に現実的な内容となっている点だろう。著者の長年の研究成果や経験に基
づいて構想された「筏下り・山登りモデル」は多くの人の実感に合うものだろ
う。具体的な「方法」についても、現実に働く人たちがイメージしやすいもの
となっていて、とりわけ「筏下り」の部分は具体的で明快だ。全体的に理論的
な解説などは必要最小限にとどめ、ポイントを要領よく、わかりやすく記述し
ていて、短時間で読みきれる上に頭に残るものが多い。
いっぽう、不満もなくはない。「山登り」の特に後半においては、当然なが
らその達成は多くの人には困難なものとなる。内容的にも観念的なものが増え
てくるのも致し方のないところだろう。しかし、いかに身の丈にあわせて応分
の「山」を選ぶにしても、大多数の人のキャリアはその中腹でとどまるのでは
ないか。そのときにどのような方法があるのか。多くの人にとってはいずれこ
ちらが主な関心事になるだろう。そこでの「方法」についての記述がもっとあ
ってもよいのではないだろうか。もちろん、限られた紙幅の中で限界があるこ
とはやむを得ないわけだが。
著者には日経文庫にも2分冊となった「キャリアデザイン入門」というテキ
ストがあるが、この本ではさらにコンパクトにキャリアデザインのエッセンス
が凝縮されている。キャリアデザインに関心を持ちはじめた人が初めて読む本
としては最適の一冊として広くお薦めしたい。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆東京都労働相談情報センター男女雇用平等セミナー「経営戦略としての子育
て世代活用術」
平成22年6月22日(火)・25日(金) 各14:00-16:00
於 東京都南部労政会館(東京都品川区)
http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/seminarform/index/detail?kanri_bango=seminar-osaki-000011
【編集後記】
まったくの余談かつ私事で恐縮ですが、私は日本キャリアデザイン学会で間
違いなくナンバーワンのメタボです(笑)。ちなみにナンバーツーはおそらく
K会長うわなにをするやめr
…。それはそれとして、今回ご紹介した『組織力』の記述によれば、著者の
高橋伸夫先生は数年前に半年で10kg減量されたとか。うーん、見習わなければ。
(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.career-design.org/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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