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□ キャリアデザインマガジン 第93号 平成22年4月26日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 私が読んだキャリアの1冊(1)
大竹文雄『競争と公平感-市場経済の本当のメリット』
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
阿部正浩・松繁寿和編『キャリアのみかた-図で見る109のポイント』
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆キャリアデザイン学会第7回研究大会・総会の日程が決定しました。
日 程 2010年10月23日(土)・24日(日)
会 場 神戸学院大学
〒650-8586 神戸市中央区港島1-1-3
現在、自由論題の応募を受け付けています(要入会)。
http://www.career-design.org/content/view/177/1/
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1 私が読んだキャリアの1冊(1)
『競争と公平感-市場経済の本当のメリット』
大竹文雄著 中公新書 2010.3.25
好著との呼び声高い中公文庫『経済学的思考のセンス』の続編という印象の
本。前著では身近な問題にまつわる多くの経済学の研究成果をひきながら「イ
ンセンティブ」の観点から社会を考える「経済学的思考」を紹介していたが、
今回は書名のとおり「競争と公平感」にフォーカスして、経済学のみならず生
物学や生理学の研究成果も動員して「市場経済のメリット」を訴えている。
I「競争嫌いの日本人」では、競争をめぐるテーマが取り上げられる。まず
国際的にみて日本人は市場に対しても政府に対しても信頼度が低いことが紹介
される。不況が市場競争や再分配に対する人々の意識に与える影響や競争に対
する意識の男女差、さらには男の非正規や事業仕分けの経済学的な問題点、統
計データ公表の重要性など幅広い議論が展開され、最後は市場経済のメリット
が学校教育の場で適切に教えられていないことに問題があると指摘している。
IIは「公平だと感じるのはどんな時ですか?」と題され、公平感に関する論
点が中心となっている。出生時体重と成人後の健康・所得との関係からはじま
り、個人の持つ公平感や平等主義といった価値観の形成過程、性格傾向と経済
活動の関係、宗教や文化、公共心の経済への影響などが論じられる。格差に対
する意識の日米比較から、日本人は努力を重視し、天性の才能や学歴、運など
で格差がつくのを嫌うため、そのような理由で格差がついたと感じると(本当
の理由はどうあれ)「格差感」を強く感じるとの指摘は興味深い。さらには相
対的貧困率の上昇とグローバル化の関係、人々の貨幣選好と不況の関係などが
論じられ、最後は高齢化によって政治的な決定が短期指向に陥りやすいという
問題点が指摘されている。
III「働きやすさを考える」は、競争と公平感が仕事にどう影響しているの
かの検討にあてられている。最初は非正規社員問題が取り上げられ、長期的な
波及メカニズムまで考慮した施策の必要性が主張される。祝日の増加が労働に
与えた影響、長時間労働と労働時間規制の経済学的根拠、最低賃金引き上げの
問題点、外国人労働者受け入れが日本人に与える効果、さらには消費税の表示
方法が消費行動に与える影響なども論じられる。
この本を一貫している著者の考え方は、市場での競争はたしかにつらいこと
もあり、勝者と敗者には格差も発生するが、それ以上に全体が豊かになるメリ
ットが大きく、格差に対しては競争の成果である豊かさを政府が勝者から敗者
に再分配することで対応すべきだ、というものだろう。市場がうまく働かず、
特定の人たちが一方的に勝ったり負けたりするような状態に陥ったとしても、
市場をやめてしまうのではなく、市場がうまく働くような、多くの人に勝者と
なるチャンス(と敗者となる可能性)が生まれるようなゲームのルール、「絶
妙なルール」を作るべきなのだ。
これはまことに理にかなった考え方で、評者も賛同するところなのだが、し
かしこれに同意するのはあるいは市場競争にある程度の適性を有する人に限ら
れるのかもしれない。本書の中にも、従来サービス残業することで同僚と同等
の職務をこなしていた一部の国立大学職員が、法人化後はそれができなったた
めに同僚との格差が拡大し、メンタルヘルスを悪化させていう事例が紹介され
ている。実際、競争というものはまことにつらい。ある程度以上豊かになって
しまうと、追加的な豊かさを得るために耐えなければならない競争のつらさも
大きくなっていくだろう。そうなると、つらさの割には、豊かさが増している
実感は得られにくい。しかも、競争に負けることの影響は経済的なものだけに
とどまらない。それやこれやで、もうこれ以上豊かにならなくていい、多少は
貧しくなってもいいから、もう競争のつらさから逃れたい、と考える人が出て
くるのも自然なのかもしれない。鳩山首相が就任直後に示したグローバル化や
市場経済に対する異様な嫌悪感は世界を驚かせたが、しかしそれが時代の空気
をうまくとらえていたことも事実なのだろう。
とはいえ、本書にもあるように、グローバル化を止めるべきではないし、実
際止めることもできないだろう。であれば、わが国だけが競争から「降りる」
ことは、先を進む国との格差が拡大し、後を追いかけてくる国にもいずれ追い
抜かれることを意味する。しょせん、こんにちの世界で市場競争から逃れられ
ると考えることに無理があるのではないか。
それでは、どうすれば多くの人が市場競争に挑もうとの気持ちを強くできる
のだろうか。もちろん、著者が主張するように、学校教育でそのメリットを教
えるということも大事だろう。加えて、やはり著者が主張するように、より市
場が機能しやすいようなルールを開発することも必要に違いない。なるべく多
くの人に勝者となる機会があり、勝敗が固定しないようにするためには、単一
の市場ではないほうがいいのかもしれない。スポーツで例えれば、格闘技で体
重を測ってから組み合う、といったものだ。これが日本人の国民性に合うかど
うかは微妙だし、法制度をそのようなものにすることはもとより困難だろうが、
企業の人事管理などではありうる考え方かもしれない。労使で大いに知恵を出
すことが望まれる。
このように評すると、あるいはこの本に対して「固い」「小難しい」という
印象を与えてしまったかもしれない。しかし、実はこの本は社会や経済に多少
なりとも関心を持つ人であれば、読み物としても掛け値なしに面白い。もとも
と雑誌などのエッセイとして書かれたものがもとになっている部分が多く、文
章も読みやすいし、経済学の解説もわかりやすいものが心がけられている。値
段以上に、十分に楽しめる本である。広くおすすめしたい。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
『キャリアのみかた-図で見る109のポイント』
阿部正浩・松繁寿和編著 有斐閣 2010.2.10
「キャリアのみかた」は見方だろうか味方だろうか。就職活動に臨む人たち
を対象に、就職したその後に待ち受ける職業生活の実態の諸相を、データをも
とに紹介する本だという。
全体は「求職と求人」「賃金格差」「昇進と昇格」「労働時間と休暇」「離
職と転職」など、職業キャリアの中で遭遇するさまざまな場面に関する14章か
らなる。そして、それぞれの章に7~9、全109のトピックを取り上げ、1トピッ
クにつき見開き2ページの中に図表が一つと、コンパクトにまとめられている。
各トピックの解説は経済学をバックボーンとしているが、各章の最後にはそれ
ぞれに関連する労働法の解説コラムがおかれ、さらに各数個のキーワードの用
語解説が付されていて、まことに周到な構成となっている。そういう意味では、
キャリアの本というよりは人事管理のテキストといった趣(実際、編著者は労
務管理論の副読本としての活用も念頭においているようだ)の本だが、たしか
に就活に臨むにあたっての職業生活に対する予備知識として要請される内容が
広く網羅されている。
執筆陣がまたすばらしい。12人の分担執筆だが、いずれも実績もあり学界で
の評価も高い研究者であり、それぞれが得意とする分野を執筆している。それ
ゆえ、分量が少ないことによる限界はあるとしても、たいへん充実した内容と
なっているし、今日的な話題も多く取り込まれている。また、専門家の文章で
はあるが、大学生が読みこなせるように平易でわかりやすい記述となっている
し、経済学の知識がなくても十分に読み進めることができる。加えて、専門分
野だけに執筆者それぞれに意見や主張もあるだろうが、そうしたものは極力排
され、全体に事実を中心として中立で客観的な、抑制された良心的な記述とな
っていることも特筆に値しよう。執筆者が多いにもかかわらず全体のトーンの
調和もよく、編者の苦心のたまものであろう。
厳しい就職情勢もあって世に就活本はあふれているが、多くは自己分析から
はじまり、自分のやりたいことを明らかにして、そこから適職を選択していく
というプロセスをたどるようだ。現実の就活においては志望動機や就職後のビ
ジョンなどを語らなければならないわけだから、それが実用的といえば実用的
なのだろう。この本でも、働く目的や自己理解についてのトピックが設けられ
ている。とはいえ、自分のことというのは自分ではなかなかわからないものだ
し、将来にわたって変わらないという保障もない。20代の若者であればなおさ
らであろう。それゆえ、就活の最初のステップでつまづいてしまう人も少なく
ないという。
それもあってか、近年では就職活動について「自分を知るより、まず社会を
知ろう」「自分のやりたいことより、社会で必要とされていることを中心に考
えよう」という意見も有力になっているという。それと同様に、就職したあと
の生活がどのようなものになるのかも、よく理解しておくことが望ましいよう
に思われる。そのような社会との関係性でとらえる方が、「自分を知る」上で
もより具体的に考えやすいのではないか。その時、それでは就職後の自分がど
のように「人事管理」されるか、その中で自分がどう働くのか、個別企業の人
事管理がどうなっているのを知る手がかりは何なのか…といったことをまとめ
た本として、この本はたいへん有意義だろう。
その上で若干の要望を述べると、まず記述がやや不正確な部分が散見される
のが気になる。たとえば、「景気の変動によって起こる失業のことを摩擦的失
業と呼んだりする」(p.9)との記述は、あまり適切ではないのではないか。
「非正社員あるいは非正規雇用と呼ばれる人たちの雇用は期限を定めた雇用と
なる。雇用期間が異なるという点が、正規雇用と非正規雇用の違いである」
(p.10)との記述も、やや大雑把に過ぎるだろう。ほかにも、p.67の図表4-2
では、大卒者の初任給が高卒者のそれより低く作図されているなど、再販の際
には修正を期待したい。
また、内容についても、集団的労使関係についてはトピックが1つだけとい
うのは、労働運動の退潮の反映なのかもしれないが、いささか淋しい感がある。
たとえば「春闘」や「生産性運動」などについてのトピックはあったほうが好
ましいように思われる。
最後に、この本の最大の特徴のひとつは、最新のデータにもとづいて、今日
的な話題にも目配りされていることだろう。これは、就活に臨む人が読んで役
立てる上で必須のことでもあるに違いない。なるべく高頻度の改訂が行なわれ、
常に鮮度の高い本であることを強く期待したい。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆日本人材マネジメント協会(JSHRM)・学習院大学経済経営研究所共催
JSHRMリサーチプロジェクト・シンポジウム/ライフキャリア・チェーン
(その1)”チャンスはもう一度”
平成22年5月25日(火)13:00~17:30 於 学習院大学(東京都豊島区)
http://www.jshrm.org/top_library/rpsympo2010-1.pdf
【編集後記】
4月中旬に雪が降ったかと思うと翌日は真夏並みの暑さ。不順な天候が続い
て体調管理に苦労される人も多いのではないでしょうか。大型連休を前に、就
活もヤマ場です。健康にくれぐれも注意し、万全の体調で試験に臨んでほしい
と思います。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.career-design.org/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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