■□□—————————————————————-
□□
□ キャリアデザインマガジン 第87号 平成21年7月27日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/
——————————————————————□■
「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 私が読んだキャリアの1冊(1)
大内伸哉『キーワードからみた労働法』
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
川喜多喬・依田素味『人材育成キーワード99[常識編]』
3 キャリアイベント情報
———————————————————————-
【学会からのおしらせ】
◆第6回記念研究大会・総会の参加登録を受付中です。
テーマ 「経済、雇用、教育、コミュニティ:明日への挑戦」
日 時 平成21年9月26日(土)・27日(日)
場 所 千葉商科大学
千葉県市川市国府台1-3-1
http://www.cuc.ac.jp/info/access/index.html
後 援 厚生労働省、経済産業省、中央職業能力開発協会
詳 細 詳しくはホームページをご覧ください。
http://www.career-design.org/content/view/101/1/
———————————————————————-
1 私が読んだキャリアの1冊(1)
『キーワードからみた労働法』大内伸哉著 日本法令 2009.4.15
日本法令社刊行の労働・社会保険、税務の官庁手続&人事労務の法律実務誌、
「月間ビジネスガイド」の連載記事をまとめた本だという。新聞や雑誌をにぎ
わせている労働法用語の中には、専門性が高く理解しにくいものもあり、場合
によっては多くの人が誤解しているようなものもある。その正しい理解に資す
る解説を行うことが連載の趣旨であり、特に「俗説を疑う」ということにこだ
わってきたと著者はいう。
実際、この本の「オビ」には「常識を疑ってみよう。」という惹句が記され、
「均衡待遇の保障は労働者のためにならない」「偽装請負は企業だけが悪いの
ではない」「名ばかり管理職が出てくるのは法律にも問題がある」「ワーク・
ライフ・バランスを政府が推進するのは憲法の理念に反する」「メンタルケア
の強化は労働者にとって危険である」といった具体例が列挙されている。なる
ほど、まことに俗説、常識に反する主張であろう。
もっとも、これは例えば「均衡待遇の保障は一切労働者のためにならない」
といった主張ではなさそうだ。むしろ世間の一部に広がる「均衡待遇を保障す
ればすべてがうまくいく」といった「俗説」に反論するものだろう。均衡待遇
の保障を法的に定めれば、日本の雇用慣行の中では実務的に大混乱を起こすこ
とは間違いない。したがって、雇用慣行の大幅な再編は避けがたいが、それに
はヨーロッパ型の「非正社員の正社員化」とアメリカ型の「正社員の非正社員
化」の両極端のふたつの道がある。いずれも、それで利益を享受する人もいれ
ば大きな不利益を被る人もいるだろう。どちらを選ぶのか、それでなにがどう
変わるのか、本当にそれでいいのか…という議論を尽くさなければ、均衡待遇
の保障も容易に現実化できるものではない。すなわち「均衡待遇の保障は労働
者のためにならない」危険性も高い。
このような議論が、近年話題となっている17のキーワードについて展開され
ている。低賃金労働者が増加しているから最低賃金を引き上げるべきだ、違法
派遣が多いから派遣をもっと強く規制すべきだ…といった世間に多く見られる
「俗説」について、現実はどうなのか、諸外国の例はどうか、法律の考え方は
どうなっているのか、そして社会にどんな影響を与えるのか、といったことを
解説し、著者としての評価を与えている。これは世間で常識とされているもの
とはかなり異なるものであり、おそらく読む人の考え方や価値観によって、賛
否両論の様々な意見があろう。ただ、著者の議論はかなり徹底して現実重視で
ある点に特徴があり、その点において私のような実務家とはかなり多くの点で
見解が一致している(もちろん、同意できない点もいくつかあるが)。という
ことは、「現状の抜本改革」を主張するような論者からすれば、本書には不満
が多いに違いない。著者自身も多様な受け止めがあることは容認し、むしろ批
判的に読まれてもよいし、それが「じっくり考えるきっかけ」となればよいと
の姿勢をとっている。
どのような読まれ方をするにせよ、世間で言われていることを鵜呑みにする
のは危険である、ということは十分に認識できるだろう。労働問題に関心のあ
る人には読んで損のない本だろうと思う。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
『人材育成キーワード99[常識編]』
川喜多喬・依田素味著 泉文堂 2008.11.5
この本の書名は『人材育成キーワード99[常識編]』である。この書名から
普通に想像されるのは「人材育成に関する用語を解説した辞典的なもの」だろ
う。実際、「オビ」に記載されている惹句をみても、「部下を持つ人なら必
携!!」と感嘆符2個付きで強調したうえで、「「キャリア」「次世代育成支
援法」「育児・介護休業法」「ワーク・ライフ・バランス」などの最新のキー
ワードを収録」「今さら人には聞けない!!99のキーワードをわかりやすく解
説」となっている。なにしろ「[常識編]」とわざわざ書名にうたっているの
だ。書名やオビの記載をみただけで「少し勉強しよう」と購入した経験の浅い
管理職や人事担当者もいるに違いない。
そうした人たちは、少し読み進めて愕然としたに違いない。「キャリア」や
「ワーク・ライフ・バランス」といった今日的な用語の解説や、「次世代育成
支援法」「育児・介護休業法」の説明を期待していたのに、出てくる「キー
ワード」は巻頭からいきなり「しつけ」「礼儀」「丁稚」「いっぱし」「板に
付く」…である。これが「最新のキーワード」なのだろうか?(もちろん、オ
ビに記された用語も取り上げられてはいるけれど…)
もっとも、人材育成、人を育てるという意味では、確かに「しつけ」や「礼
儀」は「常識編」に属する基本的なキーワードではあるかもしれない。そして、
著者らがおそらくは憂慮するように、ともすればカタカナことばの新コンセプ
ト?をもてはやし、古くからの用語をないがしろにしがちな風潮の中にあって
は、これらクラシックな用語はむしろ「古くて新しい」キーワードなのかもし
れない。
しかも、その解説もいわゆる「用語集」のような辞典的なものを大きくはみ
出している。用語にもよるが、語源をさかのぼり、歴史をひもとき、海外事情
を紹介し、著者の博覧強記ぶりが縦横無尽に発揮されて、およそ「常識編」と
はいいがたいトリビアが満載されている。したがってこの本は、辞典としては
あまり役立たない(失礼)かもしれないが、読み物としては非常に面白い。そ
してその内容は、むしろ通俗的な「常識」をくつがえすものも多く、軽妙かつ
ときに皮肉な筆致で、鋭く問題の本質に切り込む。単なる読み物にとどまらな
い、啓発書としての側面も持つ本である。
それゆえ、本書は書名から想起される対象読者層だけの本にしておくのはま
ことに惜しい。企業の人事担当者はもちろんのこと、自己啓発やキャリア形成
に関心を持つ人たちや、就職活動に臨む学生さんたちにとっても、さまざまな
ことを考える材料を豊富に含んでいる。好みは分かれるだろうから無条件に推
薦とまではいかないが、ぜひ手にとってみてほしい本だと思う。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆東京労働局、東京労働基準協会連合会、東京産業保健推進センター産業保健
フォーラム「メンタルヘルスと快適な職場環境をめざして」
平成21年9月4日(金)10:00-16:00
於 九段会館(東京都千代田区)
http://www.roudoukyoku.go.jp/topics/2009/20090601_forum/forum.pdf
◆学習院大学経済経営研究所(GEM)「第2回公開ワーク・ライフ・バランス
カンファレンス-中小企業におけるWLB-」
平成21年9月9日(水)13:30-17:00
於 学習院大学 目白キャンパス 西2号201教室(東京都豊島区)
http://www.gakushuin.ac.jp/univ/eco/gem/documents/gaiyou.pdf
◆中央職業能力開発協会「キャリア・シート(CADS&CADI)活用セミナー」
平成21年9月17日(木)9:15-17:00
於 エル・おおさか 708号室(7階)(大阪市中央区)
http://www.javada.or.jp/jigyou/jinzai/cads_cadi.html
【編集後記】
本号のキーワードは「キーワード」となりました。大内先生の本で取り上げ
られているキーワードは17語、川喜多先生ほかの本で取り上げられているキー
ワードは書名にもあるとおり99語です。さて、両方の本でともに取り上げられ
ているキーワードはいくつあるでしょうか?そして、そのキーワードとは?こ
んなところにも、時代の断面が現れているのかもしれません。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.career-design.org/
□□■—————————————————————-
□
日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
—————————————————————-□□■