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□ キャリアデザインマガジン 第86号 平成21年5月25日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 私が読んだキャリアの1冊(1)
小池和男『日本産業社会の「神話」-経済自虐史観をただす』
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
フェファー/サットン『事実に基づいた経営』
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆日本キャリアデザイン学会の第6回研究大会・総会テーマが決定しました。
テーマ:「経済、雇用、教育、コミュニティ:明日への挑戦」
開催日:平成21年9月26日(土)・27日(日)
開催校:学校法人千葉学園 千葉商科大学
http://www.career-design.org/content/view/101/1/
◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり研究会を開催いたします。
非会員の方もご参加できます。
(第5回)
日 時:平成21年6月26日(金)18:30~20:00
テーマ:「音楽とキャリア」
講 師:東京学芸大学教授・学生キャリア支援センター長 久保田慶一氏
(日本キャリアデザイン学会研究企画委員長)
会 場:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー25階
イノベーションマネジメントセンターセミナー室
※内容・申込要領等、詳細は学会ホームページをごらんください。
http://www.career-design.org/content/view/125/1/
(関西支部第3回)
日 時:平成21年7月25日(土)15:00~18:00
テーマ:「キャリア支援におけるカウンセリングの実際」
講 師:前・追手門学院大学キャリア開発部相談員 西野順三氏
産業カウンセラー・上級心理臨床カウンセラー 小平良氏
大阪市若者サポートステーション・コネクションズおおさかチーフ
コーディネーター・臨床心理士 笠谷光氏
コーディネーター:追手門学院大学教授 三川俊樹氏
(本会理事・研究組織委員会副委員長)
会 場:追手門学院 大阪城スクエア大手前ホール(大阪市中央区)
※研究会終了後、会場近くで懇親会を予定しています。
詳 細 近日中に学会ホームページに掲載予定です。
http://www.career-design.org/content/blogsection/5/51/
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1 私が読んだキャリアの1冊(1)
『日本産業社会の「神話」-経済自虐史観をただす』
小池和男著 日本経済新聞出版社 2009.2.24
面白い本だ。研究書や教科書ではないし、解説書かといえばそれも違う。一
種の読み物、それも歴史を中心とした読み物という感がある。著者は率直に
「証拠がやや足りないにもかかわらず、なおいいたい議論を集めている」と述
べている。そしてその「いいたい議論」とは、我が国には、自国について古く
から語り伝えられながら根拠があやしい「神話」が多数存在し、これをもとに
企業や政府が誤った対応をとることで損害をまねきかねない、ということのよ
うだ。
たとえば第1章では「集団主義」がとりあげられる。なるほど、日本の職場
での働き方をみるとたしかに「集団主義的」であろう。日本の職場には明確な
ジョブ・ディスクリプションがないことが多く、各人の業務分担もあいまいだ。
同僚が忙しい人を手伝ったり、欠勤の穴埋めをしたりすることも普通に行われ
ている。しかし、だから日本の賃金は格差が小さくて平等だ、というのは「神
話」だ。良質な調査で国際比較すれば、実際には日本の職能資格制度と米国の
職務等級制度とはかなり似ている(だから、米国は職務給で降級も日常茶飯事、
というのも「神話」なのだ)。査定での差のつけ方は日本のほうがむしろ大き
い。これは、日本企業が集団主義的にみえる働き方で効率を向上させていくに
あたっては、それを支える個人のすぐれた働きに報酬を用意する必要があるか
らだと著者は指摘する。ところが、わが国では「日本企業の賃金格差は小さい」
という「神話」のもとに、すでに大きい格差をさらに拡大しようとしている。
それはかえって集団主義的にみえる働き方による生産性向上を阻害し、日本に
とって損失なのではないか。これが著者の「いいたい議論」である。
同様の議論が、「日本人は仕事好き、会社好き」(第2章)、「年功賃金は
日本の社会文化の産物」(第3章)、「日本は長時間労働」(第4章)、「企
業別組合は日本だけ」(第5章)、「産業の発展は政府のお陰」(第6章)と
いった「神話」についても展開される。中でも、江戸期から戦前期までの賃金
制度をみた第3章や、戦前日本紡績業の発展をみた第6章は、やや断片的なき
らいはあるものの、歴史読み物としてもまことに面白い(小説のように読みや
すくはないが)。
そして、これらにおける著者の「いいたい議論」とは、「日本人がよく働く
のは合理的な動機付けによる」「年功賃金は戦後合理的に作られてきたもの」
「ホワイトカラーは欧米でも長時間労働で国際比較は難しい」「職場単位の労
使関係は欧米でも重要な役割を果たしている」「日本企業は政府に頼らず技術
革新を推進した」のだから、「神話」をうのみにして安易に変更してはならな
い、ということではないだろうか。たしかに、著者が自ら認めているように、
この本がとりあげる調査にはかなり古いものも散見されるし、著者自身の経験
に依存した部分もいくつかある。歴史的史料をもとにした議論がどこまで現代
に適用できるかといった問題もあるだろう。それゆえか、著者も結論を断言す
るような書き方は避けているようにみえる。
とはいえ、産業社会、とりわけ雇用、労働の分野において、誤った事実認識
のもとに不適切な施策をとることが大きな損害をもたらしかねないこと、そし
てわが国では多くの局面でそのような危機が存在することに対する警告として
は、この本は十分にその目的を達しているといえるのではないか。著者は終章
で「自他を直接比較した研究を探し出し重視する」「資料の質を心得ると、お
もわぬ新発見がある」と述べる。長年にわたって、現場でのていねいな調査、
資料収集の積み上げを通じて「通説」に挑んできた老碩学の、なんとも重みの
ある言葉である。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
『事実に基づいた経営-なぜ「当たり前」ができないのか?』
J.フェファー/R.I.サットン著 清水勝彦訳
東洋経済新報社 2008.2.5
この本の原題は”Hard Facts, Dangerous Half-Truths, and Total
Nonsense: Profitingu from Evidence-Based Management”である。訳題はこの
副題を採用しているわけだが、この本の中心的なキーワードはなんといっても
原題にある”Dangerous Half-Truths”だろう。実際、3部からなるこの本の約
7割が、この「危険な半分だけ正しい常識」に関する第2部にあてられている。
この本の訳題は「事実に基づいた経営」だが、これは簡単なようでいて難し
い。現実には、事実ではなく、経験や慣習、あるいは正しいと思い込まれてい
る常識などによって意思決定が行われてしまうことも多い。そして、その結果
は往々にして良好ではない。
もちろん、これらの常識には良いところもあるし、進める人もたくさんいる
一方で、往々にして間違ったタイミングで間違った使い方をされているという
意味で「半分だけ正しい」。合っている場合もあるが、一般化してすべて正し
いとしてどんな意思決定にも行動にも使われたとすれば、業績にマイナスに働
くばかりか、経営者の立場も社員の幸福も破壊することになる。だから「半分
だけ正しい常識」は「全くのうそ」よりあるかに危険だ。
この本の第2部(第3章~第8章)では、こうした「半分だけ正しい」常識
の実例が6つ紹介されている。
たとえば、ワークライフバランスの問題だ。仕事とプライベートを混同して
はならない、というのはまことに正論のようだが、実は危険な「半分だけ正し
い」常識だ。事実をみれば、仕事とプライベートを切り離すことは難しく、互
いに影響する。あるいは”War for Talent”だ。優秀な人材を採用することが業
績向上には必要だ、というのも、人間の成長や、組織やシステムの持つ役割、
力を見落とした「半分だけ正しい」常識だろう。一時期わが国でも猛威をふる
ったのが「金銭的インセンティブが個人、会社の業績を上げる」という「半分
だけ正しい常識」は、対象者がインセンティブ対象にばかり注力したり、金銭
以外のインセンティブを求める人には効果がないといった限界を露呈した。ほ
かにも、「経営戦略が決定的に重要だ」…しかし、いくら戦略を作っても実行
されなければ意味がない。”Change or die?” …しかし、コストや効果、影響
を考えずにやみくもに変革するのはまずいだろう。そして「リーダーは組織を
完全に掌握すべき」…そんなの、無理に決まってる。
こうした「半分だけ正しい」常識にとらわれず、調査や実験を通じて現実を
把握して「事実に基づいた経営」を行うことは、実はかなり難しい。第2部の
前後の第1部、第3部では、その必要性と実践について述べられている。事実
に基づいた経営とは、単なるテクニックではなく、見識であり考え方であって、
そしてその実践こそが重要である。この本ではその原則についても述べられて
いるが、とりわけ目をひくのが、企業風土の重要性である。事実に基づいた経
営とは、経営陣だけではなく、社員全員がそれを実践しなければならない。そ
れが自然と行われる風土をつくることが経営陣の仕事なのだろう。
結局のところ、この本が述べていることは一貫して「当たり前のこと」とい
えるかもしれない。しかし、当たり前が当たり前であることは、決して容易な
ことではない。著者らの前著にあるように、「当たり前とわかっている」こと
と「当たり前にできる」こととには大きなギャップがあるのだ。この本の訳題
の副題は「なぜ「当たり前」ができないのか?」というものだが、たしかにこ
の本はそれを考えるための材料、ヒントが多く含まれている。経営に携わる人
に限らず、多くの企業人に広くお勧めしたい好著である。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆労働政策研究・研修機構・日本学術会議共同フォーラム
「若者問題への接近-誰が自立の困難に直面しているのか」
平成21年6月6日(土)13:30~17:00
於 大同生命霞が関ビル6階(東京都千代田区 )
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/info/20090606.htm
◆東京都職業能力開発協会 平成21年度第1回職業能力開発推進者経験交流プ
ラザ「いきいき職場づくり~活動を通して・キヤリア形成支援~」
平成21年6月16日(火)9:30~12:00
於 東京しごとセンター地下講堂(東京都千代田区)
http://www.tokyo-nokaikyo.or.jp/
◆京都大学高等教育研究開発推進センター/電通育英会 大学生研究フォーラ
ム2009「大学生の何が育っていて、何が育っていないか」
平成21年7月25日(土)・26日(日)
於 京都大学百周年時計台記念館(京都市左京区)
http://www.dentsu-ikueikai.or.jp/forum/#forum01
【編集後記】
本号では、期せずして「世間に広がっている誤った思い込み」に関する書籍
を2冊紹介することとなりました。「半分だけ正しい」という考え方は、つね
に頭に入れておきたいものです。それはそれとして、小池先生の本の副題が
「経済自虐史観をただす」となっていますが、内容は右派の論客が批判する
「経済自虐史観」とはなんの関係もありません。編集者が売らんがために刺激
的な副題をつけたのだろうと思いますが、前号で紹介した大内先生の本といい、
もう少し節度のある姿勢を望みたいところです。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.career-design.org/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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