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□ キャリアデザインマガジン 第85号 平成21年5月11日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 私が読んだキャリアの1冊(1)
大内伸哉『雇用はなぜ壊れたのか-会社の論理vs.労働者の論理』
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
森戸英幸『いつでもクビ切り社会-「エイジフリー」の罠』
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆日本キャリアデザイン学会の第6回研究大会・総会テーマが決定しました。
テーマ:「経済、雇用、教育、コミュニティ:明日への挑戦」
開催日:平成21年9月26日(土)・27日(日)
開催校:学校法人千葉学園 千葉商科大学
http://www.career-design.org/content/view/101/1/
◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり研究会を開催いたします。
非会員の方もご参加できます。
(第5回)
日 時:平成21年6月26日(金)18:30~20:00
テーマ:「音楽とキャリア」
講 師:東京学芸大学教授・学生キャリア支援センター長 久保田慶一氏
(日本キャリアデザイン学会研究企画委員長)
会 場:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー25階
イノベーションマネジメントセンターセミナー室
※内容・申込要領等、詳細は学会ホームページをごらんください。
http://www.career-design.org/content/view/125/1/
(関西支部第3回)
日 時:平成21年7月25日(土)15:00~18:00
テーマ:「キャリア支援におけるカウンセリングの実際」
講 師:前・追手門学院大学キャリア開発部相談員 西野順三氏
産業カウンセラー・上級心理臨床カウンセラー 小平良氏
大阪市若者サポートステーション・コネクションズおおさかチーフ
コーディネーター・臨床心理士 笠谷光氏
コーディネーター:追手門学院大学教授 三川俊樹氏
(本会理事・研究組織委員会副委員長)
会 場:追手門学院 大阪城スクエア大手前ホール(大阪市中央区)
※研究会終了後、会場近くで懇親会を予定しています。
詳 細 近日中に学会ホームページに掲載予定です。
http://www.career-design.org/content/blogsection/5/51/
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1 私が読んだキャリアの1冊(1)
『雇用はなぜ壊れたのか-会社の論理vs.労働者の論理』
大内伸哉著 ちくま新書 2009.4.10
この本の副題は「会社の論理vs.労働者の論理」となっている。「オビ」を
みると、「解雇」をめぐる会社の論理とは「「使えない」社員はクビだ」とい
うものであり、労働者の論理とは「生存権の侵害だ」ということであるらしい。
本書を読めばわかるとおり現実はそれほど単純ではないが、それにしても雇用、
労働をめぐるテーマにおいては、会社の論理と労働者の論理が一致しないこと
が多いことは間違いない。もちろん、どちらにも一理あって、それぞれの立場
では正論なのだから、そこでは必ずなんらかの調整が必要になる。そのルール
が労働法ということになる。
おそらくこの20年くらいの間に雇用・労働の実情は大きく変化し、今も変わ
りつつある。労働法もそれに応じた変化が求められ、現実に多くの改正が行わ
れてもいる。働く人が労働法について知っておくことの必要性も高まっている
だろう。この本は、雇用・労働の現場が直面する11の項目をピックアップし、
それぞれにおける会社の論理と労働者の論理を示し、それが労働法によってど
のように調整されるのかをわかりやすく解説している。単に労働法の知識を得
られるだけではなく、それぞれに理屈のある異なる主張をともに理解し、論点
を整理し調整し、適切な解決を示すという、リーガルマインドの重要な要素に
ついても自然と理解が深まるだろう。経済学の知見や考え方が盛り込まれてい
るのも好ましい。また、それに加えて、いくつかの項目においては、今日のさ
まざまな変化をふまえて今後の方向性も提案しているのも興味深い。
そしてとりわけ特徴的なのは、「仕事と余暇」の項目において、「会社の論
理」「労働者の論理」に加えて「生活者の論理」という考え方を導入している
ことだろう。会社の顧客は最終的には生活者であり、会社の論理は顧客である
生活者の論理に沿ったものとなる。いっぽう、労働者と生活者とは大いに重な
り合う。ここに労働者の論理と生活者の論理の自己撞着が生まれる。「(他国
ではみられない)公共交通機関のパンクチュアリティが、生活の質を高めるこ
とは誰も否定しないであろう。しかし、これは同時に、鉄道会社の社員の労働
強化につながっている。…日本の労働者がよく働くのは、この生活者としての
利便を十分に享受したいからでもある。生活者としての利便を享受するには、
それなりの金がいる。労働者の家庭では、残業代を組み入れた生活設計をして
いることが多いであろう」というわけだ。実際、本書ではそこまでは書かれて
いないが、生活者が安価な商品やサービスを享受するために、労働者の賃金が
抑制されざるを得ないという部分もあるに違いない。
著者は「エピローグ」でもう一度この考え方を取り上げ、「日本の雇用シス
テムにおいては、生活者の論理を優先しながらも、労働者の論理にも配慮する
という絶妙のバランスが存在し…、世界に誇ってよいと思う。現に、日本人は、
他国にはないほどの高い質の生活を享受できるようになったのである。そして、
より大事なことは、こうしたバランスは、政府や企業に押しつけられたもので
はなく、労働者たちも望んだ結果だったのである」と述べる。その上で、「正
社員と非正社員の均衡処遇というような、日本の雇用システムの根幹にメスを
入れる施術は、当面は、格差問題という「病状」の改善にはつながるかもしれ
ないが、長い目でみると、雇用システムの「健康」な部分までを病弱にしてし
まうであろう。…労働者の論理と生活者の論理との間の絶妙なバランスを崩し
てしまいかねない」と、昨今の表面的な議論に警告している。実際には、実は
現状でも一定の「均衡処遇」が実現していると考えることもできると思われる
が、いずれにしても一部の処遇を人工的に操作することが雇用システム全体に
大きな悪影響を及ぼす危険性があるというリスクは、多くの実務家が懸念する
ところだろう。看過できない、重要なポイントを指摘している本である。
なお、この本の書名は「雇用はなぜ壊れたのか-会社の論理vs.労働者の論
理」なのだが、副題はまだしも、「雇用はなぜ壊れたのか」のほうはおよそこ
の本の内容を示していない。出版社が売らんがために扇情的な書名をつけたの
かもしれないが、それにしても不適切ではないか。この書名をみて、格差「是
正」や規制強化などの一部大衆受けする内容を期待して購入すると確実に損を
するだろう。まあ、虚心に読めば、それでも価格以上の収穫があるはずの本で
はあるのだが…。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
2 私が読んだキャリアの1冊(2)
『いつでもクビ切り社会-「エイジフリー」の罠』
森戸英幸著 文春新書 2008.4.20
近年、労働政策の理念、とりわけ高齢者雇用対策の理念として「エイジフ
リー」という用語がたびたび見かけられるようになってきた。その意味すると
ころは「高齢者が意欲と能力に応じ年齢にかかわらず働き続けられる社会をめ
ざすべき」というものであり、具体的にいえば「まだ十分働ける、働けないの
に定年で退職しなければならない定年制」をなくしたい、ということのようだ。
高齢者だけではなく、たとえば雇用対策法では募集・採用時の年齢制限が原則
として禁止されている。これも「エイジフリー」の考え方に沿ったものだろう。
こうした考え方は、一見するとまことに正論であり、批判は難しい。実際、
諸外国でも雇用における年齢差別を法律などで禁止している例は多い(ただし、
米国を除けば定年制は一定条件のもとで容認されているようだ)。だから日本
もそうすべきだ、という主張には根強いものがある。
しかし、当然ながら話はそう簡単ではない。募集・採用時の年齢制限はまだ
しも、定年制はわが国では企業の人事管理に深く根付いている。それを禁止す
るといった「日本の雇用システムの根幹にメスを入れる施術は、当面は、年金
財政問題という「病状」の改善にはつながるかもしれないが、長い目でみると、
雇用システムの「健康」な部分までを病弱にしてしまうであろう。」なにごと
においてもトレードオフはつきものであり、エイジフリーも例外ではない。ど
のようなトレードオフかというと、それが本書の書名である「いつでもクビ切
り社会」である。定年退職がなくなれば、企業としてもさすがに死ぬまで雇用
するわけにもいかない(それは文字通りの「終身雇用」ではあるが)ので、な
んらかの理由で解雇を行う必要性が出てくる。年齢ではなく、能力や成果とい
った主観的な基準によって、何歳であっても解雇が行われる、それが「いつで
もクビ切り社会」だ。それでもいいのか、というのが本書における著者の中心
的な問題意識になっている。
この本はまず、第1章でわが国におけるエイジフリーの考え方の広がりを紹
介し、続けて第2章・第3章では定年制と継続雇用、募集・採用時の年齢制限
といった法規制・労働政策とエイジフリーとの関係を概説す。さらに第4章で
は諸外国のエイジフリー施策を紹介する。その上で、第5章の冒頭で「エイジ
フリー社会はバラ色か?」と問いかけ、第5章では「いつでもクビ切り社会で
いいのか」、第6章では「いつでも無礼講社会でいいのか」が考察されていく。
エイジフリー社会では、労働者は60歳前から解雇の不安におびえ、企業も常に
労働者を「選別」する、つらく困難な仕事を強いられる。これは、年齢という
画一的だがわかりやすい基準による人事管理より優れているのか。「目上・目
下」や「長幼の序」といった価値観が定着したわが国で、年齢に拘わらず「タ
メ口」で生活できるのか。もちろん、人によって様々だろうが、しかし政策を
考える上ではこうした見地からの検討も必要だ、と著者は主張する。
続く第7章では、これまでの記述をふまえてエイジフリー政策のあり方が述
べられる。定年制については、年金支給との接続に留意しつつ、現行の年齢基
準による政策の維持が望ましいとする。まことに妥当な見解であろう。募集・
採用についても、定年制との考え方の整合性に配慮して、上限禁止をいったん
棚上げし、理由説明義務を政策の軸とすべきという。これには議論も多いだろ
うが、有力な考え方かもしれない。
最後の第8章では、著者のこうした見解にもかかわらず、わが国も今後エイ
ジフリー社会の方向に向かうだろうとの悲観的な見通しが示され、それに備え
て企業や働く人々はどうすべきなのか、といったことが語られる。残念ながら、
かつ当然なことに、それは多くの企業は働く人々にとって好ましい内容ではな
い。著者はあとがきで「世の中のどんな事象にも、人間のどんな行動にも、ウ
ラとオモテ、メリットとデメリットがある。その両方をバランスよく斟酌しな
ければ、物ごとの本質を捉えることはできない」と述べる。著者はこれを「法
律屋チックで面白くもなんともない」というが、しかしこれこそリーガルマイ
ンドの重要な要素であろう。わが国の進路に賢明な判断がなされることを祈る
ばかりだ。
もっとも、この本の文体はあまり法学者らしくなく、かなりくだけた表現で
書かれていて、堅い内容のわりには非常に読みやすい。好みは分かれるかもし
れないが、解説書としては重要なポイントであろう。「難しそう」と敬遠せず
に手にとってもらいたい本だ。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆中央職業能力開発協会「キャリア・シート(CADS&CADI)活用セミナー」
平成21年5月20日(水)9:15~17:00
於 九段会館(東京都千代田区)
http://www.javada.or.jp/
◆労働政策研究・研修機構・日本学術会議共同フォーラム
「若者問題への接近-誰が自立の困難に直面しているのか」
平成21年6月6日(土)13:30~17:00
於 大同生命霞が関ビル6階(東京都千代田区 )
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/info/20090606.htm
◆東京都職業能力開発協会 平成21年度第1回職業能力開発推進者経験交流プ
ラザ「いきいき職場づくり~活動を通して・キヤリア形成支援~」
平成21年6月16日(火)9:30~12:00
於 東京しごとセンター地下講堂(東京都千代田区)
http://www.tokyo-nokaikyo.or.jp/
◆京都大学高等教育研究開発推進センター/電通育英会 大学生研究フォーラ
ム2009「大学生の何が育っていて、何が育っていないか」
平成21年7月25日(土)・26日(日)
於 京都大学百周年時計台記念館(京都市左京区)
http://www.dentsu-ikueikai.or.jp/forum/#forum01
【編集後記】
先日出張した際、新幹線車中で就職活動中とおぼしきリクルートスーツ姿の
若者を多数見かけました。大型連休も終り、就職戦線も第一のヤマ場は越えた
という時期でしょうが、「内定取り消し」が社会問題となった昨年度に続き、
今年度も経済情勢の悪化を受けて就活はかなり厳しくなっていると聞きます。
もっとも、企業には前回雇用調整期に新卒採用を減らしすぎたとの反省もあり、
抑制の規模は前回ほど大きくはないようですし、業界・企業によってはこれを
人材確保の好機とみて積極的な採用を展開している例もあるようです。多くの
人が良好な就職をされることを願ってやみません。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.career-design.org/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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