キャリアデザインマガジン 第67号

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□    キャリアデザインマガジン 第67号 平成19年10月29日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 キャリア辞典「テレワーク(3)」
2 私が読んだキャリアの1冊
   西尾久美子『京都花街の経営学』
3 キャリアイベント情報

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【学会からのおしらせ】

◆2007年度日本キャリアデザイン学会大会(於:武蔵野大学)は、10月20日・
 21日に開催され、盛会のうちに無事終了いたしました。
 2008年度の大会は、2008年9月27日(土)・28日(日)、京都産業大学にて
 開催される予定です。正式決定次第、学会ホームページなどでお知らせいた
 します。

◆日本キャリアデザイン学会は関西支部を設立することとなり、以下のとおり
 設立総会を開催いたします。
 支部会員は関西在勤・在住者に限られますが、支部行事には関西地区にかぎ
 らず参加できますので、多数のご参加をお待ちしております。
 「招徳酒造」は、正保2年(1645)洛中で創業、現在も京都伏見で日本古来
 の酒造り「純米酒」にこだわる蔵元です。懇親会でも、こだわりの純米酒を
 ご提供いただきます。

 日 時:2007年12月15日(土)15:00-19:30
     於 神戸学院大学ポートアイランドキャンパス
 内 容:記念講演会(15:00-17:00)
     講師/追手門学院大学教授 三川俊樹(学会理事・研究組織委員)
        招徳酒造(株)代表取締役 木村紫晃
     設立総会(17:00-17:30)
     懇親会(17:30-)渡辺三枝子会長出席予定
 参加費:講演会の参加費は無料(会員・非会員とも)
     懇親会費は会員・非会員とも3,000円の予定です。
  ※詳細内容、および申込みは学会ホームページにて近日中に公開します。
    http://www.cdi-j.jp/

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1 キャリア辞典
  ~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~

「テレワーク」(3)

 現在、ワーク・ライフ・バランスをめぐる議論が活発になっているが、その
充実のためにテレワークに期待される役割は、思われている以上に非常に大き
いものがありそうだ。ワーク・ライフ・バランスの議論では、ともすれば労働
時間の長さばかりが注目されがちだが、充実した「ライフ」を実現するための
時間を十分に確保していくためには、通勤時間の存在を無視することはできな
いはずだからだ。まあ、行政の立場からすれば通勤は「ワーク」ではない、と
言ってしまえばそれまでのことかもしれないが、働く人にとってみれば通勤は
せいぜい新聞や雑誌を読むか、英会話のテープを聞くくらいの付加価値しかあ
るまい。そして、現実をみると、東京都の「第4回東京都市圏交通実態調査」
(1999年)によると、東京23区に勤務する人の平均通勤時間は片道56分で、片
道90分以上を要する人も16%にのぼるという。また、総務省「平成13年社会生
活基本調査」によると、男性雇用者の平日の平均通勤時間は68分となっている。
一日平均で2時間前後を通勤に費やしていたのでは、労働時間を多少短縮した
ところで「ライフ」が充実するかどうかは心許ない。となると、通勤時間を解
消、もしくは大幅に短縮できるテレワークへの期待は大きくならざるを得ない。
本来、通勤時間の短縮に対しては都市政策や交通政策、さらには国土政策など
も含めた総合的な対策の検討が望まれるところだが、現在の行政の状況を考え
れば、テレワークに対してむしろ過大なくらいの期待がかからざるを得ないの
が実情ではあるまいか。
 もともとワーク・ライフ・バランスには時間の問題と空間の問題があるので
あり、この両者にはトレードオフがある。特に育児や介護、あるいは家事一般
と仕事の両立という面でも、テレワーク、とりわけ在宅勤務の効果には大きい
ものがあり、空間の問題で対処すれば必ずしも労働時間を犠牲にする必要のな
い場面は多数考えられるだろう。たとえば、在宅勤務であれば子どもから目を
はなさずに仕事をすることが可能だし、乳児が昼寝している間に集中して働き、
目をさましたらすぐに授乳する、といったこともできるだろう。もちろん、生
産性がある程度低下することは避けられないだろうし、短期間の納期を厳守す
ることにも無理はあるに違いないだろうが、業務量やスケジュールにある程度
の柔軟性を持たせたり、情報通信技術の活用で支援したりすることで、在宅で
あってもかなり付加価値の高い仕事も可能となるのではないか。さらに、通勤
時間の短縮の程度によっては、通勤時間まで含めた生産性はむしろ向上する可
能性もあるかもしれない。
 そういう意味では、この9月に発表された経済財政諮問会議の労働市場改革
専門委員会の第2次報告が、テレワークを外国人労働者とともに取り上げた上
で「ワーク・ライフ・バランス実現を図る手段としての雇用者の在宅勤務の重
要性」を訴えたことは、まことに時宜にかなったことといえよう。課題は多い
ようだが、効果の大きさを考えると前進が期待される。
                         (編集委員 荻野勝彦)

2 私が読んだキャリアの1冊

『京都花街の経営学』
  西尾久美子著 2007.9.20 東洋経済新報社

 こんにちも花街は全国に点在しているが、芸妓業が衰退産業であることは否
定しようがないだろう。祇園をはじめとする京都花街も長期的にはその例外で
はないわけだが、近年では従事する舞妓・芸妓の数も増え、売上も増加傾向に
あるという。この本は、逆風の中をタフに生き延び続ける京都花街の、その強
さの理由を長期にわたるフィールドワークによって解き明かした本といえるだ
ろう。難解な経営学の理論が用いられているわけではないが、事例調査として
まことに興味深い。
 京都花街には「一見さんお断り」や「宿坊」などといった独特の慣行があり、
私のような素人には敷居の高い世界である。だが、一見不合理にみえるこうし
た風習にも、実は合理的な理由があるのだという。常に優れた「おもてなし」
を提供するためには、個別の顧客のさまざまな情報が蓄積されている必要があ
る。これを可能としているのが、おもてなしのあらゆる費用を立替払いし、後
日一括請求する掛け売りのシステムであり、それを安定的に運営していくため
には「一見さんお断り」などのしくみが必要となるのだという。
 そして、何より注目されるのが、その人材育成だろう。花街はサービス業で
あるだけに、その第一線を担う舞妓・芸妓といわれる人材の質が経営の決め手
となることは想像に難くない。独特の閉鎖的な商慣行を持つことを考えれば、
その質の高さを安定的に保証していくことは格別の重要性を持つだろう。
 近年では花街外部出身の舞妓・芸妓が増えており、したがってまったくの素
人から育成していくこととなる。舞妓候補は置屋に住み込みで基礎的な技能を
集中的に養成される。1年程度で現場に出るようになり、置屋の経営者を「お
母さん」、メンター役の先輩を「お姉さん」と呼ぶ家族的で濃密な人間関係の
中で徹底的なOJTが施される。もちろん「お師匠さん」によるOff-JTがそこ
に組み込まれる。そのための学校組織もあり、職業生涯を通じて技能を高めて
いくしくみが出来上がっている。長じて自ら「お姉さん」となることが、自身
のトレーニングとなることもいうまでもないし、とりわけ重要なのはお座敷経
験の豊富な、目の肥えた「顧客」による評価とそのフィードバックであるとい
う(その最たるものが「旦那さん」ということだ)。
 長じて舞妓から芸妓になる際には、自ら「踊り」や「演奏」の専門分野を決
め、さらに時期が来れば独立し、自営の芸妓業者となる。独立して専門性で勝
負する、プロフェッショナルの誕生である。その技能の高さは「座持ち(のよ
さ)」という定性的な評価で業界に蓄積されていくほか、毎年正月には前年の
売上ランキングが発表されるという「成果主義的」な一面もある。花街の最重
要な経営資源である舞妓・芸妓を関係者すべてが関与して育成していくシステ
ムの確立が、この業界を支えているのだろう。そして、さらに長じれば、芸妓
のあとのキャリアとして置屋の経営者に進む人も多いという。
 もっとも、こうしてみると花街の人材育成も一般的な日本企業のそれと格別
大きな違いはないという感もなきにしもあらずだ。未経験の新卒者を採用し、
上司や先輩が仕事を通じて育成する。育成結果の評価、そのフィードバック、
そして次なる育成というP-D-C-Aサイクル、時間をかけた適性判断と専
門分野の選定。内部昇進と経営人材の育成と、むしろ互いに通じるところが多
いことに驚かされる。考えてみれば、花街のある種特殊な高度技能と企業にお
ける企業特殊的熟練とは、長期間をかけてOJT中心で育成していくしかない
という点では共通しているということだろう。そして、それを企業の競争力と
していくという人材戦略にも通じるものがあるということだろう。結局のとこ
ろ、人材育成こそがビジネスの継続・発展にとって最重要であるという点にお
いては、一般企業も花街も変わりはないということなのかもしれない。
                         (編集委員 荻野勝彦)
 ※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
  日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。

3 キャリアイベント情報
  ~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~

◆中央職業能力開初協会 若年者向けキャリア・コンサルティングセミナー
 平成19年9月~平成20年2月
 全国12都市(千葉市、立川市、札幌市、仙台市、富山市、福井市、京都市、
 大阪市、広島市、徳島市、福岡市、鹿児島市)にて開催
http://www.adds.javada.or.jp/column_info/magazine/cctop.html

◆雇用・能力開発機構東京センター ヤングジョブキャラバン「なりたい自分
 に近づく方法」
 平成19年11月12日(月)14:45~16:30
 於 東京交通会館12階東京就職フェアセミナーコーナー
 http://www.ehdo.go.jp/tokyo/yjs_tokyo/event-t/200711.html

◆キャリア・コンサルティング協議会 キャリア・コンサルタント全国大会
 「社会が求めるキャリア・コンサルタントのチカラ~キャリア・コンサルタ
  ントの社会化に向けて~」
 平成19年12月23日(日)10:00~16:30
 於 エル・おおさか(大阪市中央区)
 http://www.career-cc.org/2007zenkokutaikai.pdf
  ※本学会の川崎友嗣理事・研究組織委員(関西大学教授)、宮城まり子理
   事(立正大学教授)が出講します。

[編集後記]

 特になにかの役割があったというわけでもないのですが(笑)、学会大会が
あった関係で編集を1回お休みさせていただきました。研究者ではない私には
報告のアカデミックな評価はできませんが、研究大会も第4回をかぞえ、実務
家の目からみても内容は充実してきたように思われます。会員数も順調に拡大
していますが、総会で配布された会員アンケート結果をみると、少数ではあり
ますがこの「キャリアデザインマガジン」を読んで入会していただいた方もい
らっしゃるようで、まことにうれしく思います。非会員の読者各位にはぜひと
もご入会をご検討いただければ幸いです。宣伝、宣伝。(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.orange-plaza.com/cdi-japan/

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◆学会監修・菊地達昭編著『キャリアデザインへの挑戦』優待販売のお知らせ

・本学会の菊地達昭・常務理事編により、学会創立期のメンバーなど、有識者
 58人の「私のキャリアデザイン論」(『文部科学通信』に連載)を集大成し
 た図書『キャリアデザインへの挑戦』が、経営書院から10月に出版されます。
 定価1890円(税込み)のところ、会員には特別に3割引(1323円)で販売を
 いたします。
  *経営書院(FAX:0120(73)3641、e-mail:sato-ken@sanro.co.jp)へ直接
   申し込んで下さい。その際、宛名に経営書院『キャリアデザインへの挑
   戦』係と書き、冊数、 宛名、送り先住所、送り先連絡先電話番号、会
   員番号を明記してください。
  なお郵送料はご負担下さい。折り返し振込用紙を同封しますので到着後
   1週間以内にお振込下さい。

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。

 編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
      児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail cdgakkai@hosei.org
   〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1

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