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□ キャリアデザインマガジン 第63号 平成19年7月23日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 キャリア辞典「労働ビッグバン(5)」
2 私が読んだキャリアの1冊
大内伸哉『雇用社会の25の疑問』
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり研究会を開催いたします。
日 時:7月26日(木)18:00-20:00
テーマ:「芸術・造形活動とキャリアデザイン」
講 師:豊嶋美恵子[作家名:藤田美恵子]新島学園短期大学非常勤講師、
造形作家
紹介と解題:山口憲二 新島学園短期大学キャリアデザイン学科教授、本会
研究組織委員
会 場:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナード・タワー25階会議室B
定 員:50名(学会ホームページにて受付を開始しております)
http://www.orange-plaza.com/cdi-japan/gyouji/02.html
参加費:会員無料、非会員3,000円
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1 キャリア辞典
~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~
「労働ビッグバン」(5)
「労働ビッグバン」の具体的検討にあたっている経済財政諮問会議の労働市
場改革専門調査会は、第7回で第一次報告をとりまとめて以降、現在まで3回
開催されている。議事は「関係者からのヒヤリング」あるいは「委員からの報
告」となっているが、資料や議事要旨をみると、第8回と第9回は外国人労働
者問題、第10回は在宅勤務の問題をとりあげているようだ。第一次報告を受け
て各論の検討に入っているということのようだが、このペースでは第一次報告
に盛り込まれた各論をすべて網羅できるのはいつになることやら、と心配にな
ってくる(もちろん、すべてを専門調査会でやるのではなく、それぞれにまた
個別の検討組織を設けるという手もあるだろうが)。
それはそれとして、まずは外国人労働者問題から着手したというのは、意図
したものかどうかは別として、なかなか意味深なものがある。本家本元の「金
融ビッグバン」、あるいは日本版の「金融ビッグバン」にしても、「通信ビッ
グバン」にしても、その最大の眼目は参入規制の緩和だった。となると、日本
の労働市場における参入規制の緩和といえば、第一に外国人労働者の就労規制
の緩和ということになるのではないか。これに較べたら、ハローワーク業務へ
の市場化テストの適用も小さな話になるかもしれない。
もちろん、外国人労働者を多数受け入れるとなると、これは経済的にも社会
的にも非常に大きなインパクトがあるわけで、その議論はかなり以前から行わ
れてはいるものの、なかなか収束しない。一応「高度人材は積極的に受け入れ
るが、単純労働は受け入れない」といった政府の公式見解があるような話には
なっているようなのだが、そのかたわらで徐々に単純労働での就労が拡大しつ
つあるのも事実だろう。いよいよこの問題を避けて通ることは難しくなってき
ているのかもしれない。
いまのところ、外国人労働者問題は治安の悪化などの社会的側面が関心を集
めがちなように思えるが、これが一定数を超えると、労働市場の需給や賃金水
準に与える影響も無視できなくなるだろう。単純労働(と高度人材という二分
法がいいのかどうかもわからないのだが)の外国人は労働条件が低いのが一般
的だから、日本人と競合する分野での外国人就労が拡大すれば、当然ながら日
本人の賃金水準も低下を余儀なくされる可能性が高いし、外国人に職を奪われ
た日本人の失業率が高まることも十分予想できる。これは一部の諸外国ではす
でに現実になっていることでもある。
もちろん、外国人労働者が日本の経済、産業の一部に組み込まれ、必要不可
欠な存在となっている現実もあるわけだから、すべてを排除するということは
無理だろう。ことは程度問題だが、どの程度が適当かというさじ加減と、適当
を担保するための方法論は決定的に重要となるだろう。
世間の論調をみると、「労働ビッグバン」は要するに雇用や労働条件に関す
る規制緩和であり、企業の利益のために労働者の生活を切り下げるものだとい
うような批判的なものも多いようだ。しかし、仮に外国人労働者のわが国労働
市場への参入規制の緩和というより根本的な「ビッグバン」(と称するからに
はそれなりの規模になるだろう)が行われた場合、それは解雇や非典型雇用の
規制緩和よりはるかに大きなインパクトになる可能性もあるかもしれない。慎
重な検討が求められるところだろう。
(編集委員 荻野勝彦)
2 私が読んだキャリアの1冊
『雇用社会の25の疑問-労働法再入門』
大内伸哉著 2007.7.15 弘文堂
この本には「労働法再入門」という副題がついている。参考判例も多数掲載
されているし、用語解説も豊富だから、労働法の教科書の一種ではあるのだろ
う。しかし、その内容はなかなかユニークなものだ。
書名のとおり、この本は25話からなり、それぞれが「疑問」からスタートし
ている。オビには「会社は美人だけを採用してはダメなのであろうか?」とい
う疑問が大書されているが、ほかにも「夜にキャバクラでアルバイトをしてよ
いか」とか「女子アナは裏方業務への異動命令に従わなければならないのか」
「会社は社員の電子メールをチェックしてよいのか」などなど、働く人にとっ
ては決して他人事ではない、しかしおそらく多くの人には答のわからない「疑
問」が次々に登場する。そして、その疑問に対して労働法の立場から解説し、
検討し、答を与えていく。それに参考判例と用語解説が加わって、読み進める
うちに案外深いところまで労働法への理解が到達するように書かれている。さ
らに、「疑問」自体も、徐々に「成果主義賃金は公正か」「定年制は年齢差別
か」「どうして過労死するほど働いてしまうのか」「会社は誰のものか」…と
いうように、より本質的で深化したものが提示される。読み進めるうちに、ま
すます労働法の考え方に対する理解が深まっていくだろう。
働き方が多様化し、キャリアデザインもまた多様化するこんにちにあっては、
この本の「疑問」にあるような問題に遭遇する人も多くなっているだろう。こ
れからの時代、働く人がよりよい職業人生を実現していくためには、こうした
労働法に関する知識を持つことは大いに望まれよう。そのためには、単に労働
者の権利を解説しただけの学問的(?)知識ではなく、キャリアや仕事のさま
ざまな場面で、TPOに応じて生かすことのできる実践的な知識でなければな
らないだろう。その点において、この本はなかなか優れている。労働法の背景
となっている日本の労働市場の慣行や、日本企業の人事労務管理の考え方や実
態などに対する理解のもとに、現実をふまえた記述となっているからだ。また、
こうしたスタイルの本だけに、労働法全体を網羅的にカバーすることは難しい
が、「疑問」を巧みに設定・選択されているので、働く人が仕事やキャリアに
ついて考えるうえで求められる知識はほとんど含まれている。ということは、
多忙なビジネスパーソンが効率的に知識を吸収できる本だということだ。
もちろん、法律書だから非常に読みやすいというわけにはいかないが、大方
のビジネス書と較べてそれほど読みにくいということもない。キャリアを意識
しながら働いている人、あるいはこれから職業キャリアを開始しようとしてい
る学生や新入社員など、幅広い人たちがこの本を手にとって、有益な「労働法
再入門」としてほしいと思う。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆高専連携「チャレンジプログラム」シンポジウム
(後援:多摩地区高等学校進路指導協議会、多摩地区専修学校協議会、日本
キャリアデザイン学会)
平成19年7月30日(月)13:30-17:00
於 国際文化理容美容専門学校国分寺校(東京都国分寺市)
http://www.tama-sen.jp/symposium.html
※本学会の生駒俊樹理事・研究組織委員(京都造形芸術大学教授)が出講
します。
◆独立行政法人経済産業研究所政策シンポジウム「ワーク・ライフ・バランス
と男女共同参画」/経済産業研究所
平成19年8月28日(火)9:45-17:50 於 経団連会館(東京都千代田区)
http://www.rieti.go.jp/jp/events/07082801/info.html
※本学会の佐藤博樹副会長・研究組織委員(東京大学教授)が出講します。
[編集後記]
今週から夏休みに入った学校も多いものと思います。社会人には長い夏休み
はなかなか望みにくいものですが、それでも今年の企業の夏休みは平均8.2日
と、例年より長い傾向なのだそうです。中には22日間という長期の休みを設定
している企業もあるそうですが、連休はとれないという人も多いでしょう。せ
っかくの休みですから、有意義に使いたいものです。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.orange-plaza.com/cdi-japan/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
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〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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