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□ キャリアデザインマガジン 第62号 平成19年7月9日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 キャリア辞典「労働ビッグバン(4)」
2 私が読んだキャリアの1冊
大久保幸夫『キャリアデザイン入門[2]専門力編』
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり研究会を開催いたします。
日 時:7月26日(木)18:00-20:00
テーマ:「芸術・造形活動とキャリアデザイン」
講 師:豊嶋美恵子[作家名:藤田美恵子]新島学園短期大学非常勤講師、
造形作家
紹介と解題:山口憲二 新島学園短期大学キャリアデザイン学科教授、本会
研究組織委員
会 場:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナード・タワー25階会議室B
定 員:50名(学会ホームページにて受付を開始しております)
http://www.orange-plaza.com/cdi-japan/gyouji/02.html
参加費:会員無料、非会員3,000円
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1 キャリア辞典
~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~
「労働ビッグバン」(4)
労働ビッグバンというと経済財政諮問会議、それも有識者議員の八代尚宏国
際基督教大学教授という連想が働くが、このことばは必ずしも経済財政諮問会
議や八代教授の専売特許ではない。
日本経済新聞社の新聞記事データベース「日経テレコン21」を使って検索し
てみると、主要全国紙上に「労働ビッグバン」がはじめて登場したのは1997年
11月27日付の日本経済新聞らしい。そこでは「山一証券をはじめ破たん金融機
関の社員の再雇用問題は、人材の流動性を一気に高めるきっかけになりそうだ。
終身雇用が崩れてきてもホワイトカラーの流動性は低かったが、大手金融機関
の“突然死”を目の当たりにして「転職」という言葉が頭をよぎるサラリーマ
ンは少なくない。山一ショックは金融ビッグバンに続く「労働ビッグバン」を
引き起こすとみられる。」と使われている。1998年1月15日付の読売新聞朝刊
にも類似の用例があって、「山一証券など破たん金融機関の社員の再雇用問題
が、人材の流動性を一気に高めるきっかけになる可能性もある。終身雇用が崩
れてきてもホワイトカラーの流動性は低かったが、「山一ショック」は金融ビ
ッグバンに先駆けて「労働ビッグバン」を引き起こすかもしれない。」とある。
時あたかも金融ビッグバンをめぐる議論が活発な時期だったから、そこからの
連想で「労働ビッグバン」ということばが使われても不思議はない。ここでの
「労働ビッグバン」の意味するところは要するに「ホワイトカラーの流動化」
ということらしいが、これは9年近くを経てから現れた経済財政諮問会議の
「労働ビッグバン」が労働力流動化を大きな眼目としていることと妙に符丁が
あっている。長期雇用がわが国労働市場の最大の特徴のひとつとされているこ
とを考えれば、妙にというよりはむしろ当然のことかもしれない。
いっぽう、同じ時期の毎日新聞は、1998年のいわゆる「春闘」をめぐる記事
で「労働ビッグバン」という表現を使った。ベアゼロ、成果主義などをとらえ
て「景気低迷、大型倒産時代の春闘――。今年は賃上げもさることながら「安
定雇用」と「企業存続」を両立させるため、新たな労使間ルール作りへの模索
が進む。すでにベアなし春闘の試みなどで動きだした“労働ビッグバン”を点
検する。」などと使われた。
この年は、企画業務型裁量労働制の導入や人材派遣対象業務の原則自由化、
男女雇用機会均等法の規制強化と女性の深夜業、時間外労働の規制緩和といっ
た労働法の大改正が議論された年でもあり、これを指して「労働ビッグバン」
と呼ぶ用例も、翌年にかけて多数みられた。この用法のさきがけは、どうやら
女性労働関係の活動家の集まり(らしい)「変えよう均等法ネットワーク」が
1998年3月に開催した「労働ビッグバンと女の仕事・賃金」というシンポジウ
ムらしい。当時の新聞記事によるとその内容は「雇用制度の多様化やパート差
別、セクハラ、職能・資格給による差別などについての各地から実態報告に続
き、「削り取りの論理とどう闘うか」と題した討論を行う。非正社員の賃金の
現状や、同じ価値の仕事なら同じ賃金を求める「ペイ・エクイティ」の可能性
などについて」ということらしいが、9年後の今日でもどこかで開催されてい
そうなシンポジウムだ。これら法改正をひとくくりに「労働ビッグバン」と呼
ぶ用例は毎日新聞、日本経済新聞、東京新聞などにみられる。やはり、女性労
働と関係した記事が多い。なお余談ながら、この少し前の1997年には、NTT
の再編を軸とした電気通信関連3法案が成立したが、これをさして「通信ビッ
グバン」という表現もたびたび使われていた。ちょっとした「ビッグバン」の
ミニブームだったようだ。
いずれにしても、複数分野にまたがる一連のかなり大きな労働法改正を「労
働ビッグバン」と呼んでいるのは、今回の経済財政諮問会議の用法とかなり近
いといえそうだ。ということは、今回の議論は「第2次労働ビッグバン」とで
も呼ぶべきものなのかもしれない。
(編集委員 荻野勝彦)
2 私が読んだキャリアの1冊
『キャリアデザイン入門[2]専門力編』
大久保幸夫著 2006.3.15 日経文庫
『[1]基礎編』に続く『[2]専門編』で、「オビ」には「ビジネスのプ
ロを目指す」「仕事人生の充実に必要なことは?」「進むべき道の決め方や、
専門知識・技術をどう磨くか、40歳以降のキャリアについて解決すべき課題を
説く。」との惹句が並んでいる。「まえがき」をみると「ミドル期以降のキャ
リアについて書かれた本は驚くほど少ない。」「私は、むしろこの中高年期に
こそ、解決すべきキャリア課題が多くあるのではないかと思っている。」と、
まことに意欲的である。
そこで、この本はまず第1章で、40代以降のキャリアとして、高度な「ビジ
ネス・プロフェッショナル」をめざす「プロフェッショナル・キャリア」とい
う考え方を提唱する。そして、それに「基礎編」で提示された「筏下り・山登
り」モデルを適用する。専門分野の「本決め」をして、筏下りから山登りに移
行できた人が「プロ」であるという。すべてのビジネスパーソンの中で11%し
かいない少数派である。やがて、プロとして専門性を磨き、外部から講演や執
筆を求められるようなプロに「開花」する。これはプロになれた人の数人に一
人であるという。そして、プロとしての究極は社会的評価を確立した「無心」
であり、「ごく少数」ということになる。
第2章では、「無心」に至るための専門力の磨き方が述べられる。そして第
3章では、それをふまえた40代、50代、60代のキャリアデザインの考え方が説
明されている。たしかに、60代のキャリアデザインに言及した本は少ないかも
しれない。しかも、この部分では「ブランクの怖さ」といった現実をふまえた
実践的で有益なアドバイスもあり、なかなか有用であるといえそうだ。
とはいえ、全体を通じてみると、「キャリアデザイン入門」という本として
はどうしても違和感をぬぐえないものがある。著者は「基礎力編」から通じて
「職業的に栄達すること、経済的に成功することがよいキャリアというわけで
はない」というようなことを繰り返し述べているし、本書ではミドル以降の
人々の多様性についても再三言及している。これはキャリアデザインを考える
うえでのきわめて重要な観点だろうと思うのだが、残念ながら本書のほとんど
はこれとはうらはらに、「プロフェッショナルとしての職業的栄達・成功」の
ための「入門」に費やされているように思える。もちろん、そういう成功者を
増やしたいという著者の気持ちはよく伝わってくるし、それ以外の記述にもそ
れなりの紙幅は費やされてはいる。しかし、プロになれない人はあたかもキャ
リア上の敗残者のような、あるいはプロの初期段階にとどまった人は不十分な
キャリアしか達成できなかった人であるかのような記述にとどまっていること
には不満を禁じえない。この本はたしかに職業キャリアの本であろうが、職業
以外の人生キャリアのあり方は職業キャリアにもそれなりの影響を与えるであ
ろうことは想像に難くない。多数の「プロになれなかった人」、大多数の「開
花に至らなかった人」の中にも、職業以外の人生キャリアとの相互作用の中で
職業キャリアに満足感や幸福感を確保している人も少なくないだろう。おそら
くはプロとして栄達する人よりはるかに人数が多いであろうこうした人たちへ
の言及がほとんどないのは、「キャリアデザイン入門」という書名の本として
は物足りなさを感じざるを得ない(あるいは、「専門力編」という書名の本だ
からそれが当然だということかもしれないが)。
また、その結果かどうか、この本では少なくとも普通に読む限りはいわゆる
「ブルーカラー」のキャリアをイメージすることは非常に難しいのではないだ
ろうか(ブルーカラーも含むものとして読めば読めないこともないかもしれな
いが)。プルーカラーにも高度な専門力が存在することは論を待たないが、こ
の本が述べるような「開花」「無心」を実現することは、ありうることではあ
ろうがホワイトカラーと比較してきわめてまれなことだろう。
もっとも、それはそれでいいのかもしれない。日経文庫の『キャリアデザイ
ン入門[2]専門力編』という本の読者は、大方はホワイトカラーのビジネス
パーソン、あるいはそれをめざす学生などだろうから、その関心はこうした方
向に向いていることも間違いなさそうだからだ。とりわけ若い読者にとっては
こうした本のほうが夢が持て、勇気が与えられるという点で入門書としてふさ
わしいという考え方もあるだろう。また、職業キャリアの挫折や停滞局面にも
十分配慮した入門書などといっても、著者がいうように「ミドル期以降のキャ
リアについて書かれた本は驚くほど少ない。」という中では、ないものねだり
と言うしかないのかもしれない。
そう考えると、「基礎力編」と本書の2冊は、わが国における実態をふまえ
たキャリア研究をもとにした本格的なキャリアデザインの入門書の登場として、
おおいに歓迎すべきものといえるのだろう。それはあわせて、わが国のキャリ
アデザイン学の課題の一つを示しているともいえるのかもしれない。
(編集委員 荻野勝彦) ※文中、書名・章表示の数字表記はローマ数字です。
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆高専連携「チャレンジプログラム」シンポジウム
(後援:多摩地区高等学校進路指導協議会、多摩地区専修学校協議会、日本
キャリアデザイン学会)
平成19年7月30日(月)13:30-17:00
於 国際文化理容美容専門学校国分寺校(東京都国分寺市)
http://www.tama-sen.jp/symposium.html
※本学会の生駒俊樹理事・研究組織委員(京都造形芸術大学教授)が出講
します。
◆独立行政法人経済産業研究所政策シンポジウム「ワーク・ライフ・バランス
と男女共同参画」/経済産業研究所
平成19年8月28日(火)9:45-17:50 於 経団連会館(東京都千代田区)
http://www.rieti.go.jp/jp/events/07082801/info.html
※本学会の佐藤博樹副会長・研究組織委員(東京大学教授)が出講します。
[編集後記]
かねてから「労働国会」と言われてきた第166通常国会が閉幕しました。雇
用保険法、パート労働法、雇用対策法のそれぞれ改正法案が成立し、最低賃金
法、労働基準法の改正法案と労働契約法案は継続審議という結果で、その内容
も含めて成果のほどにはいろいろな意見があるでしょう。とはいえ、働き方も
キャリアも多様化する中で、さまざまな面での法的整備が求められていること
は間違いありません。今後とも、一段と働く人にとっては働きやすく、生活し
やすく、企業にとってはその発展と成長に資する法制度への改善を続けてほし
いと思います。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.orange-plaza.com/cdi-japan/
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◆産業技術総合研究所 キャリア・アドバイザー公募情報
機関名 :独立行政法人産業技術総合研究所
タイトル :キャリア・アドバイザー
研究分野 :社会科学 – 経営学
総合領域 – 科学教育・教育工学
その他 – キャリア・カウンセリング
公募終了日 :2007年07月17日
公募URL :
http://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?fn=4&id=D107060659&ln_jor=0
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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