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□ キャリアデザインマガジン 第6号 12月13日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 キャリア辞典 「ニート(1)」
2 私が読んだキャリアの一冊 玄田有史・曲沼美恵『ニート』(幻冬社)
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆中央職業能力開発協会(JAVADA)会員セミナーが開催されます。
JAVADA会員限定のセミナーですが、日本キャリアデザイン学会会員は特に
参加できます。
日 時:平成16年12月16日(木)13:00~16:00
場 所:東京ガーデンパレス3階「扇」
テーマ:「トータル成果主義とキャリア開発」
-成果主義の問題解決への提言と組織の活性化-
講 師:太田隆次 国際人事研究所所長
参加費:2,000円。
申込先:会員番号、会合名、所属・氏名を明記のうえ、
cdgakkai@hosei.org まで電子メールでお申し込みください。
◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり研究会を開催いたします。
非会員の方もご参加いただけます。
日 時:平成17年1月28日(金)18:30~20:30
場 所:法政大学市ヶ谷キャンパス ボワソナードタワー25階B会議室
テーマ:「ひきこもりとキャリアデザイン研究」
講 師:尾木直樹 臨床教育相談研究所「虹」 所長
定 員:40人(先着順)
参加費:日本キャリアデザイン学会会員は無料、非会員は1,000円。
申込先:会員番号(会員のみ)、会合名、所属・氏名を明記のうえ、
cdgakkai@hosei.org まで電子メールでお申し込みください。
◆今後の日本キャリアデザイン学会研究会の予定をお知らせします。
平成17年2月18日(金)「フリーター問題とキャリアデザイン」(仮題)
講師:小杉礼子 労働政策研究・研修機構副統括研究員
平成17年3月4日(金)「キャリアと仕事道(しごとみち)」
講師:玄田有史 東京大学社会科学研究所助教授
平成17年4月15日(金)「女性キャリア形成研究史」(仮題)
講師:中野洋恵 国立女性教育会館研究国際室長
※開催時間帯はいずれも18:30~20:30の予定です。
※詳細は別途学会ホームページなどでお知らせいたします。
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1 キャリア辞典
~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~
「ニート(1)」
ニート(NEET、Not in Employment, Education or Training)ということば
は、わが国でも完全に市民権を獲得したようだ。
もともとこのことばが生まれたのは英国においてであるとされる。英国では
サッチャー前首相による経済改革政策の副作用として1970年代末に失業率が上
昇し、若年層のそれは20%にも達した。これに対して、英国では職業能力開発
の強化・体系化(もっとも、サッチャー政権の意図は失業対策よりは技能向上
による競争力強化に重点があったらしい)が推進され、さらに代わって登場し
た労働党のブレア政権は、若年失業者を対象に「ニュー・ディール政策」を打
ち出した。これは失業期間が6ヶ月以上の若者について、4ヶ月間のカウンセ
リング期間を経過した後は、一定の形で就労するか職業訓練を受けるかしなけ
れば失業給付が受けられないというもので、端的にいえば「不参加」という道
を閉ざした、かなりラディカルな施策だ。これは一応奏功し、若年雇用は改善
した(もっとも、英国会計検査院はその相当部分は経済成長によるものとして
いるが)。しかし、このしくみにも乗れない、「参加しない」若者も相当数取
り残された。それがこの「NEET」だ。
わが国におけるニートは、労働政策研究・研修機構の小杉礼子副統括研究員
の試算によれば、2003年で約64万人にのぼるという。フリーターの約200万人
に較べれば小さくみえるが、問題としてはかなり深刻といえるだろう。フリー
ターは、その内容は多様だが、おおむね就労(や求職)はしており、一応「参
加」のレベルにあるのに対して、ニートは「不参加」のレベルにとどまってい
るからだ。「不参加」にとどまるかぎり、行政(に限ることはないが)がいく
ら訓練や相談の場を用意したとしても、ニートはその場には出てこないから、
政策効果はほとんど期待できない。ここにニート対策の難しさがある。
いま、若者の就労を促進するためのワンストップサービス「ジョブカフェ」
が全国展開されているが、そこでも、まずはいかに若者に足を運んでもらうか
が大切になっているそうだ。各地では、内装やBGMを若者が入りやすいもの
としたり、若者のNPOに運営を任せるなどのくふうをして、一定の効果をあ
げているという。
とはいえ、結局は「首に縄をつけて」引っ張り込むことはできないのだし、
こうした施策には一定の限界があるだろう。やはり、より若い段階から、ニー
トにしない、させないための施策が必要だろう。
先輩である英国はどうだろうか。やはり、早い段階から手を打ちはじめてい
るようだ。日本のニートは若者の2%程度というが、英国では地域によって15
~25%にも達しているというから、対策もかなり強力だ。英国のNEETには、教
育水準のほか、健康や家庭、住居などに問題をもっている人が多い(日本のニ
ート問題に詳しい東京大学助教授の玄田有史氏によれば、日本のニートも明ら
かに中卒、高校中退が多いという)。そこで、英国では13歳から18歳の少年を
対象に、これらの問題についてひとりの個人アドバイザーが対応する「コネク
ションズ・サービス」を導入している。サービスをワンストップ化し、さまざ
まな分野の専門家を集めて、「そこに行けば何らかの解決が得られる」サービ
スをめざしているという。「行けば何か得られる」ことは、そこに足を向けさ
せるためにも効果的だろう。
日本で注目されるのは、すでに兵庫県や富山県に先進事例がみられる「中学
2年生の1週間の就労体験」だろう。経験者をはじめ関係者から高い評価を得
ているほか、不登校の改善にも効果がみられるという。これは「キャリア・ス
タート・ウィーク」として全国展開が予定されている。実際に運用するとなる
と、学校関係者はもちろん、自治体や地域、受け入れる企業もそれぞれ努力が
必要となろうが、十分な連携のもとに、この取り組みを軌道に乗せていってほ
しいと思う。
(編集委員 荻野勝彦)
2 私が読んだキャリアの1冊
~キャリアに関する本のご紹介です~
玄田有史・曲沼美恵著『ニート』(幻冬社)
タイトルに惹かれてこの本を手にとった読者は、読んでいる途中、多少の
“当惑”を覚えるかもしれない。確かに本書の議論の半分は、ニートと呼ばれ
る若者についての理解と考察に当てられている。しかし、残りの半分は、兵庫
県の「トライやるウィーク」や富山県の「14歳の挑戦」といった、中学校で
の職場体験学習の意義や効果を論じることに費やされているからだ。
もちろん、この二つのトピックのあいだには、深いところでのつながりが想
定されている。14歳の時点で全員に5日間の職場体験をさせるという、兵庫
や富山で実施されているキャリア教育の実践は、ニートに代表されるような、
「働くこと」を自分自身の「生きること」に手繰り寄せることができない若者
たちの増加という現状に対する、一定の有効な予防策になりうるのではないか。
──著者たちに共有されているのは、こうした現状認識と“診断”にほかなら
ないのだろう。
本書の著者は、労働経済学者として最近注目を浴びることの多い玄田有史氏
とフリーライターの曲沼美恵氏。全体を通じて、理論的なフレームワークの部
分を玄田氏が概説し、曲沼氏は、丹念な取材に基づいて当事者であるニートや
中学生たちの声を拾いあげ、そこから問題の性格や意味を浮かび上がらせると
いう作業に徹している。共著としては、見事なコラボレーションである。また、
一般向けに書かれた本であるだけに、非常に読みやすい。ニートという“問
題”の所在を社会全体に知らしめ、真摯な応答を呼びかける問題提起の書とし
ては、すぐれて貢献度の高いものであろう。
ただ、こうした本書の性格上からすれば、仕方のないことかもしれないが、
疑問が残る点や、もう少し突っ込んだ議論の展開を期待したかった点もないで
はない。例えば、ヤングジョブスポットなどを通じて曲沼氏が出会ったという
若者は、本当にニートなのか。どの程度の典型性と一般性を引き出せる事例な
のか。「社会的ひきこもり」というカテゴリーに寄せていくようなニート理解
は当然ありうるが、反面、学校格差や学力序列上の最下位層、高校非進学者や
中退者といった、いわば“アンダークラス”の若者たちの存在を抜きにして、
ニートの問題を語ることはできないのではないか。
あるいは、玄田氏が着目する「トライやるウィーク」などの試みは、教育界
では、その効果だけではなく、困難や問題点に関する論議を含めて、すでに十
分過ぎるほどの注目を集めてきたものである。ならば、いま論じられるべきは、
“子どもたちの顔つきが変わる”“不登校の生徒にも積極的な効果”といった
レベルの知見ではなく、例えば生徒たちが所属する地域や階層差といった視点
も踏まえたうえで、職場体験学習を通じて彼ら/彼女らのキャリア意識がどう
変化し、どのような意味で発達したのかという点についての具体的な分析であ
り、そのことと、学校や教師の意識、指導のあり方等との関連についての解明
ではなかったのか。
とはいえ、労働経済学者+フリーライターという著者たちに対するものとし
ては、以上のような言及は、ほとんど“言いがかり”に近い論難であるかもし
れない。それよりも、ニートの問題を社会一般の関心事へと広げるうえで、本
書が果たすであろう先駆的な役割と貢献に、まずは最大限の敬意を表したい。
若者たちのキャリア形成やキャリア開発を考えるに当たっては、実はその数歩
手前に、乗り越えておくべき大きな“ハードル”が存在している。キャリアデ
ザイン論にとっても重要な研究課題であろう。
(編集委員 児美川孝一郎)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆日本インターンシップ学会研究部会
平成16年12月25日(土)13:30~17:00
於 東京国際大学早稲田サテライト205教室、206教室
おもな内容 「インターンシップとキャリア教育―その充実と推進」
東洋大学名誉教授 仙崎武
「三井物産のインターンシップ」
三井物産人材開発室マネジャー 川島康敬
参加費 3,000円(学会会員無料、当日学会入会可)
問い合わせ 学会事務局 03-5850-3444
miya-ruijb@rapid.ocn.ne.jp
◆日本経団連労使フォーラム
平成17年1月13日(木)10:00~17:00、14日(金)9:30~16:30
於 新高輪プリンスホテル「飛天」
おもな内容 講演:日本経団連会長 奥田碩、連合会長 笹森清
春季交渉に関するパネル:企業経営者、労担、労組リーダー
対談:谷亮子(柔道女子日本代表)×栗山英樹(野球解説者)
参加費 会員55,000円、一般65,000円
問い合わせ 日本経団連事務局 03-5204-1926
◆女性と仕事の未来館 5周年記念未来館フェスタ
「始めよう!自分スタイルのキャリア&ライフ」
平成17年1月20日(木)、21日(金)、22日(土)
於 女性と仕事の未来館
http://www.miraikan.go.jp/topix_index/index0123.html
[編集後記]
今回は、編集委員の児美川孝一郎法政大学助教授の「キャリアの一冊」をお
届けしましたが、実はこの書評、児美川先生のブログには一ヶ月以上前にフラ
イングでアップされていたのでした。先生、掲載が遅くなってスミマセン。
ちなみにURLは http://blogs.dion.ne.jp/career/archives/207354.html です。
(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.cdi-j.jp/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部企画室担当課長)
児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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