キャリアデザインマガジン 第58号

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□    キャリアデザインマガジン 第58号 平成19年4月9日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 キャリア辞典「ワーク・ライフ・バランス(7)」
2 私が読んだキャリアの1冊
   玄田有史・斎藤珠里『仕事とセックスのあいだ』
3 キャリアイベント情報

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【学会からのおしらせ】

◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり研究会を開催いたします。

 日 時:4月20日(金)18:30-20:30
 テーマ:「EAP(Employee Assistance Program)におけるキャリアカウン
      セリング」
 講 師:大庭さよ キャリアカウンセラー・法政大学大学院講師等
 会 場:筑波大学東京キャンパス(大塚)G館501号室
     (東京都文京区)
 定 員:50名(学会ホームページにて受付を開始しております)
     http://www.cdi-j.jp/event.html
 参加費:会員無料、非会員3,000円

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1 キャリア辞典
  ~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~

 ワーク・ライフ・バランス(7)

 ワーク・ライフ・バランスの大切さについては、かなり認知が進んできてい
るように思う。しかし、その実現のためには難しい問題が多い。これに関して
は、このところ「働き方の見直し」を指摘する意見が多い。
 なぜ、働き方の見直しが進まないのか。「企業の論理」を悪者にする意見は
多いし、それも一理あるのだろう。しかし、現実にその働き方で働くのはその
人自身にほかならない。働く人の意識も変えていかなければ、働き方の見直し
も難しいだろう。前回は、そのひとつとして働く人たち、特に男性の「キャリ
ア観」のあり方があるのではないか、と問題提起させていただいた。今回は最
後にもうひとつ、別の問題提起をしたい。
 法政大学キャリアデザイン学部助教授で、ワーク・ライフ・バランス研究の
第一人者のひとりである武石恵美子氏は、毎日新聞のインタビュー記事でこう
語っている。
「ワーク・ライフ・バランスというと、短時間勤務とか、在宅勤務をイメージ
されがちですが、長時間労働や残業を減らし、有給休暇をきちんと取ることが
重要です。そうなれば、新たな少子化対策を考えなくても、状況はかなり変わ
ってくるはずです。
 ただ、残業をなくすには、利便性を追い求めてきた社会全体の発想の転換が
必要です。24時間営業のコンビニエンスストアが早く閉店しても仕方ない。そ
のくらいの覚悟が必要になります」(平成18年7月6日付毎日新聞朝刊から)
 たとえば、労働時間が短いとされているドイツでは、つい先日まで24時間営
業のコンビニエンス・ストアはターミナル駅などのごく例外的なものを除いて
存在しなかった。小売店舗従業員保護のために営業時間が厳しく規制されてい
たためだ。もちろん、これは消費者にとってははなはだ不便だが、労働時間を
短くするには甘受するしかない。昨年末にこの規制は緩和され、平日について
は24時間営業も可能となったというが、日曜・祝日の営業禁止規制は残ってい
るので、365日営業はまだ基本的にできないようだ。セブン・イレブン・ジャ
パンのホームページには世界各国の店舗数が掲載されているが、2006年12月末
現在で日本が11,525店舗、米国は6,095店舗で、ドイツについては記載がない。
ワーク・ライフ・バランス推進論者に人気の高い北欧諸国をとってみても、ノ
ルウェーに105店舗、スウェーデンに73店舗、デンマークに61店舗を数えるの
みだ。まあ、セブン・イレブンだけがコンビニエンス・ストアではないだろう
が、いかに日本の消費者が利便性を享受しているかを感じさせられる。
 実際、連合は、その基本方針のひとつである2006~2007年度『政策・制度 
要求と提言』において「男女がともに仕事と生活を調和させ、健康で充実して
働き続けられる社会の実現に向けて、長時間労働の是正をはかる」という項目
の中に「国民のゆとり確保の観点から、国民生活等に欠かせない分野を除き、
正月3ヵ日休業の制度化をはかる。特に、「元日」については、特別な日とし
て事業者団体等に対して営業自粛を指導する」という要求を掲げている。連合
は1996年に大手スーパーの元日営業が拡大したのを受けて「元日営業反対」の
方針を決定し、運動に取り組んできているが、むしろ元日営業は拡大している
感がある。
 24時間営業にしても、あるいは365日営業にしても、それが利益追求という
「企業の論理」によるものであれば、法律で禁止してしまえばやめさせること
はたやすい。労働者としての国民としてみれば、労働時間が短くなったり、休
日の就労がなくなったりすることは望ましいことであり、労働者としての生活
を豊かにするものだろう。しかし、消費者としての国民はどうだろうか。深夜
や休日の買い物ができなくなるということは、消費者としての生活の豊かさが
損なわれることを意味する。加えて、労働時間が長ければ、あるいは休日に就
労すれば得られたであろう収入がなくなることは、ますます消費者としての生
活の豊かさを損なうことにつながろう。結局のところ、これは労働者としての
豊かさと消費者としての豊かさに一定のトレードオフ関係が存在する中で、ど
のようなバランスがもっとも望ましいか、という問題だと思われる。その選択
は人によってさまざまだろうが、全体としては、元日営業すら依然として拡大
傾向にある現状をみると、国民の多くは消費者としての豊かさをさらに求めて
いると考えざるを得ないのではないか。
 これはワーク・ライフ・バランスだけの問題ではないのだろう。労働条件の
劣る就労が存在するのは、(当然それだけではないが)安価な財やサービスを
求める消費者のニーズが存在することと無縁ではない。「豊かさとはなにか」
「なにが幸せなのか」といったことを、いまあらためて考え直すことが必要な
のかもしれない。
                        (編集委員 荻野勝彦)

2 私が読んだキャリアの1冊

 『仕事とセックスのあいだ』
  玄田有史・斎藤珠里著 2007.1.30 朝日新書

 この本の「オビ」をみると、「仕事とセックスについて、マジメに考えてみ
ました。」「勇気をもってこの問題に向きあっていかなければいけない」など
の惹句が並んでいる。たしかに、表立って公然と議論するのには抵抗が少なく
ない内容だし、人前で読むのは勇気のいる本でもある。新書という、かなり幅
広い層の大衆をターゲットにした形態で、「セックスレスと仕事の関係」とい
う、一歩間違えば下世話な興味本位の本になってしまいかねないテーマにもか
かわらず、特徴的な事例の紹介と科学的な分析によって興味深い事実を提示し、
問題提起につなげることに成功している。
 玄田有史氏と女性ジャーナリストの共著、というのは、大きな話題となった
玄田氏の旧著『ニート-フリーターでもなく失業者でもなく』と共通している
が、『ニート』とは異なり、この本では玄田氏のパートはもっぱら学術的な分
析に費やされている。統計的分析の手法や結果といった詳細は省略されている
が、先行研究をふまえ、「アエラ」誌の独自調査の分析結果を別調査(JGS
S)のデータの分析によって裏付けるという本格的なものだ。いっぽう、斎藤
氏のパートは海外事例の紹介が中心で、こちらは正直なところ読んでいて辟易
する部分も多いのだが、それが「勇気をもって」向き合わなければならないと
ころなのかもしれない。いずれにしても、この両者がほどよくバランスしてい
るのがこの本の成功だろう。
 さて、この本が発見した主な事実を列挙すると、「セックスレスはすべてが
個人の自由な選択の結果ではない」「働き方、職場や仕事のあり方が個人の性
生活に影響している」「失業などの経験がある、職場の雰囲気に不満がある、
経済的に苦しい個人ほどセックスレスになる可能性が高くなっている」といっ
たことになるだろう。著者は、この結果をもとに、少子化対策の関係から「働
き方の見直しが重要」という議論を展開しているのだが、キャリアデザインの
観点からも含意はあるように思われる。個人差はあれ、豊かな人生を送るうえ
でセックスが一定の役割を持っていることが多いことは否定できないわけで、
それが働き方や仕事の影響を受けるとなると、これは広い意味でのキャリアデ
ザインを考えるうえでも、職業キャリアを考える上でも、看過しがたい指摘で
あろう。この結果を単純にひっくり返せば、雇用が安定し、職場の雰囲気がよ
く、経済的にも困難ではない個人はセックスレスになりにくい、ということに
なるだろう。かなり無理はあるが、拡大解釈すれば、これは「職業生活は不幸
でも、家庭生活は幸福だから幸せな人生」というのはなかなか成り立たない、
ということを示しているとはいえないだろうか。家庭が円満で安定している人
は仕事も充実していると感じられることが多いし、仕事で不平不満のある人は
家庭もなんとなくうまくいかない、という古くからの経験則、人事担当者の素
朴な実感に共通してはいないだろうか。
 まあ、そこまで話を大きくするのは無理かもしれないが、いずれにしても興
味深い本であることは間違いない。買い求めるときには若干恥ずかしい気持ち
がするかもしれないが、ブックカバーをかけてもらってさっそく読んでみてほ
しい。
                         (編集委員 荻野勝彦)
 ※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
  日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。

3 キャリアイベント情報
  ~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~

◆京都市朝日会 朝日新聞教育セミナーin京都「1年間で伸びる学力」
 平成19年5月26日 10:00~
 於 立命館大学朱雀キャンパス5階大ホール(京都市中京区)
 http://kyoto.0843.jp/aspara/present/aniv18/index.html

[編集後記]

 入学式、入社式の季節ですが、年度がかわって就活シーズンも佳境というと
ころでしょう。今年の就職戦線も企業業績がおおむね堅調な中でかなりの売り
手市場と言われており、第2新卒市場も賑わっているようで、数年前とは様変
わりのようです。人材確保が重要だということで、初任給を引き上げるだけで
はなく、育児支援策や教育・研修を充実させる企業も目立ちます。こちらも一
時の成果主義騒ぎとは様変わりで、今から思えばあれはいったいなんだったの
でしょう?(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.cdi-j.jp/

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◆働く若者ネット相談事業 ご利用のお勧め
 厚生労働省委託事業・日本キャリア開発協会受託・キャリア協議会協力
 webサイトを利用していつでもどこでもネットで相談できる仕組みです。
 また対面カウンセリングや電話カウンセリング、TVカウンセリングも行っ
 ています。詳しくはhttp://net.j-cda.org/まで。     (厚生労働省)

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。

 編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
      児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail cdgakkai@hosei.org
   〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1

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