キャリアデザインマガジン 第56号 

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□    キャリアデザインマガジン 第56号 平成19年2月19日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 キャリア辞典「ワーク・ライフ・バランス(5)」
2 私が読んだキャリアの1冊
   川喜多喬『仕事と組織の寓話集-フクロウの智恵-』
3 キャリアイベント情報

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【学会からのおしらせ】

◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり研究会を開催いたします。

 日 時:3月17日(土)14:00~16:00
 テーマ:「神奈川県立和泉高等学校キャリア教育実践
      -NPOとの連携によるキャリア教育の実践を中心として-」
 講 師:小島喜與徳 神奈川県立和泉高等学校
           (前神奈川県高等学校進路指導協議会会長)
 会 場:法政大学市ヶ谷キャンパス 富士見坂校舎1階会議室
     (東京都千代田区)
 定 員:50名(学会ホームページにて受付を開始しております)
     http://www.cdi-j.jp/event.html
 参加費:会員無料、非会員3,000円

◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり研究会を開催いたします。

 日 時:3月27日(火)18:30-20:30
 テーマ:「優れた人材の自立的キャリアデザインと定着支援ができる
      組織風土(仮題)」
 講 師:宮木あづさ KVH株式会社人事・総務本部
 会 場:法政大学市ヶ谷キャンパス 富士見坂校舎1階会議室
     (東京都千代田区)
 定 員:50名(学会ホームページにて受付を開始しております)
     http://www.cdi-j.jp/event.html
 参加費:会員無料、非会員3,000円

◆4月下旬、大庭さよ(キャリアカウンセラー・法政大学大学院講師等)氏を
 講師に、職場におけるメンタルヘルス・企業からのEAPなどに焦点をあわ
 あわせて、実務の現場からの知見を語っていただく研究会を開催の予定です。
 詳細は決定次第学会ホームページでお知らせします。

◆事務局電話番号、FAX変更のお知らせ

 2月26日(月)より、事務局の施設内移転のため電話番号、ファックス番号
が変更になります。
 大変ご迷惑をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
 なお、郵便物の宛先、電子メールにつきましては従来どおりで変更ございま
せん。(*2/23-25は引越のため事務局業務をお休みいたします)

  ◇新電話番号・FAX (2/26より)
    TEL 03-3264-6129 FAX 03-3264-6099

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1 キャリア辞典
  ~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~

 ワーク・ライフ・バランス(5)

 このところ、少子化対策のひとつとしてワーク・ライフ・バランスが取り上
げられることが増えているようだ。昨年9月に発足した安倍内閣も少子化対策
を政策の重点事項のひとつとして位置づけているとのことで、この2月には有
識者を集めた『「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議』も発足し
ている(この手の会議は乱立気味で、いささか影が薄い感もあるが)が、この
会議においても「児童手当や育児休業給付の拡充など経済的支援が中心だった
少子化対策の方向性を、「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)
重視に転換し、少子化対策を再構築する」方針だと報じられている(平成19年
1月29日付毎日新聞朝刊による)。はたして、ワーク・ライフ・バランスは少
子化対策として有効なのだろうか。
 山口一男シカゴ大学社会学部教授の夫婦関係満足度に関する研究によれば、
「ワーク・ライフ・バランスの特徴である夫婦の重点共有生活活動(休日の夫
とのくつろぎ、家事育児、趣味・娯楽・スポーツ、平日の夫との食事とくつろ
ぎ)の有無、夫婦の会話時間(特に平日)、夫婦の休日の共有生活時間、夫の
育児分担割合は妻の夫婦関係満足度と夫への精神的信頼度に強く影響し、それ
らの満足度と信頼度は妻の出生意欲に大きく影響する。」のだという。さらに、
残業が減少して夫の収入が10万円減少したとしても、その代償として以下のい
ずれか1つを満たせば夫婦関係満足度は一定に保てるのだそうだ。
・平日の夫婦の会話時間を1日平均16分増加させる。
・休日に妻が夫と共に大切に過ごしていると思える生活時間の総計を1日平均
 54分増加させる。
・夫の育児分担割合を3%増加させる。
・妻が「食事」または「くつろぎ」を「夫と共に過ごす大切な時間」と感じる
 日(平日)を6日に1日増加させる。
 これだけで「仮に相当の減収をともなっても、夫の労働時間を短縮して家庭
生活に振り向けることで、出生率が高まる」と言い切ることはできないのかも
しれないが、それにしてもその可能性は高そうに思える。ただし、この結果に
は疑問もあって、極端な想定だが最大限に見積もって、たとえば新生児を育て
る妻は1日24時間のすべてを育児にあてているとしよう。その3%ということ
は、約22時間で、ほぼ1日に相当する。もちろん、夫婦関係だから、夫が育児
を分担するということ自体に一定のプレミアムはつくだろう。それでもなお、
それが半額の5万円に相当すると仮定しても、平均的な妻は丸一日育児をアウ
トソーシングできれば5万円支払ってもよいと考えているという実感に合わな
い結論になってしまうのではないか。「夫婦関係満足度」だけに限って考える
べきものなのだろうが。
 また、この調査からは離れるが、ワーク・ライフ・バランスを実現すること
で、職業キャリアの形成の一定部分が失われたり、遅れたりする可能性も否定
できない。ワーク・ライフ・バランスが少子化対策として効果がありそうだと
いうことは直観的に納得できるが、それがいかほどの大きさかについてはあま
り楽観できないのかもしれない。
 また、政府の「戦略会議」は、ワーク・ライフ・バランスを労働法制見直し
と連動しながら検討するのだという(平成19年2月10日付産経新聞朝刊)が、
法制度を見直せばワーク・ライフ・バランスが実現するとか、出生率が高まる
とかいうように直結するかというと、これまた疑わしい。たとえば、これも極
端な話だが残業や休日出勤を禁止したとしても、必ずしも夫がその時間で家事
育児をするとは限らず、たとえば他のアルバイトや、自営を行う可能性もある。
また、趣味・娯楽・スポーツに時間をあてようとしたときに、いまのわが国の
現状では、それに要するコストも無視できない。もう一つ大問題なのが、とり
わけ首都圏などの大都市圏における通勤時間の問題で、いかに残業をなくした
ところで、通勤に往復3時間を要するのではワーク・ライフ・バランスはおぼ
つかない。
 結局のところ、ワーク・ライフ・バランスが少子化対策として有効なものと
なるためには、残業なしでそこそこの収入が得られる安定した雇用を職住近接
で確保したうえで、特に夫が仕事よりも育児・家事に喜びや楽しさを感じられ
るようになるという意識改革と、夫婦がともにおカネがかからずに楽しめる趣
味を持つことで、「生活は相当質素だけれど、子どもがいるから幸せ」という
社会をつくっていくことが必要だということではないか。これはかなり高い
ハードルにみえるかもしれないが、しかし本当に出生率を大きく引き上げよう
とすれば避けては通れない取り組みのようにも思える。一歩間違えば社会が階
層化するリスクもあるのかもしれないが…。
                        (編集委員 荻野勝彦)

2 私が読んだキャリアの1冊

 『「健全な市場社会」への戦略-カナダ型を目指して』
  八代尚宏著 2007.1.2 東洋経済新報社

 著者は規制改革会議などで活躍し、現在は経済財政諮問会議の民間議員とし
て「構造改革」を主導する、言わずと知れた規制改革のチャンピオンである。
この本もタイトルのとおり政策論、それも経済政策論を中心とした政策論の本
である。したがって、一見、キャリアデザインとの関係はみえにくい。しかし、
目次に並んでいる「改革」のメニューをみると、具体論の最初にきているのが
「働き方の多様化と「労働契約法制」」であり、続いて年金・医療などの社会
保障改革や少子化対策、教育改革などなど、職業キャリアや人生キャリアに関
わりの深いテーマが目白押しだ。多くの人は、キャリアデザインを考える際に
は現行の社会制度を前提にしているだろうから、その前提が変わることの影響
は大きいだろう。
 とはいえ、現行の社会制度の多くは持続不可能であったり、変更を迫られて
いることも事実として受け入れる必要がある。また、すでに行われた改革がそ
れなりの成果を上げていることも認めなければならないだろう。いま、世間の
一部には「構造改革が格差を拡大させ、貧困を増大させた」との言説があるが、
著者はこれに対して事実をもとに冷静に反論し、こうした言説が改革によって
資源を最適配分に近づける際に既得権を失う人の抵抗に過ぎないと指摘してい
る。たしかに、既得権を前提に人生キャリアを描いていた人にしてみれば、そ
れは切実な問題であるに違いないが、しかし、一部の人の既得権のために国家
経済の停滞を招くことは容認されにくい時代であることも間違いなく、そうし
た方向性を踏まえてキャリアデザインを考えるほうが賢明であり、現実的でも
あるだろう。
 この本の主張する政策の妥当性については評者には判断できないが、虚心に
読めばかなり説得力のある内容であることは否定できない。また、マスコミ報
道などを通じて世間一般でイメージされているほどには急進的でもない。もち
ろん、一部にはかなり思い切った提案もあるが、それでもそれなりの経過措置
によって対応できるものがほとんどである。たとえば、職業キャリアと関係の
深い労働法制についてみれば、著者は解雇規制の緩和を主張するが、それは巷
間言われるような、米国流の全くの解雇自由化を求めているわけではない。従
来型の雇用保障の強い長期雇用についても一定の意義を認め、その存続は必要
としている。そのうえで、現状のような画一的な規制を改め、多様な雇用契約
を可能とするようなルール作りとしての「労働契約法」の必要性を訴えている。
こうした改革は、あるいは職業キャリアの発展を断念し、定年まで無難に過ご
そうというキャリアデザインを描いている人にとっては既得権侵害かもしれな
い(もちろん、根拠のある既得権には一定の保護は必要だ)が、従来の働き方
にとらわれない職業キャリアや、ワーク・ライフ・バランス重視のライフデザ
インを考える人には福音となるものだろう。
 すべてがすぐにこうなるわけではもちろんないだろうが、しかし将来の方向
性をかなり正しく示している本だともいえるように思う。キャリアデザインに
は先見性が不可欠なことは言うまでもない。過去の既得権を前提にキャリアデ
ザインを考えて、あとから「こんなはずではなかった」とむなしい抵抗をする
よりは、将来の変化を先読みして柔軟性のあるキャリアデザインを考えること
が望まれよう。そういう意味で、キャリアを考えるうえで大いに参考とすべき
本といえるかもしれない。
                         (編集委員 荻野勝彦)
 ※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
  日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。

3 キャリアイベント情報
  ~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~

◆内閣府経済社会総合研究所国際フォーラム
 「労働市場改革-国際化の進展と二極化問題-」
 平成19年3月5日(月)14:00~16:30
 於 東京国際フォーラム Dブロック5階ホールD5(東京都千代田区)
 http://www.esri.go.jp/jp/workshop/070305/070305main.html
  ※本学会の佐藤博樹副会長(東京大学社会科学研究所教授)が出講します。

[編集後記]

 春季労使交渉がスタートしましたが、かつてのような賃上げの交渉だけでは
なく、育児支援などのさまざまな人事施策がいろいろな企業で取り上げられる
ようになってきました。キャリア支援について労使で取り組む例も増えていま
す。多様化の時代、春季労使交渉もより多様な役割を担うようになるというこ
とでしょうか。そういえば経団連が例年出している実務家向けマニュアル「春
季労使交渉の手引き」も、昨年あたりからは「春季労使交渉・労使協議の手引
き」と改称されています。労組はこれをどうみているのでしょうか。(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.cdi-j.jp/

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◆働く若者ネット相談事業 ご利用のお勧め
 厚生労働省委託事業・日本キャリア開発協会受託・キャリア協議会協力
 webサイトを利用していつでもどこでもネットで相談できる仕組みです。
 また対面カウンセリングや電話カウンセリング、TVカウンセリングも行っ
 ています。詳しくはhttp://net.j-cda.org/まで。     (厚生労働省)

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。

 編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
      児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail cdgakkai@hosei.org
   〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1

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