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□ キャリアデザインマガジン 第55号 平成19年1月29日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 キャリア辞典「ワーク・ライフ・バランス(4)」
2 私が読んだキャリアの1冊
川喜多喬『仕事と組織の寓話集-フクロウの智恵-』
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり研究会を開催いたします。
日 時:2月3日(土)13:30-16:00
テーマ:「障害をかかえた人々のキャリア支援」
講 師:池谷祥子 (独)高齢・障害者雇用支援機構
コメンテータ:青木猛正 埼玉県立日高養護学校教頭 本学会研究組織委員
司 会:永作稔 筑波大学人間総合科学研究科講師 本学会研究組織委員
会 場:法政大学キャリアセンター3階セミナー室(東京都千代田区)
定 員:50名(学会ホームページにて受付を開始しております)
http://www.cdi-j.jp/event.html
参加費:会員 無料 非会員: 3,000円
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1 キャリア辞典
~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~
ワーク・ライフ・バランス(4)
平成16年6月に発表された厚生労働省の「仕事と生活の調和に関する検討会
議」報告書をみてみよう。以前にも紹介したが、この報告書では「仕事と生活
の調和が図られている状態とは、一定の制約のある時間帯の中で働く者が様々
な活動に納得のゆく時間配分ができるような状態であるということができる」
とされている。したがって、総論に続く各論の最初に「労働時間について」が
来る。おもな論点は2つあって、ひとつは労働時間を短くして生活時間を増や
しましょうという点で、具体的には時間外労働の削減と年次有給休暇の取得促
進があげられている。失業者や、労働時間と所得の増加を望んでいる人からす
れば余計なお世話だろうが、全体的な傾向としてはそういうことなのだろう。
もうひとつは労働時間の自由度を高めようというもので、労働時間規制の緩和
などがあげられている。
労働時間に続いては「就業の場所」があげられている。ここでのおもな論点
は3つで、ひとつは転勤に関する配慮である。ふたつめは在宅勤務で、生活の
場において仕事時間と生活時間を自らの希望に応じて調和させつつ働くことが
できるというだけでなく、通勤負担の軽減という利点もある。もうひとつは複
数就業、いわゆる兼業である。在宅、複数といった働き方が拡大するよう諸制
度の整備が必要としている。
時間、場所に続くのは「所得の確保」である。おもな論点としては、最低賃
金や退職金税制・企業年金制度などの就労多様化に対応した見直しがあげられ
ている。たとえば最低賃金についてはフルタイム正社員を念頭においた日額、
月額ではなく、時間額に統一していく、といった内容である。興味深いのは、
「職業生涯の過程における多様な資金需要への対応」があげられていることで、
「育児・教育・介護・住宅取得・長期休暇など職業生涯の各段階での様々な活
動が円滑に行われるためには、直接・間接に資金の裏付けが必要となる」と、
職業キャリアにとどまらない、生涯キャリアの観点をふまえて、資金確保・資
産形成をめぐる政策的取り組みを求めている。さらに、その後にわざわざ「均
衡処遇」の章を独立して設け、「雇用管理区分の間において賃金等の処遇の面
での差がある場合でも、その差が合理的なものであることが重要である」とし
て、「例えば何をもって均衡処遇というか、あるいはどのような処遇差を合理
的というかといった判断について企業ごとに労使が話し合い、合意することを
促すような仕組みを整備する」などの取り組みを促している。
そして、最後の章は「キャリア形成・展開について」にあてられている。こ
こでは、「従来、キャリアの形成・展開については、職業キャリアを中心に据
えて…議論されてきた。しかし、「仕事と生活の調和」を考えると、一度きり
しかない人生をどのように生きるかといった人生キャリアの形成・展開全体を
考える中で、職業キャリアの形成・展開に係る施策を考えていくという視点も
併せて必要となる」との問題意識が提示されている。これは日本キャリアデザ
イン学会の理念とも大いに共通するものであろう。そのうえで、政府や企業の
諸施策が多様化する生き方に対応したものとなることを求めている。「キャリ
ア権」への言及があるのも注目されるところである。
いろいろと興味深い論点、大胆な提言を含んでいて、発表当時はかなり話題
になった報告書ではあるが、無理な議論も多く、実現した内容、実現に向かっ
ている内容は決して多くない。今読んでみると、「仕事と生活の調和」よりも、
「正社員の長時間労働と非正社員の低賃金」そのものを問題視しているという
印象を受ける部分も多々ある。報告書でも一応は言及されているが、「仕事と
生活の調和」、ワーク・ライフ・バランスは労働時間や賃金の問題にはとどま
らないし、職業キャリアの問題にもとどまらないだろう。広い意味でのキャリ
アデザイン、その背後にある個人の価値観といったものまで含めて考察を深め
ていく必要があるのではないだろうか。
(編集委員 荻野勝彦)
2 私が読んだキャリアの1冊
『仕事と組織の寓話集-フクロウの智恵-』
川喜多喬著 2006.11.10 近代労働研究会
今を去ること10年前、人事・労務管理専門誌の老舗「労政時報」に、本書著
者による「ピラミッド組織で何が悪い」というエッセイが掲載された。当時、
バブル崩壊後の経済不振の中で蔓延していた「組織改革」ブームに対して辛辣
な筆致で批判したこのエッセイは、「労政時報」誌の読者である人事労務担当
者の絶大な支持を獲得した…のだろう。同誌で著者による「こだわり人事のス
スメ」という連載エッセイがスタートし、その終了後さらに「続・こだわり人
事のススメ」として2度めの連載も行われたくらいだから、よほど好評だった
のに違いない。実際、「年功序列を大切にしよう」「終身雇用のすばらしさ」
「減点評価で何が悪い」「学歴尊重で何が悪い」「出社せよ、定時に」…など
など、該博な知識とユニークな事例をふんだんにまじえ、ときに軽妙、ときに
辛辣な語り口で「賃金改革」やら「人事制度改革」やらの「新人事」を次々と
槍玉にあげたこのシリーズは、これら「新人事」に実は疑問を感じていた多く
の人事担当者の大いなる共感を呼んだ。かくいう私もそのひとりであり、連載
当時職場で回覧される「労政時報」誌のそのページだけは、職場の各メンバー
が思い思いに下線を引いたり、コメントを書き込んだりしていたことがなつか
しく思い出される。
この本の第二部「頑迷固陋人事の勧め」は、この「こだわり人事のススメ」
「続・こだわり人事のススメ」の再録だが、今読んでみてもまことに痛快で刺
激的であり、「新人事」ブームや「成果主義」騒ぎが過ぎ去った今となっては、
むしろこれが先見性に富んでいたのだと気付かされる。第一部「人と仕事の説
話集」第三部「人と組織の警話集」もほぼ同様のエッセイ集で、面白い事例と
洒脱な文章で軽薄な「新人事」を斬り、人事管理の核心に踏み込んでいる。人
事担当者であれば我が意を得たりと膝を叩くところが多いだろうし、人事担当
者でなくとも多くの働く人の励ましとなる本ではないかと思う。ガチガチの成
果主義信奉者であっても、博覧強記の筆者が繰り出す多彩な挿話は十分楽しめ
るはずだ。
まことに不思議なことに、この本を商業出版しようという出版社はなかった
のだという。成果主義本を売りまくった出版各社には、こういう内容の本は売
れないだろうという思い込みでもあるのだろうか。というわけで、残念ながら
この本は書店で買い求めることができないが、ぜひとも版元(近代労働研究会、
fax 042-311-5854)から入手して一読することを強くお勧めしたい。1,800円
プラス送料290円の価値は絶対にある本である。それほどたくさんは印刷して
いないはずだから、売り切れないうちに大急ぎでどうぞ!いずれ、古書店で高
値がつくかもしれない…とまではいかないか、いや案外そうでもないか?
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆労働政策研究・研修機構労働政策フォーラム「企業における女性の戦力化」
平成19年2月2日(金)13:30~17:00
於 浜離宮朝日多目的ホール (東京都中央区)
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/info/20070202.htm
※本学会の脇坂明研究組織委員が出講します。
◆大阪商工会議所キャリア教育推進フォーラム「企業が子どもたちに伝えたい
こと」
平成19年2月14日(水)13:00~16:45
於 大阪商工会議所7階国際会議ホール (大阪市中央区)
http://www.career-osaka.jp/forum070214/index.html
[編集後記]
「私が読んだキャリアの一冊」でご紹介した『仕事と組織の寓話集-フクロ
ウの智恵-』についてもう一言。「こだわり人事のススメ」が「頑迷固陋人事
の勧め」に変わったのは、著者によれば「『こだわり』ということば本来の意
味に戻した」のだ、とのこと。言われてみれば、この10年くらいの間に、たと
えば「こだわりの逸品」など「こだわり」がいい意味で使われることが多くな
ったような気がします。なるほど、なるほど。どうですか、ますます読んでみ
たくなりませんか?(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.cdi-j.jp/
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◆働く若者ネット相談事業 ご利用のお勧め
厚生労働省委託事業・日本キャリア開発協会受託・キャリア協議会協力
webサイトを利用していつでもどこでもネットで相談できる仕組みです。
また対面カウンセリングや電話カウンセリング、TVカウンセリングも行っ
ています。詳しくはhttp://net.j-cda.org/まで。 (厚生労働省)
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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