■□□—————————————————————-
□□
□ キャリアデザインマガジン 第50号 平成18年11月6日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/
——————————————————————□■
「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 キャリア辞典「最低賃金(2)」
2 私が読んだキャリアの1冊 城繁幸『なぜ若者は3年で辞めるのか』
3 キャリアイベント情報
———————————————————————-
【学会からのおしらせ】
◆日本キャリア教育学会大会で共催シンポジウムを開催いたします。
日 時:11月12日(日)14:40-16:10
テーマ:「進路指導・キャリア教育、そしてキャリアデザイン」
会 場:関西大学社会学部(第三学舎)4302教室(阪急千里線 関大前)
登壇者:吉田 辰雄(東洋大学名誉教授・元日本進路指導学会会長)
川喜多 喬(法政大学キャリアデザイン学部教授)
司 会:川崎 友嗣(関西大学社会学部教授)
※詳細は、日本キャリア教育学会ホームページでご確認ください。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jssce/index.htm
◆以下のとおり関西地区第3回研究会を開催いたします。
日 時:12月9日(土)16:00-18:00
テーマ:「生涯発達と生涯学習-教育老年学の視点から」
講 師:堀 薫夫氏(大阪教育大学教授)
コメンテータ: 三川俊樹(追手門学院大学心理学部)
会 場:新大阪丸ビル新館 6F 602会議室(大阪市東淀川区)
定 員:70名(定員になり次第、締切をいたします)
参加費:会員 無料 非会員: 3,000円
※近日中に、学会ホームページに詳細および参加申込フォームを掲載します。
http://www.cdi-j.jp/event.html
※研究会終了後、懇親会(立食形式)を開催いたします(参加費3,000円、定
員40名)。
※お申込みの際は、会員・非会員の区別と、懇親会への出欠もお知らせくださ
い。
———————————————————————-
1 キャリア辞典
~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~
最低賃金(2)
最近の動きとは別に、最低賃金(最賃)制度についてはかねてからさまざま
な問題意識が示されており、すでに一昨年9月には厚生労働省「最低賃金制度
のあり方に関する研究会」で見直しの検討が行われ、昨年3月には報告書も発
表されている。昨年4月には厚生労働大臣から労働政策審議会に最低賃金制度
のあり方について検討を求める諮問がなされ、同審議会労働条件分科会最低賃
金部会に議論の場を移して検討が続けられている。
この平成18年10月12日に開催された第14回の部会で提示された資料が厚生労
働省ホームページに掲載されており、その「公益委員試案修正(案)」をみる
と、最低賃金の保障は地域別最賃が果たすものとして、最低賃金法は地域別最
賃に特化するいっぽう、産業別最賃は廃止し、別途の法的根拠をもつ「職種別
設定賃金」という制度を導入しようとの方向性が示されている。
各都道府県の地域別最賃は、長らく全都道府県で設定され、毎年一回の改定
が定着しているが、実はこれは最低賃金法が求めているわけではない。最低賃
金法第16条は「厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の事業、職業又は
地域について、賃金の低廉な労働者の労働条件の改善を図るため必要があると
認めるときは、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、最低賃
金の決定をすることができる。」と定めており、この運用として、全都道府県
で地域別最賃が決定されている。今回の「公益委員試案修正(案)」は、こう
した現状を追認し、全都道府県における地域別最賃の決定を法定しようという
ことであろう。
また、この「試案」では、地域別最賃の基本的考え方として「社会保障制度
との整合性を考慮した政策を展開する必要がある」と指摘し、具体的には、決
定基準について、「「労働者の生計費」については、生活保護との整合性も考
慮する必要があることを明確にする。」としている。
最低賃金制度が事実上一定の救貧政策的性格を持ち、その決定要素として生
計費をあげている以上は、社会保障政策との整合性・連携への配慮は必要であ
ろうし、それが具体的には生活保護制度との関係となるのもまた自然であろう。
こうした政策提言は、省庁再編の趣旨のひとつとされるいわゆる「縦割り行政
の弊害」の排除にも沿っているといえるのかもしれない。いっぽうで、両制度
はその趣旨や性格にかなりの違いがあり、「試案」がわざわざ「「労働者の生
計費」については」と書いているように、生計費は最低賃金制度においてはあ
くまで一要素なので、どの程度のウェイトをおくかについては慎重な考慮が必
要だろう。両制度の金額水準の単純な比較ではなく、両制度があいまって就労
促進のインセンティブとして働くような連携のあり方を検討する必要があるの
ではないか。
(編集委員 荻野勝彦)
2 私が読んだキャリアの1冊
『若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来』
城繁幸著 2006.9.20 光文社新書
なかなか評価の難しい本なのだが、基本的には年功序列というシステムと、
それをよしとする「昭和的価値観」を批判した本といえそうだ。さすがに、そ
れなりにまとまった人事管理の経験を持つ人だけに、年功序列の弊害に関する
指摘はなかなかいいところを突いている。社会保障に関する主張などは、シン
プルなだけにかえって鋭い。たしかに、年功序列が時折世間でも言われている
ような「賃金後払い」のシステムであるとすれば、高齢化が進展すればその持
続可能性が低下するのは理の当然であろう。
ただし、著者が批判している「年功序列」は「賃金も昇格も地位もすべてが
年功だけで決まる」というもののようだが、こうした純然たる年功序列がどれ
ほど現在の日本に存在しているのかというと、かなり疑わしい。もちろん、お
役所などには依然として古色蒼然たる年功序列が存在しているらしいし、この
本でも紹介されているような「過去の年功だけで子会社の幹部におさまり、そ
の部下である若手社員が疲弊している」といった実態もまだまだあるだろう。
しかし、こんにち大半の企業ではそんな呑気な人事管理が許される状況にない
ことは論を待たない。それどころか、すでに1960年代には「年功序列」に対す
る問題意識が強く持たれており、それに対して今日にいたるまでさまざまな取
り組みが行われてきた。それが十分な成果をあげたかどうかは別として、少な
くとも年功序列は単なる賃金の後払いではなく、「人材への長期的な投資と回
収」の結果として平均的には年功的に賃金が上昇するというものとして定着し
ているといえるだろう(もちろん動機づけの側面もあるだろう)。これはあく
まで「平均的に」であって、個別にみれば多くの人はどこかで賃金もキャリア
も上昇しない「引き込み線」に入っていったし、中には(不本意ながらも)
「一生下働き」というキャリアを歩んだ人も多数存在するはずだ。そう考える
と、著者はあたかも40年前の「年功序列」が今も現存するかのようにこれを批
判し、過去40年間に起こってきたことを「これからの若者はこうなる」と述べ
ているに過ぎないのかもしれない(ちなみに、著者は今後の人事制度について
は「キャリアの複線化」をあげ、これを実現しているのはキヤノンなどごく一
部の企業であると述べているが、現実にはキャリアの複線化はかなり広く普及
しているのではないか)。
たしかに、こんにち多くの若年が厳しい状況におかれていることは間違いな
いだろうし、これまでの世代以上に困難が高まるという予想もある。ただ、そ
の相当部分は長期にわたる経済不振、企業業績の低迷がもたらしたものである
こともまた事実ではないか。たしかに、企業が長期的な人材投資という戦略を
とると、ある程度年齢を加えてしまった若年にとってはそのしくみにうまく乗
りにくいという問題があり、それにはなんらかの対処も必要かもしれない。し
かし、逆にいえば、今後若年人口が減少していくなかにおいては、長期的な人
材投資という戦略は、若年にとってきわめて有利にはたらくことも想像に難く
ない。これを(著者が批判するような)古典的な年功序列と同一視して全否定
してしまうことは、決して若年にとって有利な結果にはならないだろう。
著者はさいごに、若者に対して「自分で主体的に動き出す」ことをすすめて
いる。「上司に訴えて、望む業務を勝ち取る」「社内公募、社内FAの利用」
「転職」などである。それまでの論調からするとずいぶん穏健な印象だが、そ
こが著者の実務経験がもたらす現実性ということだろうか。もちろん、こうし
た自主性を発揮することは望ましいし、上司に対して「あの仕事を経験してみ
たい」などと希望を伝えるのは、日常的に行われていることだろうと思う。た
だし、すべての人が社内公募で選ばれて活躍できるとはかぎらないし、まして
や、転職を成功させることができる人は少数派だろう。長期的な人材投資とい
う戦略は、言葉は悪いが、多くの平凡な人たちを貴重な戦力に育てることがで
きるという大きな長所を持っている。
そう考えると、キャリアを考える際には自分を育ててくれそうかどうかを重
視しましょう、間違っても著者が批判しているような年功序列の組織に入って
しまわないように(まあ、それでも雇用とそこそこの労働条件が約束されるお
役所のような組織ならいいかもしれないが)、といういたってありふれた結論
になるが、それがこの本を読んだ偽らざる印象だ。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆日経シニア・ワークライフ・フォーラムin名古屋 日経シニア・家計シンポ
ジウム「個人と企業が考える充実の第二の人生設計」
平成18年11月9日(木)13:00~17:00
於 愛知厚生年金会館(名古屋市千種区)
http://check.tvz.com/0798/nikkei-senior/nagoya/index.html
◆中央職業能力開発協会 全国職業能力開発促進大会・推進者経験交流プラザ
平成18年11月15日(水)14:30~16:30 全国職業能力開発促進大会
於 明治記念館(東京都港区)
平成18年11月16日(木)10:00~16:00 推進者経験交流プラザ
於 日本青年館(東京都新宿区)
http://www.javada.or.jp/jigyou/jinzai/taikai.html
(日本キャリアデザイン学会会員は会員割引になります)
◆日本キャリア・カウンセリング研究会 シャイン博士講演会&シンポジウム
平成18年11月19日(日)13:00~17:00 東京会場
於 東京商工会議所(東京都千代田区)
平成18年11月21日(火)13:00~17:00 大阪会場
於 大阪YMCA国際文化センター(大阪市西区)
http://www.npo-jcc.org/library/others/schein-sympo-2.pdf
(日本キャリアデザイン学会も後援しており、参加費は割引になります)
[編集後記]
立命館大会は300人を大きく上回る多数の参加を得て、無事に開催されまし
た。好天に恵まれたので、一日めの昼休みには会場隣接の等持院に足を伸ばし
て名園の風情に親しみ、くつろいだひとときを過ごしました。歴史の街、京都
ならではというところでしょうか。来年の大会は2007年10月20・21の両日、東
京都西東京市の武蔵野大学で開催されます。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.cdi-j.jp/
—-[PR]————————————————————–
◆働く若者ネット相談事業 ご利用のお勧め
厚生労働省委託事業・日本キャリア開発協会受託・キャリア協議会協力
webサイトを利用していつでもどこでもネットで相談できる仕組みです。
また対面カウンセリングや電話カウンセリング、TVカウンセリングも行っ
ています。詳しくはhttp://net.j-cda.org/まで。 (厚生労働省)
□□■—————————————————————-
□
日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
—————————————————————-□□■