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□ キャリアデザインマガジン 第38号 平成18年4月10日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 私のキャリア観「法とキャリアデザイン」法政大学教授 諏訪康雄(6)
2 キャリア辞典「完全失業率」(4)
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり研究会を開催いたします。
非会員の方もご参加いただけます。
日 時:平成18年5月12日(金)18:30~20:30
場 所:法政大学市ヶ谷キャンパス第一校舎3Fキャリアセンターセミナー
ルーム
http://www.hosei.ac.jp/gaiyo/campusmap/ichigaya2.html#map
テーマ:「日本IBMのキャリア支援とカウンセリング」
講 師:平林正樹 日本アイ・ビー・エム株式会社人事S&D人事次長
司 会:川喜多喬 法政大学大学院経営学研究科教授・学会事務局長
定 員:60人
参加費:日本キャリアデザイン学会会員は無料、非会員は3,000円
日 時:平成18年6月16日(金)18:30~20:30
場 所:法政大学市ヶ谷キャンパス第一校舎3Fキャリアセンターセミナー
ルーム
http://www.hosei.ac.jp/gaiyo/campusmap/ichigaya2.html#map
テーマ:「女性が望むキャリア形成支援制度-仕事の与え方、人事考課、
コミュニケーションに対する組織( 不 ) 公正感との関係から-」
講 師:山口生史 明治大学情報コミュニケーション学部教授
司 会:梅崎修 法政大学キャリアデザイン学部専任講師・
学会研究組織委員
定 員:60人
参加費:日本キャリアデザイン学会会員は無料、非会員は3,000円
※いずれの研究会も、詳細・お申し込みは学会ホームページをご覧下さい。
http://www.cdi-j.jp/event.html
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1 私のキャリア観
「法とキャリアデザイン(6)」(7回連載)
法政大学大学院政策科学研究科教授 諏訪康雄
【第6回】「キャリア権」と能力形成
-----しかし、現実には、キャリアについて働く人の自己責任を求める論
調が目立ちます。これからは能力開発なども企業に依存するのではなく、自助
努力で大学院に行ったり資格を取ったりしなければならないとか、キャリアア
ップも社内の昇進昇格ではなく、転職を通じて行われるべきだとか。
諏訪 私はそういう意見は現実的ではないと思います。もちろん自己責任だと
いうことを自覚することは必要です。特に派遣社員のような、企業と長期間の
関係を持たない人には、企業による大きなバックアップは期待できませんが、
しかしそれではすべてを個人に任せて、組織がまったく関与しないというのは
非常に危険です。企業も配慮してほしいわけですが、たとえば公的なキャリア
支援、コンサルティングのようなものも必要でしょう。あわせてファイナンシ
ャル・プランニングも重要で、自分のキャリアと生活設計、そのために必要な
資金や財産形成をどうするかということを、社会も個人も考えなければいけま
せん。
-----なるほど、企業で長期勤続するのなら生活資金のことだけ考えてい
ればすみますが、大学院に行くとか独立開業するとかいうことを考えると、そ
のための資金をどうするかも考えておかないと。
諏訪 そういう発想は今までほとんどなかったわけです。それをいきなり個人
でやることはやはり無理で、そこにはなんらかの公的な配慮が必要になります。
この資金は当然自分に対する投資になるわけですが、こうした投資が回収でき
るような労働市場が整備されてくれば、キャリアも大きく多様化していくでし
ょう。
-----それは転職に限らず、同じ企業に勤続している場合にも、というこ
とでしょうか。
諏訪 私は1970年代の夏に、英国のブライトンに滞在したことがありますが、
現地の語学学校にさまざまな国から社会人が勉強しに来ていました。で、彼ら
はそこで学習すると試験を受け、その結果を持って雇い主と処遇改善を交渉し
ようとしていました。ああ、これがバーゲニング・パワーというものかと思い
ました。若い学生ばかりではないのですね。おなじ下宿に住んでいた中年ドイ
ツ人は一家で来ていて、平日は彼は語学を学び、子どもたちはブライトンの海
岸で遊んでいる。週末は家族でちょっとした旅行に行ったりするわけですね。
で、終わってドイツに帰ればやはり処遇改善を交渉するといっていました。こ
れはバケーションなんですが、ただバケーションをすごすだけではなくて、自
己投資もしているわけです。私はこれには非常に驚いて、ああ、彼らは長期休
暇をこうやって過ごしているのかと。
-----日本企業の場合は、長期勤続して企業内で育成していくシステムが
出来上がっていることが多いので、そうなるとなかなかそういう自己投資は評
価されにくいのが実態だと思います。
諏訪 そうなんですが、たとえばこれから中国ビジネスがどんどんさかんにな
ると、中国語を勉強してきた人を企業が高給で中途採用するようなことはあり
うるのではないですか。一説によると日本の中高年は先進国でも勉強しないほ
うだといわれていますが、長期休暇もこういった使い道ができるということを
認識して、それが企業にとっても中長期的にはメリットをもたらすと考えれば、
長期休暇のあり方についても再評価されていいのではないでしょうか。
-----日本企業はそれを業務命令でやってしまうのですよね。
諏訪 それだと本当に必要なごく一部の人しかやらないわけですね。底辺が広
がらない。だからといって必要でない人にやらせようとすると、忙しいとか言
って真剣にやらないわけでしょう。だから長期の休暇だけ与えて、そこで勉強
したことが、その内容に応じて何らかの形で反映されることが期待できるよう
にする。それでもやらない人はやらないでしょうが、ある程度の割合の人は、
自分の能力、適性、必要に応じていろいろなことに取り組むでしょう。そこに
多様性が出てきます。その中には企業にとってすぐに役立たないものが多いか
もしれないけれど、思わぬときに役立つかもしれない。
-----即座にそれを処遇に反映するのではなく、それによってなんらかの
チャンスをつかむことができるかもしれない。そうなれば処遇にも反映されて
くる。
諏訪 そうです。すぐに交渉して賃金や職位を上げるというのは日本企業には
なじまないでしょうが、いずれそれが企業への貢献につながったときには、そ
れがきちんと評価されるしくみは必要だと思います。インセンティブが必要な
のです。ところがこれまでの日本企業はディスインセンティブを与えてきた。
自分で勉強して能力を高めても、それが生きるような配慮はなかなかしてくれ
ないし、むしろ勉強しないでひたすら残業していた人のほうが高く評価された
りするわけです。
-----おまえ、そんな暇があるならこれとこれもやれ、なんてことになり
かねない。
諏訪 なっているでしょう(笑)。これはすべて下手に勉強なんかするなとい
うシグナルになります。もちろん組織が必要とする仕事が優先されるのは当然
ですし、OJTも大事です。ただ、全員自己啓発の時間もないくらいに働かせ
て、OJTで育成して、それなりに昇進させてキャリアが保障できるのならそ
れでもいいでしょうが、そうでなくて、これからは能力開発は自己責任、自助
努力が中心だというのであれば、それなりに時間も確保して、学習のディスイ
ンセンティブからインセンティブへと方向転換すべきです。
-----それでも仕事一本という人もいて、それが多様性につながるわけで
すね。
諏訪 そうでなければ変化に迅速に対応する柔軟な組織はできませんよ。
(聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)
諏訪 康雄(すわ やすお)
法政大学大学院政策科学研究科教授。労働法専攻。主な著書に『雇用と法』
(1999、放送大学教育振興会)、『判例で学ぶ雇用関係の法理』(1994、総合
労働研究所、共著)など。
2 キャリア辞典
~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~
「完全失業率」(4)
完全失業率は景気の遅行指標といわれている。遅行指標というのは、景気の
回復・後退より遅れて改善・悪化する指標であり、完全失業率はその代表的な
ものとして内閣府の景気動向指数の遅行系列に採用されている。
これに対して、景気動向と一致して変動する一致指標、景気動向に先行して
変動する先行指標というものもあって、景気動向指数では、雇用関連の指標と
して有効求人倍率が一致系列に、新規求人数が先行系列に採用されている。
これは労働市場の特性を反映しているとされている。景気が後退して企業の
操業度が低下し、余剰人員が発生しても、企業はすぐには従業員を解雇しない
のが普通だ。操業度の低下が短期間にとどまるなら、いったん解雇してまた別
の人を採用する採用コストや教育コストのほうが高くつくかもしれない。さら
に、日本企業では一般的に雇用の維持が経営上重視されるし、整理解雇には法
的な規制もある。そのため、操業度の低下が長期化すると判断しても、企業は
まずは時間外労働を削減し、それでも人員が過剰であれば定年退職や自己都合
退職と採用抑制を組み合わせたいわゆる自然減で雇用調整を行うことが多い。
これにはある程度の期間を要するため、景気が後退しても雇用が本格的に減少
するまでには相当のタイムラグが発生する。そのため、完全失業率は景気後退
より遅れて悪化することになるわけだ。逆に、景気が回復してきても、企業は
すぐには採用を増やさない。いったん雇用を増やすと減らすのが大変だから、
まずは時間外労働を増やして対応する。また、景気が回復してくると、景気が
悪く、好条件の求人が少ない時期には求職をやめて非労働力化していた人たち
が求職を再開するので、一時的に失業率を押し上げる効果もある。結果として、
完全失業率の改善は景気回復より遅れることになる。完全失業率の動向は景気
動向のおおむね3ヶ月から半年遅れといわれているようだ。
これに対して、新規求人数は先行指標とされている。企業は人員削減に時間
がかかることを知っているから、景気後退の気配を感じると、時間外労働を減
らしはじめるのと前後して、新規求人を手控える傾向がある。そのため、新規
求人数は特に景気後退の先行指標として敏感に反応するといわれている。
もっとも、最近では有期雇用や派遣労働といった非典型雇用が増加しており、
人員数の削減もその分容易になってきていることから、完全失業率の遅効性も
低下しているのではないかとの指摘もあるらしい。これは今後しばらくの推移
を確認しなければ判断できそうもない。
(編集委員 荻野勝彦)
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆労働政策研究・研修機構、日本ILO協会 海外社会労働事情研究会
「米国労働組合の二つの課題~AFL-CIOの分裂とUAWの変化
-進行する格差社会と経営側主導による人的資源管理システム-」
平成18年4月14日(金)15:00~17:00
於 大同生命霞ヶ関ビル6階 (東京都千代田区)
http://www.jil.go.jp/event/society/info/060414.htm
[編集後記]
4月に入り、各組織もフレッシュパーソンを迎えて活気づいているのではな
いでしょうか。新たなメンバーにあれこれ教えたり、面倒をみたり、いいとこ
ろを見せようと張り切ったり…。先日行われた当学会の研究会では、インター
ンシップの受け入れにも同様のメリットがあるとか。手間ひまかかると思って
尻込みしている人事担当者のみなさん、ぜひとも再考してみては。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.cdi-j.jp/
—-[キャリアプロフェッショナル求人情報]——————————
◆法政大学キャリアセンターでは、「キャリアアドバイザー」を4名募集して
います。試用期間を含め、1年未満の契約ですが、実力次第で2回まで契約
更新をいたします。週5日勤務で25万円+社会保険完備です。学生に対す
るキャリア相談やキャリア支援プログラムの企画にあたっていただきます。
詳しい応募要項はhttp://www.hosei.ac.jp/boshuu/ccadv2006.htmlをご覧下
さい。(会員 川喜多喬/投稿)
日本キャリアデザイン学会では、キャリアデザインに関わるプロフェッショ
ナルの人事情報を今後も掲載したいと思います(会員からの情報であること、
また非営利企業及び賛助会員による募集に限らせていただきます。また掲載の
可否は事務局で決めさせていただきます)。
—-[PR]————————————————————–
◆働く若者ネット相談事業 ご利用のお勧め
厚生労働省委託事業・日本キャリア開発協会受託・キャリア協議会協力
webサイトを利用していつでもどこでもネットで相談できる仕組みです。
また対面カウンセリングや電話カウンセリング、TVカウンセリングも行っ
ています。詳しくはhttp://net.j-cda.org/まで。 (厚生労働省)
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部企画室担当部長)
児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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