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□ キャリアデザインマガジン 第37号 平成18年3月27日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 私のキャリア観「法とキャリアデザイン」法政大学教授 諏訪康雄(5)
2 キャリア辞典「完全失業率」(3)
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆来年度の日本キャリアデザイン学会大会の日程が決まりました。
開催日:平成18年10月28・29日(土・日)
開催校:立命館大学衣笠キャンパス(京都市北区)
※テーマ、自由論題募集などの詳細は決まり次第学会ホームページなどで
お知らせいたします。 http://www.cdi-j.jp/
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1 私のキャリア観
「法とキャリアデザイン(5)」(7回連載)
法政大学大学院政策科学研究科教授 諏訪康雄
【第5回】「キャリア権」と人事管理
-----配置転換や転勤なども関係してきそうです。
諏訪 配転や転勤などについては、これまで労働者の不利益というのがもっぱ
ら家庭的な事情が考慮されてきたわけですが、これも本人のキャリアまで考慮
していいのではないかと思います。もちろん企業は人事権、指揮命令権にもと
づき配転や転勤を命じうるわけですが、あまりに労働者のキャリアを毀損する
ようなものは権利濫用を構成しうるのではないか。企業は配転を命じるにあた
って、それによって本人のキャリアがどうなるのか、応じなければどうか、と
いったことを説明して、本人にどちらをとるか考えさせる、などといったこと
で、企業の人事権と働く人のキャリア権とを調整するプロセスが必要ではない
かと考えます。
-----しかし、業績不振のときには技術者も営業の応援に行くといった対
応が必要になることもあります。
諏訪 それも権利の調整のうえで考慮される要素になるでしょう。あるいは、
業績不振で整理解雇せざるを得ないというときに、その人選基準について転職
の可能性、つまり本人のキャリア展開再就職可能性に言及した判決も出てきて
います。判決にはキャリア権という言葉はまだ出てはきませんが、すでにキャ
リアは労働法上労働者の配慮されるべき権利として意識されはじめているとい
えると思います。使用者の人事権、指揮命令権に拮抗する労働者の権利につい
ては、これまであまり詰めきれていなくて、個人の尊厳、人格権のようなもの
を対置する説もあるのですが、あまりに漠然としていると思われます。あくま
で労働法上の明確な権利を対置するとすれば、キャリア権というのが対比軸に
なるのではないでしょうか。
-----企業の人事権に対して働く人のキャリア権、というのはシンメトリ
ーではありますね。バランスの問題はあると思いますが。
諏訪 これはバランスの調整基軸のひとつになるものです。正社員ばかりでは
なく、非典型雇用の人の教育訓練をどうするのかとか、正社員への転換制度を
どう考えるのかとかいったことも、単に使用者が一方的に、恩恵的に与えるも
のではなく、労働者のキャリア権にも根拠があると考えなければ、こうした雇
用政策は行えなくなってしまいます。企業の人事労務管理についても、個人に
着目した人事労務管理というのは、実は個人のキャリアに配慮した人事労務管
理ではないだろうか。こう私は考えるのです。
-----たしかに、企業も今では単に頭数が揃っていればそれでいい、とい
う単純な労務管理だけではなく、一人ひとりの能力や意欲の向上を重視しなけ
れば生き残れない状況です。そのとき、動機づけとして賃金だけをみているか
というと、そうではありません。賃金よりむしろ仕事をみています。
諏訪 そうでしょう。それは結局キャリアをみているのです。キャリア権にも
とづく個人のキャリアの形成、発展、展開をできるだけ円滑にしつつ、そのこ
とが企業にも貢献する。あるいは企業が経営事情で申し訳ないが、といったと
きに、社員が快く、とはいわないまでも、仕方ないながらも納得して受け入れ
られるようになる、これもキャリア権への配慮なのです。
-----法的権利という意識ではなく、働く人の能力や意欲の向上のためで
すが、現実にはすでに多くの企業で行われていることではありますね。
諏訪 そうだろうと思います。一方、人事管理に限らず、労働運動にもキャリ
ア権の発想が必要です。歴史的に見れば、中世のギルドというのはまさにキャ
リア権を守る組織だったのです。全体の総量規制の中で徒弟を採用し、訓練し、
頭角を現したものが親方となって自治を行う、職業能力の形成と発展を自ら管
理していたわけです。さまざまな弊害はあったにしても、キャリア権を守る団
体ではあった。同じように、近現代の労働運動も、自分たちは単に大量生産シ
ステムのなかで取り替えのきく頭数ではなくて、たとえばセニオリティ・シス
テムのように、高いポジションがあいたら勤続の長い人から就くことができる
ルールを労組が実現してきたのも、適切であったかどうかは別として、労働運
動がキャリア権を守ろうとした結果なのです。
-----雇用を守るということ自体が、キャリアを守ることにつながります
ね。労働運動のほうが、権利を守るという発想はなじみやすいですね。
諏訪 このように、過去から現在までの労働をめぐるさまざまな取り組み、経
緯をキャリアという観点から整理してみると、それはすべてキャリア権の実現
のためのいろいろな工夫だったと捉えることができます。とすると、労働法は
なにを守る法律かというと、究極的には個々の労働者のキャリア権を守り、そ
れが円滑に発現されていくための法律だったのではないか。たとえば低すぎる
賃金は生活を守れないだけでなく、キャリア形成のインセンティブを損ないま
すし、自己投資を困難にします。長すぎる労働時間の削減、休日の確保も同じ
ことです。あるいは、失効した有給休暇の活用とか、能力開発のための長期休
暇制度といったものも、キャリア権という基本理念があってこそ多様に展開し
ていくことが可能だと思います。
-----その展開はどこまでの射程を持つのでしょうか。
諏訪 これからまだ育っていく概念だと思いますから、人々の意識や労働市場
がどこまで変わるかによるでしょう。専門化が進んだり、企業組織の変動が激
しくなったりすれば、より強固になっていくものと思います。企業内だけでは
なく、労働移動を通じてもキャリア形成がはかれる社会にしなければ、社会全
体として人的資源活用の効率が低下してしまいます。
-----企業は権利といわれるとどうしても身構える部分はありますが、キ
ャリアに対する関心は高まっています。社員のキャリアを、企業と社員の共同
作業として発展させていこうという取り組みは多くの企業に広がっています。
諏訪 それは健全な姿だと思いますね。もちろん、さっき言った「種の多様性」
的な観点からは、働く人の自由、個人の勝手というのがたしかにいいわけです
が、しかし個人だけでやろうとしても限界があることも事実です。合成の誤謬
的な問題もあり得ます。ですから、互いの利益を考えながら共同でやるのはい
いことだと思います。
-----企業としては、それを通じて、組織にキャリア形成のノウハウが蓄
積されるという考えもあります。
諏訪 日本には何百万事業所もあるわけですから、それぞれに多様なキャリア
形成が行われるようになれば、働く人もさらに多様なキャリアの可能性が開け
てきますね。職種にもよると思います。デザイナーのような職業は転職や独立
を通じて、個人がもっぱらキャリア形成するのが基本でしょうし、現場の熟練
工は長期勤続で、企業が相当程度関与する必要があるでしょう。
-----キャリア権が保護される程度が、キャリアの内容やその形成過程に
よってかなり変動してくることになるわけですか。
諏訪 そうです。キャリア権は一律の固定的なものではなく、理念であり、そ
の基準としてはさまざまなカテゴリーやクラスターに応じて多様なケースがで
きてくるでしょう。今現在は、まず労使にキャリア権の考え方をぜひ理解して
ほしいと願っているところです。労働運動にとっては次の重要なターゲットに
なるでしょうし、人事労務担当者にとっても、中長期的に労使がともに発展し
ていくために、自分たちのやりたいことをやっていく考え方の基本になると思
います。
(聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)
諏訪 康雄(すわ やすお)
法政大学大学院政策科学研究科教授。労働法専攻。主な著書に『雇用と法』
(1999、放送大学教育振興会)、『判例で学ぶ雇用関係の法理』(1994、総合
労働研究所、共著)など。
2 キャリア辞典
~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~
「完全失業率」(3)
90年代の終わり、日本の失業率が急上昇した際に、おりしも「ニューエコノ
ミー」の好況に沸く米国の失業率と逆転したことが話題になったが、そのくら
い、日本の失業率は低いというのが定説になっている。とはいえ、失業率に限
らず、指標を国際比較するにあたっては、その定義や調査の方法などの違いに
気をつけなければならないことはいうまでもない。
たとえば、米国の失業率は日本と同様の労働力調査によっているが、その失
業者の定義は「調査週において仕事がなく、調査週をふくむ過去4週間以内に
求職活動を行い、かつ就業可能であった15歳以上の者」であり、レイオフされ
て前職に復帰するのを待っている人を含んでいる。日本では調査週に求職活動
を行っていなければ非労働力に分類されるが、米国では2~4週前の間に求職
活動をしていれば、調査週に求職活動をしていなくても失業者とされる。また、
日本では一時休業して企業が雇用調整助成金を受給するようなレイオフ的な状
態であっても、雇用関係は継続していることから、就業者とカウントされるの
ではないか。あるいは、求職活動の結果を待っている人は、日本では失業者だ
がアメリカでは非労働力となるなどの細かな違いがある。さらに、米国の場合
は、分母となる労働力人口から軍人が除外される。
ドイツの失業率は、労働力調査ではなく、職業安定機関業務統計によってい
る(日本でも、有効求人倍率は職安の業務統計で算出されている)。失業者の
定義は、「調査週において職業安定所に求職登録している者で、週18時間以上
および3ヶ月以上の雇用を希望しており、就業可能である15歳以上65歳未満の
者」というもので(登録失業者という)、この人数を労働力人口(やはり軍人
は除かれる)で除して失業率を算出している。
このように、各国が公表している失業率はそのまま比較することはできない
ため、ILOは国際的に共通の失業率(失業者と労働力人口)の定義のガイド
ラインを提示している。OECDはこれに基づく各国の標準化失業率を試算し
ており、日本の場合は2001年が5.0%、2002年が5.4%、2003年が5.3%となっ
ている(ちなみにこれは完全失業率とまったく同じで、OECDは日本の完全
失業率の定義はILO失業率にきわめて近いとみて、そのまま使用しているの
かもしれない)。また、2003年の各国の標準化失業率をみると、米国が6.0%、
イギリスは5.0%で、ドイツは9.3%、フランスは9.4%、イタリアは8.6%とな
っている。ほかの国の数字をみても、日本の失業率はまずまず低い方(しかし、
特に低いというほどではない)といえそうだ。
(編集委員 荻野勝彦)
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆ILOセミナー2006「技能開発と雇用」
平成18年3月31日(金)10:00~12:00
於 UNハウス5階コミッティールーム2(東京都渋谷区)
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/downloads/c20060331.pdf
[編集後記]
豪雪の冬もどうやら過ぎ去り、春らしくなってきました。年度替わりは多く
の人が入学や卒業、入社など、キャリアの節目を迎える時期でもあります。ス
ーツ着用の学生さんの姿も目立つようになってきました。すべての人がよりよ
いキャリアを手にすることを期待したいものです。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.cdi-j.jp/
—-[キャリアプロフェッショナル求人情報]——————————
◆法政大学キャリアセンターでは、「キャリアアドバイザー」を4名募集して
います。試用期間を含め、1年未満の契約ですが、実力次第で2回まで契約
更新をいたします。週5日勤務で25万円+社会保険完備です。学生に対す
るキャリア相談やキャリア支援プログラムの企画にあたっていただきます。
詳しい応募要項はhttp://www.hosei.ac.jp/boshuu/ccadv2006.htmlをご覧下
さい。(会員 川喜多喬/投稿)
日本キャリアデザイン学会では、キャリアデザインに関わるプロフェッショ
ナルの人事情報を今後も掲載したいと思います(会員からの情報であること、
また非営利企業及び賛助会員による募集に限らせていただきます。また掲載の
可否は事務局で決めさせていただきます)。
—-[PR]————————————————————–
◆働く若者ネット相談事業 ご利用のお勧め
厚生労働省委託事業・日本キャリア開発協会受託・キャリア協議会協力
webサイトを利用していつでもどこでもネットで相談できる仕組みです。
また対面カウンセリングや電話カウンセリング、TVカウンセリングも行っ
ています。詳しくはhttp://net.j-cda.org/まで。 (厚生労働省)
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部企画室担当部長)
児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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