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□ キャリアデザインマガジン 第36号 平成18年3月13日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 私のキャリア観 法政大学教授 諏訪康雄(4)
2 キャリア辞典「完全失業率」(2)
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆3月17日の研究会(講師:堀有喜衣 労働政策研究・研修機構研究員ほか)
は、定員に達しましたので、参加申し込みを締め切りました。
多数のご応募ありがとうございました。
◆来年度の日本キャリアデザイン学会大会の日程が決まりました。
開催日:平成18年10月28・29日(土・日)
開催校:立命館大学衣笠キャンパス(京都市北区)
※テーマ、自由論題募集などの詳細は決まり次第学会ホームページなどで
お知らせいたします。 http://www.cdi-j.jp/
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1 私のキャリア観
「法とキャリアデザイン(4)」(7回連載)
法政大学大学院政策科学研究科教授 諏訪康雄
【第4回】「キャリア権」の法的内容
-----キャリアを働く人の財産、人的資本としてとらえて、それを法律上
の権利としてどのように位置付けるのでしょうか。
諏訪 これまでなかった概念ですから、一から考えなければならないのですが、
よりよい人生キャリアという意味では、憲法13条の幸福追求権が基本になるで
しょう。職業キャリアについては、憲法22条に職業選択の自由が保証されてい
る。幸福追求のために自分のやりたい仕事を選べる権利です。18条には奴隷的
拘束及び苦役からの自由がある。さらに重要なのは、27条の勤労の権利・義務
です。国は国民に労働を保証する責務を負っているというのは、国際的にもか
なり普遍的な理念です。ただこれは国は政策として完全雇用をめざすべきであ
り、そうでなければ失業給付を行わなければならないというも考え方で、当然
に適職選択権までは保障していない。
-----勤労権が生存権の具体化であれば、そうでしょうね。
諏訪 私は、労働権を質的な面まで含めて考えれば、職業選択の自由も重要な
足場にしてつくられた権利だと考えるべきではないかと思います。具体的には
なにかといえば、適職選択権、労働を通じてキャリアを高め、あるいは転換す
ることができる権利、すなわちキャリア権であり、それは憲法27条に根拠があ
る。そして、このキャリア権は、個人では守れませんから、その保護のために
たとえば労働基本権(憲法28条)が与えられて、団体交渉などを通じてキャリ
ア権が守られるのだ、と考えるわけです。さらに発展させれば、キャリア展開
を支える財産的な基礎としては、憲法29条の財産権も重要な要素になるかもし
れない。そう展開すれば、職業キャリアを準備するという意味では26条の教育
権だって根拠になる。子どもだけではなく、大人も次のキャリアの準備という
意味では教育を受ける権利があって、それが生涯学習ということにつながりま
す。
-----職業を選択して就労している段階では、労働権が基礎になるわけで
すね。
諏訪 当然そうなりますね。もうひとつ重要なものとして、キャリアの締めく
くりに関する権利があります。人生キャリアの中で職業キャリアをどこで打ち
止めにして、リタイヤするかも自分で決める権利があるのではないか。そうな
ると、年齢だけで本人の意思とは関係なく全員一律に退職させる定年制のよう
なものは、キャリア権の観点からは問題もあります。もちろん組織にとっては
新陳代謝などのために当然必要なものでしょうから、そこには組織と個人の間
の一定の調整はあると思いますが、本当に本人の意思と無関係でいいかどうか
は問題です。このように、幸福追求権を根拠にしつつ、職業選択の自由や労働
権を核に、教育権、財産権などを周辺に配置しながら、個人が職業キャリアを
開始し、展開し、円滑に終わらせていく、こうした一群の行動を支える根拠が
「キャリア権」という権利であり、憲法にも埋め込まれているものです。ただ、
今までは誰もそういう目で見ていなかっただけで、そういう目で見れば埋め込
まれていることがわかるでしょう。
-----新しい権利概念ですから当然でしょうが、従来の憲法解釈を一部変
更する必要はありますね。
諏訪 それはそうですね。法律論ですから憲法や法令に根拠を求めなければな
りません。
-----すでにこうした概念に近い立法などはあるのでしょうか。
諏訪 考え始めた当初はあまりありませんでしたが、その後出てきました。た
とえば職業能力開発促進法の中に職業生活設計、これはキャリアデザインです
ね。それが織り込まれて、国や地方自治体、あるいは事業主がこれに関する一
定の責務や努力義務を負うという形で定式化されました。これはまだ強行法規
化されてはいませんが、キャリア権が権利概念として確立するうえでの一歩で
はあります。さらに、職業生活ということばは、雇用対策法や職業安定法、均
等法、育介法、高齢法、障害者雇用促進法など、あちこちに入っていて、これ
もキャリア権を実現していくためのとっかかりになります。
-----育介法は職業生活を続けられるようにという目的ですから、キャリ
ア権の考え方がかなり入っているともいえそうですね。
諏訪 まだ法理論としてかなり荒削りなところはありますが、キャリア権は憲
法を核とする「理念」としては、まあ頭から否定する人はいないのではないか
と思います。これを具体的な「基準」に落とし込んでいく動きも少しずつあり
ます。たとえば、就労請求権という考え方、就労は労働者の義務であるだけで
はなく権利でもあるという考え方があるのですが、これは日本ではまだかなり
限られた範囲でなければ無理だろうと考えられています。調理師とか、主とし
てマニュアルな熟練工などについては、日々仕事をしなければ腕が落ちていっ
てしまうだろうという理屈で限定的に是認されてきました。しかし、高度な知
識を扱うようなホワイトカラーとか、他の仕事にも似たような状況はあるわけ
で、単に雇用が守られ、賃金が支払われればそれでいいじゃないか、とはいか
なくなってきている実態があります。
-----だから働かせるべきだ、ということには議論があると思いますが、
企業の現場の感覚としても、仕事をすることが能力の維持向上のために重要だ、
ということは、程度の差はあってもかなり多くの職業についてあてはまると思
います。
諏訪 80年代に労働時間短縮の仕事をしていたときに気付いたのですが、単に
働く時間を短くすればいいというものではないのですね。あまり労働時間の総
量規制ばかりを厳しくしてしまうと、働くからこそ身につく、という技術とか、
知識とかが身につかなくなってしまう懸念があります。短時間労働者はその分
OJTを受ける機会が少なくなる。8時間労働の人に時間あたり賃金は同じで
6時間にする、と言えば喜ぶかと言えば、そういう人ばかりでもなくて、能力
形成過程にある若い人などはかえって困ってしまう。
-----腕を上げるためにはタダでもいいから仕事をさせてほしい、という
人は若い人にかぎらずたくさんいます。能力が高まればさらに高度な仕事を任
せられるようにもなりますし。
諏訪 あるいは自分なりに納得いくような仕事をしたいとか、こうしたことも
キャリアを形成するうえで非常に重要な部分です。ここではたとえば裁量労働
とキャリア権が関係してくる。
-----キャリア権を守るためにはホワイトカラー・エグゼンプション制の
ような法制度も必要になる。
諏訪 最近非常に問題だなと思ったのが、関西のある大学の先生が解雇されて、
それを不当として争った事件ですが、解雇は不当としても授業をさせる必要は
ない、研究室に立ち入らせる必要もないという判決が出ているのです。授業は
ともかくとしても、研究室に立ち入らせなくてもいいというのは、私は知識労
働者のキャリアをあまりにも軽視したおかしな判決だと思います。こうした就
労請求権のほかにも、たとえば有名な時事通信社事件、チェルノブイリ原発事
故の取材のために4週間の年次有給休暇を取得しようとしたところ時季変更権
を行使して2週間しか取得させなかった事件ですが、時季変更権の判断が変わ
るかどうかは別として、いまから考えればこれも労働者のキャリア権の発動と
みることができたでしょう。
(聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)
諏訪 康雄(すわ やすお)
法政大学大学院政策科学研究科教授。労働法専攻。主な著書に『雇用と法』
(1999、放送大学教育振興会)、『判例で学ぶ雇用関係の法理』(1994、総合
労働研究所、共著)など。
2 キャリア辞典
~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~
「完全失業率」(2)
完全失業率は完全失業者数を労働力人口で除し、100倍して計算する。労働
力人口とは、15歳以上人口のうち、現に就業している人(職についていて休ん
でいる人を含む)と完全失業者を合計した人口のことをいう。残りが非労働力
人口で、就業も職探しもしていない15歳以上の学生や家事従事者、あるいは引
退した高齢者などを含んでいる。生産年齢人口(15~64歳人口)と異なり、労
働力人口には年齢の上限はない。
したがって、完全失業率は失業者が増えれば上がり、減れば下がるだけでは
なく、労働力人口が増えれば下がり、減れば上がるということになる。
従来から、完全失業率を労働市場の状態を示す代表的指標としたり、政策目
標とすることには、さまざまな異論があった。
完全失業者の定義は、大雑把に言って「仕事をしていないが、すぐに働くこ
とができ、仕事を探している人」ということになるだろうが、たとえば、この
「仕事をしていない人」という条件(の細部)は妥当なのか、という意見があ
る。調査週間に1時間でも仕事をすれば完全失業者には該当しないわけだが、
現実には職探しのかたわらアルバイトでわずかなりとも収入を得ようという人
は多いだろう(もっとも、失業給付を受けている時期にはアルバイトをすると
受給資格を失うから、アルバイトの事実を隠して、結果として完全失業者にカ
ウントされていることが多いものとは思われるが)。近年のいわゆる「フリー
ター」をめぐる議論でも、短時間、低賃金で就労しながら勤め口を探している
人は失業者に含めるべきだという意見があったように思う。
また、「仕事を探している人」という条件への疑問も、古くから呈されてき
たようだ。「ぜひとも働かなければならないわけではないが、いい仕事があれ
ば働きたい。」こう考える人は常に一定数存在するだろう。一般的に、不況期
には条件のよい求人は減少するから、こうした人はいい仕事を見つけるのをあ
きらめて、求職活動をしなくなる。求職していれば労働力人口としてカウント
され、失業者に含まれるわけだが、求職をやめれば非労働力人口としてカウン
トされることになる。完全失業率の計算式の分母と分子がともに減少し、数値
は低くなるだろう。逆に、こうした人たちは景気が改善し、いい仕事につけそ
うだと考えれば再び求職をはじめるだろう。不況期とは逆のことが起こり、完
全失業率を上げる方向に働くことになる。労働市場の状態をよりヴィヴィッド
に表現するには、こうした「意欲と能力はあるが就業・求職はしていない」人
を失業者に含めたほうがいいのではないか、というわけだ。実際、近年では、
非労働力から失業者を経ずにいきなり就業者になるというフローが年間1,000
万人にもなるという。
もちろん、こうした批判に対しては、「求職していない(就業する必要性の
低い)人については、政策対応の優先順位が低い」という反論がありうる。た
とえば失業給付のような、雇用対策の救貧政策としての側面を重視するのであ
れば、こうした考え方になるだろう。
いっぽうで、たとえば欧州などでは、近年では失業率以上に「就業率」を政
策目標として重視しているという。働きたいのに働けない人がどれだけいるか、
ではなく、働ける人がどれだけ働けているか、を重視するわけだ。雇用政策の
重点を救貧政策ではなく、経済活動の拡大・効率化におくのであれば、たしか
にその指標としては就業率のほうがふさわしいように思える。日本でも、いわ
ゆる「ニート」をめぐる議論などでは、就業率を重視すべきとの意見がみられ
るようだ。
考えてみれば、単一の指標だけを見ているのでは限界があるというのは当た
り前のことかもしれない。課題に応じて適切な指標を使い分けること、さまざ
まな指標をみて総合的に判断すること、そして必要な指標が入手できるよう調
査を充実させることが大切だということだろう。
(編集委員 荻野勝彦)
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆経済産業省ジョブカフェホット!ミーティング/ベストプラクティス発表祭
平成18年3月22日(水)13:00~16:30
於 東京商工会議所国際会議場(東京都千代田区)
http://www.bf-c.co.jp/jobcafe/gaiyou.html
◆労働政策研究・研修機構労働政策フォーラム「65歳雇用延長をいかに実践す
るか~改正高年齢者雇用安定法と労使の取り組み~」
平成18年3月24日(金)13:20~17:00
於 一橋記念講堂 (東京都千代田区)
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/info/20060324.htm
[編集後記]
厚生労働省が一般公募していた「マタニティマーク」のデザインが決まった
そうです。妊婦に着用してもらって、たとえば電車で座席を譲るなど、周囲の
配慮をうながそうという趣旨ということで、なかなか愛らしいデザインです。
1,600点以上の応募があったということで、気をよくした?厚労省はこんどは
「子育て女性の再就職支援」のシンボルマークを募集しています。今月末が応
募の締め切りとのことですので、女性のキャリアの発展に資するためにも、腕
に覚えのあるむきは挑戦してみてはいかがでしょうか。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.cdi-j.jp/
—-[キャリアプロフェッショナル求人情報]——————————
◆法政大学キャリアセンターでは、「キャリアアドバイザー」を4名募集して
います。試用期間を含め、1年未満の契約ですが、実力次第で2回まで契約
更新をいたします。週5日勤務で25万円+社会保険完備です。学生に対す
るキャリア相談やキャリア支援プログラムの企画にあたっていただきます。
詳しい応募要項はhttp://www.hosei.ac.jp/boshuu/ccadv2006.htmlをご覧下
さい。(会員 川喜多喬/投稿)
日本キャリアデザイン学会では、キャリアデザインに関わるプロフェッショ
ナルの人事情報を今後も掲載したいと思います(会員からの情報であること、
また非営利企業及び賛助会員による募集に限らせていただきます。また掲載の
可否は事務局で決めさせていただきます)。
—-[PR]————————————————————–
◆働く若者ネット相談事業 ご利用のお勧め
厚生労働省委託事業・日本キャリア開発協会受託・キャリア協議会協力
webサイトを利用していつでもどこでもネットで相談できる仕組みです。
また対面カウンセリングや電話カウンセリング、TVカウンセリングも行っ
ています。詳しくはhttp://net.j-cda.org/まで。 (厚生労働省)
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
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編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部企画室担当部長)
児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
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