キャリアデザインマガジン 第31号 

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□    キャリアデザインマガジン 第31号 平成17年12月19日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 キャリア辞典「終身雇用」(2)
2 私が読んだキャリアの1冊
3 キャリアイベント情報

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【学会からのおしらせ】

◆来年度の日本キャリアデザイン学会大会の日程が決まりました。
 開催日:平成18年10月28・29日(土・日)
 開催校:立命館大学衣笠キャンパス(京都市北区)
  ※テーマ、自由論題募集などの詳細は決まり次第学会ホームページなどで
   お知らせいたします。 http://www.cdi-j.jp/

◆第2回日本キャリアデザイン学会大会資料集をおわけします。
 さる10月1日・2日に開催された大会の資料集(発表要旨などを含む)を実
 費(1部1,000円)+郵送料にて頒布しております。
 学会事務局cdgakkai@hosei.orgまでeメールにてお申し込み下さい。

◆研究誌「キャリアデザイン研究」創刊号が発行されました。
 実費(1部1,500円)+郵送料で頒布しております。
 学会事務局cdgakkai@hosei.orgまでeメールにてお申し込み下さい。

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1 キャリア辞典
  ~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~

「終身雇用」(2)

 世間では近年、いわゆる「終身雇用」(「長期雇用」というほうが正確だと
いうことは前回書いたとおりだが)が崩壊した、あるいは崩壊するだろう、と
いった主張が繰り返し行われてきた。はたして、そうなのだろうか。
 もっとも、過去においても、1970年代のオイルショックに際して多くの日本
企業が人員整理を行ったことで、やはり「終身雇用は崩壊した」と言われた。
たしかに、当時はかなりの規模で雇用削減が行われ、短期的にみれば「終身雇
用」は崩れたようにみえたに違いない。しかし、日本経済がオイルショックを
乗り切ってからは、ふたたび人員整理や定年前の解雇は例外的となった。もち
ろん、高度成長が終焉した(加えて、寿命が伸びた)ことで、前回述べたよう
に、「本当に死ぬまで」に近いような「終身雇用」はおそらく衰退しただろう
が、「定年まで雇用される」という「終身雇用」は崩壊していなかった、ある
いは少なくとも「復活した」といえるだろう。
 ただし、大企業を中心に、定年前に関係会社などに転籍出向する、いわゆる
「片道切符」が増加して、入社した会社で定年を迎える例は減少した。これを
指して、「終身雇用とはいえない」などと言われることば現在でもある。崩壊
したかどうかはともかく、「終身雇用」がこの時期に変質したとはいえるだろ
う。「定年まで勤続」ではなく、「定年までは何らかの形で雇用を確保」に変
わったのだ。現在の実務家が「長期雇用」というときは、この意味においてで
あることが多いに違いない。
 それでは、近年の動向はどうか。日本経済新聞のデータベースである「日経
テレコン21」を使って、90年代以降、「長期雇用」と「崩壊」がセットで登場
した記事の件数をカウントしてみよう(地方面と土曜版を除く)。1991年には
1件しかなく、しかもこの記事は「長期雇用」と「崩壊」はまったく別の文脈
で登場する(以降の件数にも同様のものが含まれていることに注意)。これが
1992年には19件になり、93、94、95年には毎年42~43件の記事が登場した。そ
れまで2%台前半にとどまっていた完全失業率が、2.5%、2.9%、3.2%と急
上昇した時期であり、バブル崩壊で余剰人員が深刻な問題となった時期だ。労
働政策研究・研修機構の「ユースフル労働統計」2005年版には生産性方式によ
る過剰雇用の推計が掲載されているが、それによると91年の過剰雇用はマイナ
ス64万人と人手不足状態、92年の過剰雇用が80万人だったのに対し、93~95年
は207、237、192万人になっている。
 日経新聞の記事件数に戻ると、96年は17件、97年は27件と減少し、98年と99
年がそれぞれ34件、36件と第2のピークとなっている。それ以降は2005年(12
月14日まで)まで15~25件のレンジで安定的に推移している。ちなみに、前述
の過剰雇用は、96年は74万人、97年は83万人に減少し、98年・99年はそれぞれ
236万人・271万人と増加している。2000年から2002年は138~155万人で、2003
年には17万人と減少しており、過剰雇用の調整が一巡したことが見てとれる。
 こうしてみると、1990年代から2002年までの「終身雇用の崩壊」言説の出没
は、過剰雇用の推移と見事なまでに符合しているといえるのではないか(ちな
みに、手元のExcelで回帰分析したところ、決定係数R2=0.72、1%水準で有意
となった。「見事なまで」とはいかないかもしれない)。ということは、結局
は余剰人員が発生して、「終身雇用」のはずの人を削減せざるを得なくなった、
ということで「終身雇用の崩壊」が言われたのではないかとひとまずは推測で
きそうだ。
 もっとも、それでは今回もオイルショック時と同様に経済が回復すれば元に
もどるかといえば、それはまだわからない。過剰雇用の調整が一巡したとみら
れる2003年以降も、「終身雇用の崩壊」言説は一定頻度で登場しているから、
構造的な変化があったのではないかとの意見もありそうだ。企業に対するアン
ケートなどをみても、「終身雇用をやめる」という回答は少ないものの、「部
分的に見直す」という回答はそれなりに多いという傾向があるようだ。
 とはいえ、平均勤続年数をみると、1991年から2003年にかけて男性は12.7年
から13.5年に、女性は7.4年から9.0年に延びている。一概には言えないだろう
が、本当に「終身雇用」が崩壊したのなら、平均勤続年数は短くなってもよさ
そうなものだ。いっぽうで、よく知られているように、この間に非典型雇用比
率は大幅に上昇しているという事実がある。
 こうしたことをあわせて考えると、企業が「終身雇用を一部見直す」という
場合、定年前の解雇などを増やすというよりは、「終身雇用」の正社員の比率
を下げ、「終身雇用」ではない非正社員の比率を上げる、ということを意味し
ているのではないかという推測が、一応はできるのではないか。いずれにして
も、実際のところがわかるまでは、あと数年くらいはかかりそうだ。
                         (編集委員 荻野勝彦)

2 私が読んだキャリアの1冊

『なぜ選ぶたびに後悔するのか-「選択の自由」の落とし穴』

バリー・シュワルツ著、瑞穂のりこ訳/2004.10.20 ランダムハウス講談社

 年輩の方はご記憶だろうが、かつては家庭用の電話機といえば真っ黒で、本
体前面にダイヤルのついたものばかりだった。今では博物館でしか見られない
だろう。それがいつごろからか、さまざまなデザイン、機能の電話機が売られ
るようになり、自分の好みや部屋の雰囲気にあわせたものを選べるようになっ
た。好きな電話機を選ぶことは楽しいことであり、お気に入りの一品を使うこ
とは誰にも満足をもたらした。単に電話があって使えるだけではなく、好きな
電話機を選べる、「いろいろな選択肢が提供される」ことが「豊かさ」だ、と
考えられるようになった。
 しかし、「さまざまな選択肢があり、自由に選べること」が「豊かさ」であ
り、幸福をもたらすというのも、こんにちではいささか疑わしい。いまや、あ
りとあらゆる色と形の固定電話と携帯電話が販売されている。しかも、ファク
シミリやらカメラやらインターネットやら、いろいろな機能がついていたりい
なかったりで(通話しかできないことが売り物になるくらいだ)、当然ながら
価格もピンキリだ。
 こうなると、選択肢が多いことが幸福をもたらすのかどうか、にわかにはわ
からなくなる。電話機が5種類か、10種類しかなければ、誰でもそれなりにい
ちばん好きなものを選んで、仮に80%くらいしか自分の好みにあっていなくて
も満足して使うだろう。しかし、現在のように無数の選択肢があると、一日中
足を棒にして町じゅうの店を歩き回り、いちばん気に入ったものを買ったとし
ても、ひょっとしたら隣町にはもっといいものがあったかもしれないと思うと
満足できなくなってしまう。99%満足できるものを買ったとしても、よそには
100%のものがあるかもしれないからだ。
 さらに、友人が見たことのない携帯電話を使っていたとしよう。どうしても、
他人が使っているものは自分のものより良さそうに見えてしまう。苦労して最
善の選択をしたはずのものが、急速に色あせてみえてくる。
 こうなると、選択肢が多いことが幸福につながるとは簡単には思えなくなる。
電話機ならばまだしも、これが人生の選択肢、キャリアデザインとなるとこと
は重大だ。人生には、どうしても自分の将来を選択しなければならない人生の
節目が何度かは訪れる。そのたびにどれか一つを選び、ほかの道はあきらめな
ければならない。商家に生まれれば商人になり、桶屋の息子は桶をつくるのが
当然だった時代には、キャリアの選択肢はいたって限られたものだったし、そ
れが増えることが「豊かさ」だっただろうが、いまや人々は数多くの選択肢か
らキャリアを選ぶことができる。まさに「キャリアデザイン」の時代だ。しか
し、まさにそれゆえに、自分のキャリア選択を後悔しないことはまことに難し
い。とはいえ、選択肢を減らすわけにもいかないだろう。こういう時代に、ど
のようなキャリア選択をすれば幸福な人生を送れるのだろうか?この本はそん
な疑問を解決するうえで非常に興味深いヒントを与えてくれる。
 電機メーカーを志望して就職活動をした学生が二人いたとしよう。A君は何
社かの希望企業のうちの1社、H社から内定が出たので就活をやめた。B君は
H社から内定が出てからも就活を続け、T社、M社、F社からも内定をもらい、
悩んだあげくやはりH社に就職した。数年がたち、二人とも元気で働いていて
職場の評価も高いが、A君はH社に入ってよかったと思い、幸福だと感じてい
るのに対し、B君は必ずしもそうではないようだ。B君はあのときT社に入っ
ていたら、M社に就職していたらと思うと、A君のようには幸福を感じられな
い。しかも、先日F社で働いている友人と会って、いかに生き生きと働いてい
るかを聞いた。それ以来、自分もF社に行ったほうが良かったのではないかと
気になって仕方がない。
 本書は、A君のようなタイプを「サティスファイザー」、B君のようなタイ
プを「マキシマイザー」と類型化している。サティスファイザーはほどほどの
選択をすることで満足し、ほかの選択肢や他人との比較をしない。マキシマイ
ザーはなかなか満足せず、最善の選択をするために努力を重ねる。選択したあ
とも、自分が選ばなかった選択肢や、他人のことが気になってしまう。もちろ
ん、現実の人間はその間のどこかに位置するわけだが、二つの類型のどちらが
質の高い選択をするかといえば、明らかにマキシマイザーだろう。サティスフ
ァイザーがほどほどの、いわばいい加減な選択をするのに対し、マキシマイザ
ーは多くの選択肢を入念に検討するのだから、当然のことだ。ところが、その
選択によって幸福になるのはサティスファイザーのほうで、マキシマイザーは
つねに不満を抱えている。このように、選択の質の高さと幸福度が逆転してし
まうことを著者は「選択の逆説」と呼ぶ。そして、幸福度を規定するのは、選
択の質以上に、どの程度にサティスファイザーまたはマキシマイザーかという
性格傾向だと指摘し、その上で、避けがたい「選択」に対してどのように向き
合えば、後悔しない、幸福な選択ができるかについて提案している。
 キャリアデザインにおいて、「いかに質の高い選択をするか」を説く本は数
多い。しかし、そのような本を何冊も読み、少しでも質の高い選択をしようと
努力を重ねた結果が、かえって幸福を感じられない可能性を高めるということ
ではいかにも残念ではないか。そういう意味では、この本はまことに貴重な
「キャリアデザインの指南書」でもあるのかもしれない。
                         (編集委員 荻野勝彦)

3 キャリアイベント情報
  ~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~

◆家計経済研究所 第5回消費生活に関するパネル調査・カンファレンス
 平成17年12月21日(水) 10:30~14:55
 於 グランドヒル市ヶ谷(東京都千代田区)
 http://www.kakeiken.or.jp/research/conference.html

◆女性労働協会 未来館フェスタ2006カウンセラーズ・フォーラム
 「女性のキャリア開発とアサーティブネス」
 平成18年1月27日(金)13:30~16:45
 於 女性と仕事の未来館4Fホール(東京都港区)
 http://www.miraikan.go.jp/topix_index/index0210.html

◆労働政策研究・研修機構 労働政策フォーラム
 「副業はこれから拡大するか?-企業と働く人にとっての意味-」
 平成18年1月31日(火) 14:00~17:00
 於 女性と仕事の未来館ホール(東京都港区)
 http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/info/20060131.htm

[編集後記]

 年の瀬も押し迫ってまいりました。今年1年、キャリアデザインマガジンを
ご購読いただき、まことにありがとうございました。今年の発行はこれが最後
になります。来年は、世間並に1回編集をお休みし、1月16日号からの発行と
なる予定です。どうかよいお年をお迎えください。(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.cdi-j.jp/

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◆働く若者ネット相談事業 ご利用のお勧め
 厚生労働省委託事業・日本キャリア開発協会受託・キャリア協議会協力
 webサイトを利用していつでもどこでもネットで相談できる仕組みです。
 また対面カウンセリングや電話カウンセリング、TVカウンセリングも行っ
 ています。詳しくはhttp://net.j-cda.org/まで。     (厚生労働省)

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。

 編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部企画室担当部長)
      児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail cdgakkai@hosei.org
   〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1

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