キャリアデザインマガジン 第27号 

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□    キャリアデザインマガジン 第27号 平成17年10月24日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 私のキャリア観 (株)資生堂取締役執行役員 岩田喜美枝(3)
2 キャリア辞典「正社員」(1)
3 キャリアイベント情報

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【学会からのおしらせ】

◆今後の研究会の予定は以下のとおりです。
 (関東地区)
 日 時:11月5日(土)13:30~16:30 ※終了後、交流会を開催の予定
 講 師:松下電工株式会社ライフデザインセンター所長 村田充範
     法政大学キャリアセンター教授 川喜多喬
 場 所:法政大学(市ヶ谷キャンパス)キャリアセンター セミナールーム
 定 員:70名(先着順)
 参加費:会員は無料、非会員は3,000円
 詳細は学会ホームページをごらんください。参加申し込みも可能です。
  http://www.cdi-j.jp/event.html
 (関西地区)※会場が決まりました。また、時間帯が変更となっております。
 日 時:12月10日(土)18:30~20:30
 講 師:大阪大学社会経済研究所教授 大竹文雄
 コメンテータ:神戸学院大学経済学部教授 中村恵
 場 所:関西学院大学大阪梅田キャンパスK.G.ハブスクエア大阪1408会議室
     http://www.kwansei.ac.jp/kg_hub/
  ※詳細は、追って学会ホームページでお知らせいたします。
   http://www.cdi-j.jp/event.html

◆第2回日本キャリアデザイン学会大会資料集をおわけします。
 さる10月1日・2日に開催された大会の資料集(発表要旨などを含む)を実
 費(1部1,000円)+郵送料にて頒布しております。
 学会事務局cdgakkai@hosei.orgまでeメールにてお申し込み下さい。

◆研究誌「キャリアデザイン研究」創刊号が発行されました。
 実費(1部1,500円)+郵送料で頒布しております。
 学会事務局cdgakkai@hosei.orgまでeメールにてお申し込み下さい。
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1 私のキャリア観

「ワーク・ライフ・バランスとキャリアデザイン(3)」(5回連載)
                (株)資生堂取締役執行役員 岩田喜美枝

【第3回】ワーク・ライフ・バランスと職業キャリア

-----経済界でも、ワーク・ライフ・バランスをやったら業績が良くなっ
た、ということを示すことが最大の促進策だ、という話が出ています。

岩田 私は厚生労働省の局長時代に二つ検証したいと思いました。一つは女性
の管理職への登用などの機会均等と企業のパフォーマンスが相関しているか。
もう一つが、育児との両立の環境整備とパフォーマンスの関係です。後者はま
だはっきりしませんが、前者は21世紀職業財団の調査で、効果がありそうだと
いう結果が出ています。

-----それについては、女性を登用したから業績がいいのではなくて、業
績がいいから女性登用に取り組む余力があるのだという言い方をする人もいま
す。

岩田 これは大事なポイントです。企業内託児施設とか、コストがかかること
もあるでしょうが、多くの施策は実はコストはかかりません。業績好調でなく
てもほとんどの施策はできます。育児休業や育児時間などは、有給にしなくて
いいわけですし、するべきでもないと思いますが、無給ならコストはかからな
い。うまくやりくりして、代替要員を派遣・契約社員・パートなどですませれ
ばかえって安くつくかもしれません。働き方の改革にしても、時間外労働を減
らすのはむしろコストダウンでしょう。必要のないことに高い割増賃金を払っ
ているのを見直せばいいのです。女性の活躍だって同じことで、能力がないの
に登用すればコストがかかりますが、能力に応じた活用をすればコストにはな
らないのです。

-----たしかに、思い込みのようなものはあるのかもしれません。ただ、
まだ不十分ながらも企業では理解は進んでいますし、制度導入もはかられてい
ます。むしろこれからの問題は、制度はあるのに使われないというところでは
ないかと思うのですが。

岩田 そうですね。実際、多くの企業はたいへん立派な制度をお持ちです。問
題は、せっかく制度があるのに利用されていないという運用面です。大きな理
由は二つあると思います。一つは、代替要員の手配がきちんとできていない。
実際には多くの場合コストアップにもならずに代替要員で埋めることができる
のではないかと思うのですが、たいていはそれを埋めないのです。そうなると
回りの人にしわ寄せが行って、上司も同僚もいい顔をしない。実際には、代替
要員を入れる方法はたくさんあります。これはマネジメントの責任としてしっ
かりやっていただかなければいけない。もう一つのネックは、復職したあとの
自分が描きにくい。

-----それはキャリアデザインの問題にも通じますが、不確実性が大きい
ですね。保育所に入れるかどうかとかいった問題もあります。

岩田 そういう社会全体の問題もありますが、会社の中でも、どこの部署に戻
るのかとか、休んだことでその後のキャリアや評価がどうなるのか、不安な気
持ちがあると思います。復職したあとでもキャリアが上がる機会が保障されて
いなければなりません。資生堂では女性が育児休業、育児時間をとるのはすで
に当然になっているのですが、育児と仕事が両立できればそれでいいというも
のではなくて、キャリアアップしていけなければダメだと私は社内で言ってい
ます。育児期というのは育児休業が終われば終わりではなくて、すごく長いわ
けですよ。その間ずっとキャリアが止まっていたのではどうしようもない。育
児期に仕事を継続する、ということはどうにかできるようになったから、次は
いかにキャリアアップするか。

-----キャリアアップできる、という見通しがあったほうが、継続すると
いう選択もしやすいでしょうね。

岩田 そうですね。

-----代替要員ですが、仕事が標準化されていたり、補助的な仕事であれ
ば入れやすいでしょうが、仕事が高度になっていくとなかなか外部の人では代
替しにくい。

岩田 仕事の再配分ですよ。育児休業が当たり前になると、定員管理の中にそ
れを織り込んで人員配置をする必要がありますし、また、それを前提に、仕事
の割り振りを横に広げていくことが大切です。ある人しかできない仕事をつく
らない、一人の人がいろいろな仕事ができるようにしておく、といったことが
重要です。

-----組織の生産性向上にもつながりますね。病欠や、社内プロジェクト
に人を出すといったことに対応するために、多能工化はほとんどの企業が取り
組んでいます。

岩田 残された人にもいいことなんですよ。新しい仕事にチャレンジするチャ
ンスですから。ただ、病欠と違って数が多くなりますから、定員面でその分を
配置しておくことも必要です。

-----働いている人数が変わらなければコストアップにはならないという
ことですね。

岩田 そうです。病気とか、他の理由だと許されるのに、子どものためとか家
族のためとかいうと妙に目くじら立てるような雰囲気があるんじゃないでしょ
うか。

-----よくはわかりませんが、キャリアという観点からいうと、病気で長
く休んだ人はキャリアアップも遅くなり、その人が休んでいる間そこをカバー
して苦労した人はその分キャリアアップが早くなるといった暗黙の了解のよう
なものがあって、それが病欠が受け入れられる素地になっているのかもしれな
いとは思います。育児休業だと、そういう了解がまだあまりできていないのか
な、という感じはします。

岩田 評価の問題はありますね。私が厚生労働省にいたころ、子どもが生まれ
たら父親も必ず一週間休もう、ということを提唱して、実際にそのようにした
ことがあります。親が死んだときにはどんなに忙しくても一週間くらいは休む
でしょうし、まわりも当たり前だと思っていますよね。

-----新婚旅行とか。

岩田 新婚旅行とかね。子どもが生まれるのだって、今は一生に1回か2回で
すよ。これは意識の問題ですね。みんなが休むようになれば、評価の問題もは
るかに気にならなくなりますよ。

-----実際には、男性が子どもが生まれたときに何日か休んだりすると、
回りの年配者が「おれは長女が生まれたときはロンドンに出張していた」とか
言うんですね。

岩田 それを自慢げに言うのよね(笑)。そういう意識を変えないと。資生堂
では最近制度を変えて、育児休業のうち2週間を有給にしたのです。もちろ
ん男性だけとは書けませんけれど、この制度のメッセージは「男性のみなさん、
子どもが生まれたら最低2週間は休んでください」ということなのですね。1
週間でもいいのですが、とにかく子どものために休むことす。仮に、その後は
思うように子どものために時間がとれないにしても、育児にかかわろうという
気持ちが違ってくるし、夫と妻の関係にとってもすごくいいんですよ。
                  (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)

岩田 喜美枝(いわた きみえ)
(株)資生堂取締役執行役員。元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長。32年に
わたり労働行政に携わる。退官後、(株)資生堂に転身。映画「ベアテの贈り
もの」制作にボランティアとして尽力。

2.キャリア辞典
  ~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~

「正社員」(1)

 「正社員」とはなんだろうか?よく使われることばだが、では定義がはっき
りしているかというとそうでもなさそうだ。実際、おもだったweb国語辞典を
ひととおりみたかぎりでは、「正社員」という検索語はどれでもヒットしない。
 それでは「社員」とはなにか、といえば、よく知られているように法律用語
としては(一般的な用法と異なり)「社団の構成員」という意味になる。商法
上は、商行為のために設立された社団、営利を目的とする社団が会社であり、
会社の出資者を「社員」という。したがって、株式会社では株主が社員であり、
保険業を営む相互会社においては、保険契約者が社員となる。では一般的な意
味での「社員」はなんというかというと、「従業員」である。
 商法上の「従業員」(の一部)を「社員」と呼ぶようになったのがなぜかは
わからないが、かなり古い慣習のようだ。二村一夫(1997)「工員・職員の身分
差別撤廃」日本労働研究雑誌443号によれば、「戦前の日本では、大企業の従
業員は学歴に応じ、…異なった〈身分〉に分けられていた。最上位にあったの
は〈正社員〉で、その多くは大卒や高専卒、採用は本社でおこない全国の事業
所に配属された。…つぎは中等教育修了者を対象とする〈準社員〉である。准
員、雇員などとも呼ばれた…。社員・準社員の下には、給仕や用務員などの
〈傭員〉がおり、ブルーカラー労働者なみ、あるいはそれ以下の処遇であった。
…ブルーカラー労働者は義務教育修了以下の者に限られ、〈職工〉、〈工員〉
などと呼ばれた。工員の中からから準社員へ昇進し、さらには社員にまで登用
する制度を設けていた企業もあるが、一般には工員と職員の間には容易に越え
がたい溝があった。」という。「社員」という呼称には、「出資者と同様に会
社と利害を共有し、その運営に強く関与する」という意味合いがこめられてい
たのであろうと想像される。
 そして、やはり二村氏によれば、「(正)社員は年俸あるいは月給制、時間
外手当などは出ない反面、長期でなければ欠勤しても給与が減らされることも
なかった。一方、準社員は日給月給で、欠勤すれば減給され、会社が定める休
日も無給であった」ということだから、当時の「正社員」は現在の「正社員」
とはずいぶん異なっており、感覚でいえば「管理職」に近い。実際、早期に管
理職となることが約束されていたであろう。現代の国家公務員「1種・2種」
に近い感覚だろうか。
 戦後の民主化のなかで「職工一体」化も進み、職員、工員といったことばの
区別も廃止されて、職員・工員ともに「社員」あるいは「従業員」(商法のこ
とばに回帰したわけだ)と呼ばれるようになった。この時点では戦前の意味で
「正社員」「準社員」ということばが使われることもなくなったとみていいだ
ろう。ホワイトカラー・ブルーカラーともに用いられる現代の意味での「正社
員」、あるいはその対語としての「非正社員」ということばが登場するのはそ
の後のことだったとみられる。
                         (編集委員 荻野勝彦)

3 キャリアイベント情報
  ~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~

◆学術振興会日米共同シンポジウム「日本企業の人材育成の現在と未来を語る」
 -失われた10年、人材育成に何が起きたのか-
 平成17年10月28日(金)13:30~17:40
 於 学術総合センター2階 中会議室(東京都千代田区)
 http://www.hrm-sympo-2005.com/index.html

◆経済同友会「同友会起業フォーラム2005」シンポジウム
 「個人の時代こそ起業のチャンス-個人の活力・民間の活力が日本を変える」
 第1回 平成17年11月7日(月)19:00~21:00
 第2回 平成17年12月1日(木)19:00~21:00
 於 東商ホール(東京都千代田区)
 http://www.doyukai.or.jp/kigyo/

◆関西社会経済研究所・関経連 シリーズ・シンポジウム
 「日本社会の変容と活力」第2回「『個』の変容と社会の活力」
 平成17年11月8日(火)15:00~17:00
 於 中之島センタービル29階 関経連会議室(大阪市北区)
 http://www.kiser.or.jp/lecture/lecture_info.html

◆東京大学社会科学研究所人材ビジネス研究寄付研究部門シンポジウム
 「ヘルパーの能力開発とサービス提供責任者の役割-訪問介護サービス業の
  人材マネジメント-」
 平成17年11月16日(水)14:30~17:00
 於 東京大学構内「学士会分館」(東京都文京区)
 http://web.iss.u-tokyo.ac.jp/jinzai/1116.htm

[編集後記]

 昨日、本学会事務局長とともに、人材育成に定評ある中堅企業を訪問しまし
た。技術アイデア社内コンテストの優勝賞品は「自由に使える研究開発予算
100万円」。ほめる、まかせる、やりたいことをやらせる、といった基本に実
に忠実。年間合宿10回の研修コースですべて指導に立つ副社長の熱意。それを
受け継いで各事業所に自然発生的に族生した現場教育。研修は講師もカリキュ
ラムもすべて自前。人材とは採るものではなく育てるものだ、ということをあ
らためて痛感しました。(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.cdi-j.jp/

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◆働く若者ネット相談事業 ご利用のお勧め
 厚生労働省委託事業・日本キャリア開発協会受託・キャリア協議会協力
 webサイトを利用していつでもどこでもネットで相談できる仕組みです。
 また対面カウンセリングや電話カウンセリング、TVカウンセリングも行っ
 ています。詳しくはhttp://net.j-cda.org/まで。     (厚生労働省)

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。

 編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部企画室担当部長)
      児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail cdgakkai@hosei.org
   〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1

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