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□ キャリアデザインマガジン 第18号 平成17年6月6日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 キャリア辞典 「一人一社制」(3)
2 私が読んだキャリアの一冊 R.ドーア「働くということ」
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり研究会を開催いたします。
非会員の方もご参加いただけます。
日 時:平成17年7月15日(金)18:30~20:30
場 所:筑波大学大塚キャンパス G304号室(文京区大塚3-29-1)
テーマ:「英国におけるワーク・ライフ・バランスとキャリアデザイン」
講 師:脇坂明 学習院大学経済学部教授
コメンテーター:布山祐子 日本経団連国民生活本部国民生活グループ長
定 員:60人
参加費:日本キャリアデザイン学会会員は無料、非会員は3,000円
※お申込は、氏名、所属、連絡先(TEL/e-mail)および会員は会員番号を
ご記入の上、cdgakkai@hosei.orgまでEメールでお申込ください。
◆中央職業能力開発協会(JAVADA)平成17年度第1回人材育成戦略講座が開催さ
れます。日本キャリアデザイン学会会員は参加費が割引されます。
日 時:平成17年7月6日(水)、7日(木)
テーマ:「女性を生かした経営戦略」(1日目)
「人と組織を元気にする環境づくり」(2日目)
講 演:東京大学社会科学研究所教授 佐藤博樹氏ほか
企業事例:東横イン、日立製作所 他にコーチング演習などあり
場 所:東京厚生年金会館(ウェルシティ東京)
参加費:2日間 40,000円、1日のみ22,000円
※日本キャリアデザイン学会会員は2割引で参加できます。
http://www.javada.or.jp/jigyou/jinzai/jinzai/jinzai_2005_1.html
◆日本キャリアデザイン学会大会を以下のとおり開催いたします。
日 時:10月1日(土)・2日(日)
場 所:お茶の水女子大学
※自由発表セッションの申し込みを受付中です。
http://www.cdi-j.jp/events/kenkyuhappyou20051001-02.doc
◆今後の研究会の予定は以下のとおりです。
日 時:11月5日(土)午後
講 師:松下電工株式会社ライフデザインセンター所長 村田充範
法政大学キャリアセンター教授 川喜多喬
※詳細は、追って学会ホームページでお知らせいたします。
http://www.cdi-j.jp/event.html
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1.キャリア辞典
~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~
「一人一社制」(3)
近年全国的に見直されたにもかかわらず、すでに一部の学校関係者から「復
活」を求める意見も出ている一人一社制だが、もう一方の当事者である企業は
どう受け止めているのか。
人手不足が基調だった時期には、一人一社制は学校だけでなく企業にとって
も大きなメリットがあった。とりわけ、高卒者を現場要員として多数採用する
大手の製造業にとっては、効率的な採用という面での恩恵は大きかった。人手
不足の中では企業にとって熟練工の十分な採用は望むべくもなかったから、未
熟練者を採用して企業内で育成することが人材戦略の中心になる。となると、
教育投資の回収期間が長い新卒者主体の採用となるのは自然な成り行きだった
だろう。もともと、採用後に育成することを前提にしているから、人数を確保
することが優先され、能力的・人物的な条件はそれほど厳しいものではない。
いきおい、「だいたいこのくらいの人を何人」という採用になる。それになる
べく一致する人を学校が推薦してくれる一人一社制は、見方を変えれば企業の
選好プロセスを学校が肩代わりすることにほかならないから、企業にとっては
非常にありがたいやり方であったと考えられる。しかも、基本的に合格すれば
確実に入社することが前提となっているから、「内定辞退」を考慮して合格者
数を増やす必要もないし、入社数が予想を大きく上回ったり下回ったりする危
険性も低い。また、自由応募だとなかなか応募者が集まりにくい中小企業など
にとっては、学校が企業に代わって学生に企業の特長などを説明し、さらには
説得までもしてくれる一人一社制は、やはり便利なしくみだったのではないか。
そういう意味で、最近では数が減っているものの、短大卒の事務補助職の就
職においても一人一社制と類似の方法がとられているのも、企業がやはり能力
や人物に厳しい条件をつけず、「だいたいこのくらいの人」という採用を行っ
ていることを考えると理解できそうだ。逆に、たとえば大学法学部や経済学部
卒のホワイトカラー幹部候補生のように、能力や人物をしっかり見極めて採用
したい場合は、企業としてもそれなりの手間をかけ、学校まかせにせずに自ら
選考することになるのだろう。
さて、このようなメリットゆえにか、企業サイドから一人一社制の見直しを
求める声はそれほど目立ってはこなかったし、近年の見直しに対しても特段の
混乱なく対応しているようにみえる。もっとも、学校と異なり、企業にはもと
もと一人一社制以外の方法で募集・採用を行うフリーハンドがあったわけだし、
現にさまざまな方法で採用が行われている実態もあるようだ。
とはいえ、企業から一人一社制の見直しを求める声がなかったわけではない。
とりわけ近年、各社とも採用数を絞り込んだことから、少数の採用であればこ
そできるだけ優れた人材を採りたいという「厳選採用」の指向が強まったとい
われる。そうしたなかで、学校が推薦してくる人材に飽き足らず、もっと多く
の応募者のなかから企業みずから選考したい(まさに「厳選」)という要望が
一部からは出てきたようだ。求める要件が厳しくなったことで、大卒ホワイト
カラーと同様の考え方が出てきたということだろうか。
結局のところ、ここには新卒労働市場における需給関係と、それによる企業
と学校(学生)の力関係が色濃く反映されているといえるだろう。最近、高卒
の就職情勢もかなり改善されてきたようだが、依然として地域などによる濃淡
はあるようだ。わが国においては新卒就職の成否がその後の職業人生に大きな
影響を与えることがかねてから指摘している。多くの面で情報や経験が不足す
るなかで就職に臨まざるを得ない新卒者について、その時々の情勢に応じてい
かに望ましい就職・採用を促進していくのか、近年の経験を十分に参考としな
がら、今後もよりよい方法を考えていく必要がありそうだ。
(編集委員 荻野勝彦)
2.私が読んだキャリアの一冊
~キャリアに関する本のご紹介です~
R.ドーア著「働くということ-グローバル化と労働の新しい意味」中公新書
サラリーマンから作家に転じた黒井千次氏に、本書と同じ「働くということ」
というがある。15年間の企業勤務経験をもとに、企業での思うにまかせぬ仕事
の中にも自己実現につながる「職業」の可能性を見出し、「働くことは生きる
こと」と結論づけたこの本は、多くの働く人たちに読み継がれ、1982年の初版
以来、2004年12月までに35版を重ねている。
その2004年には、日本経済新聞社から「働くということ」という本が出た。
新聞の連載をまとめたこの本は、起業、独立、転職こそすばらしいものと賞賛
し、鮮やかな多数の事例で世間の注目を集めたが、長期勤続によって技能を向
上・蓄積するという働き方には否定的だ。黒井氏が万人のものたりうると想定
した自己実現は、起業、独立、転職できる人だけのものとされているようだ。
この間二十数年。「働くということ」になにが起きたのか、とりまく環境は
一変したと言って過言ではない。本書、ドーア氏の「働くということ」は、そ
の原題や訳書の副題のとおり、この間に進展した「グローバル化」が、人々の
「働くということ」にとってどのような意味があったのかを述べている。
コンパクトな中に非常に豊かな内容を含んだ本である。あえてごく大雑把に
この本の主張の要約を試みれば、グローバル化とは「市場個人主義」が国際的
に拡張する過程であるということになるだろうか。それはより具体的にはアメ
リカン・スタンダードのグローバル・スタンダード化であり、その理論的バッ
クボーンは新自由主義経済学だということになる。そしてその結果、本来資本
主義が有していた多様性は失われ、社会的連帯は衰退し、不平等と格差とが拡
大したという。そしてわが国も「遅れてやってきた」だけでその例外ではない。
ドーア氏はこうした傾向に批判的な姿勢をとるが、目新しい具体的施策を提
示しているわけではない。各国各層での連帯とともに、国際機関の役割に期待
するというオーソドックスなスタンスをとる。この本も、国際労働機関(IL
O)と東京大学が共催した社会政策講演によるものであって、大筋としてIL
Oの理念に立っている。しかし著者の見通しは悲観的であり、この本全体に得
も言えぬ諦観がただよう。
この本に対して、市場個人主義を克服する処方箋がないと批判することはた
やすい。しかし私たちは、虚心にこの本を読み、労働に対する強い共感を持ち、
日本への理解と愛情にあふれるこの老碩学の感慨に、深く思いを致すべきだろ
う。本書が指摘するように、市場個人主義の根は深く、単なる方法論で対処で
きるものではあるまい。問題の根はわれわれの心にあり、われわれのすべてが、
たとえばILOの精神に代表されるような精神に立ち返ることに、著者はわず
かな希望と可能性をつないでいるのではあるまいか。
そして本文冒頭にもあるように、その一部には、市場個人主義を主導し拡散
させる「コスモクラット」をも説得する可能性もあるのだ。1944年、ILOは
その目的に関する宣言でその根本原則についてこう宣言した。「労働は、商品
ではない。」「表現及び結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができな
い。」そして「一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である。」
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆東京都・東京都職業能力開発協会「職人塾」
建具、貴金属装身具、いす張り、印章、洋裁、日本調理、畳製作、江戸べっ
甲、剣道具等で、職人と若年者を「親方と弟子」という形でマッチングさせ、
1ヵ月程度の職場体験実習を実施する。申し込みは6月6日~6月20日。
http://www.metro.tokyo.jp/INET/BOSHU/2005/05/22f5p500.htm
◆つながれっとNAGOYA(名古屋市男女平等参画推進センター )
「つながれっとまつり2005」
平成17年6月25日(土)・26日(日)
於 つながれっとNAGOYA(名古屋市中区)
http://www.tsunagalet.city.nagoya.jp/public/inf/inf_event_new_main.asp?KeyNo=EV000087
◆東京ウィメンズプラザ 平成17年度男女共同参画週間記念シンポジウム
「リーダーにチャレンジ~ガラスの天井を叩いてみよう!~」
平成17年6月23日(木)18:30~20:45
於 東京ウィメンズプラザ ホール(東京都渋谷区)
http://www.tokyo-womens-plaza.metro.tokyo.jp/contents/seminar_05062301.html
[編集後記]
本号の「キャリアの一冊」で紹介されているロナルド・ドーア氏は、さる4
月28日(木)、労働政策研究・研修機構の国際フォーラムで講演しました。そ
の講演録が、機構のホームページに掲載されています。
http://www.jil.go.jp/event/ko_forum/kouenroku/20050428_2.htm
講演内容や稲上毅法政大教授のコメント、会場からの質疑に対する回答など、
たいへん示唆に富むものとなっています。本とあわせてごらんになることをお
すすめしたいと思います。動画も配信されていますので、学究の真摯な語り口
に触れることもできます。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.cdi-j.jp/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部企画室担当部長)
児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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