■□□————————————————————–
□□
□ キャリアデザインマガジン 第179号 2025年8月22日発行
日本キャリアデザイン学会 https://career-design.org
—————————————————————-□■
「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでご覧ください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————
1 学会からのお知らせ
2 キャリア辞典 『年上部下・年下上司』
3 私が読んだキャリアの1冊
『個人と組織のための男性育休 ~働く父母の心理と企業の支援~』
尾野裕美 著
4 キャリアイベント情報等
——————————————————————–
1 学会からのお知らせ
◆第 21回研究大会
第21回研究大会は、「創造的復興とキャリアデザイン:未来の地域づくりのた
めにキャリアデザインができること」を大会テーマとし、9月6日(土)7日
(日)に開催いたします。今大会は、新潟県新潟市の開志専門職大学紫竹山キ
ャンパスを会場として対面のみの開催といたします。
学会ホームページの研究大会のページでは、「自由研究発表論題一覧」とシン
ポジウムの詳細を掲載しております。ぜひ、ご覧ください。
なお、参加申し込み期限は8月28日(木)で、大会当日は参加の受付はいたし
ませんので、参加をご希望の場合は、必ず期限までにお申し込みください。研
究大会参加申し込みの詳細も、学会ホームページHPでお知らせしています。
(https://career-design.org/)
◆2025年度 第1回キャリアデザインライブ!
テーマ:ジョブシャドウイング:勤労観・職業観を育む産学連携キャリア教育
開催日時:2025年9月26日(金)19:00~20:30
開催方法:オンライン
【詳細】
今回のキャリアデザインライブ!では、「勤労観・職業観を育む、大学1-2年
次対象の産学連携キャリア教育」という観点からジョブシャドウイングの教育
効果を検討します。さらに、内定者研修としてジョブシャドウイングを活用す
る可能性についても掘り下げます。
登壇者には、関西大学や東京経済大学などの教育機関と連携してジョブシャド
ウイングを実施しているOriginal Point株式会社より、高橋政成様と村岡瑞妃
様をお迎えします。聞き手は、当学会研究会企画委員会委員でジョブシャドウ
イング研究も取り組む小山健太(東京経済大学)が務めます。
大学生のキャリアデザインに関心のある皆様に是非ご参加いただけますと幸い
です。多くのお申し込みをお待ちしております。
<登壇者>
高橋 政成(Original Point株式会社 代表 、産学キャリア研究所研究員)
村岡 瑞妃(Original Point株式会社)
<聞き手>
小山 健太(東京経済大学コミュニケーション学部准教授/当学会研究会企画委
員会委員)
<参加費> 会員/無料、非会員/1000円
<申込詳細> https://career-design.org/conference/20250926/
<申込フォーム>
https://career-design.org/eventform/?EVID=94744016feade744227a657a2aa2116d
会員の方は、会員ログインの上、お申し込みください。
——————————————————————-
2 キャリア辞典
年上部下・年下上司
組織において、年齢が上の部下が、年齢が下の上司の指揮命令下で働く関係
性のこと。かつての日本社会では、長らく年功序列が人事制度の根幹を成して
おり、年齢が上であれば役職も上、というケースが大半を占めてきた。そのた
め、このような年齢と役職の逆転は珍しいものであった。しかし近年では、人
事制度の見直しや組織構造の変化、人材の流動化、働き方改革といった時代の
変化を背景に、特別なことではなくなってきている。今や、多くの職場で見ら
れる配置となり、キャリア形成やマネジメントの現場で避けて通れない重要テ
ーマとなっている。
■背景
この関係が生まれる背景には、様々な要因がある。まず第一に、年齢や勤続
年数よりも実績や能力を重視する成果主義や実力主義の評価制度が定着し、若
手社員が早期に管理職へ登用されるケースが増えたことが挙げられる。例えば、
入社5年目の30歳前後で課長職に就く若手も珍しくない。
定年延長や再雇用制度の普及も大きな要因である。定年前に部下だった年下
社員が管理職に昇進し、定年後に嘱託や契約社員として働く元上司が、その部
下として働くというケースは、多くの企業で日常的に起こっている。また一部
企業では年齢による役職定年制を導入していることも要因の一つだ。
さらに、外部からの中途採用やプロジェクト型の組織運営の増加により、専
門性やスキルを基準に役職が決まることも増え、年齢と役職の関係性はより柔
軟になった。
■課題・メリット
この年齢と役職の逆転は、双方に心理的な影響を及ぼすことがある。年下上
司は、年齢的に上の部下に対して遠慮や気兼ねをしてしまい、指示や評価が曖
昧になったり、必要なフィードバックを控えてしまったりする傾向が見られる。
一方、年上部下は、長年の経験や立場からくるプライドや慣習的な意識が影響
し、年下の上司に対して抵抗感を覚えることがある。特に、年功序列的な価値
観が色濃く残る職場では、信頼関係の構築に時間がかかり、場合によっては職
場の風通しやチームのパフォーマンス低下につながる恐れがある。
一方で、世代を超えた協働には大きな可能性がある。年上部下が持つ豊富な
経験・専門知識・人脈は、チーム全体の資産として活かすことができる。
また、若い世代の上司が持つ新しい発想や最新の知識・技術と融合することで、
問題解決力や創造性が高まり、組織としての競争力向上にもつながる。相互に
リスペクトし合える関係を築けば、年齢に関係なく全員が活躍できる環境づく
りが可能になる。
■これから
「年上部下・年下上司」という関係性は、もはや一時的な現象ではなく、現
代の多様な職場における日常的な構造となっている。そのため、制度・文化・
意識の三つの側面からのアプローチが必要である。制度面では、役職は年齢や
社歴ではなく、明確な役割と責任に基づくことを社内で共有し、評価制度や登
用基準を透明化することが重要である。文化面では、年齢よりも成果や貢献を
尊重する職場風土を育てることが求められる。意識面では、年下上司が年上部
下の経験や知恵を尊重し、必要に応じて学ぶ姿勢を示すことが信頼構築の鍵と
なる。また、年上部下の側にも「上司は年上であるべき」という固定観念を柔
らげ、役割を理解し受け入れる意識変革が欠かせない。
時代はますます成果主義や実力主義の方向に進んでいる。しかしその一方で、
長い社会人経験を通じて培われたベテランの知見や人脈が、異なる形で組織に
貢献できる場面も少なくない。かつての年功序列時代に育まれた価値観や人間
関係が、新たな職場環境の中で別の強みとして生かされることで、日本らしい
多様性と調和を備えた職場のあり方と考えられる。
(編集委員 山下弘晃)
——————————————————————–
3 私が読んだキャリアの1冊
『個人と組織のための男性育休 ~働く父母の心理と企業の支援~』
(尾野 裕美著 ナカニシヤ出版 2023.5.20)
2024年度雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率は過去最高の
40.5%となり、初めて40%を超えた。前年度から10.4ポイント上昇し、1993年
度の調査開始以来の最高値である。一方、女性の取得率は前年度比2.5ポイン
ト増の86.6%と依然として高く、共働きが一般化した現代においても、男女間
には依然として大きな差が存在している。さらに、男性の取得率は伸びている
ものの、実際には数日程度の短期間で終わるケースが多い点が、今後の課題と
して指摘される。
本書は、1ヶ月以上の比較的長期の育休を取得した男性に焦点を当て、育児
休業がキャリア意識や心理社会的側面に与える影響を明らかにするとともに、
男性の育休取得をさらに促進するために、企業が講じるべき支援の在り方につ
いて検討した学術書である。男性の育休をテーマとした専門的な研究として、
注目すべき一冊である。
本書の著者である尾野裕美氏は、食品メーカーの人事担当、人材紹介会社の
キャリアカウンセラー、調査会社の研究員など、民間企業での多様な経験を積
み、現在は筑波大学において研究者の育成に取り組んでいる。自身も子育てを
しながら仕事を続けてきた実践者であり、職場における育児休業取得の困難さ
や周囲への影響についても、実体験を通じて深く理解している。その実体験が、
本研究における独自の着眼点や鋭い洞察を支えている。
序章では、働く女性に関する先行研究を紹介する中で、「女性が出産後も働
き続けるためには、さまざまな葛藤を乗り越える必要がある。そのためにキャ
リアの再探索を迫られ、キャリア意識など自己の内的側面の変容が求められて
きた一方で、男性のキャリア発達はこれまで画一的にとらえられてきた」と述
べられている。実際、女性は産前産後休業も含めて、多くの場合1年以上の休
業を取得しており、それまでのキャリアが一時的に中断される。復職後も継続
できるかどうかという、大きな転機を迎える。一方で、男性の育休がごく短期
間の場合、それを夏季休暇と同じようなものと捉える人も少なくないのではな
いだろうか。
本書は序章、終章を入れて全9章で構成されている。第1部は第1章から第3
章で構成され、働く父親を対象とした実証的検討を行っている。第1章では、
長期育休を取得した男性14名にインタビューを実施し、キャリア意識の変容に
ついて探っている。その結果、自分本位だったキャリア意識が、ワークライフ
バランスへの関心の高まりや、人との交流、育児の現実への直面を通じて変化
し、試行錯誤を重ねながらキャリアを再探索し、自律的にキャリア形成を進め
ていく姿が明らかになった。
第2章では、男性の育休がキャリア自律やワークライフバランスに与える影
響について、653人を対象としたインターネット調査により検討している。そ
の結果、育休取得がキャリア自律心理の側面である「職業的自己イメージの明
確さ」や、キャリア自律行動としての「職場環境変化への適応行動」「キャリ
ア開発行動」「ネットワーク行動」「主体的仕事行動」を促進することが明ら
かになった。また、育休はワーク・ファミリー・ファシリテーションの側面で
ある「仕事→家庭促進」にも正の影響を及ぼすことが確認された。
これらの結果から、男性の育休がキャリア自律を促進する有効な機会となり得
ることが示され、企業における施策推進に対する貴重なエビデンスとなる知見
が得られた。
第3章では、第2章と同じ調査データを用いて、働く父親が長期育休を取得す
る男性に対して抱くイメージを分析している。同じ父親という立場であっても、
育休経験の有無や自身が取得した育休期間によって認識に差が見られた。特に、
自身が長期育休を経験している場合、職場への影響や自身のキャリアへの長期
的な影響をネガティブな側面として捉える傾向があることが示唆された点は注
目に値する。今後、長期的な男性育休を社会全体で推奨していくためには、こ
うした懸念を払拭することが不可欠である。
第2部(第4章・第5章)では、男性の育休がキャリア自律およびワークライ
フバランスに及ぼす影響を検証している。第4章では、夫の育休が働く妻のキ
ャリア自律やワークライフバランスと関連しているかどうかについて、635人
を対象としたインターネット調査により検討している。その結果、夫の育休は
妻のキャリア自律やワーク・ファミリー・ファシリテーションとは関連がない
ことが示された。
第5章では、同じ調査データを用いて、働く母親が長期育休を取得する男性
に対して抱くイメージを検討している。ポジティブな面では、育児に積極的に
参加し家族を大切にしているという印象が強いことが読み取れた。一方、ネガ
ティブなカテゴリーでは「形式的な休暇」が最も多く、育休中の男性の約3人
に1人は1日あたりの家事・育児時間が2時間以下である(日本財団・コネヒト
株式会社, 2019)というデータもあるように、働く母親から見れば、男性の長
期育休は中身のない形だけのものと映る可能性があると解釈できる。
第3部(第6章・第7章)では、企業を対象に実証的な検討を行っている。第
6章では、企業が男性の育休取得をどのように推進しているのかについて、1か
月以上の育休を取得した男性が所属する民間企業12社へのインタビュー調査を
通じて、そのプロセスを明らかにした。その結果、ワークライフバランスを経
営戦略として位置づけ、働き方改革に取り組んでいることが前提として必要で
あること、また、制度やルールの整備だけでなく、職場風土の醸成に向けた工
夫が重要であることが示唆された。
第7章では、男性の育休取得推進策が企業にもたらす成果について、民間企
業300社を対象に質問紙調査を行い、検証している。その結果、男性の育休取
得を促すためのルール策定や、育休に関する情報を企業として幅広く提供する
ことが、従業員の意識変化やワークライフバランスの実現につながることが示
された。さらに、育休を取得した男性の上司が業務調整や協働体制の構築など
の支援を行うことで、職場全体の業務効率化が進む可能性があることも示唆さ
れた。
男性の育休を、働く男性・女性・企業といったさまざまな角度から検証する
ことで、今後の課題が見えると同時に、希望も感じられる内容となっている。
本書は、これから育休を取得する人や、その取得を支援する立場の人にとって、
男性育休の意義をあらためて考えるきっかけを与えてくれる一冊である。
(編集委員 小室銘子)
——————————————————————–
4 キャリアイベント情報等
◆セミナー「仕事と介護の両立支援対策セミナー」
主 催 東京商工会議所
日 時 2025年8月25日(月) 10:00~11:30
方 式 オンライン
詳 細 https://myevent.tokyo-cci.or.jp/detail.php?event_kanri_id=205825
◆セミナー「柔軟な働き方に対応するための労働時間管理・制度のポイント」
主 催 東京圏雇用労働相談センター
日 時 2025年8月26日(火) 12:00~13:00
方 式 オンライン
詳 細 https://tecc.mhlw.go.jp/seminar_info/
◆セミナー「その仕組みと計算、合ってますか?
間違えられない労働時間と賃金計算」
主 催 東京圏雇用労働相談センター
日 時 2025年8月27日(水) 12:00~13:00
方 式 オンライン
詳 細 https://tecc.mhlw.go.jp/seminar_info/
◆フォーラム「健康格差社会とミドル・シニアのウェルビーイング」
主 催 独立行政法人労働政策研究
日 時 第1部 2025年8月30日(土曜)~9月5日(金曜) *オンデマンド配信
第2部 2025年9月5日(金曜)15時00分~17時30分 *ライブ配信
方 式 オンライン
詳 細 https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20250905/index.html
◆セミナー「企業の女性活躍を応援します!女性活躍推進法に基づく一般事業
主行動計画の策定等について」
主 催 杉並区産業振興センター
日 時 2025年9月2日(火) 13:30~16:00
方 式 リアル開催
詳 細 https://www.city.suginami.tokyo.jp/s121/event/21209.html
◆セミナー「ダイバーシティ・マネジメント」
主 催 21世紀職業財団
日 時 2025年9月5日(金) 13:30~15:00
方 式 オンライン
詳 細 https://www.jiwe.or.jp/seminar/open/demo_diversity_management_online#ops-os20250905
◆セミナー「アンコンシャス・バイアスに気づき、キャリアの可能性を広げる」
主 催 東京都労働相談じょうほうセンター亀戸事務所
日 時 2025年9月10日(水)14:00~16:00
男女平等社会における雇用の現状を知るー働き方を取り巻く環境
2025年9月17日(水)14:00~16:00
未来を拓くー自分らしい働き方を見つけるためのヒント
方 式 リアル開催
詳 細 https://www.city.edogawa.tokyo.jp/event/250910koyo.html
◆シンポジウム「科学におけるダイバーシティを考える
~自分らしい進路・キャリアパス選択のために~」
主 催 日本学術会議
日 時 2025年10月4日(土) 13:30~16:00
方 式 オンライン
詳 細 https://www.scj.go.jp/ja/event/2025/379-s-1004.html?utm_source=chatgpt.com
◆セミナー「心理的安全性を高め ダイバーシティを活かす ファシリテーション」
主 催 21世紀職業財団
日 時 2025年10月15日(水) 13:30~15:00
方 式 オンライン
詳 細 https://www.jiwe.or.jp/seminar/open/demo_diversity_facilitation_online#ops-os20251015
*リンクが開かない場合は、お手数ですがURLをコピーして、ブラウザー
の上にあるアドレス欄に貼り付けていただくとご覧いただけます。
——————————————————————–
【編集後記】
以前はよく「異常気象」という言葉を耳にしたが、最近は異常が当たり前に
なってしまった様だ。今月も例年にない酷暑、大雨、干ばつのニュースを耳に
した。自然と同じく、私たちの環境も常に変化している。少し立ち止まり、そ
の変化を考える機会にしてみてはいかがでしょうか。(H)
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
https://career-design.org
□□■————————————————————–
□
日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』https://www.mag2.com
を利用して発行しています。
配信中止はこちら https://www.mag2.com/m/0000140735
無断転用はお断りいたします。
このメールマガジンの文責はすべて執筆者にあり、日本キャリアデザイン学
会として正確性などを保証するものではありません。
【日本キャリアデザイン学会広報委員会】
相澤 修 株式会社ダイナム
石川 了 労務行政研究所(株式会社労務行政)
上野友子
内田勝久 富士電機株式会社
梶田マリ
小室銘子 株式会社パーソル総合研究所
高橋基樹 日本無線株式会社
堀内泰利 筑波大学
松岡 猛 NECライフキャリア株式会社
山下弘晃 東武不動産株式会社
山野晴雄 元・桜華女学院(現・日本体育大学桜華)高等学校
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
〒162-0041 東京都新宿区早稲田鶴巻町518 司ビル3F
国際ビジネス研究センター内
連絡先 e-mail info@career-design.org
————————————————————–□□■