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□ キャリアデザインマガジン 第176号 2025年2月18日発行
日本キャリアデザイン学会 https://career-design.org
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでご覧ください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 学会からのお知らせ
2 キャリア辞典「キャリアブレイク」
3 私が読んだキャリアの1冊
『働くということ「能力主義」を超えて』
勅使河原真衣著
4 キャリアイベント情報等
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1 学会からのお知らせ
◆中京支部第26 回研究会/キャリア研究・政策・国際交流委員会 共同企画
「キャリアの本棚 国際×キャリア」編
開催日時: 2025 年3 月4 日(火)18:30~21:00(受付18:15~)
開催方法:対面
場所:クリエイティブガレージ星ヶ丘 https://cgh.works/
〒464-0802 愛知県名古屋市千種区星が丘元町17-1
【 趣旨 】
前回秩父で開催され大好評だった「キャリアの本棚」がいよいよ愛知で
も開催されます。
今回はテーマを「キャリア×国際」として、それにつながる書籍を登壇者
がそれぞれ紹介しつつ、参加者のみなさまと交流する企画です。
後半は,読んでいて「これ、キャリアにつながるのでは?」と思われた
書籍や小説・漫画などをお持ち寄りいただき、その内容からキャリアに
ついておしゃべりしましょう。
手ぶらの参加ももちろん大歓迎です。今回は非会員のみなさまにもオー
ドブル代のみでご参加いただけるオープン企画です。学会員のみなさま
もそうでないみなさまも、ぜひお越しください。お待ちしております。
<登壇者>
阿部 夢(愛知淑徳大学 助教)
白上 昌子(くらしクリエイト 代表)
土屋武志(愛知教育大学 名誉教授)
<司会>
梅崎 修(法政大学、キャリア研究・政策・国際交流委員会委員長)
<当日の進行>
「キャリアの本棚」の趣旨説明
第1部:登壇者による本の紹介(10 分×3 名+10 分交流)
第2部:参加者によるグループに分かれ,参加者の持ち寄った書籍を
紹介しながらの交流(30 分×2 回)
<持ち物>キャリア研究につながりそうな本
(必須ではありません,テーマは国際でなくてもOK、漫画・小説などでもOK、
学術書や研究書でない気軽なものだと嬉しいです。手ぶら参加でもOK)、飲み物
<参加費>会員・非会員ともに無料
<軽食代>2000 円(簡単なオードブルをつまみながら交流しましょう)
飲み物はついておりませんので,各自ご持参ください。
<申込詳細>https://career-design.org/conference/20250304/
<申込締切>2 月19 日(水)
*食材準備の都合により,2 月20 日以降のキャンセルにつきましては返金できませんのでご了承くだ さい。
<問い合わせ先:careerdesign.chukyo@gmail.com
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2 キャリア辞典
キャリアブレイク
「キャリアブレイク」とは、離職・休職等を通じて一時的に雇用から離れ、人生と社会
を見つめ直す期間をいう。その間、旅行、トレーニング、療養、家族ケア、自己研鑽など
過ごし方は様々あり、欧州では一般的な文化であるそうだ(※1)。
新卒一括採用・終身雇用といういわゆる日本的雇用がいまだ主流であるなか、働くこと
から距離を置く者に対して、なんだか訳ありな人、なんだか大変な人、というように認識
してはいないであろうか。2025年4月より、従業員300人以上の事業所における男性の育児
休業取得率の公表が義務化される。休業取得を組織の戦力外とみなすようなことはあっては
ならない。つまり、当該組織における継続的な就業と組織への貢献とは分けて考えることの
徹底が求められているといえよう。キャリア教育を受けてきた世代の職業観やキャリア意識
の変化は、労働市場の流動化もあいまって、日本的雇用のあり方を問い直す必要性を高めて
いるのではないだろうか。
ここで、「キャリアブレイク」に関する研究(※2)にも触れたい。今から10年ほど前と
なるが、育児、看護・介護、その他様々な事情で離職し、再度就業をした女性を対象とした
インタビュー調査である。いわゆるM字カーブの底は緩やかとなり、女性も就業を継続する
ことが一般的となっている状況であるが、男性と比べて家庭責任を多く担ったり、家計に対
して補助的な働き方を選択したりすることも多い。一見すると、離職期間中はブランク、
つまり外的キャリアのみ着目すると、空白期間と認識されるが、調査対象となった彼女たち
は、内省等により自身のキャリアの変化を受け入れ、今後の展望を明確にしていき、主体的
な行動へ踏み出すという詳細な心理的プロセスが明らかとなっている。そして、「キャリア
ブレイク」を経験することにより、自己効力感をもち難易度の高いスキルを身につけると
いった好循環も描かれている。
本研究論文は性別にかかわらず共感を得るとともに、性別や属性等、一概に捉えることが
できない多様なキャリアの現状を踏まえ、著者の一人である石山恒貴氏は、「キャリアブレ
イク」を「今まで中心的に活動してきたキャリアの役割を手放すことによって、新しいキャ
リアの役割に向けて自分と社会を見つめ直している期間」と再定義している(※3)。
今後も多くの「キャリアブレイク」に出会うであろう。筆者(自分)は、ありたい自分を探
索する終わりなき旅の通過点と考えた。これまでの積み重ねを一旦手放してみたら、その先
に豊かな人生を送るヒントが沢山詰まっているはずだ。
(参考文献)
※1 北野貴大『仕事のモヤモヤに効くキャリアブレイクという選択肢 次決めずに辞めて
もうまくいく人生戦略』(KADOKAWA)
※2 片岡 亜紀子・石山 恒貴「キャリアブレイクを経験した女性の変容─パソコンインス
トラクターを対象とした実証研究─」
※3 片岡 亜紀子・石山恒貴・北野 貴大『キャリアブレイク ─手放すことは空白(ブラ
ク)ではない』(千倉書房)
(編集委員 上野友子)
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3 私が読んだキャリアの一冊
『働くということ「能力主義」を超えて』
勅使河原真衣著
2024/6/17
多くの企業では、人の「能力」を定義し、測り、評価することにより、選抜や昇進
の基準としている。こうした人事管理の営みを当たり前のことと受け止めつつも、人
が人を選ぶことへの傲慢さや限界を感じつつ違和感を払拭できないでいた。企業は人
材開発に取り組み、組織としての能力の総和は上がっているはずなのに、企業の業績
とは必ずしも直接的に結びつく訳ではない。人事部や人材開発部の経営への貢献が問
い正されることもある。一方、働いている当事者は、こうした仕組みの中で、時に喜
び、時に落ち込み、努力したり、諦めたりしながらそれぞれの仕事人生を歩んでいる。
本書は、著者が大学院で教育社会学を学び、外資系人事コンサルティング会社で組織
開発コンサルタントとして働いた経験、自身のがんとの闘病体験をもとに、組織開発
の視点から、現在の学校教育や企業における行き過ぎた「能力主義」に警鐘を鳴らす
ものである。
本書は、まず「選抜」とは何かという問いから始まる。限られた資源を配分するた
めに、近代の身分制度を背景にした自出による選抜では不平等だということで、その
人が何をできるかという「能力」を評価し、選抜するという「能力主義」の原則の存
在を指摘する。そこには、「未熟な」私たちという設定と、頑張った人、「能力」の
高い人は報われるという前提が見え隠れする。しかしながら、「能力」は、人間の何
らかの状態を呼び表す言葉であって、「何か」が実際に存在する訳ではない。そして、
この「能力」の捉え方にまつわる様々な問題を挙げる。
まずは、能力の獲得が家庭環境に左右され社会的階層の固定化を招いていること、
能力定義が抽象的なためにどうすれば能力が上がるのかわからないこと、要求があれ
もこれもと複雑化の一途をたどっていることなどがある。さらに、こうした能力主義
を助長する存在として、人材開発業界やコンサルティング会社が提供するアセスメン
トが挙げられる。人的資本経営やパーパス経営を背景とし、社員の能力を客観的に評
価したい人事部門のニーズに適ったサービスとして導入されるが、利用する側の説明
やフォローが不足している。また、能力主義は、能力を発揮できない社員が心身の健
康を損なう状況を生むことから、メンタルヘルス業界のサービスとも密接に結びつい
ていると指摘する。
次に、イギリスの社会学者、マイケル・ヤングが1958年に出した空想社会科学小説
「メリトクラシー」の紹介が面白い。「国家検定知能指数」なるものが開発され、知
能テストと適性テストの精度が格段に上がり、誰に何をやらせればよいかが完璧に分
かるという設定なのだが、行きつく先は地獄だったという話である。実際に、人が人
を選ぶという行為自体が制御可能なものではないし、メーカーであれば、営業・開発
・生産などの仕事の貢献度に序列がある訳でない。できる、でいないは本人の努力だ
けではなく環境的な要因にも左右される。そもそもの問題は、個人が社会に一人きり
で真空パックされたかのような「人間観」、「仕事の成果観」にあるのではと指摘する。
そして、著者はこうした「能力主義」が陥りがちな状況を脱していくために、「関
係性」に着目する。企業における採用の事例を紹介しながら、コンサルティング会社
の部門長が、社員が優秀かどうか、望ましい性格や能力とは何かという短視眼的な視
点から、レゴブロックのように様々な異なる機能をになう個人の集まりという見方に
変わっていく様を描く。「他者の合理性」を理解し、自身の見方を変えることで、そ
れぞれの良さを生かしたチーム作りがでる。このように自身の「人間観の見直し」が
脱・能力主義だと主張する。
最後に、本書のタイトルでもある「働くとはなにか」という論点に進む。働くとい
う漢字は、人と動くということで、他者との関係性が前提となっている。他者を正し
く「選抜」するという「一元的な正しさ」に視点を置くのではなく、人に対する自分
のモード(態度)を選択するといった視点の転換が働くことを豊かにすることではな
いか、と提言し締める。
本書は人事・人材育成担当者にとって、日常的に使うだけに深く問う機会が少ない
「能力」そのものへの理解を深めていくきかっけになるだろう。ただ、企業が採用や
昇進を決定する際には、職務経歴を参考にアセスメントや面接を通して、限られたポ
ジションに誰を採用するか、昇進させるかを決定しなければならない現実を考えると、
採用する側の視点の転換だけですべてを説明することには限界があるだろう。
また、労働経済学の分野では、工場で働く技能者の能力を定義し、評価することを
研究対象とし、例外や複雑性への対応を知的熟練と名づけ、その能力の言語化に取り
組んできた。人は言葉を介して物事を理解することから、目指す先の姿を具体的に理
解する術として、能力の言語化は能力を評価する以前に人材開発の観点からは重要と
なる。加えて、人の能力の研究は、能力の評価の正確さを追及するだけではない様で、
例えば、カート・フィシャーは、ダイナミックスキル理論のなかで、スキルの環境依
存性、課題依存性、変動性について説明し、能力を静的なものではなく、状況や他者
との関係性において変化するものとして捉えている。
だとすると、まずは「選抜」に関わる人事部門が、こうした各学問領域ですでに示
されている「能力」にまつわる多様な視点・論点を理解したうえで、短絡的な思考に
陥らず、人事制度や採用活動を設計・運用することが求められよう。そして、職場の
管理職や働き手である私たちは、それでも避けられない「選抜」が内包する難しさを
理解し、選抜する自分、選抜される(されない)自分の内面に向き合うこと、選抜や
評価を起点に、内面の成長や新たなスキル習得の支援をすることができるような関係
性に意識を向けることが肝要と思われる。
(編集委員 松岡猛)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
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4 キャリアイベント情報等
◆過労死等防止調査研究センター「研究成果発表シンポジウム」
主 催 労働安全衛生総合研究所
日 時 2025年3月5日(水)
方 式 会場(都内港区)とオンライン開催、参加無料、要事前登録。会場は先着50名、
詳 細 https://records.johas.go.jp/news/r6sympo
◆女性の経済的自立に向けたデジタル人材育成を考えるシンポジウム
主 催 国立女性教育会館
日 時 2025年3月7日(金)
方 式 会場(都内千代田区)開催、参加無料、要事前登録。会場は先着200名
(先着順)
詳 細 https://www.nwec.go.jp/event/event/keizaitekijiritsu_symposium2024.html
◆講座「徹底解説!外国人雇用の基本と実務対応の留意点」
主 催 /かながわ労働センター県央支所ほか
日 時 2025年3月3日(月)、3月10日(月)、大和市で開催(同市と共催)
方 式 参加無料。各回ごとの受講も可。定員各回40名(申込先着順)。
詳 細 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/w4v/cnt/f7599/#tokutei_yamato
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【編集後記】
今年に入って、大型の寒波が日本列島を襲っている。2月に入っても日本海側、北日本
を中心に大雪に見舞われ、列島全体が冷蔵庫の中のような冷え込みだ。自分も久しぶり
にひどい風邪をひき、回復に1週間ほどかかった。疲れに加えての風邪だったと思うが、
健康は病気になって初めてそのありがた味が分かる。まだまだ寒い日は続くと思うが、
ワークキャリアもライフキャリアも健康あってのもの。健康第一で寒い冬を乗り越えたい
ものである。(s)
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
https://career-design.org
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
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会として正確性などを保証するものではありません。
【日本キャリアデザイン学会広報委員会】
相澤 修 株式会社ダイナム
石川 了 労務行政研究所(株式会社労務行政)
上野友子
内田勝久 富士電機株式会社
梶田マリ
小室銘子 株式会社パーソル総合研究所
高橋基樹 日本無線株式会社
堀内泰利 筑波大学
松岡 猛 NECライフキャリア株式会社
山下弘晃 株式会社パソナ
山野晴雄 元・桜華女学院(現・日本体育大学桜華)高等学校
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
〒162-0041 東京都新宿区早稲田鶴巻町518 司ビル3F
国際ビジネス研究センター内
連絡先 e-mail info@career-design.org
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