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□ キャリアデザインマガジン 第16号 平成17年5月2日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 私のキャリア観 東京大学社会科学研究所教授 佐藤博樹(4)
2 キャリア辞典「一人一社制」(1)
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆日本キャリアデザイン学会中間大会(於:千葉県野田市)の参加受付中です。
日 時:2005年6月4日(土)・5日(日)
場 所:千葉県野田市鶴奉7-1 野田市役所
テーマ:「まちづくりとキャリアデザイン」
内 容:1日め(4日)
・市内見学会(会員向け)、公開講演会(市民向け)
2日め(5日)
・シンポジウム「地場産業と地域のキャリア形成」
・シンポジウム「地方自治体とキャリアデザインの課題」
・懇親会 17:00~ 於 野田東武ホテル
詳細は、http://www.cdi-j.jp/events/event-20050604.htmlをご覧下さい。
定 員:100人
参加費:一般行事参加費 会員2,500円、非会員4,000円
懇親会参加費 会員・非会員とも5,000円
申込先:会員番号(会員の方のみ)、氏名、連絡先(住所・電話番号等、会
員の方は不要)、市内見学会(1日め)、講演会(1日め)、シン
ポジウム(2日め)、懇親会(2日め)の参加の有無を明記のうえ、
中間大会申込専用アドレス cdi-appli@hosei.orgまでお申し込みく
ださい。
◆「キャリアデザインマガジン」次号は、5月23日発行とさせていただきます。
ご了承ください。
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1.私のキャリア観
~「キャリア」をめぐる有識者インタビューです~
「就労多様化とキャリアデザイン(4)」(5回連載)
東京大学社会科学研究所教授 佐藤博樹
【第4回】派遣とキャリアデザイン
-----次に、人数的にはたいしたことはないというお話でしたが、派遣に
ついてはどうでしょうか。
佐藤 先のみえないキャリアが増えていて、特に派遣がそうです。派遣ももう
法律ができて十何年もたって、派遣一期生というのはもう三十代後半ですが、
この先のキャリアがあるのか、ずっと派遣でいけるのか。先をみながらキャリ
アを考えるのがキャリアデザインでしょう。でも、本人にできるかというと、
企業が派遣をどう使うのか、派遣会社が派遣のキャリアをどう考えるのかとい
うことにすごく依存していて、個人がどうこうということではないところがあ
るから非常に難しい。
-----派遣については、導入当時はとても美しい絵がありましたね。高い
専門性を生かしていろいろな企業に派遣されて、それでキャリアアップしてい
くという。
佐藤 派遣というのは仕事で選ぶ、ということなら、企業をこえて経理事務と
か秘書とかでキャリアを作っていく、それを考えて次の仕事を派遣ビジネス業
者が開拓できるのか、ということが課題です。それが難しいわけです。派遣ビ
ジネスの営業のあり方、派遣会社が受け入れ先に対してこういう使い方ができ
ますよ、こういう人材がいますよ、という提案型の営業ができないと、派遣社
員の先のキャリアはできていかないのです。
-----そういう議論だと、常用型派遣だと業者に営業のインセンティブが
働きますね。
佐藤 登録型だと業者にリスクがない。それは逆にいうと、派遣社員がどうい
う派遣業者を選ぶかというときに、将来のキャリアまで考えてくれる会社がい
い会社だ、ということにならないと無理ですよね。技術系の常用派遣だと派遣
会社が正社員として雇用してるから、賃金だって多少は考えないといけないし、
技術が上がればいい値段で派遣できるっていうモチベーションがあるけど、登
録型にはない。派遣社員のスキルやキャリアを考える派遣会社にはいい人材が
集まるとか、あるいはユーザー企業から発注がたくさん来るとかいうことにな
らないとダメですね。派遣社員が、個人として自分のキャリアデザインをどこ
までやれるかというと、すごく難しい。
-----しかし、世の中の議論は「自分でやれ」という風潮です。
佐藤 そう、そう。でも、じゃあやれるのか、というと難しい。やはり、派遣
会社がどこまでサポートできるかに依存する。そのためには、派遣社員のキャ
リアまで考える派遣会社がいい会社だ、ということにならないと難しい。
-----いっぽうで、企業が求めるもの、特に登録型に求めるのはフレキシ
ビリティです。すぐに派遣してもらえる、まとまった数が確保できる。
佐藤 でも、やっぱりいい人に来てほしいでしょ。そういうときに、派遣会社
としてはやっぱりいい人をたくさん抱えているということは大事です。
-----もうひとつ問題なのは、受け入れ企業に派遣社員を育成するインセ
ンティブがないことだと思います。派遣社員の側は、それを不満に感じている
という調査結果もあるようです。
佐藤 派遣や有期雇用では難しいですね。まさに本人がやれっていう話になる。
企業は、育成をやらなくてもなんとかなるんだから。日本企業は人的資本投資、
人材育成を積極的にやると言われていましたが、それはやっぱり長期雇用で、
正社員として抱えていたからなんだよな。
-----やらざるを得なかった。
佐藤 本当に企業が社員のキャリアを考えていたのか、っていう判断は難しい
ですね。
-----基調としてずっと人手不足でしたから、中で育てるしかなかった、
ということはあると思います。
佐藤 ですから、パートでも派遣でも正社員でも、あるいは独立開業でも、個
人でキャリア形成なんていうのは、実は成り立たないんじゃないかと思います
ね。企業や仲介ビジネスなんかもふくめてどういうふうにキャリアを作ってい
くか、ということを考えないと実は無理なんじゃないかと。
-----たしかに、今現在の状況としては、正社員のキャリアを守るために、
非正社員のキャリアがないがしろになっているという部分はあるのかもしれま
せん。
佐藤 そこをどうつなげていくかですね。派遣から正社員、パートから正社員、
あるいは正社員から派遣があってもいい。就労多様化でいろんなキャリアが出
てきたんだけど、従来型キャリアを守るためじゃなくて、行き来できることが
大切ですね。それを個人の力だけでできるのかというと、それは企業の側が社
員をどう使うかとか派遣やパートをどう使うとかも関係してくるし、仲介役の
派遣会社や請負会社がどうするかとか、あとは求人情報の出し方とか、そうい
うものが全体として変わっていかないとなかなか難しいでしょうね。(つづく)
(聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)
佐藤 博樹(さとう ひろき)
東京大学社会科学研究所教授。産業社会学専攻。専門は人的資源管理、労使
関係、社会調査。著書に「ユニオン・アイデンティティ大作戦」(1991、共
著、総合労働研究所)、「人事管理入門」(2002、共著、日本経済新聞社)、
「男性の育児休業」(2004、共著、中公新書)ほか多数。
2.キャリア辞典
~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~
「一人一社制」(1)
関係者以外にはあまり知られていないようだが、近年、高校の進路指導の現
場で大きな変化が起こった。長らくわが国で強固な慣行として続いてきた新卒
就職の「一人一社制」が見直されたのだ。
一人一社制は、単純にいえば企業が学校に求人を行い、それに対して学校が
「一人一社」限りの推薦を行う、ということになるだろうか。もちろんそこに
は、「学校は、内定した生徒が辞退しないよう指導する」「企業は、推薦され
た生徒の大半を採用する」という暗黙の了解があったことはいうまでもない。
これは裏返せば、企業が学校に求人を出すことで、採用対象となる学校が限定
される「推薦指定校制度」ということになる。これが学校と企業との長期的な
信頼関係の源泉となり、学校は求人の確保、企業は採用の確保と効率化(適性
などの人物判断の多くを事実上学校に委ねることになり、その分企業の採用コ
ストは抑制される)という共存共栄のメリットを享受できる。長期的な信頼関
係をベースにしているから、長期間にわたって行われるほどにそのシステムが
強固になることは想像にたやすい。こうして、わが国では一人一社制は長年に
わたり、高校だけではなく、一部の短大や大学も含め、広く行われてきた。
それほどまでに強固なしくみが、2002年から2004年までの短期間で全国的に
見直されることになったのはなぜか。理由はいろいろあるようだが、最大のも
のは新卒採用情勢の極端な悪化だろう。たとえば、2002年3月12日の参議院予
算委員会で、当時の坂口厚生労働大臣は「一人の生徒さんが一社だけ紹介を受
ける、そしてそこがもし駄目だったら、そうすると一番最後に、末尾に回され
るということになりますと、最近でございますから、もう就職が困難というこ
とになってしまう」と発言しているし、やはり当時の遠山文部科学大臣もこれ
に続けて「やはりこの就職慣行におきましては、生徒が選択の機会を制限され
ること、それから求人が非常に激減している中では応募する機会も与えられな
いというようなことで、生徒にとって大変な問題がある」「各都道府県教育委
員会において労働部局と連携して検討会議を設置し、就職慣行の見直しについ
て検討を進めるよう、もう指導を実施いたしております」と発言している。実
際、高校によっては求人の中から風俗営業など明らかに好ましくないものを除
くと、残った求人数が就職希望生徒数に大幅に足りないという実態も現れ、事
実上一人一社制が機能停止に追い込まれる例もあったという。
こうした問題は90年代の終わりには意識されはじめていたが、2000年8月に
は文部科学省の「高校生の就職問題に関する検討会議」がその「中間まとめ」
において、「一人一社制による指導や紹介・斡旋を行う場面をできるだけ限定
していく方向で取り組むこと。また、公務員との併願を妨げないこと」との方
向性を打ち出した。これが前出の文科相の発言のとおり文部科学省の方針とな
り、3年間で全国展開されたことになる。
ちなみに、見直しの方向性としては、ある時期(都道府県によって異なるが、
十月一日が多い)までは一人一社制を維持し、その後は複数応募を可能とする
というものが大半を占めるようだが、秋田や沖縄のように当初から複数応募を
可能とする県もあり、富山のように複数応募の時期になっても「推薦は一人三
社まで」という上限を設ける県もあるようだ。
さらに、最近になって、一部からは一人一社制の復活を求める意見も出てき
ているらしい。まだしばらくは、試行錯誤が続くのだろう。
(編集委員 荻野勝彦)
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆法政大学大学院経営学研究科キャリアデザイン学専攻開設記念シンポジウム
「キャリア支援への挑戦 ライフステージを通じる課題」
5月14日(土)13:00~17:30
於 法政大学市ヶ谷キャンパス・スカイホール ボアソナード・タワー26階 http://www.hosei.ac.jp/gs/info/05/0319/index.html
◆読売・早大 女性アカデミア21「女性は国際社会でなにができるか」
5月14日(土)13:00~16:00
於 早稲田大学 井深大記念ホール(東京都新宿区)
http://info.yomiuri.co.jp/event/04001/200504136955-1.htm
◆独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策フォーラム
「NPOは雇用の場になり得るか?」
5月25日(水)14:00~17:00
於 「女性と仕事の未来館」ホール(東京都港区)
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/info/20050525form.htm
[編集後記]
本号はゴールデン・ウィークの真っ最中での発行となります。3連休の合間
に読んでいただいているのか、大型連休明けに読んでいただいているのか、い
ずれにしても有意義なお休みであることをお祈りします。一応、このメールマ
ガジンも世間並みに連休中は編集作業もお休みということで、次号の発行は3
週間後の5月23日とさせていただきます。ご了承ください。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.cdi-j.jp/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部企画室担当部長)
児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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