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□ キャリアデザインマガジン 第157号 2021年12月17日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 学会からのお知らせ
2 キャリア辞典 「キャリア・パスポート」
3 私が読んだキャリアの1冊
『猫が30歳まで生きる日』宮崎 徹著
4 キャリアイベント情報等
5 学会活動ニュース
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1 学会からのお知らせ
◆2021年 第4回キャリアデザインライブ!~キャリデザイントーク編
テーマ: 「世界史的事態に直面したこの2年とこれから。HRは何を考え、
どこへ歩むか。企業人事に身を置く学会員4名によるワイガヤ・ダイアローグ
~学会紹介も兼ねて」
【 研究会詳細 】
キャリアデザインライブは幅広いテーマを扱い、多様な分野で活躍する学会員に
様々な学びの場を提供するとともに、学会員以外の方にも学会に興味をもってい
ただく場としても機能していきたいと思っています。今期は、11月~翌8月まで
怒涛の10カ月連続のライブ開催を目指していますが、その2回目は非学会員の方
にも気軽に参加いただける内容にしました。
当学会は一人ひとりのキャリアをテーマとして扱う学会です。キャリアを考える場合、
単にアカデミアに身を置く人間だけではなく、ビジネス現場に身を置く実務家の皆さん
とともに語り合うことは重要だと思っています。特に企業内でHRを担当している方には、
是非とも興味をもって参加いただきたいと思っています。今回はそんな思いも込めて、
人事の実務家でもあり学会員でもある4人が登壇し、ガヤガヤとダイアローグします。
この2年間、コロナ禍という世界史的な事態の中に私たちはいました。従来の当たり前を
当たり前のように行うことが困難になり、様々なことを変えざるを得なくなった2年間です。
これは逆にこれまではできなかった様々なことにチャレンジした2年間でもあり、あらゆる
ことに真剣に知恵を絞り、真摯に取り組んできた2年間でもあります。HRの観点から、
この2年間を「ポジティブに」振り返り、これからのHRが考える必要のあることに思いを
馳せたいと思います。参加者の皆さんからもご意見をいろいろといただければと思います。
そして、今回は通常のキャリアデザインライブとは異なり、キャリアデザイントーク編と
称し、非学会員の方も無料参加ができるようにしました。登壇者4人の学会参加動機や、
学会活動の紹介もさせていただきます。学会員の方はもちろんですが、非学会員でHRを
担当している多くの方の参加をお待ちしています。是非、この機会にキャリアデザイン学会
に興味をもっていただける方が一人でも増えればと思います。
学会員の皆様は、お知り合いに拡散をお願いします。
開催日時:2021年12月20日(月)19:00~20:30(オンライン入場開始:18:45~)
開催方法:Zoomによるオンライン配信
※申し込みいただいた方にzoom IDをご連絡いたします。
登壇者:
・梶田マリ(株式会社モスフードサービス、当学会事務局次長・
研究会企画委員会副委員長・広報委員会副委員長)
・金子尚絵(株式会社税務研究会、当学会理事・事務局次長)
・佐伯和則(株式会社ソラスト、当学会研究会企画委員)
・田中潤(株式会社Jストリーム、当学会副会長・研究会企画委員長)
参加費:会員/無料、非会員/無料(事前申込制)
申込詳細:https://career-design.org/conference/localtokyo2021-4/
◆研究誌「キャリアデザイン研究」vol.18の投稿受付
研究誌「キャリアデザイン研究」vol.18の投稿受付は、下記の期間となります。
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【投稿期間】 2021年12月1日(水)~2022年1月15日(土)必着
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投稿を希望される方は、投稿募集のページをご覧下さい。
あわせて、「運用規定」・「執筆要領」もお読みください。
□投稿募集
□運用規定
□執筆要領
◆2022年 第1回キャリアデザインライブ!
テーマ: 対話とは何か? ~「対話」を展示するダイアログ・ミュージアム
「対話の森」を主宰する志村季世恵さんを迎えて考える~
【 研究会詳細 】
見えないからこそ、見えるもの。
聞こえないからこそ、聴こえるもの。
老いるからこそ、学べること。
ダイアログ・ミュージアム「対話の森」のホームページの冒頭にはこのメッセージが
あります。対話の森とは? | ダイアログ・ミュージアム「対話の森(R)」
(dialogue.or.jp)
ここ「対話の森」の中のダイアログ・イン・ザ・ダーク、ダイアログ・イン・サイレンス、
ダイアログ・ウイズ・タイムという3つの体験型エンターテイメント施設では、それぞれ
視覚障がい者・聴覚障がい者・高齢者が、見えない世界、聴こえない世界・年を重ねた世
界をアテンド(案内)してくれます。ハンディキャップや世代、文化、宗教、民族など世
の中を分断しているたくさんのものを対話によってつなげていく。
「対話の森」の主催者である志村季世恵さんにこの施設にこめている思い、また実際にそ
こで起きている変化等、ダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドスタッフも交えて語って
いただきます。
会話でもなく、ディベートでもなく、議論とも違う、「対話」とは何でしょう?
これを考えることで人と人とのつながりについて、わかりあうことについて一歩深めて
いきませんか。
キャリアデザイン学会に集う人、興味のある人であれば、人と人とのつながりについて、
もっと深く知りたいと思うはず・・・今回はそんな意図から企画しました。
「対話の森」を訪れたことのある人も、ない人も、多くの人の参加をお待ちしています。
開催日時:2022年1月17日(月)19:00~20:30(オンライン入場開始:18:45~)
開催方法:Zoomによるオンライン配信
※申し込みいただいた方にzoom IDをご連絡いたします。
ゲスト:志村 季世恵(しむら きよえ)さん
一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表理事。「ダイアログ・イン・ザ・
ダーク」コンテンツプロデューサー。「ダイアログ・イン・サイレンス」総合プロデューサー。
1999年日本でのダイアログ初開催以来、アテンドの研修ならびにコンテンツ開発を担当。
発案者アンドレアス・ハイネッケ氏から暗闇の中のコンテンツを作ることを任されているただ
一人の女性。
主な著書
『さよならの先』(講談社文庫)、『いのちのバトン』(講談社文庫)、
『まっくらな中での対話』茂木健一郎(講談社文庫)等
聞き手:鬼沢 裕子(研究会企画委員)
参加費:会員/無料、非会員/2,000円(事前申込制)
申込詳細:https://career-design.org/conference/localtokyo2022-1/
◆2021年 第3回キャリアデザインライブ!報告
日 時:2021 年 11 月 19 日(金)19:00~20:30
テーマ: 「脳科学者の母が、認知症になる」の著者、恩蔵絢子さんに伺う
――認知症の家族とともに生きること、その人の「その人らしさ」とは何か?
ゲスト:恩蔵 絢子さん(脳科学者)
聞き手:稲垣 久美子(東京成徳大学、研究会企画委員)
坂口 慶樹(研究会企画委員、兼報告者)
当初想定を上回る多数の皆さまのご参加を得て、学会新年度、新体制下での、
初の研究会「キャリアデザインライブ!」を開催することができました。本会はもと
もと「ライブ感」にとことんこだわり、対面と即興重視で行ってまいりましたが、諸
般の状況を踏まえ、当面オンラインでの開催を継続することになりました。ただ、あ
のライブ感は残したい! そこで今回は、東京成徳大学の稲垣久美子さんの研究室を
お借りして基地局と称し、恩蔵絢子さんと聞き手二名の計三名が対面し配信するかた
ちでお送りました。ライブ感が、恩蔵さんの発した言葉だけではない雰囲気が、少し
でもご参加の皆さまに伝わっていてくれれば、と思います。
さて、恩蔵さんのお母さまは、六五歳でアルツハイマー型認知症と診断されました。
その日から恩蔵さんは、「医者が患者を診るように、第三者として『病気』に向き合
うのではなく、脳科学者であり、もともとの母の性格をよく知っている娘」(*1)
として、徹底的にお母さまと向き合ってこられています。そういう日々を通じて恩蔵
さんは、お母さまの「母らしさ」とは何か、について思い巡らせ、具体的に次のよう
な自問を胸中に抱きながら過ごされてきました。
・人は、以前できたことができなくなったとしたら、それは「その人らしさ」を失う
ことになるのだろうか?
・その人の記憶こそが、はたして「その人らしさ」をつくっているのだろうか?
時間がたつにつれ、それらの自問に対する自答が見えてきます。
認知症は、けっしてその人らしさを失う病いではなかったのです。
今回のライブ!において恩蔵さんは、身振り手振りを交えながら、自然体で語ってく
れました。そして、よい意味で私たちの固定観念や思い込みを、さまざまに揺さぶって
くれました。ここでは、そのうちの二点を紹介します。
まず恩蔵さんは、私たちの、脳に対する単純な理解に注意を促します。「脳は右肩上が
りに成長し続けなければならないもの」、という見方が一般的です。しかし一方で、本人
はがんばっているつもりでも、外形的には何も変わっていない、むしろ悪いことが続いた
りする時期があることは、案外多くの方が実体験をもって了解されるのではないでしょうか。
それは、‘Silent period’と言われており、むしろそういう一見後退しているように見え
る時間にこそ、脳も含む身体の深奥で静かに確実に進んでいる処理があり、その後の真の成
長に不可欠なものなのです。
もうひとつ、個人の特性を、開放性、誠実性(一貫性)、外向性、協調性、神経症的傾向
(内向性)の五要因から分析する「Big5理論」というものがあります。認知症の方の場合、
すべての要因で悪化すると言われており、これを見て恩蔵さんは直観しました。「この分析
結果が、本当にその人らしさなのだろうか? 確かに統計的には正しいけれど、類型で個人
を語ることはできないのではないか……」。ここで、科学的手法だけでは決して語ることの
できないもの、抜け落ちてしまうものが確かにあることに気付いたと言います。
「ちびちゃんたちはもう寝たの?」
恩蔵さんのお母さまは、例えば食卓でくつろいでいる時などに、「ちびちゃん」という言葉
が出ることが多いとそうです。そんなとき恩蔵さんは、以前なら「ぎょっとした」ところが、
今では違います。むしろ、「『ちびちゃん』が何度も現れるということは、それだけ母の記
憶のシステムの中で、ちびちゃんが大きな位置を占めているということだ。ぎょっとはするが、
それを確認できることなので、私にとっては、母の愛情を一番感じる出来事になっている」(*1)、
こんなふうに捉えられるようになったのです。
「言葉で言えることだけを見ることは、本質を見逃すこと、むしろ言葉で表されないものに
こそ注目してみると、その人が本当に大事にしていたものが見えてくる……」、そんな恩蔵
さんの言葉が、耳に強く残っています。
恩蔵さんが、一枚の、わずかに色褪せした写真を画面にアップしてくれました。そこには、
舞台上でおめかしをしてポーズを取る、かわいいちびちゃんの姿が写っていました。
また、「ちびちゃん」という言葉は、リラックスした気分の時に出ることが多いと言います。
「人間の子供の研究では、母親や、母親に代わる自分を守ってくれるあたたかい存在がないと、
新規な環境を探索できなくなることが知られて」(*1)います。お母さまが自ら「何かやり
たい」と動き出すには、そんな「安全基地(Secure base)」が必要だったのです(*2)。
最近では、通われている施設で新しいお友達もできたそうです。人間の底力を感じました。
今回、恩蔵さんのお話を伺って、私自身、気付かぬうちに自らの背後に迫りくることとして、
また故郷に暮らす高齢の母をはじめとする家族のこととしても、たくさんの示唆と勇気をいた
だきました。ただ、恩蔵さんに揺さぶっていただいたのは、認知症に直かに関わることだけで
はないように思います。
本学会は、大学の先生方、キャリアコンサルティングや進路相談をはじめとするキャリア形成
にかかわるお仕事の方、企業で働く皆さんなど、多様なバックグラウンドを持たれた方の集まり
であり、私も含め人と向き合いながらお仕事をされている方の集まりと総括できるかも知れません。
恩蔵さんには、日常のあらゆる場面で接する人たちをはじめとする、人間に対する見方や態度に、
歪みはありませんか? と問われているようにも感じました。
「世の中の一人ひとりが、安心を与えられる存在になれたら……」
そんな、切なる希いを込めて語るような恩蔵さんの言葉もまた、耳に強く残っています。その
言葉は、新型コロナ禍も含めた将来に対し、様々なる不安多き時勢にあって、次年度には二十周
年を迎える本学会に所属する私たちが今後歩むべき道を照らしてくれる、希望の一灯のようにも
見えました。
ライブ終了後、参加者の方からこんなメッセージをいただきました。「とってもあたたかな企画
をありがとうございました」。「恩蔵先生の明るさに、基地局全体が照らされているような感覚を
抱くくらい、とても楽しく、実りある時間を頂きました」。確かに灯はあったのです。恩蔵綾子さん、
改めてありがとうございました。
(*1)恩蔵絢子「脳科学者の母が、認知症になる
―記憶を失うと、その人は“その人”でなくなるのか?」、河出書房新社
(*2)「人間は、どの年齢層においても、何か困難が生じた際に援助し
てくれると信頼の置ける人が自らの背後に一人以上いるとの確信があるときに、
最も幸福であり、かつ能力を最大限に発揮できるという証拠が蓄積されつつあります。
……愛着対象――安心の対人的基盤――の必要性は、何も子どもには限られてはいません」。
(ボウルビイ「母子関係入門」、作田勉監訳、星和書店)
追記)恩蔵絢子さんは小生の友人であることから、「さん」付けにて認めました。
恩蔵さんはじめ関係各位のご寛恕を切に願い上げます。 以 上
◆学会ウェブサイト(http://www.career-design.org/)、フェイスブック
(https://www.facebook.com/careerdesigngakkai)随時更新中です。
ぜひご一読ください。
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2 キャリア辞典
「キャリア・パスポート」
「新学習指導要領」の改訂に伴い2020年度より、「道徳の教科化」「英語教育の
早期化」とともに、特別活動を要としたキャリア教育実践のための効果的なツール
になるものとして「キャリア・パスポート」が導入された。キャリア・パスポート
とは、小中高校生を対象に、学校生活の目標を自ら設定して、どの程度達成できた
のかを自己評価するもので、文部科学省は「小学校から高等学校を通じて、児童生
徒にとっては、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり、振り返ったりして、
自己評価を行うとともに、主体的に学びに向かう力を育み、自己実現につなぐもの。
教師にとっては、その記述をもとに対話的にかかわることによって、児童生徒の成
長を促し、系統的な指導に資するもの」と説明している(文部科学省「『キャリア
・パスポート』の様式例と指導上の留意事項」2019年)。
新学習指導要領では、小学校から中学校、高校にかけて児童・生徒の発達段階を
踏まえたキャリア教育の推進が新たに求められるようになった。ここでいう「キャ
リア教育」とは、就業体験や進路指導ではなく、児童・生徒自身がキャリアを形成
するために必要となるさまざまな汎用的能力を育てていくという教育を指しており、
この意味でのキャリア教育は学校の教育活動全体を通して行うべきだという考えか
ら、キャリア・パスポートの導入が進められることになった。
キャリア・パスポートに記録していく活動は、日々の教科学習というよりも特別
活動をはじめとした活動が中心となる。この背景としては、新学習指導要領改訂の
議論の中で「キャリア教育の中核的な指導の場面で特別活動が大きな役割を果たす
べきだ」という議論が行われたことが関係している。したがって新学習指導要領で
は、一人一人のキャリア形成と自己実現を支援するための具体的な特別活動として、
「学校、家庭及び地域における学修や生活の見通しを立て、学んだことを振り返り
ながら、新たな学習や生活の意欲につなげたり、将来の在り方生き方を考えたりす
る活動を行うこと」(「高等学校学習指導要領」)と記され、そのような特別活動
を行う際に、「生徒が活動を記録蓄積する教材等を活用すること」と明記されてお
り、この教材に当たるものがキャリア・パスポートとされている。
これまでも、市町村教育委員会単位、あるいは個別の学校単位の取り組みとして、
ポートフォリオ教材を用いるキャリア教育を行ってきたところもある。そうした草
の根で行われていたことを、いわば文科省が政策化し、記録を小・中・高と継続し
て利用することを求めたものを「キャリア・パスポート」と名づけたといえる。
キャリア・パスポートは小学校入学から高校卒業まで、学年、校種を越えて持ち
上がることを踏まえ、各シートはA4判(両名使用可)に統一、各学年での蓄積は
数ページ(5枚以内)とされ、文科省はキャリア・パスポートの様式を例示している。
例示されている1年間の振り返りシートには、授業・行事・部活動等で心に残ってい
ることや自分で成長できたことなどをまとめ、将来の目標とそれに向けた具体案が
記入できるようになっている。文科省の様式例をそのまま使用するのではなく、各
地域や学校の実態に応じて柔軟にカスタマイズして使用することとされている。
キャリア・パスポートは、成績表のように教員が記入するのではなく、児童・生
徒が自ら記入することが特徴である。児童・生徒が、自らの学習や活動を振り返る
ことで成長を実感し自己肯定感を高めるものであり、教員は成績の評価につなげる
のではなく、指導の材料にするというのが、本来の目的であるからである。
キャリア・パスポートの活用の仕方は学校に任されているが、たんに記録するだ
けでなく、ガイダンスとカウンセリングで活用することが求められている。例えば、
学級活動やホームルーム活動で児童・生徒がキャリア・パスポートを用いて話し合
いをし、「なりたい自分」に向けた目標を意思決定する、あるいは個人面談で児童
・生徒の成長を評価したり気づきを促したり対話的に関わることなどである。
ただこのキャリア・パスポートが評価の材料に使われ、学校が無理に目標を立て
させて達成度を測るようなことが行われると、児童・生徒は無理に目標を立てさせ
られていると窮屈に感じ、本来の目的を損なうのではないかといった懸念も出され
ている。
児童・生徒がキャリア・パスポートを通じて自身の過去を振り返って自己評価し、
将来についてより深く考えられるようになるためには、教員の援助が欠かせない。
また、保護者の理解・協力も必要である。まだ始まったばかりであり、どのように
活用されていくのか見守っていく必要がある。
(編集委員 山野晴雄)
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3 私が読んだキャリアの一冊
『猫が30歳まで生きる日』
宮崎 徹著(時事通信出版局)
今年の夏、ある経済紙で本書を紹介していた。表紙の猫が愛らしい。かつて犬嫌いの
私が、体調不良の時期に出会った子犬の無邪気な可愛さから心が癒され救われて早3年。
今では、犬好きを公言している。日々の生活の一員、家族になった愛犬が長生きしてく
れたらどんなに幸せかと思い、愛猫を題材にしているこの本を手に取ることにした。
著者の宮崎さんは、東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター分子病態医科
学教授。1986年、東大医学部卒のお医者さんだ。同大病院第三内科に入局。熊本大大学
院を経て、92年より仏ルイ・パスツール大学で研究員、95年よりスイス・バーゼル免疫
学研究所で研究室を持ち、2000年より米テキサス大学免疫学准教授。06年より現職。タ
ンパク質「AIM」の研究を通じてさまざまな現代病を統一的に理解し、新しい診断・治
療法を開発している。趣味は音楽だそうだが、オーケストラの指揮者になりたくて「世
界のオザワ」に直談判。海外研究先から帰国し、世界的なピアニストを安田講堂に呼び
寄せるなど、徳もあり、大胆な行動力の持ち主でもある。
時間のない方に、本書のポイントを解説すると、血液中のタンパク質「AIM」(AIM
とは、Apoptosis Inhibitor of Macrophageの略。マクロファージの細胞死を抑制する分子)
の話である。これを治療薬にできれば私たち人間が恐れる、腎臓病、アルツハイマー型認
知症(レビー)、メタボリックシンドローム、肝臓がんなどが治る可能性があるという。
巷で言われる「何にでも効く」物質である。
ほとんどの場合、つまりこの手の話はたいていいかがわしいものだ。しかし、AIMの機
能が〝ゴミ掃除の目印・ゴミに張り付いて〟ここにゴミがあるよと知らせてくれるので、
マクロファージは効率よくゴミを食べて掃除できるようになり、例えば腎不全を防ぐこと
になる。腎臓病などこれらの病気が体内の組織から出るゴミの蓄積と関係があると知れば、
もしかしたらゴミ処理し、病気の状態を改善、あるいは治る可能性があるのかと期待が膨
らむ。
東大医学部を卒業して、医師免許を取り研修医になった著者は、勤務先になった市中最
前線の病院で多様な急性期の患者の対応に追われた。内科の教科書には、「この病気には
この治療法を」と書かれていたそうだが、実際の臨床の現場に立つと、治せない病気を抱
えるたくさんの患者に出会う。研修後、東大病院に入局すると慢性で深刻化した患者の病
気との戦いが始まる。その相手は、腎臓病。人間が生きていくうえで、体のいろいろな臓
器にはたくさんの老廃物ができる。生活すると必ずゴミが出るのと同じことだ。こうした
老廃物は、血液中に放出され、腎臓がこうした老廃物を含んだ「汚れた血液」をきれいに
する役割を担っている。
この腎臓機能は、高血圧、糖尿病、腎臓炎症などの疾患と共に10年から数十年かけてじ
わじわと悪化し、徐々に血液中の老廃物を濾過できなくなる。最後は、老廃物が有害な尿
毒素として体内に蓄積し、致命的な末期腎不全。人工透析が残された延命措置となるが、
透析を受けている人は日本では33万人超だ。なぜ、こうした腎臓病が起こるのか、起こっ
てしまうと治ることなく、なぜ進行し続けるのか、その原因やメカニズムは明らかになっ
ていない。
さて、著者のキャリアの原点には、使命感と探求心がある。先輩・仲間の論文を紐解く
洞察力、アドバイスを聞く柔軟性、そして社会に貢献しようとする熱い思い。恩師が与え
てくれた研究テーマ「自己免疫性糖尿病」に関するものが「ネイチャー(nature)」に取
り上げられると、スイスのバーゼル免疫研究所では研究者として、未知のタンパク質AIM
を発見。その後、テキサス大学で莫大な研究費支援を基に、AIMの一端を明らかにする。
海外勤務における数々のエピソードは、ぜひ本を手にして、その醍醐味を味わっていだき
たい。
日本に帰国した著者は、治せない病気の共通点を見い出す。そのきっかけはワイン仲間
の㈱CSKの有賀さんとの出会いからだ。「人類は100万年以上滅びずに生き延びている。だ
から、体には、自分でいろいろなゴミを掃除する力がそなわっているじゃないですか?」
その言葉から、「人間の体にある、その清掃能力のメカニズムを強化すれば、自然にゴミ
は清掃され、治せない病気も治るはずだ」と考えた。
その後、偶然にもAIMが体の中で発生する死んだ細胞を清掃するための要となるタンパ
ク質であることを発見し、それを体の中に増やすことで腎臓病が治療できることが分かっ
てきた。大学の獣医学の先生や、動物病院の開業医との出会いを通じ、「猫にAIMはない
のか」と問われたことが、猫薬開発のきっかけとなる。その開業医から「猫はものすごく
腎臓病が多く、それが原因で亡くなる。その理由が分からないし、治療法もない」と。
持ち前の使命感からか、その後、いろいろ調べて行くと、トラ、ライオン、ヒョウ、
チーターなどのネコ科の動物もネコ型のAIMを持っていて、やはり彼らも腎臓病を多発し、
それが原因で亡くなる症例が多いことが分かっていく。どうやら、ネコ科に限ってAIMが
正常型に進化しなかったことが見えてきた。腎臓病を患う猫にAIMを注射するとどんどん
元気になり、腎不全末期の猫が動き回れるまで回復したそうだ。ただ、どのように尿毒素
が清掃されるかまでは、調べることができていない。
現在、猫薬の開発が進んでおり、本格的な治験に必要な新薬生産と精製の方法を決め
る段階にきているという。どうしても腎臓病の猫を治して、オーナーさんをハッピーに
したいといった熱意と執念が、さまざまな課題を乗り越えさせたのだろう。研修医時代、
目の前にいる患者を救いたいと思った青年の自己実現である。ヒトAIM薬の開発にも凄み
を感じる。腎臓で苦しむ全ての猫と、多くの病気に苦しむ人のために、早期の完成が待
たれる。この画期的な治療法が早く確立するよう、一個人としても、一飼い主としても
祈っている。
本書では、AIMを使った薬の第1号が猫の腎臓病薬で、うまくいけば猫の寿命が30年近く
に延びると述べられている。一般人には馴染みの少ない医学の話が、非常に平易で分かり
やすく語られている。だからと言って技術の解説書的ではなく、親しみやすいエピソード
満載で、読み物としても秀逸だと感じる。著者のキャリアアップのプロセスも語られてお
り、これから社会に出る高校生、高専生、大学生にも読ませたい一冊。愛犬・愛猫家はも
ちろん、技術者・研究者を目指す人にも勧めたい。
〈追記〉報道からの抜粋だが、このAIMは、薬品にする製造のための開発をほぼ終了すると
ころまできた。しかし新型コロナウイルスの影響で研究費不足に陥り、開発は中断を余儀な
くされてしまったということが、7月11日の時事ドットコムニュースに流れた。それを読ん
だ人たちが、研究を支援しようと東京大学への寄付が急増。猫の腎臓病の治療薬開発をめざ
東京大学のチームの研究に1カ月で約1万3400件、約1億7600万円の寄付が集まった(朝日新聞)
とのこと。資金不足による研究の停滞がインターネットで伝わり、寄付の輪が広がった。寄
付事務を担う東大基金事務局によると、東大への寄付は例年、年間1万件程度。猫研究への
寄付は前代未聞の殺到ぶりで、担当者も「史上初めての出来事」と驚きとともに安堵していた。
(編集委員 内田勝久)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
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4 キャリアイベント情報等
◆2022年第1回キャリアデザインライブ
日 時 2022年1月17日(月)19:00~20:30
テーマ 対話とは何か? ~「対話」を展示するダイアログ・ミュージアム
「対話の森」を主宰する志村季世恵さんを迎えて考える~
【 研究会詳細 】
見えないからこそ、見えるもの。
聞こえないからこそ、聴こえるもの。
老いるからこそ、学べること。
ダイアログ・ミュージアム「対話の森」のホームページの冒頭にはこのメッセージがあります。
対話の森とは? | ダイアログ・ミュージアム「対話の森®」 (dialogue.or.jp)
◆講演会「Withコロナ時代の若年従業員・中高年従業員に対するメンタルヘルスケア」/東京都
日 時 2022年1月7日、21日 講演会「Withコロナ時代の若年従業員・中高年従業員
参加費 受講料無料(オンライン開催)。定員各回200名。
詳 細 https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/tokyokaigi/rinji1/shokuiki.html
◆セミナー「パワーハラスメント防止のための管理職のマネジメント」/東京商工会議所
日 時 2022年1月20日
参加費 無料。定員30名。
詳 細 https://event.tokyo-cci.or.jp/event_detail-109227.html
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5 学会活動ニュース
◆2021年11月12日(金)
2021年度 第1回 研究会企画委員会 於Web会議
−2021年11月19日・12月20日キャリアデザインライブ実施の件、
今年度キャリアデザインライブの企画検討他
◆2021年11月19日(金)
2021年 第3回キャリアデザインライブ!
テーマ:「脳科学者の母が、認知症になる」の著者、恩蔵絢子さんに伺う
――認知症の家族とともに生きること、その人の「その人らしさ」とは何か?
ゲスト:恩蔵絢子(おんぞう あやこ)氏
聞き手:稲垣久美子(東京成徳大学)、坂口慶樹(研究会企画委員)
◆2021年11月27日(土)
2021年度 第2回 中京支部 於Web会議
-今年度の活動計画の検討他
◆2021年12月5日(日)
2021年度 第2回 地域連携・支部活動推進本部 於Web会議
-今年度の活動計画の検討他
◆2021年12月11日(土)
2021年度 第1回 研究大会企画委員会 於Web会議
−委員会業務の件、大会テーマならびに企画検討の件、大会参加費の件
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【編集後記】
今年もついに師走。そして新型コロナウイルスによる「新しい日常」が始まって
早2年が経過しました。オミクロン株など変異種とのイタチごっこはしばらく続きそ
うですが、自然の一部であることを自覚しつつ、さまざまな活動が少しでも前に進む
ことを祈っています。今年もお世話になりました。良いお年をお迎えください。(s)
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.career-design.org/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
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【日本キャリアデザイン学会広報委員会】
石川 了 労務行政研究所(株式会社労務行政)
内田勝久 富士電機株式会社
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小室銘子 株式会社パーソル総合研究所
高橋基樹 日本無線株式会社
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松岡 猛 NECマネジメントパートナー株式会社
松原光代 PwCコンサルティング合同会社
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