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□ キャリアデザインマガジン 第148 号 2020 年6月20日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 学会からのお知らせ
2 キャリア辞典 「副業・兼業」
3 私が読んだキャリアの1冊
『英語de人事 ―日英対訳による実践的人事』
白木 三秀・ブライアン・シャーマン著
4 キャリアイベント情報等
5 学会活動ニュース
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1 学会からのお知らせ
◆新型コロナウイルス感染拡大防止への本学会の対応
2020年度「第17回研究大会」は、2020年9月12 日(土)・
13日(日)の両日、新潟大学五十嵐キャンパスを会場として開催する
予定でおりました。しかし情勢を鑑み、今年度は延期することとさせて
いただきます。
なお、2021年度の研究大会に関しましては、早期に日程と会場を
お示しできるように検討してまいります。
併せて、2020年度「奨励研究」の募集に関しましても、延期と
させていただきます。現状では十分な研究体制の確立が困難になって
いることにより、判断させていただきました。
会員の皆様には、研究発表の場や若手研究者等の育成の機会が失われ、
学会としての役割が果たすことができない状況となりますが、何卒ご理解
のほど、よろしくお願い申し上げます。
◆2020年度社員総会について
社員総会は9月12日(土)に開催させていただきます。代議員の皆様
におかれましては、開催の形態等も含めて、詳細につきまして改めまして
ご連絡させていただきます。ご都合のほど、よろしくお願い申し上げます。
◆学会ウェブサイト(http://www.career-design.org/)、フェイスブック
(https://www.facebook.com/careerdesigngakkai)随時更新中です。
ぜひご一読ください。
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2 キャリア辞典
「副業・兼業」
副業・兼業という言葉が企業の人事部門や働く人の間で話題になり始めたの
は、平成29年3月に政府が発表した「働き方改革実行計画」の一項目として、
「柔軟な働き方がしやすい環境整備、副業・兼業の推進に向けたガイドライン
や改定版モデル就業規則の策定」が設けられたことがきっかけであろう。それ
まで一部の意識の高い企業では、副業・兼業が社員の能力開発やキャリア形成
にとって有用であることを認め、積極的に奨励していく動きもあったが、多く
の企業にとって、労務提供上の支障、労働時間の把握、健康管理などの懸念か
ら積極的に推奨したいというインセンティブが働いている状況ではなかった。
しかしながら、「働き方改革推進実行計画」が発表され、平成30年1月に
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が厚生労働省から発行され、法的
枠組みが徐々に明確になってきたことにより、企業も副業・兼業に関わる社内
規定を改定し、社員が利用しやすい環境整備を行ってきた。
そして3年が経過し、コロナ禍を経験した多くの日本人が、在宅勤務やテレ
ワークを基本とした仕事の仕方へと急速に移行し、また不幸にも休業・失業を
余儀なくされる状況など、働き方についての大きくかつ急速な変化を体験する
中で、人事労務・キャリア形成における副業・兼業の意味合いが、副次的なも
のから中心的なものへと変容しつつあるのではないだろうか。
まず、副業・兼業を労働法および企業人事実務の観点から整理する。副業と
兼業を法的に区別して定義している法律条文は見当たらない。ただ、「副業
・兼業の促進に関するガイドライン」を参照すると、副業・兼業の現状として、
「副業・兼業を希望する者は年々増加傾向にある。副業・兼業を行う理由は、
自分がやりたい仕事であること、スキルアップ、資格の活用、十分な収入の
確保等さまざまであり、また、副業・兼業の形態も、正社員、パート・アルバ
イト、会社役員、起業による自営業主等さまざまである。」とした文章から始
まっている。さらに、副業・兼業を促進するなかで、労働者と企業のメリット
を列挙しているが、キャリア形成との関係で述べられていることが興味深く、
その要旨を紹介したい。
労働者のメリットとしては、離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、
スキルや経験を得ることで、労働者が主体的にキャリアを形成することができ
ること。収入面の不安を回避し、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を
追求することができること、自身のキャリアデザインに沿った将来の起業・転
職に向けた準備・試行ができることを挙げている。一方で企業のメリットとし
ては、労働者が社内で得られない知識・スキルの獲得、自律性・自主性の促進、
優秀な人材の獲得・流出の防止、社外から新たな知識・情報や人脈を入れるこ
とでの事業機会の拡大が挙げられている。
さらに、社会全体にとっては、オープンイノベーションや起業の手段として
も有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生に資す
る面もあると述べられている。言ってみれば、働く人、企業、社会にとって三
方良しなのである。
これまでのキャリア研究の中では、企業内のOJTによる能力開発やキャリア
形成が中心であった時代が長かった。副業・兼業は、キャリア研究の中での中
心的な課題ではなかったが、社会環境や経営環境が変化し、雇用のあり方や働
く人の意識が変わってきた中で、「越境学習」に代表されるように、企業や組
織の境界を越えた能力開発やキャリア形成が急速に注目を浴びる分野となって
きた。これは、日本人のキャリア形成の主体が、企業ではなく、本当の意味で
働く私たち自身となり、キャリア自律の重要性がより増してきたことを意味す
るのではないだろうか。
また、副業・兼業は、シニアのキャリア形成という文脈でも重要性が増して
いる。2020年3月に高齢者雇用安定法が改正され、2021年4月から70歳まで
の雇用確保の努力義務を課す方向となった。これまで企業に勤めてきたシニア
世代にとっては、副業・兼業によって、今の仕事を続けながら希望する次の
キャリアでの仕事を一部経験し、職務経歴としてアピールできることにより、
企業内での異動や転職のハードルを下げることにも繋がっていくだろう。
副業・兼業という切り口からキャリア形成を眺めてみると、日本人のキャリ
アは企業や組織の境界を越えて、企業などの組織だけではなく、個人が主体
となり、社会という場での人と人の繋がりを通じて形成されていくという変化
が見て取れる。企業もそうした変化に応じたキャリア支援の体制整備が今求め
られていると言えよう。
(編集委員 松岡猛)
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3 私が読んだキャリアの一冊
『英語de人事 ―日英対訳による実践的人事』
白木 三秀・ブライアン・シャーマン著 文眞堂 2020.4.10
厚生労働省の「外国人雇用状況(平成30年10月末時点)」によると、日本で働く
外国人は、140万人を超えている。また、海外に進出した日本企業、反対に日本に
おいて外資系企業で働く人、取引先や顧客まで含めて考えると、もはやグローバ
ルを全く意識しないで働くことが困難な世の中になったと言えるだろう。
このようなグローバル化の波の中にあって、言葉や文化の違い以外にも、日常の
人事管理において戸惑った経験がある方も多いのではないだろうか。本書は、HRM
に関する基本的な理論を英語と日本語で紹介するだけでなく、事例も交えて紹介
された実践的な内容となっているため、多くの実務家の方々に読んでいただきた
い書籍である。
本書は、Section IとSection IIの二部で構成されている。
まず、Section Iでは、採用、キャリア・ディベロップメント・プランニング、
タレント・マネジメントといったChapterに区分されており、HRMに関する基礎的
な理論や概念を紹介する内容が紹介されている。幅広く網羅的な内容のため、新
任の人事の担当者にも全体像がイメージしやすいのではないだろうか。各Chapter
には、ケース・スタディが記され、理論と事例が関連づけられる仕組みとなって
いるため、HRMの理論が、いかに身近で活用しやすいものであるか、再認識させら
れる内容になっている。
このセクションの中で、グローバルにおいては、大学で獲得した知識やスキルに
期待し、職務を特定したうえで採用する「就職」であるのに対し、日本は職務を
特定しない「就社」であるケースが多いことが紹介されている。ここでは日本流
のHRMを否定しているのではなく、日本で一般的なスタイルが、必ずしも全世界
共通のものではないことを説明している。
また、優秀な人材を引きつけるため、「対話」してコミュニケーションをとるこ
とが重要である点についても丁寧に解説がされている。これは社員のキャリア形
成を共に考えることで、早期離職やトラブル等を避けるため必要であるのだが、
もしかしたら、コロナ禍においてテレワークが急速に広まり、対面コミュニケー
ションが減少した現在の局面にも共通しているのかもしれない。
続くSectionIIは、「サンプル・カンバセーション」で、架空の企業と登場人物
を設定し、そこで生じる対話を通じ、Section Iでの学びを深める内容となってい
る。それぞれの対話は、理論や実務上の考え方を解説するとともに、英語の言い
回しは「重要表現」というカテゴリで紹介されるため、非常に見所が多いパート
となっている。
以上のように、本書はHRMの理論を2言語で学ぶのみならず、ケース・スタディ等
が記されていることにより、どのようなメカニズムでコンフリクトが生じてしまう
のか、どのように解決していくかのヒントが詰まっている。本書は、人事の新任者
や、最近になって外国籍社員の採用を開始した企業においても、非常に参考になる
内容だろう。私自身も、ここまで分かりやすくグローバルHRMやキャリアについて
英語と日本語で同時に記されている本に出会ったことがなかったため、実に多くの
学びを得た本であった。
(編集委員 梶田マリ)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
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4 キャリアイベント情報等
◆新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)(令和2年6月16日時点版)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html
◆「労働契約等解説セミナー2020」参加者を募集(厚生労働省)
~オンラインでセミナーを開催~
テーマ 厚生労働省委託事業「労働契約等解説セミナー2020」
日 時 7月1日(水)~9月30日(水)
参加費 無料(事前申込制)
詳 細 https://mhlw.lisaplusk.jp/jump.cgi?p=11&n=108
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5 学会活動ニュース
◆2020年4月19日(日)
2019年度第1回会長・副会長・監事・事務局打ち合わせ 於 Web会議
-第17回研究大会について、2020年度奨励研究について、2020年度社員
総会について、その他
◆2020年4月25日(土)
2019年度第4回理事会 於 産業能率大学自由が丘キャンパス及びWeb会議
-第17回研究大会の方向性、2019年度奨励研究採択者、2020年度奨励研究
募集、コロナ禍に伴う各種運用に関する最終決定機関、2020年度社員総会の
実施方法、その他
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【編集後記】
当学会において、常務理事、副会長などを歴任された関西大学社会学部教授、
川崎友嗣先生が6月18日にご逝去されました。ご冥福をお祈り申し上げます。
川崎先生は、「生涯にわたるキャリア発達とその支援」という枠組みに基づ
いて研究を続けられ、各種の業績を残されました。当学会のホームページ掲載
「私のキャリアデザイン」において「将来の夢や目標を描くことは大切である。
しかし、最近はこのことがあまりにも強調されすぎているきらいがある。夢や
目標を描くこと自体が大切なのではなく、そのことによって自らキャリアを形
づくっていくことが大切であろう。」と述べておられます。コロナ禍によって
キャリアの選択肢も大きな変化が訪れている時代。共感するところ大であり、
衷心より哀悼の意を表します。(s)
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.career-design.org/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
このメールマガジンの文責はすべて執筆者にあり、日本キャリアデザイン学
会として正確性などを保証するものではありません。
【日本キャリアデザイン学会広報委員会】
石川 了 労務行政研究所
内田勝久 富士電機株式会社
梶田マリ 株式会社モスフードサービス
長島裕子 双日株式会社
平野恵子 株式会社文化放送キャリアパートナーズ
堀内泰利 慶應義塾大学
松岡 猛 NECマネジメントパートナー株式会社
山野晴雄 元・桜華女学院(現・日本体育大学桜華)高等学校
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail info@career-design.org
〒181-0012 東京都三鷹市上連雀1-12-17
三鷹ビジネスパーク2号館 ぶんしん出版内
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