キャリアデザインマガジン 第129号

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□    キャリアデザインマガジン 第129号 平成28年12月5日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 学会からのお知らせ

2 キャリア辞典 「労働時間」(1)

3 私が読んだキャリアの1冊 武石恵美子『キャリア開発論』

4 キャリアイベント情報

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1 学会からのお知らせ

◆2016年「キャリアデザインライブ!」冬のスペシャルを開催します。

 日 時 12月10日(土)15:30~17:30
 テーマ 働く人の選択肢がもっと多様になる時代へ
 ゲスト 米倉史夏((株)Waris代表取締役/Co-Founder)
     松原光代(学習院大学特別客員教授)
      【進行】> 玄田有史(東京大学教授)
 場 所 産業能率大学自由が丘キャンパス2号館2階2201教室
     (東京都世田谷区)
 定 員 先着100人
 参加費 会員/無料、一般/2,000円(学生1,000円) 事前申込制
      終了後、懇親会を開催します(18:00~20:00、参加費5,000円)
 申 込 学会ホームページからお申し込みください。
     http://www.career-design.org/pub/t071.html

◆学会ウェブサイト(http://www.career-design.org/)、フェイスブック
 (https://www.facebook.com/careerdesigngakkai)随時更新中です。
 ぜひご一読ください。

◆学会監修『キャリアデザイン支援ハンドブック』好評発売中!

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 近年大きく広がっているキャリアデザイン支援、その基礎知識と理論・手法、
実践におけるポイントを解説し、先進事例を紹介した関係者・実務家必携の文
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2 キャリア辞典

 「労働時間」(連載2回・第1回)

■“レ・ミゼラブル”の時代

 パンを盗んだ罪で19年間投獄されたジャン・バルジャンの生涯を描く作品、
レ・ミゼラブル。フランスの文豪、ヴィクトル・ユーゴーが1862年に執筆した
フランス文学の大河小説として日本にも昔から、映画やミュージカルなどを通
じて馴染みの深い人気作品である。直近では2012年に公開された映画が記憶に
新しい。ヒュー・ジャックマン扮するジャン・バルジャンと薄幸のヒロイン、
ファンテーヌをアン・ハサウェイが名演、ミュージカル仕立ての分かりやすい
演出で、ご覧になった方も多いことだろう。

 その映画の冒頭、19年間の牢獄生活を終えたジャン・バルジャンが、看守に
縄をほどかれ、いわゆる“娑婆”に出てくるシーン。船着き場で座礁した船を
囚人たちが人力で引き上げる場面は圧巻だった。まさに長時間労働の“過酷な
労働現場”。映画の背景は、格差と貧困にあえぐ民衆が自由を求めて立ちあが
ろうとしていた19世紀のフランス。作品は「ナポレオン1世没落直後の1815年
から1833年までの18年間を描いている」とのことである。

■8時間労働制の始まり

 1833年と言えば、お隣りイギリスではちょうど工場法が成立し、繊維工場の
児童・年少者(9~18歳)の労働時間を制限した時期。ちなみに、それに先立
つこと約20年前には、社会改革家であり実業家であったロバート・オーウェン
が、1810年に1日10時間労働を訴え、ニュー・ラナークの工場経営ですでに実
践に移していた。

 産業革命がヨーロッパ大陸に浸透するに伴い、ドイツ、フランス等の諸国に
おいても長時間労働制限の立法措置がとられるようになり、ドイツでは、1839
年、16歳未満の児童の労働時間を1日10時間に制限する立法(児童保護法)が
行われ、フランスにおいても、1848年に、12時間法が制定されている。イギリ
スでは、1847年、チャーチスト運動の結果、10時間労働制(繊維工業における
女子及び年少者が対象)が立法化され、アメリカにおいても1820年から1860年
にかけて、各州において10時間労働制が立法化される。労働時間短縮の運動は
各国において進められ、1868年における第一インターナショナル(国際労働者
協会)第1回大会は、8時間労働制を決議。同年、アメリカで合衆国政府の公務
員に8時間制が実施される。その後、1886年5月1日、全国的な労働組合団体の
呼び掛けで「8時間労働制」を求める大規模なデモがきかっけとなって「8時間
労働制」への希求が全米に広がる。ちなみに、この日を起源として「メー
デー」が全世界に定着していく。イギリスでは、1908年に、炭坑業において8
時間労働制が実現されている(なお、8時間労働制の協約化が最も早かったのは、
1856年、当時イギリスの植民地であったオーストラリアの建築職人であった)。

 日本で初めて、8時間労働制を導入し就業規則に明記したのは、1919年、川
崎造船所(現川崎重工業船舶海洋カンパニー)の神戸工場であったという。賃
金引き上げなど労働条件をめぐる労使紛争解決の条件として、当時社長であっ
た松方幸次郎が提示したのが「8時間労働制」であった。しかし、このように
個別企業で取り組みは様々であり、法律に8時間労働制が明記されるのは、194
7年施行の労働基準法を待たなければならなかった。

■労働時間の定義

 労働者が会社(または学校などの組織)に出社し、例えば午前9時などの
「始業時刻」から、午後5時などの「終業時刻」までの時間を、「拘束時間」
という。一般的にこの拘束時間から、休憩時間を除いたものが「労働時間」と
いうことになる。また「労働」とは、使用者の指揮監督のもとにあることをい
い、必ずしも現実に精神または肉体を活動させていることを要件とはしないた
め、その定義は一様で無く、また判例等の解釈も多様である。

■労働時間関連の主な用語

 統計上、最もよく利用されるのが、労働契約上で取り決められた「所定労働
時間」である。所定労働時間とは就業規則等で定められた始業時刻から終業時
刻までの時間から、休憩時間を差し引いた労働時間(厚生労働省「就労条件調
査」)を指す。

 労働基準法(以下「労基法」)第32条によれば、「使用者は、労働者に、休
憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。 2 使
用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時
間を超えて、労働させてはならない。 」と規定している(これを「法定労働時
間」という。)。ただ、労基法にはいわゆる「36条条項」があり、これに基
づいて労使で取り決める時間外協定(通称“サブロク協定”等)によって、割
増賃金の支払い義務(労基法37条)を前提に、上記法定労働時間を超えること
が許容されている。そして、法定労働時間(または所定労働時間)を超えた部
分の労働時間を「時間外(所定外)労働時間」等という。先の所定労働時間に
所定外労働時間を加え、そこから年次有給休暇などの休暇や休務日数、欠勤日
数等を差し引いたものが「実労働時間」である。年間で見た場合は、「年間総
実労働時間」という概念が用いられる。

*次回は、「労働時間②」で、年間総実労働時間と労働生産性の実態、諸外国
との比較、「働き方改革」について触れます。

                         (編集委員 石川了)

※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
 日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。

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3 私が読んだキャリアの一冊()

 『キャリア開発論-自律性と多様性に向き合う』』
                武石恵美子著 中央経済社 2016.9.20

 キャリア開発論(あるいは類似の)は、いまやほとんどの大学で開講されて
いるだろう。本書もその学部向けテキストだが、内容はなかなかにユニークな
もののように思われる。

 本書の副題は「自律性と多様性に向き合う」となっており、この2つが本書
のキーコンセプトとなっている。まず第1部では、「全体像をつかむ」として、
全体の約4分の1くらいを費やして主に「自律性」について述べている。まずは
キャリア開発論に関わる基礎的な理論が紹介されていて、米国の主要なキャリ
ア研究が中心だが、人的資本や内部労働市場の理論も敷衍されている。そして、
日本企業におけるキャリア形成の過去・現状と今後の展望が述べられ、多様化
が進む中で求められる「キャリア自律」の考え方が説明される。

 第2部、残る4分の3は「テーマごとに考える」として、各論が取り上げられ
る。ここが本書のユニークなところだと思うが、キャリア開発論のテキストで
はあるものの、主に個人に着目した心理学的な米国のキャリア研究の主流から
は完全に外れ、もっぱら雇用政策と人事管理の観点からの記述となっている。
こちらの主題は主に「多様性」であり、最初に取り上げられるテーマは「ダイ
バーシティ経営」だ。

 続けて「正社員の多元化」「ワーク・ライフ・バランス」「女性」「育児
期」「介護」「再就職者」とテーマアップされ、さらには「ブラック企業」や
「非正規雇用」といった今日的なものまで含めて、多岐にわたる視点があまね
く取り上げられている。そういう意味では、アカデミックに汎用的なテキスト
というよりは、こんにちのわが国における(さらにはある範囲の大学・学生に
よりよくフィットする)キャリア開発論というピンポイントな本というべきか
もしれない。

 本書にもあるとおり、これまでわが国大企業の典型的な人事管理は、労働時
間にも勤務場所にも職種・職務にも制約のない無限定で画一的な人材を前提と
してきた。ビジネスニーズと社員の能力・適性・希望とをすり合わせつつも、
基本的には企業が企業内で個人の能力向上やキャリア形成を行い、社員はそれ
を受け入れるのと引き替えに、雇用の安定や、夫婦子2人の生活をおおむね充
足する労働条件を得てきた。しかし、少子高齢化と人口減少をはじめとする社
会変化のなかで、これまでの画一性は崩れ、多様性にとって代わられようとし
ている。となると、企業もこれまでのように、大半の社員の能力向上やキャリ
ア形成を企業内で請け負うわけにはいかなくなるだろう。そこにキャリア自律
の必要性が生まれる。

 現実をみると、長年にわたって継続してきたこうした人事管理の慣性はなか
なかに大きいし、従来型の働き方を望む人というのも少なくはあるまい。しか
し、これから長期にわたる現在の学部生の職業キャリアの中では、すべての人
ではないまでも、多くの人がキャリア自律に直面することも確実なように思わ
れる。それを学ぶことはきわめて有意義なことであろう。

 それに加えて、この本で「キャリア開発論」を学ぶメリットは少なくとも3
つはあるように思う。第1に、この本がもっぱら職業キャリアを中心に書かれ
ていることだ。もちろん、キャリアは職業キャリアだけではないが、しかしキ
ャリア開発論を学ぶ学部生にとって、就職と仕事はなんといっても最大の関心
事だろうから、やはり職業を中心としたテキストが学びやすいのではないかと
思う。実際、この本ではさまざまなライフステージにおける職業キャリアを学
ぶことで、生活者としてのキャリアもかなりの程度展望することができるよう
に書かれている。

 第2に、本書の内容が実践的なものとなっていることがあげられる。上で紹
介した本書の各論テーマは、学生にとってはいずれも自身が当事者となる、き
わめて実践的なテーマであるに違いない(直接的には女子学生に関わるテーマ
もあるが、男子も結婚などを通じて当事者となりうるものだ)。つまり、テキ
ストとしてだけではなく、一種の実用書としても有用だということになる。

 第3に、本書、特に各論の記述が、実証研究(大半は著者自身の調査)をふ
まえたものであることを上げたいと思う。これは本書を説得力あるものとして
いるだけではなく、エビデンスベースの議論の大切さをも学ぶことができるの
ではないかと思うわけだ。

 こうした特色は、当代一流の労働研究者であり、また元労働官僚でもあると
いう著者自身のキャリアによるものであることも言うまでもあるまい。わが国
の今日的な状況をヴィヴィッドに切り取った本でもあり、著者にはぜひきめこ
まかく改訂を行い、環境変化とそれをふまえた新たな研究成果を反映してほし
いと思う。

                        (編集委員 荻野勝彦)

※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
 日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。

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4 キャリアイベント情報
  -キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します-

◆独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策フォーラム「多様化する仕
 事と働き方に対応したキャリア教育」

 日 時 平成29年1月23日(月)13:00-16:30
 場 所 ホテルニューイタヤ南館4階「桜」(栃木県宇都宮市)
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20170123/index.html

◆独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 生涯現役社会の実現に向け
 たシンポジウム「定年引上げ企業に学ぶ」

 日 時 平成29年1月25日(水)13:00-16:00
 場 所 品川グランドセントラルタワー3階「品川THE GRAND HALL」
     (東京都港区)
http://www.jeed.or.jp/elderly/activity/symposium.html

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【学会活動ニュース】

◆2016年11月6日(日)

 関西支部第7回研究大会
 於 関西大学社会学部

◆2016年11月18日(金)

 「キャリアデザインライブ!」第4回
 於 法政大学市ヶ谷キャンパス
 テーマ 「これからのキャリア開発」
 ゲスト 武石恵美子(法政大学キャリアデザイン学部教授)

【編集後記】

 先日開催された「キャリアデザインライブ!」第4回は、たいへん好評で申
込み多数となり、残念ながら多くの方のご参加をお断りせざるを得ませんでし
た。心よりお詫び申し上げます。学会広報委員会としては、今後、研究会の
ウェブ配信なども検討していきたいと考えております。引き続き日本キャリア
デザイン学会にご注目ください。(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.career-design.org/

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
 このメールマガジンの文責はすべて執筆者にあり、日本キャリアデザイン学
会として正確性などを保証するものではありません。

【日本キャリアデザイン学会広報委員会】

 青木猛正 埼玉県立滑川総合高等学校長
 石川 了 労務行政研究所
 内田勝久 富士電機株式会社社長室広報IR部
 荻野勝彦 トヨタ自動車株式会社渉外部
 平野恵子 文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所
 堀内泰利 慶応義塾大学SFC研究所
 松岡 猛 日本電気株式会社経営企画本部
 山野晴雄 慶應義塾大学講師

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail info@career-design.org
   〒181-0012 東京都三鷹市上連雀1-12-17
   三鷹ビジネスパーク2号館 ぶんしん出版内

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