キャリアデザインマガジン 第124号

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□    キャリアデザインマガジン 第124号 平成28年2月8日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 学会からのお知らせ

2 キャリア辞典「統合レポート」

3 私が読んだキャリアの1冊
   久保田慶一『モーツァルト家のキャリア教育』

4 キャリアイベント情報

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1 学会からのお知らせ

◆第7回中京支部キャリアデザイン研究会を開催します。

 日 時 2016年3月5日(土)14:30~17:00
 テーマ 女性のキャリア支援を考える(女性活躍推進法の成立に関連して)
 場 所 名古屋大学教育学部2階第3講義室(名古屋市千種区)
 講 師 白髭かすみ(愛知労働局雇用均等室室長)
     松岡幸代(ふくい女性活躍支援センター女性キャリア相談員)
 参加費 会員/無料、一般/3,000円(事前申込制)
 懇親会 研究会終了後、懇親会を予定しております。
     会費3000円~4000円
 概要・申込 学会ホームページをご参照ください。

◆第18回関西支部研究会を開催します。
 日 時 2016年3月5日(土)15:00?17:00
 テーマ 「若年就業者の組織への適応課題と適応促進要因」
 報告者 尾形真実哉(甲南大学経営学部准教授)
 講 師 神戸学院大学ポートアイランドキャンパス(神戸市中央区)
 参加費 会員/無料、一般/3,000円(事前申込制)
 懇親会 研究会終了後、懇親会を予定しております。
     会費3000円~4000円
 概要・申込 学会ホームページをご参照ください。

◆第13回研究大会の日程・会場・テーマが決定しました。
 日 時 2016年9月10日(土)・11日(日)
 会 場 愛知教育大学(愛知県刈谷市井ヶ谷町広沢1)
 大会テーマ 
 『豊かなキャリアのための「学びの場」の創造 ~人づくりのこれから~』

◆学会監修『キャリアデザイン支援ハンドブック』好評発売中!

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 近年大きく広がっているキャリアデザイン支援、その基礎知識と理論・手法、
実践におけるポイントを解説し、先進事例を紹介した関係者・実務家必携の文
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2 キャリア辞典

 「統合レポート」

 日本企業は、グローバルで成長を実現するために、事業戦略の強化とともに、
ブランド価値を維持向上させる、あるべき姿を模索し始めている。会社案内と
いった名刺代わりに使う冊子や、財務報告書いわゆる有価証券報告書、株主向
けに発行する事業報告書に加えて、企業活動を顧客、取引先、株主、投資家、
学生、地域社会といったステークホルダーに、わかりやすく伝える取り組みだ。
商品の宣伝だけではなく、企業活動をいかに社会に理解してもらえるか、その
存在意義を認めてもらえるか、といった視点である。特に、個人株主や機関投
資家向けには、財務報告が主の報告書以外にCSR報告書、ESG報告書
(Environmental:環境、Social:社会、Governance:企業統治・ガバナン
ス)といった非財務に関する企業活動を報告する企業が増加し、近年、これら
財務・非財務情報を統合した「統合レポート」の発行が増えている。

◇企業活動を長期視点に見直し始める

 金融危機への反省から、欧州を中心に、投資家、金融機関の企業に対する短
期成果主義是正、企業のガバナンスや投資家のスチュワードシップの強化、開
示や企業報告のあり方の見直しといった議論が進んでいる。特に英国における
「ケイ報告(Kay Review)」は、企業の長期的なパフォーマンスを向上させる
ための資本市場、投資家の役割、短期主義やそれをもたらすインセンティブ構
造の歪みについて、政策提言まで至ったところから、欧州の各国関係者の議論
に拍車がかかった。

 一方、国連でも2006年、当時のアナン事務総長が、PRI(Principles for
Responsible Investment:責任投資原則)を提唱し、金融の力で持続可能な社
会を実現するための取り組みを始めた。これは世界の金融機関に、ESGの課題
を投資の意思決定プロセスに取り込むことを求めるもので、署名機関は年々増
え続けている。国連環境計画(UNEP)や国連グローバル・コンパクトが推進し
たこと、金融危機に端を発した世界規模での金融の不安定化、国連気候変動に
関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)による
地球温暖化への警告や資源の枯渇、新興国における爆発的な人口増加も相まっ
て、世界のPRI署名機関数は、2014年12月現在1,353を超え、その運用資産総額
も約45兆ドルに達した。特に公的年金機関などによる長期投資の視点から、ES
G投資がメインストリーム化し、短期志向から長期志向への流れとなり、投資
の世界の変化が顕著になりつつある。

 こうした状況の中、企業報告においては、ESG情報などの非財務情報の開示
を強化し、長期的思考に基づく企業価値創造のプロセスを訴求する統合レポー
トへの取り組みが、世界的な関心を集めている。現在、統合レポートについて
は、世界的組織であるIIRC(International Integrated Reporting Council:
国際統合報告評議会)が開示フレームワークの普及・促進において主導的な役
割を担っている。

◇日本国内でも情報開示が進む

 昨今、国内では、日本企業の国際競争力の強化や、資本市場の活性化に向け
た政策や政策提言が矢継ぎ早に出されている。政府による「日本再興戦略」の
一環で「日本版スチュワードシップ・コード」(金融庁)の導入や、「会社法
の一部を改正する法律案等」の成立、「『持続的成長への競争力とインセンテ
ィブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト最終報告書」(経済
産業省、以下、「伊藤レポート」)の公表、「GPIF(年金積立金管理運用独立
行政法人)のガバナンス改革」(厚生労働省)、「コーポレートガバナンス・
コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」
(金融庁・東京証券取引所)の公表、いずれも企業と投資家にこれまでにはな
かった意識変革を求めることで、中長期的かつ持続可能な企業の成長の実現を
促すものだ。

 特に「伊藤レポート」においては、歴史的に見た日本企業の低収益性や資本
効率の悪さを指摘した上で、これを解決するための手立てのひとつとして、企
業と投資家の双方に対して建設的な対話を呼びかけるに至った。一方、スチュ
ワードシップ・コードと対をなすコーポレートガバナンス・コードについても、
有識者会議の原案を受けて、東京証券取引所において上場制度の整備が行われ
た。企業と投資家との対話が進み、両者の協調関係の下で企業価値向上や収益
力・資本効率の改善が進むものと期待される。

 企業報告やIR活動においては、両者の対話を促進するための土俵づくりがま
すます重要になりつつある。企業は、中長期的視野に立った価値創造のシナリ
オを的確に株主・投資家をはじめとしたステークホルダーに説明することが重
要となり、そのための対話の素材として統合レポートによる企業活動の情報発
信が指摘されている。

◇人材育成に注力し、その取り組みを開示する

 統合レポートで、事業活動の紹介とともにCSRやESGが注目を集めてい
ることは、先にも述べた。この中では、とりわけ人材育成に関わる情報開示に
も注力すべきことがあると考える。日本企業が置かれた環境は、国内の低成長
率や、少子高齢社会の到来から21世紀に持続成長していくためにグローバルな
事業展開は不可欠となっている。すでに多くの企業が多様な人材の確保・育成
に力を注ぐように、ナショナルスタッフの育成は待ったなしだ。その教育のカ
ギを握るのが、経営理念をどのように浸透させていくのか、企業の歴史を学ぶ
のか、だと考える。言語や文化・風土が異なる仲間が一緒になり、社会にどの
ような価値を与えていくのか、学ぶツールの整備が大切となる。そして、こう
した地道な活動を如何に情報発信していくかが問われよう。実は、多くのレ
ポートでは、人権尊重、安全衛生、教育研修、ワークライフバランス、障がい
者雇用、女性活躍の推進が掲載されている。方針の掲載が中心になっているた
め、事業紹介と比較すると改善余地がまだまだあるのが現状だ。人材に関する
取り組みは、企業の実態に合わせて、中長期の目標を数値化し、その実現に向
けて施策と、具体的な活動を地道に情報開示していく事が、株主、投資家をは
じめ幅広いステークホルダーの信頼を勝ち取る、つまりブランド価値向上につ
ながると考えられる。

 企業活動を実際に進めるのは現場、チームを担う社員である。研究、開発、
設計、ものつくり、品質保証、サービスそして営業など、上司、先輩から受け
継ぐ技術やノウハウ、そして企業文化。社員の頑張りを活きた声として編集に
反映し、ナショナルスタッフにも広げている企業活動の紹介が、強いブランド
づくりに貢献するだろう。

                        (編集委員 内田勝久)

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3 私が読んだキャリアの1冊

 『モーツァルト家のキャリア教育』 久保田慶一著
              ARTES(アルテスパブリッシング) 2014.3.31

 「モーツァルト」は、言わずと知れた18世紀の大作曲家であるWolfgang
Amadeus Mozartのことである。わずか35年の生涯の中で、『フィガロの結婚』
をはじめとするオペラ、『ジュピター』をはじめとする交響曲の他、ミサ曲、
セレナード、ピアノ協奏曲、弦楽協奏曲、管弦楽協奏曲、室内楽曲など、膨大
な数の作品を世に送り出した、神童と言われている人物である、

 モーツアルトについて語る際に、欠くべからざる存在がその父であるレオポ
ルト・モーツァルト(Johann Georg Leopold Mozart)である。本書のサブタ
イトルに『18世紀の教育パパ、天才音楽家を育てる』とあるように、本書は、
不世出の大作曲家を育てた父レオポルト・モーツァルトの子育てをキャリア教
育の視点から捉えた書籍である。

 レオポルトは製本職人の長男として生まれたが、家業を継ぐことはせず、宮
廷音楽家の道を歩み出す。ザルツブルク宮廷楽団のヴァイオリン奏者、やがて
宮廷作曲家の称号を授与され、宮廷副楽長にまで昇進した。

 しかし、演奏者や作曲家としての実力以上に評価されていることは、息子で
あるヴォルフガング・モーツァルトの才能を発見し、音楽教育を施し、作曲家
として開花させたことである。

 レオポルトの2人の子ども、姉のナンネルと弟のヴォルフガング。姉のため
に作ったオリジナルのピアノ練習曲である『ナンネル練習帳』を姉よりも早く
習得する弟に対して、父レオポルトは、「息子の才能が想像以上に並外れたも
のである」ことに気づいた。そこで、自身が歩んできたキャリアをここで止め、
息子のために自分を犠牲にしなければならなくなったとある。まさに、「神の
啓示」である。

 宮廷作曲家の地位にあったレオポルトは、自らのキャリアを大転換させて、
息子の音楽家としての成長を助け、レールを敷き、その後押しをすることに専
念したと言われる。その一端が、息子を帯同してザルツブルグを離れて、ミュ
ンヘン、ウィーン、イタリア、パリ等への演奏旅行に奔走したことに表れてい
る。

 筆者は、この旅行を「自己陶冶の旅」と位置づけている。中世ヨーロッパに
おいて、旅は異文化の経験であり、人間的な成長においても生まれた場所以外
で多くのことを経験することが重要と考えていた。実際、ヴォルフガングは各
地の音楽様式を吸収しながら自分のスタイルを確立させるとともに、旅の途中
で出くわす様々な問題に対する解決にも取り組まなければならなくなった。

 レオポルトは、ヴォルフガングに学校教育の機会を与えていない。自らが教
師となり、また自らがプロデューサーとなって、異国の地への旅とそこでの音
楽の経験を深めさせた。当時の音楽家は、宮廷や教会の庇護のもと、いわゆる
パトロンによる安定的な生活が保証されていることが普通である。しかし、そ
の職を投げ打って、各地での就職活動をしながらの旅の連続。もちろん、経済
的なしたたかさも持ち合わせていたからこそ為し得たことでもある。

 レオポルトの親としての取組は、教育パパ的な英才教育なのか。あるいは、
息子のキャリア形成への支援を行うキャリア教育であるのか。少なくとも、戦
略的な行動であったことに間違いはない。

 やがて息子は、父親の支配から脱却して、自分ですべてコントロールできる
と信じていた。本書では、息子であるヴォルフガングの言葉である「世のあら
ゆるものを掛けてお願いしますが、僕をあきらめさせようとするよりも、僕の
決心を励ましてください。あなたは僕を駄目にしますよ」を引用している。こ
のようにして、息子は父から独立していく。

 父レオポルトは、お世話になったウィーンの男爵宛の手紙に「息子の欠点は、
彼があまりにも寛容すぎ、あるいは怠惰すぎること、無精すぎ、おそらく往々
にして気位が高すぎ、また、それによって人間が無為となるすべてのものをく
るめてよべるものであります。あるいは、彼はあまりにも短気で、気性が激し
すぎ、なにものも待ち通すことができません。これらは愚息の心を支配してい
る、たがいに相対立する二つの公理であります。」とあると言う。これらは、
今言われている、ヴォルフガングの気性そのものであろう。実に客観的に息子
のことを評価している。

 その点から見ても、レオポルトは息子ヴォルフガングの特性をしっかりと掴
み、その気象に応じた教育環境を整え、教育実践に当たっていることになる。
すなわち、筆者が主張する「キャリア教育」としての取組であると言える。

 本欄で紹介する書籍としては、やや毛色が異なるであろう。しかし、キャリ
ア支援は人材育成であり、個の特性と資質をしっかりと理解した上で、最善と
言われる環境とプログラムを構築させることが、教育として不可欠の要素であ
る。レオポルトは、父親という肉親性を超えて、希代の天才ヴォルフガングの
指導者としてのキャリア教育・キャリア支援に彩られた晩年であった。

 本書は末尾に「レオポルトのキャリア教育は成功だったのか、失敗だったの
か-答えは、成功でもあったし、失敗でもあった」としている。そして、「レ
オポルトの人生を現代の社会から眺めてほしい。そうすれば、現代の社会で自
らの人生を切り拓くには、レオポルトのような「戦略的思考」と「戦略的行
動」が必要であることがわかるだろう。」と結んでいる。

 ヴォルフガング・モーツァルトと言う人材の育成を晩年の生業としたレオポ
ルト。現代に生きる我々にも多くのことを示唆している。

                        (編集委員 青木猛正)

※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
 日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。

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4 キャリアイベント情報
  -キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します-

◆産学協働人材育成コンソーシアム設立記念フォーラム「産学協働による人材
 育成の新たな始動」
 日 時 平成28年2月12日(金) 13:00~17:00
 場 所 実践女子大学渋谷キャンパス120周年記念館(東京都渋谷区)
 http://www.daigakukan-jcen.jp/jcen/1144/

◆中央大学専門職大学院人事担当者対象セミナー「これからの労働法改正を考
 える」
 日 時 平成28年2月12日(金)18:30~21:00
 場 所 中央大学後楽園キャンパス 3号館31112号室(東京都文京区)
 http://www.chuo-u.ac.jp/academics/pro_graduateschool/business/event/2015/12/39043/

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【編集後記】

 今号の図書紹介はモーツァルトにまつわる本ですが、モーツァルトの音楽を
聴くと(短時間ではあるものの)知能テストの成績が上昇するという「モーツ
ァルト効果」が学界を騒がせたのはもう20年近く前になるでしょうか。これに
は現在でも賛否両論があるようですが、それ以降一段と「仕事の効率が上がる
BGM」や「胎教に適した音楽」などといった面でもモーツァルトの人気が上
がり、なんでもモーツァルトの音楽を蔵に流しながら醸した日本酒というのも
あって品評会で優秀な成績を収めているのだそうでぜひ呑んでみたいいやいや
いや、いや私たちが様々にモーツァルトの音楽を楽しめるのは実は父レオポル
トがその才能を最高に発揮できるキャリアと環境づくりに尽力したからだ、と
いうのは面白いですね。(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.career-design.org/

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
 このメールマガジンの文責はすべて執筆者にあり、日本キャリアデザイン学
会として正確性などを保証するものではありません。

【日本キャリアデザイン学会広報委員会】

 青木猛正 埼玉県立特別支援学校長
 石川 了 労務行政研究所
 内田勝久 富士電機株式会社社長室広報IR部
 荻野勝彦 トヨタ自動車株式会社渉外部
 平野恵子 文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所
 堀内泰利 慶応義塾大学SFC研究所
 山野晴雄 慶應義塾大学講師

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail info@career-design.org
   〒181-0012 東京都三鷹市上連雀1-12-17
   三鷹ビジネスパーク2号館 ぶんしん出版内

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