キャリアデザインマガジン 第123号

■□□—————————————————————-
□□
□    キャリアデザインマガジン 第123号 平成27年12月3日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/

——————————————————————□■

 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 学会からのお知らせ

2 キャリア辞典「ダイバーシティ」

3 私が読んだキャリアの1冊 ときど(谷口一)『東大卒プロゲーマー』

4 キャリアイベント情報

5 学会活動ニュース

———————————————————————-

1 【学会からのお知らせ】

◆第12回日本キャリアデザイン学会研究大会(2015年9月5-6日、於 北海学園
 大学)は盛会裏に終了いたしました。
 次回研究大会は、2016年9月10日(土)-11日(日)、愛知教育大学(愛知県
 刈谷市)にて開催いたします。

◆特別研究会「キャリア・デザイン・ライブ!ウィンター・スペシャル」
 を開催します。

 日 時 2015年12月12日(土)15:00~16:45
 テーマ 学び方改革の「舞台裏」-現場はどのように動いているのか?-
 報告者 山田智之(上越教育大学)
舘野泰一(立教大学)
 会 場 産業能率大学(自由が丘キャンパス)2号館2201教室
     東京都世田谷区等々力6-39-15
     http://www.sanno.ac.jp/exam/access/jiyugaoka.html
 参加費 会員/無料、一般/2,000円(大学院生・学部生/1,000円)
 懇親会 17:00~19:00 参加費4,000円
 定 員 50名(先着順)
 詳細・申込は下記の学会ホームページをご参照ください。
 http://www.career-design.org/pub/t064.html

◆学会監修『キャリアデザイン支援ハンドブック』好評発売中!

 キャリアデザイン学会が総力をあげた解説書!
 近年大きく広がっているキャリアデザイン支援、その基礎知識と理論・手法、
実践におけるポイントを解説し、先進事例を紹介した関係者・実務家必携の文
献です。2014年10月刊。B5判260ページ・本体3,000円+税。学会会員は20%割
引で購入できます。

 ご購入はこちらから http://www.career-design.org/maga/04.html

———————————————————————-

2 キャリア辞典

 「ダイバーシティ」

 ダイバーシティとは、「人の多様性」のことを指す言葉である。ダイバーシ
ティの伝統的な定義とされるのは、米国雇用機会均等委員会(EEOC)による定
義で、「ジェンダー、人種・民族、年齢における違いをさす」というものであ
る。

 ダイバーシティは、もともとは米国から出てきた概念で、1960年代、米国で
機会均等を目指す、マイノリティに関する法律が制定されたことが契機となっ
ている。マイノリティに対する差別の解消を目指すものであり、人種、皮膚の
色、出身地、宗教、性別、年齢、障害の有無などの理由による雇用差別が禁止
され、また、アファーマティブ・アクション(積極的是正措置)が義務づけら
れた。こうした中で、米国の企業にとって、ダイバーシティへの取り組みは、
マイノリティに対する差別禁止、地位向上への対応として、重要な課題として
定着した。

 その後、1980年代に入ると、マイノリティの文化を多様性として理解し、多
様性を新しい市場開拓や顧客開拓に活用するようになった。さらに1990年代に
は、多様性を企業の競争優位獲得、組織文化やシステムの変革に繋げていこう
とする「ダイバーシティ・マネジメント」が急速に拡大した。

 日本においてダイバーシティという言葉が使われ始めたのは、1990年代後半
以降であり、日本IBM、日本ヒューレットパッカードなど外資系企業によりダ
イバーシティ・マネジメントが日本に持ち込まれている。その後、2000年代半
ばから、トヨタ自動車、日産自動車、松下電器産業などの大企業でダイバーシ
ティへの取り組みが始まり、近年、その取り組みが広がりつつある。しかしな
がら、日本においては、ダイバーシティというと圧倒的に女性活用という視点、
すなわちジェンダー・ダイバーシティとして語られることが多い。

 ダイバーシティは、性別、年齢、人種・民族の違いと捉えられることが多い
が、ダイバーシティには表層と深層の二つの次元がある。表層的次元とは、上
記の性別、年齢、人種・民族など外部から認識可能なデモグラフィー(属
性)・ダイバーシティである。深層的次元とは、知識、価値観、態度、嗜好、
信条など外部から識別しにくいもの、インビジブル・ダイバーシティと言われ
るものである。

 企業のダイバーシティへの取り組みは、法律遵守・社会的責任の遂行を目的
とした、表層的次元である女性や人種などのマイノリティを現状に取り込む
「同化」の段階、市場開拓や顧客獲得を目的とし、その違いがいきる分野でマ
イノリティを活用とする「分離」の段階、そして、表層だけでなく深層も含め
た多様性の価値を認め、それを変革の資源として競争優位に繋げる「統合」の
段階がある。欧米の企業では、多くが「統合」の段階にあると言われているが、
日本企業の取り組みは、一部の例外を除き、まだ「同化」の段階であると言わ
れている。

 ダイバーシティ推進においてよく議論されるのは、ダイバーシティが組織の
パフォーマンスを高めるのかという問題である。ダイバーシティが組織のパフ
ォーマンスを高めるという確たる証拠はないと言われている。逆に、「性別・
国籍などを多様化することは、組織のパフォーマンス向上に良い影響を及ぼさ
ないばかりか、マイナスの影響を与えることもある」という研究結果も出され
ている。

 ダイバーシティの組織にもたらす効果を説明する理論としては、情報と意思
決定理論、ソーシャルカテゴリー理論、類似性・アトラクション理論がある。

 情報と意思決定理論は、多様性のあるグループは、より多くの情報ネット
ワークを組織外に持ち、新しい情報を得る際に価値あるものとなるとし、ダイ
バーシティは革新、問題解決、意思決定、製品設計に有効としている。

 ソーシャルカテゴリー理論では、人は自尊心を高く持ちたいという欲求を持
ち、自尊心を保つために、自己カテゴリー化プロセスにおいて、グループ内で
の、もしくは他のグループとの区別を最大化させ、他者をより魅力のないもの
だと理解しようとする。したがって、ダイバーシティはマイナスに作用し、特
に実行力が低下するとしている。

 類似性・アトラクション理論では、態度・価値観、デモグラフィー属性にお
ける類似性は、個人間のアトラクションや好意を増大させるとし、バックグラ
ンドが類似した人々は、共通の人生経験や価値観を持っている可能性があり、
相互の交流を容易にし、互いをよい意味で強化するもの、好ましいと捉える。
このためダイバーシティは、コミュニケーションを減退、歪曲、エラーの原因
となるとしている。

 これらの理論から、ダイバーシティは組織のパフォーマンスに対してプラス
とマイナスの効果があると考えられる。

 人材の多様性を経営のパフォーマンスにつなげるためには、ダイバーシティ
のプラスの効果を維持し、マイナス効果を抑制することが必要であり、そのた
めには、表層的なダイバーシティだけでなく、深層的なダイバーシティを推進
すること、上位目標・目的を導入・共有し、協力行動を引き出すことが有効で
あると考えられている。

 ダイバーシティは、組織の視点からのダイバーシティ・マネジメントとして
語られることが多いが、ダイバーシティを個の視点からも考える必要がある。
個々人が、人材の多様性の中で、多様性とお互いの相違を認め、相互支援と啓
発を通して、お互いが学び、変化し、成長していくことが、これからの個々人
のキャリア形成にとってきわめて重要になると考えられる。

                        (編集委員 堀内泰利)

◆第122号(平成27年10月7日発行http://archives.mag2.com/0000140735/)に
掲載した「賞与・一時金(ボーナス)」につきまして、鹿島建設(株)様から、
文中の「鹿島建設(当時鹿島組)の場合は、明治14、15年ごろからの支給で、
当時の資料によると、支給金額は800円程度」との記述につきまして、「これ
は役員相当の2年分の賞与水準であり、当時としては破格の金額」であったと
のお知らせをいただきました。ありがとうございました。御礼のうえ追加掲載いたします。

———————————————————————-

3 私が読んだキャリアの1冊

 『東大卒プロゲーマー ~論理は結局、情熱にはかなわない~』
              ときど(谷口一)著 PHP新書 2014.7.29

 プロゲーマーという職業をご存じだろうか。ゲームをほとんどやらない筆者
は、本書を読むまで全く知らなかった。プロゲーマーと言うからには、ゲーム
で生計を立てているわけだが、ゲーマーにも様々な分野があり、プロとしての
収入源もそれぞれに異なるらしい。本書で語られているのは、格闘ゲームのプ
ロであり、日本で2人目のプロ格闘ゲーマーになったときど氏の自叙伝的な本
と言える。

 当然だが、「ときど」はゲーマーとしての呼び名である。本名は谷口一。麻
布中学・高校から東京大学理科Ⅰ類へ入学し、その後大学院に進学した。ちな
みに、4年次の成果論文が国際学会で賞を獲得するなど、研究でも目立つ成果
を出したが、研究に挫折し、就職活動(公務員)にも挫折し、紆余曲折のすえ、
結局中退することになる。

 そして今、アメリカの大手周辺機器メーカー「Mad Catz」とスポンサー契約
をして、スポンサー料と国内外の格ゲー大会の賞金で生計を立てる数少ないプ
ロゲーマーの一人となっている。

 言ってしまえば、かなり特殊な職業だ。しかし、だからこそ一人の若者の
「社会的・職業的自立」が、色鮮やかに、そして鮮明に浮かび上がってくる。

 著者曰く、中学生のころから『ただ純粋にとにかく勝ちたい』という思いで、
『空気が読めない』行動を繰り返し、『懲りない』失敗をいくどとなく重ねて
いく。その都度、彼は何かに気付き、成長してく。その自らの姿を、本人の若
く勢いある言葉で綴られている。そこからは、青年期における、ある種の危う
さと、熱量ある想いが伝わってくる。

 筆者の印象に残っている本書のフレーズを、少しだけ挙げておこう。

 『厳しい人間関係もゲームセンターで学んだ(P202-203)』。
 勝ちさえすれば、何をしたっていいわけじゃない。勝っていい気になりすぎ
た少年ときど氏に、苦言を呈する年輩者。ゲームセンターという雑多で複雑な
人間関係の中で、コミュニティーの正員として認められるために必要な大人の
お作法を理解していく。

 『僕はゲームから、かなりいろんなことを学んでいたんだな…実験に没頭す
るなかで、ふとそう思うことはよくあった(P108)』。
 ゲームに勝つために何をしたら良いか。長年かけて彼が経験の中から掴んだ
セオリーが、研究(実験)プロセスで遺憾なく発揮されていく。コルブの経験
学習理論を地で行くようなアプローチ。その結果、バイオマテリアル分野の国
際学会で、学部生ながら賞を獲得するだけの研究成果を出していく。

 『勝ち続けるには、僕のスタイルを変えなければならない(P169)』。
 勝つことは、短期戦なら(彼にとって)それほど難しいことではない。しか
し、プロでやっていくためは、長期的に高いレベルで勝ち続ける必要がある。
理論と既知情報でたどり着ける80点の向こう側を目指すため、彼は失敗覚悟で
自分のスタイルを捨て、1つ1つ手探りの新しいアプローチをし始める。そし
て、合理的で効率的な最短距離のプロセスでは決して得ることができない発見
を実感していく。

 『他者とのコミュニケーション力と、格闘ゲームにおける強さには、綿密な
関係がある。というより、コミュニケーション力のある者が強くなる、といい
切ってしまってもいい(P209)』。
 これだけ実力主義、個人主義の色合いが強い職業であっても、1人で勝てる
レベルは知れていると彼は言い切る。成果を出し続けるには、他者の存在と情
報開示するマインドが必要だ。そう考えて、自らライバルに手の内を明かし、
切磋琢磨して一緒に強くなろうとする。そして、国内外にネットワークを伸ば
し、格ゲー業界発展の未来へと思いを馳せていく。

 正直言って、格闘ゲームの面白さは、いまだ理解できてはいない。格ゲー業
界の未来、プロゲーマーという職業の将来について何かを語るには、筆者の感
性は旧態依然すぎる(苦笑)。それは、プロゲーマーに限らず、いま新しく生
まれ続けている職業すべてに当てはまることだろう。

 ただ、この新しい職業に辿りつくプロセスで、彼が大きな“気付き”を得て
いることは分かる。そして、その気付きが意外にも、とても多くのトランスフ
ァラブルスキルを含んでいることに驚かされる。もし彼が、ゲーム以外の分野
に関わることになっても、きっと成果を生みだすことができるだろう。

 東大卒がプロゲーマーになる時代。本人にとって何が正解になるのか分から
ない。そもそも正解などないのだろう。そのことをリアルに感じさせてくれる
一冊となった。また、一人の青年の瑞々しい青春手記としても楽しめる本と言
える。

(追記)
 今年10月30日~11月1日に行なわれた「Canada Cap 2015」で、優勝したと
きの様子とインタビューがこちらでご覧になれます(9:40頃から)。勝利至
上主義だった彼の変化(成長)が感じられるコメントを聞いて、思わず笑みが
こぼれました。

                         (編集委員 平野恵子)

※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
 日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。

——————————————————————–

4 キャリアイベント情報
  -キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します-

◆多摩地区高等学校進路指導協議会・多摩地区専修学校協議会「「第5回 チ
 ャレンジプログラムシンポジウム 2015」
 (日本キャリア教育学会・本学会後援)
 日 時:2015年12月11日(金) 14:00~17:00(開場13:30)
 会 場:日本工学院八王子専門学校
 参加費:無料
 申 込:042-577-5521【事務局】東京YMCA医療福祉専門学校
http://jssce.wdc-jp.com/wp-content/uploads/challengesympo20151211.pdf

———————————————————————-

5 学会活動ニュース

◆第62回研究会「キャリア・デザイン・ライブ!第5回」
 日 時 2015年10月23日(金)19:00-20:30
 場 所 法政大学市ヶ谷キャンパス 58年館2階 キャリア情報ルーム
     (東京都千代田区)
 テーマ 「生き抜くためのエンパワメントとしてのキャリア教育・キャリア
     支援」
 講 師 吉田美穂(神奈川県立百合高等学校総括教諭・NPO法人多文化共生
     ネットワークかながわ理事)

◆第6回中京支部キャリアデザイン研究会
 日 時 2015年10月31日(土)14:30~17:00
 場 所 名古屋大学教育学部第三講義室にて  
 テーマ 学校現場におけるキャリア形成支援~小学校から大学までの流れの
     中で~
 講 師 高綱睦美(愛知教育大学教育学部学校教育講座)
     船津静代(名古屋大学学生相談総合センター)

◆関西支部第6回研究大会
 日 時 2015年11月14日(土)14:00~18:00
 場 所 関西大学社会学部(第三学舎)

◆第63回研究会「キャリア・デザイン・ライブ!第6回」
 日 時 2015年11月27日(金)19:00~20:30
 場 所 法政大学市ヶ谷キャンパス 58年館2階 キャリア情報ルーム
     (東京都千代田区)
 テーマ 労働組合の隠された可能性-「欲しいけれど、作れない」の越え方
 報告者 二宮誠(現日本労働組合総連合会(連合)、元UAゼンセン)
     濱口桂一郎(独立行政法人労働政策研究・研修機構)

——————————————————————–

【編集後記】

 開業間もない北陸新幹線に乗車する機会を得ました。速くて快適でたいへん
に結構なのですが、全区間の4割超がトンネルとのことで、それだけ地下を走
ると実感としてほとんど地下鉄という感じで旅情という面では今一つという感
はありました。まあビジネスで行くわけなので文句も言えないわけですが、目
的地を決めて全速力というのも悪くはないものの、時には回り道をしたり途中
下車をしたり、あるいは目的地もちょっと変えてみたりという旅もしてみたい
と思いました…あれ、これってキャリアデザインにも似たようなところがある
のかな?(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.career-design.org/

□□■—————————————————————-

  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
 このメールマガジンの文責はすべて執筆者にあり、日本キャリアデザイン学
会として正確性などを保証するものではありません。

【日本キャリアデザイン学会広報委員会】

 青木猛正 埼玉県立特別支援学校長
 石川 了 労務行政研究所
 内田勝久 富士電機株式会社社長室広報IR部
 荻野勝彦 トヨタ自動車株式会社渉外部
 平野恵子 文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所
 堀内泰利 慶応義塾大学SFC研究所
 山野晴雄 慶應義塾大学講師

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail info@career-design.org
   〒181-0012 東京都三鷹市上連雀1-12-17
   三鷹ビジネスパーク2号館 ぶんしん出版内

—————————————————————-□□■