キャリアデザインマガジン 第121号

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□    キャリアデザインマガジン 第121号 平成27年8月14日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 学会からのお知らせ

2 キャリア辞典「ジョブ・シャドウイング」

3 私が読んだキャリアの1冊
  原田勉著『イノベーション戦略の論理-確率の経営とは何か』

4 キャリアイベント情報

5 学会活動ニュース

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1 【学会からのお知らせ】

◆学会監修『キャリアデザイン支援ハンドブック』好評発売中!

 キャリアデザイン学会が総力をあげた解説書!
 近年大きく広がっているキャリアデザイン支援、その基礎知識と理論・手法、
実践におけるポイントを解説し、先進事例を紹介した関係者・実務家必携の文
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◆8月28日(金)まで!2015年度第12回研究大会 参加申込受付中です。

 初の北海道開催となる本年度の研究大会まであと約1か月となりました。

 本大会では、「地域社会におけるこれからのライフスタイルとキャリア形
成」をテーマに、地域のおかれた現状をふまえ、世代を超えた地域コミュニテ
ィの形成とライフスタイル・キャリアデザインをめぐる諸課題について活発な
議論の展開が期待されています。

 北海道ならではの調査研究や実践報告など、当事者による得難い知見の提供
も豊富に準備されており、さまざまな分野の皆様に実り多い成果があるものと
思います。各方面からふるってのご参加をお待ちしております。

 日 時:2015年9月5日(土)、6日(日)
 会 場:北海学園大学 豊平キャンパス
     〒062-8605 札幌市豊平区旭町4丁目1番40号
     札幌市営地下鉄東豊線学園前駅3番出口直結
 テーマ:地域社会におけるこれからのライフスタイルとキャリア形成
 詳細・申込は下記の学会ホームページをご参照ください。
 http://www.career-design.org/eve/index.html

 なお、大会前日9月4日(金)のオプションの受付は終了しました。

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2 キャリア辞典

 「ジョブ・シャドウイング」

 ジョブ・シャドウイング(Job Shadowing)は、生徒が興味・関心を持ってい
る職業で働いている人に影のようにいて観察し、職務内容、その職業の社会に
おける役割、学業と実務のつながりを考える取り組みである。

 すでにアメリカでは、School-to-Workのプログラムの一環として広く実施さ
れている。アメリカでは、「中学校高学年から高校低学年を対象としたキャリ
ア探索活動の一種で、生徒が企業の職場で従業員に密着し、特定の職種や業種
について学ぶこと。と定義され、「様々な仕事を探索し、高校の高学年でキャ
リアを専攻するうえで役に立つ」とされている(学校から職業への移行全米事
務局「学校から職業への移行制度用語集」)。

半日から1日の間、企業で働く社会人を観察し、さまざまな職務を体験する
ことで、学校での学習が実社会で必要なスキルや知識の習得につながることに
気づかせる。そして、「なぜ学校で学ばなければならないのか?」という疑問
に対する答えを発見させることを目的とする。職場の環境や服装、チームワー
クの大切さ、ビジネスマナーなどを観察することも重視される。

 アメリカでは、ジョブ・シャドウイングを推進する団体として「全米ジョブ
シャドウ連盟」が1997年に設立されている。毎年2月2日のグランドホックデ
ィをグランドホッグ・ジョブシャドウデイと定め、この日を皮切りに全米の企
業が各地で一斉にジョブシャドウを支援し、多くの中学生や高校生がジョブ・
シャドウングに参加している。

 ジョブ・シャドウイングのメリットとしては、生徒にとっては、学校での学
習と仕事のつながりを認識できる、学習意欲が向上する、進路の選択に役立つ、
将来に向けてさまざまな職業の選択肢があることに気づく、希望の職業に就く
ために必要な情報を得ることができる、などがあげられ、実施企業にとっては、
企業イメージの向上、宣伝効、未来の人材育成に貢献できる、人材の採用活動
費及び訓練費を削減できる、地域に貢献できる、などがあげられている。

 ジョブ・シャドウイングとインターンシップとの違いについては、次のよう
な点が指摘されている。

 目的…ジョブ・シャドウイングはさまざまなキャリア選択肢が存在すること
に気づくためのキャリアの探索活動である。インターンシップは、職業におい
て実務経験を積む、ジョブ・シャドウイングより一段進んだキャリア教育活動
である。

 対象者…ジョブ・シャドウイングを中学生のうちに体験し、高校2~3年生
でインターンシップを行うことを理想としている。

 実施期間…インターンシップは3~6か月と長期間実施されるが、ジョブ・
シャドウイングに要する時間は半日から1日のみのため、企業の負担は比較的
軽い。

 実施回数…ジョブ・シャドウイングは生徒が複数の職業に興味を持つ場合、
受け入れ企業がある限り何回でも参加できる。インターンシップは1~2回の
み。

 報酬…ジョブ・シャドウイングは無給だが、インターンシップは有給の場合
がある。
            (リクルートワークス研究所『JOB SHADOWING』)

 日本では、総合高校である静岡県立富岳館高校が「仕事ウォッチング」の名
称でジョブ・シャドウイングに取り組んだのが比較的早い事例として知られる
(神奈川大学高大連携協議会『第2回報告書 学校教育におけるキャリア教
育』2008年)。また、ジュニア・アチーブメント・ジャパンが2004年からセコ
ム、日揮、エクソンモービルなどの企業の協力を得て、ジョブ・シャドウイン
グの機会を提供し、東京都立豊島・砂川、神奈川県立横浜青陵などの高校が取
り組んでいる。都立豊島高校はセコム、横浜青陵高校は日揮で実施している
(神奈川大学高大連携協議会『第3回報告書 学校教育におけるキャリア教
育』2009年)。

*ジュニア・アチーブメント・ジャパンが「ジョブシャドウ」を登録商標し
たため、一般的な用語としては「ジョブ・シャドウイング」を使用している。

 桜華女学院高校(現・日体桜華高校)では2004年から09年まで、2年生が夏
季休業中の課題として取り組んでいる。インターンシップではなく、ジョブ・
シャドウイングとして取り組むことにした理由としては、(1)普通科の高校の
場合には、専門高校のように身につけてきた専門的な知識や技術を実際の職場
で経験させる取り組みはできないこと、(2)大学生のように長期間にわたって
特定の職業技能の修得をはかるような取り組みをすることも難しいこと、さら
に(3)中学生の職場体験学習を受け入れている事業所への聞き取りによれば、
普通科高校の生徒には中学生と同じ体験活動をさせていることが知られ、高校
段階で同じような体験活動をさせることに疑問があったこと、などがあげられ
ている。この取り組みは、実際に働いている人たちの仕事に取り組む姿をじっ
くり観察し、また一部は体験する中で、そこで何を考えて仕事をしているのか、
どのような意識で取り組んでいるのかなどを感じとっており、職業理解を深め、
将来の職業選択や将来設計について考えるよい機会となっていることが知られ
る(桜華女学院高等学校『紀要』第4号、2008年)。

                        (編集委員 山野晴雄)

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3 私が読んだキャリアの1冊

『イノベーション戦略の論理-確率の経営とは何か』
                  原田勉 著 中公新書 2014.3.25

 「日本経済再生の鍵はイノベーション」として始まる本書は、イノベーショ
ン戦略に確率の視点を持ち込んだ書である。「長期的にイノベーションの成功
確率を高める経営戦略を具体的に示す」とされている。

 経営戦略としてのイノベーションは、最終的に結果によって成否が問われる
ものである。すなわち、どのようなイノベーションについてもそのリスクはつ
いて回るものである。本書では、確率管理への転換は、結果合理性からプロセ
ス合理性への転換と位置づけている。

 例えば、あるイノベーションによる成功確率をpとするとき、そのリスクは
1-pである。これをn回繰り返せば、リスクは(1-p)nとなり、成功確率(本書
では「イノベーション確率」と呼んでいる)、1-(1-p)nとなり、pよりも高
い確率となる。これは、同じ試行を繰り返すことであるが、複数の組織がそれ
ぞれの試行を行うことは、同じ論理が働き、イノベーション確率を上げること
ができると言っている。

 では、このイノベーション確率をどのように捉えるのか。それは、マーケテ
ィングとコスト管理であると述べている。さらに、決定を遅らせることで新た
な情報を獲得することと述べている。成功確率p自体経験則の基づくもので、
経験則を挙げる試みとしてのマーケティングは不可欠であろう。また、試行回
数が増えればその分コストは上がる。適正なc得るためのコスト管理は、必須
と言える。さらに、決定を遅らせることから、様々な要因が見えてくるように
なり、pを上げることが可能となるとともに、適正な試行回数nも得ることがで
きる。

 さらに本書では、イノベーション確率を上げるための人材育成として人材を
「できて語れない人」「できなくて語れる人」「できて語れる人」と分類して
いる。「できて語れない人」は、言わば職人であり、その伝承は難しい。「で
きなくて語れる人」は、言わば評論家である。「できて語れる人」が重要であ
ることに論は待たない。しかし、このタイプはあらゆること精通していなけれ
ばならず、組織が大きければ大きいほどそのような人材の育成は困難になる。
ならば、「できなくて語れる人」をどれだけ育成できるかである。

 そのためには、自らの専門の分野をより深いレベルまで引き上げることで、
その知見を幅広く応用できるようにすることである。言わば、専門外の分野へ
の「目利きの育成」を挙げている。

 イノベーションの方向性を規定する焦点化装置を生み出す要素技術間の相互
依存関係として、「乗法分解」と「加法分解」があると言っている。乗法分解
は、一つが0ならば全体が0となるように要素間の依存関係が強く、それぞれ
が連続的継続的に関わっている状況である。そのため、弱みを克服する方向で
イノベーションが進んでいくとしている。それに対し、加法分解では要素間の
依存関係は弱く、それぞれが独立した状況である。そのため、強みを追求する
ことが必要となってくる。

 本書は専門書や論文をもとに、現実の企業の戦略等と関連づけながら、直接
的イノベーション戦略や間接的イノベーション戦略の重要性や実行への体制等
について説明がなされている。筆者にとって、まったくの専門外であり、初め
て知りことばかりであった。しかし、様々な戦略決定の根底に数学的な視点や
数学的な発想が随所に見られる。数学を活用したモデルを構成し、必要ならば
グラフ等活用した視覚化を図り、それらのモデルに基づいて経営戦略を持つこ
とは、より具体性を持つこととなる。また、イノベーション戦略自体未来の予
測に基づくもので、そのための確率に基づいた予測と戦略は、不可欠な素養と
なる。

 数学のプロパーとしての教育を受けて、本書の内容に全くの門外漢である筆
者にとって、数学の有用性がまた一つ高まったと実感できた。同時に、企業内
でキャリアを積み上げる際に数学的素養が不可欠であることもまた実感するこ
とができた。

 今後、確率・統計やその裏付けとなる微積分や線形数学など、今後の企業内
キャリア教育でも重要な位置づけとなることが想定されることを感じた次第で
ある。

                        (広報委員 青木猛正)

※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
 日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。

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4 キャリアイベント情報
  -キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します-

◆【本学会後援】世界産学連携教育協会(WACE)第19回世界大会

 WACE世界大会は、各国から産学官のCWIE(産学連携教育)の専門家や実務家
が集う、WACEが主催する最大規模の国際会議です。
 富士ゼロックス株式会社代表取締役社長山本忠人氏の基調講演や日本の企
業・高等教育機関などを対象とした特別プログラム「ジャパンプログラム」な
ど 様々なプログラムを展開します。

 日 時:2015年8月19日(水)~21日(金)
 主 催:WACE(世界産学連携教育協会)
 場 所:京都産業大学
http://www.kyoto-su.ac.jp/path/wace/mousikomi/index.html

◆学習院大学経済経営研究所・学習院大学「ワーク・ライフ・バランスを実現
 する企業支援システムと雇用システム」プロジェクト
 学習院大学ワーク・ライフ・バランスカンファレンス「女性活躍とWLB」

 「成長戦略」の一つに位置づけられ関心が高まりつつある「女性活躍」と、
その実現に不可欠なWLBをテーマに、松浦民恵氏と大内章子氏の基調講演と、
文部科学省科学 研究費プロジェクト「ワーク・ライフ・バランスを実現する
企業支援システムと雇用システム」による研究成果の中間報告を行います。

 日 時:2015年 9月11日(金) 13時30分~17時00分
 会 場:学習院大学西2号館501教室
定 員:100人 程度
 参加費:無料
http://www.gakushuin.ac.jp/univ/eco/gem/

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5 学会活動ニュース

◆2015年6月26日(金)
 第60回研究会 於 法政大学市ヶ谷キャンパス  
 「キャリア・デザイン・ライブ!第3回」
 テーマ:「精神科産業医が語る『キャリアに囚われる人の特徴』」
 講 師:野口 海(精神科医、産業医)

◆2015年7月11日(土)
 特別研究会 於 産業能率大学自由が丘キャンパス  
「キャリア・デザイン・ライブ! サマー・スペシャル」
 テーマ:いいことしてるなんて、思わない?若者に私たちができること・で
     きないこと
 パネリスト:井村 良英(NPO法人育て上げネット・たちかわ若者サポート
            ステーション)
       松本 智春(川崎市立川崎高等学校定時制課程教諭)

◆2015年8月1日(土)
 第5回 中京支部研究会
 テーマ:企業の中のキャリアデザイン~ワーク・ライフ・バランスの視点か
     ら考える~
 講 師 土岐昌生氏(中部キャリアカウンセリング研究会)
     加藤容子氏(椙山女学園大学)

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【編集後記】

 「暑いですね」が日常のあいさつがわりになっている今年の夏、北海道も例
年より暑い日が続いていますが、それでも関東以西などに較べると格段の違い
のようです。9月上旬といえばまだ残暑の厳しい時期ですが、そんな折に北海
道で地域とキャリアを深く考えるとともに、一足はやい秋の気配を探してみる
のはいかがでしょう。学会研究大会、オプションもふくめて関係者一同お待ち
申し上げております。ふるってご参加ください。(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.career-design.org/

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
 このメールマガジンの文責はすべて執筆者にあり、日本キャリアデザイン学
会として正確性などを保証するものではありません。

【日本キャリアデザイン学会広報委員会】

 青木猛正 埼玉県立特別支援学校校長
 石川了  労務行政研究所
 内田勝久 富士電機株式会社社長室広報IR部
 荻野勝彦 トヨタ自動車株式会社渉外部
 平野恵子 文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所
 堀内泰利 慶応義塾大学SFC研究所
 山野晴雄 慶應義塾大学講師

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail info@career-design.org
   〒181-0012 東京都三鷹市上連雀1-12-17
   三鷹ビジネスパーク2号館 ぶんしん出版内

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