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□ キャリアデザインマガジン 第119号 平成27年4月3日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 学会からのお知らせ
2 キャリア辞典「初任給」
3 私が読んだキャリアの1冊
(1)上野千鶴子著『女たちのサバイバル作戦』
(2)玄田有史著『危機と雇用』
4 キャリアイベント情報
5 学会活動ニュース
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1 【学会からのお知らせ】
◆学会監修『キャリアデザイン支援ハンドブック』好評発売中!
キャリアデザイン学会が総力をあげた解説書!
近年大きく広がっているキャリアデザイン支援、その基礎知識と理論・手法、
実践におけるポイントを解説し、先進事例を紹介した関係者・実務家必携の文
献です。2014年10月刊。B5判260ページ・本体3,000円+税。学会会員は20%割
引で購入できます。
ご購入はこちらから http://www.career-design.org/maga/04.html
◆第58回研究会「キャリア・デザイン・ライブ!第1回」を開催します。
好評をいただいているキャリアデザイン学会研究会ですが、2015年度からは
スタイルを一新し「キャリア・デザイン・ライブ」をお送りします。講師から
の短い報告の後に司会との対談の時間を挟んで参加者を交えての議論に移るス
タイルです。皆様、ライブを楽しみながら勉強しましょう。
第1回のテーマは「社員の多様化とキャリア」です。
人材・働き方が多様化する「制約社員」時代へと移行しつつある現代、企業
の人材マネジメントと働く人のキャリア形成はどのように変化するのでしょう
か。『正社員消滅時代の人事改革─制約社員を戦力化する仕組みづくり』の著
者である今野浩一郎本会会員(学習院大学経済学部教授)をお招きし、議論を
深めます。
日 時:2015年4月24日(金) 19:00~20:30
講 師:今野浩一郎 学習院大学経済学部教授
会 場:法政大学市ヶ谷キャンパス 58年館2階 キャリア情報ルーム
東京都千代田区富士見2-17-1
http://www.hosei.ac.jp/access/ichigaya.html
参加費: 会員/無料、一般/3,000円
定 員:30名(先着順)
詳細・お申し込みはこちらから
http://www.career-design.org/pub/t058.html
◆関西支部第17回研究会を開催します。
新卒採用のwebエントリーが定着した結果、大量応募や母集団形成の巨大化
など様々な弊害が指摘されている中で、webエントリーを廃止して直接面談や
電話エントリーによる「生コミュニケーション採用」に切り替えたロート製薬
の事例を学び、企業・学生にとって有益な新卒採用の在り方について考えます。
日 時:2015年 4月25日(土)15:00~17:00
テーマ:「新卒採用のあり方を考える」
~ロート製薬の実施する“生コミュニケーション採用”~
講 師:綾井博之 ロート製薬株式会社 人事総務部 部長
会 場:公益財団法人関西生産性本部 会議室
〒530-6691 大阪市北区中之島6-2-27中之島センタービル28階
http://www.kpcnet.or.jp/access/
参加費: 会員/無料、一般/3,000円
定 員:40名(先着順)
懇親会:17:30~19:30 近辺の居酒屋等 (3,000円程度/人)
詳細・お申し込みはこちらから
http://www.career-design.org/pub/kan2005.html
◆2015年度第12回研究大会のご案内
日 時:2015年9月5日(土)、6日(日)
会 場:北海学園大学 豊平キャンパス
〒062-8605 札幌市豊平区旭町4丁目1番40号
札幌市営地下鉄東豊線学園前駅3番出口直結。
テーマ:地域社会におけるこれからのライフスタイルとキャリア形成
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2 キャリア辞典
「初任給」
■初任給とは?
今年も新たな年度を迎え、各企業や学校など、さまざまな組織で新入社員を
迎えていることと思うが、「初任給」とは、文字通り、社員(労働者)が企業
に入社して初めて支払われる賃金のことである。彼ら、彼女らが入社時から約
1カ月(実質的には数週間)、働いて初めて支給される賃金である。
初任給の統計は、厚生労働省、人事院などの公的機関のほか、日本経済団体
連合会をはじめ、労務行政研究所など民間調査機関調査のものがあるが、数字
をある時期まで遡るとなると、統計も限られてくる。
そこで、以下では遡ることのできる資料や統計から、駆け足で初任給の歴史
(水準と推移)を振り返ってみよう。
■初任給の水準と推移
まず、『明治・大正・昭和 値段史年表』(週刊朝日編 朝日新聞社刊)か
ら、昭和初期までの動きを見てみる。これによると、明治期の企業(銀行)に
おける大学卒・初任給は40円前後、大正期は40円から70円、昭和に入ると、戦
前はほぼ70円で推移している。ちなみに、人気を博したNHK朝の連続ドラマ
『マッサン』でお馴染みの「ウイスキー」の値段は、先の本によると、昭和15
年に4円20銭、当時の初任給の6%ほどである。また、「背広の注文服」は70円
前後だったというから、ほぼ初任給で消えてしまったことだろう。
終戦の昭和20年の初任給は80円、戦後のインフレを反映し、22年は220円、
25年は3000円と一気に増額される。
その後も20%近い物価上昇が続き、初任給はさらに増加、20年代後半は約1
万円で推移(統計により異なるが、調整手当込み)。このあたりから、各機関
統計もようやく整ってきて、人事院調査によると、全産業平均(大学卒)では
32年1万517円、40年は倍の2万2553円、そして49年はオイルショックによる狂
乱物価によって春闘における賃上げ率も史上空前の32.9%を記録したことで、
初任給も大幅に上昇、金額は7万3533円と跳ね上がった。
昭和50年代以降(厚生労働省 賃金構造基本統計調査・大学卒・男性)は、
52年に初の10万円台に乗り、55年は11万4500円、60年は14万円、平成元年は16
万900円と堅調に推移、そしてバブル景気によってさらに上昇し、平成5年には
約19万円にまで上昇する。
それ以降はデフレ不況に突入し、賃金も伸び悩む。初任給は平成15年に20万
1300円とようやく20万円の大台に乗ったものの、その後は大きく増加せず、20
万円台で推移。据え置き企業も毎年増えて、労務行政研究所調査では、平成21
年以降9割以上とほとんどの企業が据え置く期間が続いた。直近の平成26年は、
アベノミクスなど経済政策のテコ入れもあり、据え置き企業の割合は約7割に
まで低下。20万2900円、1.3%増とやや上向きの傾向を示している。
■27年のゆくえと使い道
さて、成長戦略の効果も期待される27年はというと、就職戦線が売り手市場
の中で展開され、求人も逼迫している。春季労使交渉は継続中だが、先行した
大手企業を中心とする賃上げ率は2.43%(連合調査・速報)と、率では平成10
年の2.66%(厚生労働省)以来17年振りの高い率を示している。初任給は、賃
金の底上げを行うベース・アップ(ベア)に影響されることが多いが、ベア
(賃上げ分)の分かる企業の上昇率は0.8%。また、電機業界の初任給は大学
卒で1.0%程度のアップなので、20万5000円前後が一つの目安と言えそうだ。
ちなみに、インターネットの調査会社、インテージの調査(2014年)による
と、初任給の使い道で最も多かったのは、「家族へのプレゼントやご馳走」
(54.3%)、次いで「自分へのご褒美」(48.3%)、「貯金」(45.5%)などだ
という。
グローバル化の中で、人材獲得競争が世界的規模で進んでいる業種もある。
また、就職時期の後ろ倒しや「就職意識」の高まりのなかで、インターンシッ
プを実施する企業も増えている。これまでのような、新卒一括採用や初任給決
定の慣行が変化していくことも考えられるが、初任給を手にする新入社員の
“ファーストキャリア”が、いま始まろうとしている。
(編集委員 石川 了)
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3 私が読んだキャリアの1冊(1)
『女たちのサバイバル作戦』 上野千鶴子著 文春新書 2013.9.20
男女雇用機会均等法に始まり、男女共同参画社会の実現に向けた様々な取組
みがされてきた。しかし、多くの女性が妊娠や出産・育児を理由に退職する傾
向は続いており、女性管理職比率の低さや男女の賃金格差など、日本のジェン
ダー・エンパワーメント指数(GEM)は世界の中でも極めて低く、女性の働く
状況はあまり改善されていない。
本書は、社会学者で、女性学、ジェンダー研究、介護研究を専門とする上野
千鶴子氏が、男女雇用機会均等法から今日までの雇用と労働を振返り、働く女
性たちの状況がどのようになってきたかを書き上げたものである。上野氏は多
くの論争に関わってきた論客であるが、本書の内容も統計データや研究結果な
どの根拠を示して論じている。
上野氏は、男女共同参画政策はネオリベ(ネオリベラリズム、新自由主義)
改革のなかで推進されてきたとしている。そして、ネオリベ改革が、女性の雇
用に及ぼした影響や、ネオリベと少子化、ネオリベとジェンダーなどを幅広く
論じている。上野氏は、ネオリベ改革が女性にかつてなかった多様な選択肢を
登場させたが、一握りのエリート女性と、とくべつの資源を待たないマジョリ
ティの女性とに女性を分断し「女女格差」をもたらしたとしている。
もう少し詳しく本書の内容を紹介する。
上野氏は、日本のウーマン・リブが生まれ、フェミニズムが育ったこの40年
間は、「ネオリベ改革の時代」であったとしている。ネオリベラリズムは、市
場による自由競争がもっとも効率のよい資源の交換と分配を達成するとみなし
て、その競争を制約しそうな規制を緩和しようとする立場である。上野氏は、
男女共同参画政策がネオリベ改革のなかで推進されてきた理由として、少子化
をあげ、両立支援は近未来の労働力不足を女性の労働力で埋め合わせようとい
うのが目的で、動機からいえば労働政策であり、少子化対策であるとしている。
次に、男女雇用機会均等法ができるまでの経緯とこの法律の問題点を説明し
ている。多くの民間の女性団体がこの法律の実効性に疑義を唱え、保護ぬき平
等であるとし、この法律の成立に反対したこと、雇用における性差別でもっと
も重要な「募集・採用」「配置・昇進」が努力義務だけであり、また罰則規定
を欠いていたザル法であったと説明している。さらに「女子のみ」募集はOKと
する労働省の通達、企業による総合職と一般職の「コース別人事管理制度」に
よる均等法の抜け道により、大多数の女性が男性社員の補助業務に就業し、女
性差別を固定化したとしている。1985年に成立した均等法は実効性がなかった
とするのが多くの専門家の意見であると説明している。1997年の改正均等法で、
「募集・採用」「配置・昇進」における差別が禁止規定になったが、罰則規定
がないままであり、定着したコース別人事管理制度や不況化での就活競争の激
化で、この女性差別禁止規定も骨抜きになっているとしている。
続いて、労働のビッグバン、労働の規制緩和が女性に与えた影響を説明して
いる。労働の規制緩和のきっかけになったのが、1995年に日経連が出した報告
書「新時代の日本的経営」であり、その後雇用が正規と非正規に二極分解し、
若者と女性の非正規労働者、すなわち使い捨て労働者が拡大しとしている。労
働者派遣事業法も改正に次ぐ改正により規制緩和が進められたとしている。こ
のネオリベ改革の進展とともに「格差」の社会問題化、女性間の格差、いわゆ
る「女女格差」がもたらされたことが説明されている。そして、男女雇用機会
均等法の最大のアイロニーは、非正規雇用の増加、均等法の適用対象者になら
ない女性労働者が増えたことであるとし、また同じことが育児休業法について
も言えるとしている。
さらに、ネオリベと少子化、ネオリベとジェンダー、ネオリベが女性にもた
らした効果について論じている。ネオリベ改革と不況の効果が子産み時の年齢
層の男女を直撃し、非婚化と少子化が予想以上に進んでしまったとしている。
婚姻外出生率が増えない日本の背景、婚姻率の低下が出世率低下に直結する日
本の特徴、非婚化の背景に非正規労働者の婚姻率の低さがあることを統計資料
で示している。そして日本社会がほんとうに少子化対策を求めるなら、子産み
時の年齢の女性たちに、安定した正規雇用を与えること、その働き方がワー
ク・ライフ・バランスのとれるようなゆとりのあるものでなくてはならないと
主張している。また、ネオリベ改革の時代の女性の変貌について、90年代以降
の女性の高学歴化、娘への教育投資、女子学生の実学志向、ケアする姓として
の女児選好に触れ、「娘受難時代」の始まりであるとしている。さらに、母と
娘の葛藤、母親から職業上の成功と結婚と出産を期待される「娘の二重負担」、
自傷と自罰などメンタルヘルス問題の増大を指摘している。
なお、上野氏は、ネオリベ改革による雇用崩壊が若手男性にも大きな影響を
与えていること、これらの男性の老後の問題についても警鐘している。また、
2000年代から男女共同参画政策へのバッククラッシュ(ゆりもどし)が始まっ
たとし、その背景、バッククラッシュの担い手とその共通点、手法などを説明
し警鐘している。
以上により、上野氏は日本社会の労働における性差別がなくならないこと、
それどころかもっときびしくなったと論じている。そして性差別は合理的か?
と問い、「ジェンダー経済格差」(川口章)に依拠し、日本企業が性差別から
利益を得ている、それは企業にとって合理的なふるまいである、差別均衡が続
いているあいだ、日本企業は自己改革の必要性を感じないとしている。しかし
このまま女性を差別しつづければ日本企業はグルーバルな競争に負け、「巨漢
沈没」するだろうと予測をしている。
最後に、女たちのサバイバルのためにとして、(1)国家レベルの政策や制
度として、同一労働・同一賃金、労働時間の総量規制、(2)企業による雇用
慣行や労働ルールの変更として、新卒一括採用の廃止、コース別人事管理制度
の廃止、年功序列給与体系から能力給へ、公正な査定評価、年齢、性別が関与
しない人事システム、定年制の廃止、ライフステージとニーズに対応した多様
な働き方の許容など「日本型雇用慣行」をなくすことを挙げている。しかし、
これらの変更には時間がかかるとして、今の環境のもとで(3)私的な努力で
可能なことを提案している。ひとりの個人やひとつの組織に自分の運命を預け
ず、個人の生き方を多様化する「ひとりダイバーシティ」、新しいマルチ型の
暮らし方「ゴー・バック・ツー・ザ・百姓ライフ」、共助けのしくみを提案し
ている。
現在、日本経済の再生に向けた成長戦略の中核の一つとして、女性の活躍推
進が掲げられ、「待機児童の解消」「職場復帰・再就職の支援」「女性役員・
管理職の増加」などの政策が進められている。しかし、真に女性が生きやすく、
活躍できる社会を築いていくためには、女性の活躍推進が進んでこなかった背
景と理由、女性のおかれている状況、これまでの日本の雇用や労働政策や改革
の問題点を正しく理解することが不可欠であり、本書はその視点を与えてくれ
るものである。
(編集委員 堀内 泰利)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
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3 私が読んだキャリアの1冊(2)
『危機と雇用-災害の労働経済学』 玄田有史著 岩波書店 2015.2.25
東日本大震災から4年が経過した。復興の進捗には濃淡があるが、そのプロ
セスを振り返り、評価することができるようになるだけの時間は経過したのだ
ろう。この本は、東日本大震災復興構想会議検討部会のメンバーとして、主に
「雇用」の見地から震災復興に深く関与してきた著者が、震災とその後の雇用
対策とが被災地人々の、あるいは日本人の仕事や意識にどのような変化をもた
らしたのかを検証した本である。著者は2005年度から東大社会科学研究所が取
り組んでいる「希望学プロジェクト」のリーダーのひとりであり、その主要な
調査対象がこの震災で甚大な被害を受けた岩手県釜石市であった(その成果は
東大社研・玄田有史・中村尚史編著『希望学[2]希望の再生』、同『希望学[3]
希望をつなぐ』にまとめられている。さらに震災後の調査結果もふくむ成果は
同『〈持ち場〉の希望学』にまとめられている)から、まさに適任であり、ま
た著者にとって特別な思い入れのある仕事でもあっただろう。
第1章では「震災前夜」として、震災当時のわが国の雇用・労働市場の状況
がレビューされる。当時は2008年に発生したリーマンショック後の大不況から、
日本経済がようやく立ち直りつつある時期であった。このリーマンショック時
のさまざまな緊急避難的な雇用対策の経験が、震災後の雇用対策にも生きるこ
とになるのだ。
第2章は「震災と仕事」と題して、就業構造基本調査の特別集計を中心に、
震災が雇用に与えた影響を検証する。影響を受けた人は被災三県にとどまらず、
東日本を中心に570万人にものぼる。特に人的資本を蓄積する機会の乏しかっ
た若年、非正規、中卒・高卒・中退といった人たちが深刻な影響を受ける傾向
があること、社会関係資本の築かれた住み慣れた土地を離れることを余儀なく
された人たちの就労が困難なことなどを指摘している。
第3章の「震災と雇用対策」では、震災後に実施されたさまざまな雇用対策
が紹介される。その結果を確認すると、これらの施策は一定の成果を上げてお
り、失業率の上昇を抑制した可能性が大きいと評価している。なお経済的支援
が被災者の就労意欲を低下させたといった批判に対しては著者は第2章・第3章
を通じて否定的である。
第4章は「震災と企業」であり、震災からの企業の復興は大方の想定を大き
く上回るスピードで進んだが、どのような企業がどのように事業を再建し、危
機を克服したかが検証される。そこで重要であったのは企業の人材育成力であ
り、独自の技術力であり、営業力であったが、著者は経営者のリーダーシップ
に着目する。
第5章の「震災と希望」では、震災が人々の意識にどのように影響したかが
確認されている。大きな被害を受けた被災者は希望を持ちにくい一方で、ある
程度の被害を受けた被災者は被害のなかった人以上に希望を持っており、復興
を新たな希望として前向きな意識を持てている可能性があること、希望の対象
が仕事から家族へと明らかにシフトしていることなどが指摘される。
そして終章の「危機に備えて」では、今回の経験に学び、今後の危機に備え
るための論点が提示される。まず財源確保のための財政再建を求め、続いて製
造業の柔軟さから学ぶこと、過去の経験を忘れずに被災者に対する偏見を排す
ることを指摘する。さらに、深刻な影響を受けやすい不安定な人々を減らすた
めの人的資本蓄積の促進やリーダー人材の育成、家族や地域の信頼関係の構築
など、著者が提示する平時から取り組むべき対策は幅広い。
著者も認めるように、まだ検証は不十分であり、課題も多い。しかし、客観
的なデータの分析を通じて導き出された議論には豊かな説得力がある。加えて
著者が各章において提示している研究課題、たとえば社会的共通資本の喪失に
よる就職困難対策や、雇用創出に対する支援のあり方(グループ補助金か集中
型の雇用促進税制か、など)、補助金・助成金などの政策効果の評価手法、そ
して孤立化・孤独化の拡大を阻止する施策などについても、今回の分析に加え
て既存研究の成果も踏まえられており、その重要性を納得できる。
災害はいつ起こるかわからないが、おそらくは、明日大災害が起きないこと
より、いつかは大災害が起こることのほうがよほど確からしいのだろう。その
ときに、今回の経験は十分に生かされなければなるまい。そのためには、著者
らの希望学プロジェクトが地道に積み上げているような、現地、現物、現場に
ある事実の確認とその積み重ね、そして本書のようなデータをもとにした分析
が不可欠であろう。雇用は多くの人にとって生活の基盤となる、身近で重要な
ものだ。ぜひとも今後とも豊かな成果があがり、政策へと結実していくことを
期待したい。
そして、私もそうだが、たまたま今回はそうならなかった人たちも、いつ被
災者となり、災害の当事者となるかわからない。災害への直接的な備えはもち
ろんのこと、自らの人的資本を高めること、信頼のネットワークをつくる一員
となることなど、一人ひとりにやるべきことがある。そんなことにも気づかせ
てくれる本でもある。ぜひご一読をおすすめしたい。
(編集委員 荻野 勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
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4 キャリアイベント情報
-キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します-
◆JAVADA(中央能力開発協会)働きがい・生きがい・経営研究所セミナー
(Aコース)
日 時:平成27年4月23日(木)、5月21日(木)10:00-17:00
テーマ:「パートなど非正規労働者の労務管理の方法/就業規則・給与規定の改定のポイント」(4月)
「~社員が活き活きと働ける職場づくりと対処法~メンタルヘルス対策セミナー」(5月)
http://www.javada.or.jp/topics/jigyoujinzaipdf/seminar0423A.pdf
http://www.javada.or.jp/topics/jigyoujinzaipdf/seminar0521A.pdf
場 所:中央職業能力開発協会 第7会議室(東京都新宿区)
(Bコース)
日 時:平成27年4月24日(木)、5月22日(金)10:00-17:00
「~これからの人事と組織活性化に欠かせない~従業員満足(ES)向上型人事制度のつくり方」(4月)
「一日でマスターする!『評価者研修の効果的な進め方』実務セミナー」
(5月)
http://www.javada.or.jp/topics/jigyoujinzaipdf/seminar0424B.pdf
http://www.javada.or.jp/topics/jigyoujinzaipdf/seminar0522B.pdf
場 所:中央職業能力開発協会 第7会議室(東京都新宿区)
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5 学会活動ニュース
◆2015年2月5日(木)
第1回研究会企画委員会 於 法政大学55年館
・2014年度研究会、ミニシンポジウムについて
◆2015年3月10日(火)
第1回研究誌編集委員会 於:筑波大学東京キャンパス文京校舎
・研究誌(Vol.11)の編集について、その他
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【編集後記】
新年度をむかえ、新入社員や新入生のフレッシュな姿をあちこちで目にしま
す。「大学に入学した瞬間から卒業後のことを考えはじめなさい」とも言われ
る昨今、各大学のキャリアセンターをはじめキャリア教育を担う方々にとって
心強い味方になってくれそうな教材が、先日公表された、東京都がなんと無償
で提供している「大学生に向けたキャリアデザインコンテンツ」です。キャリ
アデザインに関するスタンダードな知見をもとにわかりやすくまとめられてお
り、大学生活をその後のキャリアという観点からも充実させていくための手引
きとして有用と思われますし、キャリアデザインに関する基礎知識のまとめと
しての活用も可能です。新年度にあたり、読者各位もごらんになってはいかが
でしょうか。次のサイトで公表されています。
http://www.tokyo-wlb.jp/young/download.html (O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.career-design.org/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
このメールマガジンの文責はすべて執筆者にあり、日本キャリアデザイン学
会として正確性などを保証するものではありません。
【日本キャリアデザイン学会広報委員会】
青木猛正 埼玉県立特別支援学校校長
石川了 労務行政研究所
内田勝久 富士電機株式会社社長室広報IR部
荻野勝彦 トヨタ自動車株式会社渉外部
平野恵子 文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所
堀内泰利 慶応義塾大学SFC研究所
山野晴雄 慶應義塾大学講師
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail info@career-design.org
〒181-0012 東京都三鷹市上連雀1-12-17
三鷹ビジネスパーク2号館 ぶんしん出版内
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