キャリアデザインマガジン 第105号

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□    キャリアデザインマガジン 第105号 平成24年2月27日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 キャリア辞典「秋入学」(1)

2 私が読んだキャリアの1冊 労務行政研究所編『日本人事』

3 キャリアイベント情報

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【学会からのおしらせ】

◆日本キャリアデザイン学会中京支部は、以下のとおり研究会を開催します。

 日 時:平成24年3月10日(土)14:30~16:30
 場 所:椙山女学園大学現代マネジメント学部001室
 テーマ:「小学校段階からのキャリア教育
               ~小学生に何をどう身につけさせるのか~」
 講 師:愛知県教育大学教育学部講師 高綱睦美氏
 参加費:会員 無料 / 一般 3,000円
      ※終了後、交流会を実施します(会費4,000円)。
 概 要:http://www.career-design.org/content/view/266/1/
 申込み:https://www.hosei-web.jp/fm/10184.html

◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり第40回研究会を開催します。

 日 時:平成24年3月24日(土)14:00~16:00
 場 所:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー25階会議室
 テーマ:「著者と語るシリーズ(4)キャリア・アラインメント
                   (キャリアと自分軸をそろえる)」
 講 師:グローバル・エクスレンス代表 田中ちひろ氏
 参加費:会員 無料 / 一般 3,000円
 概 要:http://www.career-design.org/content/view/268/1/
 申込み:https://www.hosei-web.jp/fm/10186.html

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1 キャリア辞典

 秋入学(1)

 昨年(2011年)、東京大学が大学の入学時期を現行の4月から9月に変更する
「秋入学」の本格的な検討を開始した。東京大の「入学時期の在り方に関する
懇談会」座長:清水孝雄副学長)はこの1月20日、「将来の入学時期の在り方
について -よりグローバルに、よりタフに-」と題する中間まとめを公表し、
「秋季入学に関する検討を着実に進めると同時に、教育の国際化、入試や進学
振分けの改善など、さまざまな改革を総合的に推進していく決意」を示した。
いっぽうで東京大学は「単独での実施はしない」との考えも示しており、他大
学との連携に期待を示している。これを受けて、多くの大学で検討が開始され
ているようだ。

 もともと、大学に限らず、学校の学年始期(入学時期)は法令で4月1日と定
められていた。これが、2008年の大学の法人化の際、大学については学長が定
めうるとされた。この変更自体が、大学の秋入学を念頭においたものであると
いわれており、今回東京大学が秋入学の検討を実施していることは、ある意味
当時から想定されていたことであるといえそうだ。実際、全学規模ではなく、
学部、学科、コース単位ではすでに秋入学・秋卒業の制度を持つ大学は少なく
ない(たとえば上智大学国際教養学部では春学期の合格者123人に対し秋学期
の合格者187人となっている)。なお卒業に関しては留年者については単位取
得後の秋卒業は一般的に行われている。

 この議論を主導する東京大学の濱田純一総長がこの中間まとめの公表にあた
り「国際的な大学間競争が教育面でも激しくなり、また、国際性を備えたタフ
な人材の育成に対する社会の期待は益々大きくなっています。…秋季入学への
移行は、本学の学事暦について国際的なハーモナイゼーションを図ると共に、
それをきっかけとして、国際的な競争に耐えうる教育力を支える環境を整備し
ようとするものであると理解しています」と述べているように、秋入学の主た
る意図は国際化、それも国際交流にあるようだ。

 事実、同時に公開されている東京大学の資料によれば、東京大学における海
外留学は平成23年5月現在で学部53人(0.4%)、大学院286人(2.1%)にとど
まる。留学生の受け入れは留学よりは活発であり、同時点で学部276人(1.9
%)、大学院では2,690人(18.6%)となっているが、海外の超一流大では学
部の留学生比率は5~10%であり、低調と言わざるを得ない。なお大学院では
すでに10月入学を導入済みであり、入学者全体の8.6%を占めるという。

 この実態、特に日本人学生の海外留学の実情に関しては「経済・社会のグ
ローバル化が進む中、人材のグローバル化が強く求められる中、留学の減少な
どに見られる『内向き指向』が懸念される」との指摘が広くみられる。留学生
受け入れの少なさも国際交流という面では問題であろう。入学時期の違いが留
学減少の主たる原因であるかどうかには議論もあろうが、しかし欧米諸国の8
割、グローバルでも7割が秋入学となっている中で、わが国が歩調をそろえる
ことは大学の国際交流にとってかなりのメリットがあろう。

 もちろん、これは国際交流にとどまらず、大学教育、ひいては教育全体に大
きな影響を及ぼそう。濱田総長もいうように「大学改革の枠の中に止まらず、
高等学校や産業界をはじめ社会全体に大きな影響を及ぼしうる問題」と思われ
る。すでに経済同友会が秋入学に対する支援と対応を表明するなど、議論は加
速しているが、論点は山積している。今後の行方が注目される。

                        (編集委員 荻野勝彦)

2 私が読んだキャリアの1冊

『日本人事 NIPPON JINJI-人事のプロから働く人たちへ。
                      時代を生き抜くメッセージ』
 (財)労務行政研究所編 斎藤智文・溝上憲文/文 労務行政 2011.8.31

 「労政時報」といえば、「賃金事情」など産労総研の各種出版物と並んで、
企業の人事・労務担当者をはじめ、労働関係者にもっとも広く知られた専門誌
だろう。その版元である(財)労務行政研究所が創立80周年記念事業の一環と
して出版した本である。

 労務行政研究所の創立は戦前の1930年、当初の名称は意外にも「日本教育問
題調査会」であった。「労務行政研究所」と改称されたのが1937年、日中戦争
の年だ。その経緯は不明だが、当時は「教育問題」と「労務行政」との距離は、
こんにち思うほどには遠くなかったのだろう。以降80年以上にわたって労務行
政は「労働条件の検討・決定に携わる労使の実務担当者に向けて、現場で求め
られる最新の情報・データを、常に中立的な立場から」発信し続け、主力であ
る「労政時報」はすでに3800号を突破して4000号に迫っているほか、時代の変
化に応じたさまざまな事業を展開している。民間で人事労務の仕事に長年従事
した15人のビジネスパーソンのインタビューで構成されたこの本は、まことに
労務行政研究所らしい80周年記念事業といえるのではないか。

 登場する15人はすべて人事のベテランだが、それを除くとかなり多様である。
年齢的にも現役がいればOBもいるし、一貫して人事畑を歩んだ人もいれば他
の機能・部門を多く経験している人もいる。労組の専従役員を経験した人もい
る。激しい労働運動や厳しい人員削減を経験した人もいるし、人手不足に苦労
した人もいる。海外経験の豊富な人もいればそうでない人もいる。入社した企
業で役員になっている人、関連会社に転出した人、キャリアも多様である。こ
れだけ読ませる中身を豊富に持った多様な15人を集めることができるというこ
と自体が、おそらくは労務行政研究所の80年間の貴重な蓄積の現れなのだろう。

 こうした多様な15人だが、おそらくはもう一つ、「日本的長期雇用慣行の中
で働いてきた人たち」という共通点を指摘してもいいだろう。いずれも大企業
に入社した人たちなので、当然といえば当然かもしれない。それにしても、こ
の15人の誰一人として、社会人になった時点で「この本に登場する自分」を想
像できた人はいないだろう。働きながら仕事を覚え、ある時期からはマニュア
ルどおりではできない仕事にも取り組みはじめる。そして、経験もなければ前
例もない困難な仕事(往々にして「修羅場」と語られる)に直面し、それをや
りきることで大きく成長する。それは人員削減を含むきびしい労使交渉であっ
たり、はじめて進出する他国での仕事であったり、なんの経験もないままに任
された企業合併の実務だったり、人によりそれぞれだが、まさに「経験を通じ
て成長する」日本企業の人材育成そのものといえそうだ。こうしたプロセスを
通じて形成されるのは、単に実務能力や胆力、忍耐力といった類の徳目にとど
まらない。人事管理という仕事に対する理念や信念もまた徐々に確立されてゆ
く。

 もちろん、ここに登場した15人はかなり例外的な成功者であり、現実には厳
しいビジネスシーンの中で挫折する人もいるだろうし、そもそも困難に立ち向
かう機会を得ないままに過ぎ行く人もいるに違いない。15人が口を揃えて「人
こそが財産」「人を大切に」「人事こそ経営」と言うのは、そうした多くの人
たちのことを深く記憶し配慮しているからであり、だからこそその言葉が説得
力を持つのではないか。

 15人のインタビューの相当部分は、労務行政研究所のウェブサイトから読む
ことができる。正直なところ、人事担当者、労働関係者あるいはマネージャー
職以外の人には理解・共感しにくい部分もあろう。将来にわたって不変たりう
るかどういう疑問もあろう。とはいえ、虚心に読めば考えさせられる内容の多
い本であり、さまざまなヒントの埋め込まれた本でもあろう。まずはぜひウェ
ブサイトにアクセスしていただいてその一端に触れ、少しでも関心を持てれば
一読をおすすめしたい。
                        (編集委員 荻野勝彦)

 ※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
  日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。

3 キャリアイベント情報
  ~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~

◆観光庁「ポジティブ・オフ」シンポジウム「日本経済を活性化するライフス
 タイル・イノベーション」
 日 時:平成24年3月1日(木)14:00~17:40
 場 所:梅田スカイビルスペース36L(大阪市北区)
 http://www.face2.jp/posioff2012/

◆神戸国際大学経済文化研究所第27回公開土曜講座「高等教育の変貌と学生に
 求められる力」
 日 時:平成24年3月3日(土)、3月10日(土)各13:20~16:40
 場 所:神戸国際大学六甲アイランドキャンパス(神戸市灘区)
 http://www.kobe-kiu.ac.jp/extension/list.php?SID=7000000004

◆国際人材派遣事業団体連合・日本人材派遣協会リージョナルワークショップ
 「Adapting to change-日本の労働市場の変化と人材派遣業界の役割」
 日 時:平成24年3月6日(火)13:30~16:45
 場 所:東京国際フォーラムB7ホール
 http://www.jassa.jp/ciett/ws/

【編集後記】

 今回のキャリア辞典では「秋入学」を取り上げましたが、東大が中間まとめ
を発表したことで、青山商事の株価が上昇したそうです。秋入学になることで
スーツを着る機会が増えるだろうということで、いささか「風が吹けば桶屋
が」という感はありますが、まあ業績も良好なようなのできっかけが求められ
ていたのかもしれません。「社会全体に大きな影響」にもいろいろあるようで
す。(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.career-design.org/

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
 このメールマガジンの文責はすべて執筆者にあり、日本キャリアデザイン学
会として正確性などを保証するものではありません。

 編集委員:青木猛正(埼玉県立特別支援学校塙保己一学園教頭)
      荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社渉外部)

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail cdgakkai@hosei.org
   〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1

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