キャリアデザインマガジン 第104号

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□    キャリアデザインマガジン 第104号 平成23年8月29日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 キャリア辞典「労働者」(3)

2 私が読んだキャリアの1冊
          中澤二朗『「働くこと」を企業と大人にたずねたい』

3 キャリアイベント情報

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【学会からのおしらせ】

◆第8回研究大会・総会の参加者を募集中です。

 日 時:平成23年10月1日(土)~2日(日)
 場 所:日本大学三崎町キャンパス
 テーマ:「グローバル時代のキャリアデザイン-その原点から未来へ」
 参加費:研究大会 会員/5,000円 非会員/8,000円
     懇親会 会員・非会員とも3,000円
 概 要:http://www.career-design.org/content/view/226/1/
 登 録:https://www.hosei-web.jp/fm/10146.html

◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり中四国研究会を開催します。

 日 時:平成23年9月6日(火) 14:00~17:00
 場 所:広島国際大学 広島キャンパス(広島市中区幟町1-5)
 テーマ:「就業力育成の観点から正課キャリア教育カリキュラムを考える
              ~地場企業・教員・職員の三者の立場から~」
 参加費:会員 無料 / 一般 3,000円
      ※日本キャリア教育学会・大学行政管理学会も会員対象
 後 援:日本キャリア教育学会・大学行政管理学会
 概 要:http://www.career-design.org/content/view/230/1/
 申込み:https://www.hosei-web.jp/fm/10158.html

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1 キャリア辞典

 「労働者」(3)

 プロの音楽家は労働者なのだろうか。もちろん、新国立劇場でカルメンやド
ン・ホセを歌うような歌手であれば、独立性もギャラも高く、契約も公演ごと
になっていて、労働者であるとは考えにくい。それでは、カルメンの同僚であ
る煙草工場の女工に扮して「煙の歌」を歌う合唱団員はどうか。これについて
は現実に労組法上の労働者性をめぐる争いがあり、この4月に最高裁判決が出
された。

 一般論として、新国立劇場の公演に加わるような音楽家であれば、タイトル
ロールや協奏曲のソロを演じるような花形スターではないにしても、相当程度
高度で希少なプロフェッショナルだろう。海外留学の経験もあろうし、入場料
の一桁低い公演ではソリストを務めることもあるかもしれない。音大や音楽学
校で教鞭をとったり、個人的な「お稽古」で収入を得ている人も多いだろう。
自分は合唱団員や管弦楽員ではなく、歌手であり(例えば)ヴァイオリン奏者
であると思っている人もいるだろう。

 そのためかどうか、新国立劇場のケースでは、劇場への専属性・拘束性の高
い財団職員としての雇用契約ではなく、より自由度の高い出演契約という形を
とっていた。具体的にはまず一年有期の基本出演契約を締結し、さらに出演す
る公演ごとに個別出演契約を締結する、つまり「この時期には自分のリサイタ
ルがあるから」といった場合には個別公演への出演を断ることができるしくみ
となっていた(よりゆるやかに、個別出演契約のみで出演する合唱団員もい
た)。

 このような基本出演契約のもとに出演した合唱団員のひとりが契約の更新を
拒否され、加入する職能別労組が財団に団体交渉を申し入れたところこれを拒
否され、東京都労働委員会に団交拒否と本件契約更新拒否が不当労働行為であ
るとして救済を求めたのが2003年のこと。これに対し都労委は、労組法上の労
働者性を認めた上で団交拒否のみを不当労働行為として救済を命令、中労委の
再審査もこれを支持したため、これを不服とした両者が東京地裁に提訴した。

 2008年、東京地裁は契約形態や契約内容を重視し、労組法上の労働者性を否
定する逆転判決を言い渡した。これは契約の形態・文言にかかわらず就労の実
態によって判断すべきとする従来の裁判所・労働委員会の判断や行政解釈、学
界の有力説と対立するものであり、世間を驚かせたが、2009年には東京高裁も
これを支持し、これを不服とする国(中労委)が上告した。

 周知のとおり、最高裁は従来の通説に立ち返り、高裁判決を破棄差し戻しと
する再逆転判決を下した。同日、最高裁はやはり高裁が認めなかった個人事業
委託契約のもとに修理業務等に従事するカスタマーエンジニアの労組法上の労
働者性も認めており、労働界は連合がこの2判決の意義を強調する事務局長談
話を発表するなどこれを歓迎、学界や行政も安堵に包まれた。経営サイドのコ
メントは特に見当たらないが、順当な判断と受け止められているのではないか。

 なお、このケースではこれと並行して合唱団員は労基法上の労働者性も有し、
本件契約更新拒否は合理性・相当性がなく無効であるとする地位確認請求も起
こされたが、こちらは認められないままに上告不受理で終了している。

 近年、こうした業務委託・請負で働く人が増加し、中にはインディペンデン
ト・コントラクターとして高額の収入を得る人もいる一方、契約条件が劣悪な、
労働保険に加入できないなど労働者保護に不備があるとの指摘もある。工房形
式でマンガ劇画やアニメーション映画を制作する職場やバイク便の配送業者
(個人業務委託契約が多いとされる)、さらにはフランチャイズ店の経営者な
ど、その労働者性の判断が難しく、争いとなる例も増加しているという。多様
性を生かしていく上では、過小でも過大でもない適度な保護が確保される必要
があり、その実現に向けた検討が求められよう。
                        (編集委員 荻野勝彦)

2 私が読んだキャリアの1冊

『「働くこと」を企業と大人にたずねたい ―これから社会へ出る人のための
 仕事の物語』       中澤二朗著 東京経済新報社 2011.2.18

 著者は新日鉄で30年間人事労務に従事し、同社が1980年代に大規模な経営合
理化を断行した際には八幡製鉄所の労政掛長であったという。本社で決定され
た経営再建策を、製鉄所の現場で労組と折衝しながら具体化していく。それが
きわめて困難な仕事であったことは想像に難くない。この本は、こうした長年
の経験を通じて著者が考え抜いてきた「良き企業とは」「良き企業人とは」
「良き社会とは」などの疑問に対する回答をまとめた本といえそうだ。

 手の込んだ語りと巧みな用語法で飽きさせずに読ませる本だが、そのメッ
セージはきわめてシンプルなものだ。前編の第1章では「良き企業とはどんな
企業か」「良き社会人とはどういう人か」「良き社会人にどうしたらなれるの
か」「良き社会とはどういう社会か」という4つの「素朴な疑問」が提示され
る。第2章では資本主義経済の発展とともに産業の論理が人間の論理を従属さ
せたことが指摘される。第3章では、産業・企業の時間軸が人間のそれより短
いことを指摘し、より長期の時間軸を持つべきことが主張される。

 後半の第4章から第7章では、4つの疑問への著者の回答が語られる。良き企
業とは人間を大事にする企業であり、その核心は雇用を守る姿勢である。良き
社会人とは仕事を通じて人間尊重を実践できる人であり、良き社会とは良き企
業と良き家庭が存在し、人と社会の力が発揮される社会である。そして、それ
を実現する良き社会人になるためのステップとして「実践NJ法」が提案され
ている。

 こうした主張が、「赤の青年・黒の青年」「地軸のすすめ」「ニワトリの成
果主義・タマゴの成果主義」「しごと壁の仕事人・しごと穴の仕事人」などの
魅力的な用語法、多彩な語り口、そして入念に作られた分析図を駆使して縦横
無尽に展開される。まことにめくるめく中澤ワールドである。

 評価は分かれる本だろう。実感こもった内容に共感し共鳴する人は多かろう
と思う。これらの問題について心の中にもやもやと感じている人たちにとって
は、それを鮮やかに整理してくれる本でもあるだろう。いっぽうで、日本経済
の停滞の大きな原因のひとつを雇用の硬直に求め、市場主義の強化を主張する
意見は根強く、著者はこうした議論を産業の論理の変質として批判しているが、
逆にそうした論者からみれば、本書は時代遅れになった大規模製造業の人事管
理を礼賛する反動の書ということになるだろう。かなりの程度個人的体験を
ベースにした議論であり、また社会分析や概念化なども独自のものなので、読
み手それぞれの意見や立場、経験や現状などに応じて賛否は分かれそうだ。

 私個人としては、著者の膨大な思索と学びに圧倒される思いであった。自分
の仕事についてこれだけ深く自省し、企業について、仕事について、社会につ
いて、そして人間について徹底的に調べ、考え抜いて、形あるものにまとめあ
げるという、すさまじいまでの勤勉さを前にすれば、内容に対する少々の違和
感などはいかほどのものとも思えない。この人生の大先輩を前に、自らの至ら
なさを深く感じざるを得ない。

 論争的な本であり、すべての人に収穫を約束することは難しいが、しかし人
によっては多くのものを得ることも多いのではないか。示唆に富んだ本である。
                        (編集委員 荻野勝彦)

 ※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
  日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。

3 キャリアイベント情報
  ~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~

◆独立行政法人日本学生支援機構 平成23年度就職に関する意見交換会
 (関東地区)
 日 時:平成23年9月30日(金)10:00-15:30
 場 所:東京ガーデンパレス(東京都文京区)
 http://www.jasso.go.jp/sien_suishinpro/ikenkokan23.html

◆学習院大学経済経営研究所(GEM)第4回公開ワーク・ライフ・バランス
 (WLB)カンファレンス―短時間正社員におけるWLB―
 日 時:平成23年9月9日(金)13:30~17:00
 場 所:学習院大学 目白キャンパス 西2 号館 2F 201 教室
 http://www.gakushuin.ac.jp/univ/eco/gem/works/database/info/images/2011gaiyo

【編集後記】

 民主党代表選は5氏の争いとなり、野田佳彦財務相が新代表に選出されまし
た。順当にいけば、松下政経塾出身者がはじめて首相に就任することになりま
す。やはり代表選に立候補した前原誠司前外務相も松下政経塾出身ですし、出
馬はしませんでしたが名前が取り沙汰された樽床伸二元国対委員長、原口一博
前総務相もそうです。安倍・福田・麻生・鳩山と、父または祖父が首相経験者
という世襲総理が4代続きましたが、菅首相をはさんで、今後は松下政経塾が
「首相のキャリア」として有力になるのでしょうか。キャリアはどうあれ、国
の舵取りはしっかりとお願いしたいものだと思います。(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.career-design.org/

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。

 編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社渉外部)

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail cdgakkai@hosei.org
   〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1

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