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□ キャリアデザインマガジン 第102号 平成23年5月16日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 キャリア辞典「労働者」(1)
2 私が読んだキャリアの1冊 玄田有史『希望のつくり方』
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり2011年度東京地区第4回研究会
を開催いたします。非会員の方もご参加いただけます。今回は若きネットベ
ンチャー経営者をお招きし、そのキャリアデザインについてお聞きします。
日 時:平成23年7月16日(土) 15:00~17:30
場 所:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー25階会議室
テーマ:「オンライン英会話ビジネスに取り組む私のキャリアデザイン」
講 師:(株)レアジョブ代表取締役CEO 加藤 智久
参加費:会員/無料 非会員/3,000円
概 要: http://www.career-design.org/content/view/224/1/
お申し込み https://www.hosei-web.jp/fm/10140.htmlからお願いします。
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1 キャリア辞典
「労働者」(1)
「労働者」をWeb辞書(三省堂「大辞林」、http://www.sanseido.net/)で
調べてみると「(1)労働に対する賃金で生活する人. (対)資本家 (2)肉体労働
者.」となっている。似たようなことばに「勤労者」があるが、こちらは同じ
辞書で「勤労所得で生活する者.農民・サラリーマン・商工業者など.」との
定義が与えられている。労働者とはもっぱら雇われて働く人であり、農民や商
工業者は含まれないようだ。「労働」は同じ辞書によれば「体(頭脳)を使っ
て働くこと.」だというから、農民や商工業者(あるいはもっぱら家事に従事
する専業主夫/婦なども)も「労働」をしているという自覚はあるだろうが、
しかし雇われているわけでも賃金を受けているわけでもないから、労働者では
ないということになろうか。
法律上も、民法第三編(債権)第八節(雇用)において「雇用は、当事者の
一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその
報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」と定められ
(第623条)、その当事者を「使用者」「労働者」と称している。なお憲法は
最低労働基準の法定に対しても労働三権の保障に対しても「勤労条件」「勤労
者」の語を使用しており、「労働」「労働者」の語は現れない。
労働法においては、「労働者」に定義が与えられているものもある。たとえ
ば労働基準法は「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は
事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」という定義を与えて
いるし(第9条)、労働契約法では「この法律において「労働者」とは、使用
者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。」という定義が与えられ
ている(第2条)。民法の雇用(契約)と労働契約法の労働契約が同一概念か
否かについては論争があるようだが、いずれにしても雇用・労働契約およびそ
の最低基準のルールを定めたものなので、現に存在する就労と賃金支払の契約
の一方当事者が「労働者」だ、ということになろう。
これに対して、労働組合法の定義は異なっていて、「職業の種類を問わず、
賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。」というもの
だ(第3条)。なにも違わないように見えるかもしれないが、労働基準法・労
働契約法が「賃金を支払われる者」としているのに対して、労働組合法は「賃
金…その他これに準ずる収入によつて生活する者」としている。つまり今現在
は賃金を支払われていないが雇われて働くことを意図している失業者であって
もこれに該当し、労組法上の労働者に該当することになるし、労働の対価とし
て収入を得ているのであれば必ずしも雇用・賃金という形式をとっていなくて
も「これに準ずる収入によって生活」に該当して労働者とされる可能性もある
ということだろう。国語辞典の定義はこちらに準拠しているようだ。
(編集委員 荻野勝彦)
2 私が読んだキャリアの1冊
『希望のつくり方』 玄田有史著 岩波新書 2010.10.20
東京大学社会科学研究所の「希望学プロジェクト」は、2005年度から2008年
度まで全所的プロジェクトとして展開された。2009年には、その成果の集大成
として『希望学』全4巻が刊行されている。この本の第1章から第3章では、希
望学プロジェクトの中心人物であった著者が、その成果をわかりやすくまとめ
て紹介している。そして第4章以降では、それをもとにした著者自身の希望へ
の思いが語られる。単なる思いではなく、調査結果に裏打ちされた「証拠つき
の思い」である。
まず第1章では「希望とは何か」が語られる。幸福と希望の違いはなにか。
幸福はなによりその維持を求めるものであるのに対し、希望は仮に厳しい状況
にあっても、現状を未来に向かって変化させていこうとするものであるという。
著者らは希望学が対象とする「希望」を「行動によって何かを実現しようとす
る気持ち」と定義している。
続く第2章では「希望はなぜ失われたのか」が分析される。年齢、収入、健
康、さらには教育機会や家族関係をはじめとする人間関係が希望の有無に影響
するという調査結果をもとに、高齢化などによってこれらの条件が悪化したこ
とが希望の喪失につながっていると指摘される。
さらに第3章は「希望という物語」と題され、希望の物語性について述べら
れる。多くのフィールドワークなどをもとに、実現しなかった希望を別の希望
に修正する修正体験や、挫折から再起する挫折体験などの「ストーリー」が希
望を持つことに影響することと、その有する両義性を指摘する。そのうえで、
社会の不確実性を不確実性として受け入れ・向き合い、そこに希望の物語を紡
ぐことを主張する。
そして第4章「希望を取り戻せ」は、第3章までにまとめられた希望学プロジ
ェクトの成果をふまえた、著者から社会へのメッセージとなる。一貫して若年
雇用問題に取り組んできた著者らしく、多くの部分が若者とその周囲の人たち
に向けられているし、釜石市などでのフィールドワークが希望学プロジェクト
の大きな柱だったことを反映してか、地域に向けた提言も多い。そして「おわ
りに」では、著者の「一番いいたかった」こととして、希望はすでにかつての
ような前提=当然あるものではなく、それ自体、自分(たち)でつくり出すも
のなのだ、という結論が述べられている。
『希望学』全4巻は非常に重厚であり、往々にして難解だが、この本はきわ
めてわかりやすく書かれ、調査内容や調査結果などに関する記述も平易な語り
口が心がけられている。事例や経験談なども印象的なものが豊富に取り上げら
れており、「希望」を見つけ出したい人や、誰かが「希望」を見つけることの
手助けをしたい人など、「希望」について考える人にとっては有益なヒントが
たくさん詰まった本といえそうだ。
いっぽうで、『希望のつくり方』とは言っても、こうすれば希望がつくれま
すといったレシピやマニュアルが載っているわけではない。「おわりに」では
希望学のエッセンスとしての、希望を自分でつくり出すためのヒントが7項目
掲載されているにとどまる。この本に自己啓発書を期待した向きには物足りな
いかもしれないが、しかしこれが知的誠実さというものであろう。これを、あ
るいはこの本全体の記述をヒントにすることで、本当に著者のいうように「自
分にとっての希望という物語は、誰もがつくれる」のかどうかは、読者一人ひ
とりが判定するよりなさそうだ。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆労働政策研究・研修機構労働政策フォーラム「高齢者雇用のこれから―更な
る戦力化を目指して―」
日 時:平成23年6月3日(金)13:30~17:00
場 所:浜離宮朝日ホール小ホール(東京都中央区)
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20110603/info/index.htm
【編集後記】
東日本大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。上でご紹介
した『希望学』全4冊のうち2冊は釜石市での大規模なフィールドワークによる
もので、釜石は希望学の「聖地」とされているとのこと。今回の震災では釜石
も甚大な被害を受けましたが、必ずや希望とともに力強く復興が進められるこ
とと信じます。『希望のつくり方』著者の玄田有史氏と希望学プロジェクトは
釜石の「美しい根浜海岸と宝来館」を応援する募金活動を展開しています。詳
細はこちらを。http://www.genda-radio.com/2011/04/post_820.html(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.career-design.org/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社渉外部)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
e-mail cdgakkai@hosei.org
〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1
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