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□ キャリアデザインマガジン 第101号 平成22年11月1日発行
日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/
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「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。
□ 目 次 □———————————————————–
1 キャリア辞典「セーフティネット」(4)
2 私が読んだキャリアの1冊
藤田由香『リハビリテーション・カウンセリング』
3 キャリアイベント情報
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【学会からのおしらせ】
◆日本キャリアデザイン学会に中京支部が設立され、その記念講演会が以下の
とおり開催されます。
日 時:平成22年12月4日(日)13:30~17:00
講 師:金井篤子 名古屋大学大学院発達科学研究科教授
川喜多喬 法政大学経営学部教授(本学会会長)
松浦元男 株式会社樹研工業社長
参加費:会員/無料 非会員/3,000円
会 場:名古屋大学東山キャンパス教育学部大講義室
※終了後、交流会を開催いたします。
参加費:会員・非会員とも4,000円
会 場:名古屋大学東山キャンパス内レストラン「花の木」
◆関西支部では、以下の要領にて、関西支部研究大会を開催する予定です。
日 時:平成22年11月23日(火)13:00~17:00
会 場:関西大学千里山キャンパス第三学舎
※詳細は決定次第学会ホームページなどでご案内します。
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1 キャリア辞典
「セーフティネット」(4)
リーマン・ショックを受けて、2008年秋の雇用調整は従来になく急速で大規
模なものとなった。これを受けて同年12月19日に打ち出された総合経済対策で
ある「生活防衛のための緊急対策」は雇用対策を先頭に押し出した。勤務先が
提供する住居に居住していた非正規労働者が雇止めなどで職を失うと同時に住
居も失うという問題が拡大し、雇用促進住宅の活用による住居の提供、住宅・
生活資金の貸付が経済対策に織り込まれた。また、非正規労働者の多くが就労
期間などの関係で失業給付の対象とならないという問題も指摘され、その適用
範囲・受給用件の緩和なども織り込まれた。雇用以外の分野でも中小企業に対
する年末資金繰り支援などが含まれており、実は文中に「セーフティネット」
の語は現れないものの、「生活防衛」とのタイトルにもあるように、内容的に
はセーフティネット色が非常に強いものとなった。
2008年末から2009年初にかけて日比谷公園で開催された「派遣村」は、その
タイミングのよさと演出の巧みさで多くの報道がなされ、注目を集めた。それ
もあって、2009年4月10の総合経済対策「経済危機対策」では「セーフティネ
ット」が復活し、具体策の筆頭が「非正規労働者等に対する新たなセーフティ
ネット」となった。「緊急人材育成・就職支援基金」が設定されて職業訓練、
再就職、生活への総合的な支援を行うとされたほか、当時社会問題となってい
た内定取り消しへの対策も盛り込まれた。また、金融対策としてセーフティネ
ット融資の拡大なども打ち出されている。
歴史的な政権交代をもたらした2009年7月の衆議院選挙にあたって各政党が
提示した「マニフェスト」では、随所に「セーフティネット」の文字が躍った。
この頃には、「セーフティネット」という用語は国民にもなじみのあるものと
なっていたのではないか。その後、新政権もこの2009年10月23日の「緊急雇用
対策」、同年12月8日の「明日の安心と成長のための緊急経済対策」、そして
この(2010年)9月10日には「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」
と、3回にわたって総合経済対策を繰り出しているが、そのいずれにも「セー
フティネット」の語が出現している。「明日の安心と成長のための緊急経済対
策」では、「安心」をうたっているだけあって「セーフティネット」は実に10
回も登場するという大盤振る舞いだ。ところが、この間に行われた参議院選挙
においては、民主党のマニフェストにはなぜか「セーフティネット」が登場し
ない(選挙結果とは無関係だろうが)。
さて現在、景気は緩やかに回復しているとのことだが、雇用失業情勢は依然
として厳しく、円高もあって中小企業経営は一段と厳しさを増しているという。
まだしばらくは、「セーフティネット」の語があちこちで登場することになる
だろう。セーフティネットは充実していても意識はされないという状況がおそ
らくは望ましいのだろうが、残念ながら当分はそうなりそうにないようだ。
(編集委員 荻野勝彦)
2 私が読んだキャリアの1冊
『リハビリテーション・カウンセリング』
渡辺三枝子監修 藤田由香著 ナカニシヤ出版 2010.7.20
障害者雇用政策が日米で大きく異なっていることはよく知られている。わが
では障害者雇用について、企業は社会連帯の理念に基いて身体障害者に適当な
雇用の場を与える共同の責務を有しているとの考え方のもと、企業が達成すべ
き障害者の雇用率が法定され、不足の場合は納付金を徴収し、過達の場合は調
整金を支給することとされている。これに対して米国では企業は障害者が就労
できるよう配慮されているにとどまり、日本のように具体的な雇用の責任まで
は負っていない。求められているのは機会均等(差別禁止)であり、障害があ
ること、合理的配慮(reasonable accommodation)を必要とすることを理由と
した差別が禁止されている。どちらが鶏でどちらが卵かはわからないが、この
ような政策の差は、障害や障害者に対する両国民の意識の差とも密接に関係し
よう。
この本は、米国におけるリハビリテーション・カウンセリングについて紹介
している。リハビリテーション・カウンセラーはわが国ではなじみの薄い職業
かもしれないが、障害者をクライアントに生活全般、とりわけ職業・キャリア
のカウンセリングにあたる仕事である。単に相談に乗るだけではなく、クライ
アントのために第三者と折衝したり調整したりもするという。認定校の大学院
で修士課程を修了し、資格試験に合格しなければ就くことのできないプロフェ
ッショナルな職業である。
第1章ではその概要が紹介され、第2章ではその理念、価値観が解説される。
第3章は現実のリハビリテーション・カウンセリングの実践における障害者、
政府、専門家、社会一般の役割を述べ、第4章はリハビリテーション・カウン
セラーの機能や働きが具体的に紹介する。第5章はリハビリテーション・カウ
ンセラーの人材育成について述べ、最後の第6章はその活動の具体的事例がい
くつか紹介されている。通読することで、米国のリハビリテーション・カウン
セリングとその担い手であるリハビリテーション・カウンセラーの全体像を知
ることができる。米国の実情に対してあまりに無批判な点や、本来きわめて困
難な国際比較を各国1事例の比較で片付けている点などに不満は残るが、知識
を得るにはいい本である。
とりわけ、第4章において紹介される、リハビリテーション・カウンセラー
がキャリアに焦点を当てている実態は興味深い。事業主には障害者に対する機
会均等(差別禁止)と合理的配慮のみを要請し、キャリア形成は自己責任とす
る米国社会においては、こうしたリハビリテーション・カウンセラーの必要性
が高まるのだろう。合理的配慮は事業主に過度の負担を求めるものではなく、
どの程度で過度とするかは当事者間で見解が異なり得る。実際、米国の障害者
雇用の現実は本書が与えるイメージよりかなり厳しく(国際比較はきわめて難
しい)、とりわけ高度の配慮を必要とする重度障害者の就労は深刻な実態にあ
るという。そうした中で、いかに多くの合理的配慮を事業主に提供させるかは
障害者雇用のために決定的に重要であり、そのためには専門の知識と経験を有
する専門家が必要になることは理解しやすい。わが国ではこれまでその必要性
は低かったのかもしれないが、監修者が述べるように、それがわが国における
障害者のキャリア支援、キャリア研究の遅れにつながっているのであれば憂慮
すべきことだろう。
現在、国連障害者権利条約の批准に向けて、障害者雇用政策においても差別
禁止と合理的配慮を織り込んだ法改正が検討されている。これがわが国の障害
者雇用にどのような変化をもたらすのかは明らかではないが、障害者の容易な
らざる雇用情勢の改善につながることが期待される。それには、この分野での
一層の研究の蓄積が望まれることは間違いなかろう。
(編集委員 荻野勝彦)
※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。
3 キャリアイベント情報
~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~
◆労働政策研究・研修機構労働政策フォーラム「今後の外国人労働者問題を考
える-経済危機が日系人労働者に与えた影響等を踏まえて」
日 時:平成22年12月4日(土)13:30~17:00
場 所:ベルサール飯田橋イベントホール(東京都千代田区)
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/info/20101204.htm
【編集後記】
【学会からのおしらせ】にも掲載しましたが、ようやく日本キャリアデザイ
ン学会中京支部が設立のはこびとなりました。私も微力ながら準備にかかわり、
設立記念講演会の運営にたずさわります。ぜひとも多くのみなさまにご聴講を
いただきたく、ふるってご参加のほどお願い申し上げます。(O)
【日本キャリアデザイン学会とは】
・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。
学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
http://www.career-design.org/
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日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。
編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
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