キャリアデザインマガジン 第10号

■□□—————————————————————-
□□
□    キャリアデザインマガジン 第10号 平成17年2月7日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/

——————————————————————□■

 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 私のキャリア観 大阪大学社会経済研究所教授 大竹文雄(3)
2 キャリア辞典 「エイジフリー(2)」
3 キャリアイベント情報

———————————————————————-
【学会からのおしらせ】

◆平成17年3月4日(金)開催予定の学会研究会(講師:玄田有史 東京大学
 社会科学研究所助教授)は、定員に達しましたので、受付を終了させていた
 だきました。多数の申し込みありがとうございました。

◆中央職業能力開発協会(JAVADA)会員セミナーが開催されます。
 JAVADA会員限定のセミナーですが、日本キャリアデザイン学会会員はとくに
 参加できます
 テーマ:「状況対応(SL)理論とキャリア開発」
     ―リーダーシップスキル理論として著名な状況対応(Situational
      Leadership)理論の解説とキャリア開発―
 日 時:平成17年3月11日(金)13:30~17:00
 場 所:ホテルグランドヒル市ヶ谷
 講 師:今野能志 行動科学研究所代表
     (講師と参加者との間での相互の意見交換やシートなどを活用した
      参加型プログラムを含みます。)
 参加費:2,000円
 申込先:会員番号、会合名、所属・氏名を明記のうえ、
     cdgakkai@hosei.org まで電子メールでお申し込みください。

———————————————————————-

1.私のキャリア観
  ~「キャリア」をめぐる有識者インタビューです~

「所得格差とキャリアデザイン(3)」(4回連載)
                 大阪大学社会経済研究所教授 大竹文雄

【第3回】階級移動とキャリア/成果主義とキャリア

---キャリアとの関係で、なにか意識の違いといったものは。

大竹 失業経験のある人や雇用不安を持っている人は、格差を認識しているし、
問題視しているし、再分配政策を支持するという傾向があるという結果は出て
います。

---それは失業の経験が格差に関する意識に対するマイナスのインパクトを
持っているということだと思いますが、失業が成功した転職にともなうもので
あれば、そうはならないと思うのですが。

大竹 それは所得格差の本質にかかわる問題なのです。仮に失業しても、来年
はもっといい職につけるとみんな期待しているなら、格差が拡大しても反対す
る必要はないわけですね。ところが、そういった転職によるステップアップが
難しいと多くの人が認識している社会だと、失業による所得格差を嫌うように
なります。これは高学歴者と低学歴者の意識の違いの背景のひとつでもあるで
しょう。

---逆にいえば、低学歴者でも高所得を得るチャンスがある社会なら、格差
も是認されやすくなるわけですね。

大竹 まさにそういうことです。一度低所得の仕事についてしまったら生涯低
所得の仕事、一度高所得の仕事についたら生涯高所得の仕事、しかしその格差
は小さい、という国では、その時々は格差が小さくても、生涯その格差が蓄積
されますから、キャリア全体でみた格差は決して小さくない可能性がある。い
っぽう、アメリカのように、格差は非常に大きいけれど、いま失業している人
もいずれ高所得の仕事につくかもしれないし、いま高所得でもいずれ失業する
かもしれないという社会では、キャリア全体でみれば、案外格差は大きくない
可能性もあります。

---階級間の移動がどれだけあるか、という問題ですね。で、実際のところ
はどうなのでしょう。

大竹 アメリカとイタリアで検証した人がいて、イタリアは階級移動も格差も
小さく、アメリカはいずれも大きいが、転職可能性を考慮して計算するとほと
んど変わらない、という結果が出ています。日本はどうかというと、はっきり
した研究ではないのですが、やや階級間移動が停滞しているという研究結果も
出ています。格差拡大と階級固定が同時に進んでいるとすると、生涯での格差
は拡大する可能性が高いと思います。格差をみるときには、キャリア全体をみ
る必要がありますし、若年期の職選びでも、今現在は恵まれなくても将来はど
うか、ということを考えてキャリア選択していくことが望ましいと思います。

---最初に話を戻しまして、成果主義が格差拡大に寄与しはじめているとい
うことでしたが。

大竹 ではないか、ということです。成果主義が多くの企業で取り入れられた
のは90年代の終わりでしょうが、経過措置を入れて、すぐに大きく変動したわ
けではないので、実質的に影響が出てきたのはまだ最近のことです。そもそも
成果主義が導入されたというのは、賃上げ率が低下したことが背景にあります。
かつては物価上昇もあって10%とか5%とかの賃上げがあり、その範囲で適切
に差をつけることができましたが、昨今のデフレの中で、1%とか2%とかい
う賃上げしかないと、その中では差がつけられない。そこで出てきたのが成果
主義だろうと思うのですね。

---デフレで総額人件費を抑制する経営上の必要があり、それをうまくやる
ために成果主義が導入されたという状況証拠はたくさんあります。うまくいっ
ていないという状況証拠もたくさんありますが。

大竹 ですから、実質的にはあまり変わっていないのではないかというのが私
の推測なのですが、それでも大きなショックがあって、それは賃金が名目で下
がってしまうということなのですね。

---マインド面でのショックですね。

大竹 おっしゃるとおり、マインド面のショックです。1%くらい名目賃金が
下がっても、数年間でみると物価はそれ以上に下がっていたのですから。しか
し、実際に賃金が名目で下がった人を調べると、ものすごくやる気がなくなっ
ている。いっぽう、うまくいっている職場もあって、そういう職場では能力開
発などをしっかりやっている。これは当然で、成果をあげろといっても、能力
開発がついてこないのではやる気が出るわけがない。労働時間でみると、成果
主義の職場は労働時間の長短とやる気は関係ないが、成果主義でない職場では
長時間労働がやる気を低下させるという結果も出ています。これは成果主義の
本質的なところですね。

---成果主義を入れて、賃金を下げたとか、非常に大きな格差をつけたとか
いう企業は、あまりうまくいっていないようです。

大竹 それは、デフレ時代に従来程度の格差をつけることを趣旨にしているわ
けですから、それ以上のことをやろうとしたらうまくいかない、というのは当
然でしょうね。あと、評価基準がはっきりしない、精度が低いのに大きな格差
をつけたら納得を得られないのは当然で、これは経済学的にも理論どおりです。
これまでもホワイトカラーはそれほど大きな格差をつけてこなかったのは、評
価が難しいからでしょう。でも、長い時間をかけていろいろな人が見ると、言
葉でははっきりいえないけれどいい悪いがわかってくるという世界だったわけ
で、そこにいきなり短期的に評価して大きな差をつけるという制度を入れるの
は無理だったのでしょう。

---長い時間をかけて、複数の人の目でみて、というのは日本企業の人事管
理の特色として飯田経夫先生や小池和男先生が指摘されています。

大竹 ただ、一般的に若い人たちはそんな将来のことまで考えませんから、若
いときに高給を出すような企業が出てくると、そういう企業が若い人材を全部
集めてしまうかもしれません。そうなると、人材獲得のためには若いうちから
差をつけるような賃金制度にせざるを得なくなる可能性もある。そこにどう対
応していくかが課題でしょうね。

---人事管理が多様化していくということですね。

大竹 そういう組み合わせ、キャリアの道筋をいくつも準備して、さまざまな
人材を集めていくということだろうと思います。 (以下、次号に続きます)

 大竹 文雄(おおたけ ふみお)
 大阪大学社会経済研究所教授。経済学博士。労働経済学専攻。
 著書に「労働経済学入門」(1998、日経文庫)、「労働問題を考える」(2001、
 大阪大学出版会)、「解雇法制を考える-法学と経済学の視点」(2002、共編
 著、勁草書房)ほか多数。
                 (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)

2.キャリア辞典
  ~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~

 「エイジフリー(2)」

 いまのところ、「エイジフリー」の定義はまだあいまいで、行政が具体的に
定義づけたということもないようだが、たとえば2003年1月に公表された厚生
労働省の「年齢にかかわりなく働ける社会に関する有識者会議」報告書(これ
にも「エイジフリー」という語はそのままでは出てこないのだが)をみると、
「働く場の確保が必要な中高年齢者、競争力の強化を図らなければならない企
業経営、自己の能力を発揮できる多様な働き方を志向する個人、幅広く支え手
を確保しなければならない社会全体、それぞれの要請を勘案すれば(中略)過
度に年齢に偏った我が国の雇用システムを見直し、意欲と能力を持つ誰もが年
齢にかかわりなく能力を発揮して働ける社会を作り上げていかなければならな
い。」と書いてあり、年功賃金をはじめとする人事管理、たとえば評価や処遇、
働き方などについても「年齢にかかわりない」(エイジフリー?)ものとして
いくことが主張されている。余談だが、この報告書を読むと一貫して「中高年
の雇用問題こそが重要」という考え方に立っており、いかに若年雇用問題が軽
視されてきたかということが感じられる。
 それでは諸外国の情勢はどうか。米国の「雇用における年齢差別禁止法(A
DEA)」が制定されていたことと、2000年に出された「雇用及び職業におけ
る均等待遇の一般的枠組を設定するEU指令」がしばしば引き合いに出される
ようだ。しかし、これらはいずれも、必ずしも全面的な年齢差別禁止にはなっ
ていないことに注意がいる。
 たとえば、ADEAは採用、賃金はじめ労働条件、昇進、職業訓練、解雇な
ど、人事管理全般について高齢者を年齢を理由に差別することを禁止している
が、これは20人以上の事業所の40歳以上の労働者にしか適用がない。そのため、
これが39歳以下の労働者への逆差別となるとか、中高年の雇用機会が19人以下
の小企業に偏るといった指摘があるという話もあるらしい。
 また、EU指令は宗教差別や思想信条差別とともに、雇用および職業アクセ
ス(昇進、職業訓練、解雇などをふくむ)における年齢差別を禁止したものだ
が、一定の要件(公的年金の満額支給との接続など)のもとに強制退職年齢を
定めたり、必要性が高く合理的なもの(若年雇用の保護など)について例外を
設けることが容認されている。
 こうした欧米の実情は、日本でも年齢差別禁止法を制定すべきだということ
よりは、「エイジフリー」をあまり原理主義的に考えることは望ましいことで
はないということを示しているように思われる。そういう意味では、前述の
「有識者会議」報告や2003年7月の厚生労働省「今後の高齢者雇用対策に関す
る研究会報告」が、法制化ではなく、日本の労働市場、労使慣行、人事管理の
実情に配慮しつつ漸進的な取り組みが望ましいとしているのは妥当といえよう。
                        (編集委員 荻野勝彦)

3 キャリアイベント情報
  ~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~

◆独立行政法人雇用・能力開発機構 アビリティガーデンフォーラム
 「伸びる中小企業の人材戦略~企業は若者とどう向き合うか~」
 2月21日(月)15:00~17:30
 於 アビリティガーデン(東京都墨田区)
   または衛星通信システムを利用して全国142所の雇用・能力開発機構の
   施設で参加できます。
 http://www.ab-garden.ehdo.go.jp/forum.html

◆ジョブカフェサポートセンター「ジョブカフェ・ベストプラクティス発表会」
 ~若者の心に響く成功事例!ここに集う~
 2月24日(木)13:30~16:30
 於 サンケイホール(サンケイプラザ4F、東京都千代田区大手町)
 http://www.jobcafe-sc.jp/bestpra.html

◆中央職業能力開発協会 人材育成戦略講座
 「地域企業の活性化と主体的キャリア形成」
 3月1日(火)10:20~16:15
 於 新潟東急イン(新潟県新潟市)
 http://www.javada.or.jp/jigyou/jinzai/jinzai/jinzai_2004_4.html
 日本キャリアデザイン学会会員は、参加費15,000円のところを13,000円にて
 参加できます。会員番号、会合名、所属・氏名および受講証等の送付先を必
 ず明記のうえ、cdgakkai@hosei.org まで電子メールでお申し込みください。

◆こども未来財団・日本フィランソロピー協会
 次世代育成における「企業」と「NPO」の協働推進フォーラム
 3月2日(水) 11:30~18:30
 於 弘済会館4階(東京都千代田区麹町)
 http://www.philanthropy.or.jp/training/seminar/jisedai.html

◆法政大学キャリアデザイン学部 第3回地域連携シンポジウム
 「地域活動とキャリアデザイン-神楽坂で働く、生活する-」
 3月12日(土)13:00~17:30
 於 法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー26階スカイホール
 講師:研究者のほか、作家(佐野眞一、森まゆみ)、神楽坂老舗経営者など。
 http://cd.i.hosei.ac.jp/index.cfm/4,852,102,html

[編集後記]

 2月のはじめ、突然の?寒波襲来で日本各地で大雪が降りました。2月とい
えば、そろそろ大学生の就職活動が始まりますし、受験生はまさに入試本番と
いう時期です。私は乗った新幹線が遅れて、あやうく仕事に遅刻しそうになり
ましたが、考えてみればこれが入試だったり就職の最終面接だったりしたらた
いへんなことで、そんな思わぬところにも「キャリア」の岐路はあるのかもし
れません。まさに「キャリア」の大きな節目にあるみなさん、雪にも寒さにも
負けず、この時期を乗り越えてほしいと思います。応援してます。(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.cdi-j.jp/

□□■—————————————————————-

  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。

 編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部企画室担当部長)
      児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail cdgakkai@hosei.org
   〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1

—————————————————————-□□■