キャリアデザインマガジン 第39号 

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□    キャリアデザインマガジン 第39号 平成18年4月24日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.cdi-j.jp/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □———————————————————–

1 私のキャリア観「法とキャリアデザイン」法政大学教授 諏訪康雄(7)
2 キャリア辞典「第2新卒」(1)
3 キャリアイベント情報

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【学会からのおしらせ】

◆日本キャリアデザイン学会は、以下のとおり研究会を開催いたします。
 非会員の方もご参加いただけます。

 日 時:平成18年6月16日(金)18:30~20:30
 場 所:法政大学市ヶ谷キャンパス第一校舎3Fキャリアセンターセミナー
     ルーム
     http://www.hosei.ac.jp/gaiyo/campusmap/ichigaya2.html#map
 テーマ:「女性が望むキャリア形成支援制度-仕事の与え方、人事考課、
      コミュニケーションに対する組織(不) 公正感との関係から-」
 講 師:山口生史 明治大学情報コミュニケーション学部教授
 司 会:梅崎修 法政大学キャリアデザイン学部専任講師・
         学会研究組織委員
 定 員:60人
 参加費:日本キャリアデザイン学会会員は無料、非会員は3,000円

 ※締切間近!詳細・お申し込みは学会ホームページをご覧下さい。
  http://www.cdi-j.jp/event.html

◆5月12日(金)開催の研究会(講師:平林正樹 日本アイ・ビー・エム株式
 会社)は、定員に達したため、受付を終了いたしました。
 多数のお申し込みありがとうございました。

◆学会研究誌投稿受付について
 日本キャリアデザイン学会は、学会研究誌への投稿を募集しております。受
 付は本年12月1日から来年1月10日到着分までとなります。投稿規程は学会
 ホームページに掲載されていますので、お読みのうえ、ふるってご投稿くだ
 さい。
 http://www.cdi-j.jp/kenkyushi.html

◆学会大会自由論題報告募集について
 日本キャリアデザイン学会は、今年度大会(10月28-29日、於立命館大学)
 での自由論題報告の募集を行っております。第一次締切は5月末日です。申
 し込み要領は学会ホームページに掲載されていますので、お読みのうえ、ふ
 るってご応募ください。
 http://www.cdi-j.jp/oshirase060401.html

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1 私のキャリア観

「法とキャリアデザイン(7)」(7回連載・最終回)
              法政大学大学院政策科学研究科教授 諏訪康雄

【第7回】「キャリア権」と労働政策

-----ここまでは社会権としてのキャリア権、雇用関係の中での権利義務
の話を中心にお伺いしてきましたが、政策面で必要な対応というものはないの
でしょうか。

諏訪 それはきわめて重要なご質問です。労働権はプログラム規定であって、
これによりただちに労働者がなんらかの権利を持てるものではありません。労
働権はもっぱら国が国民との関係において負っている政治的な責務として理解
されますが、キャリア権も同様です。労働者が具体的に国や使用者に何かを求
める請求権にはならないと考えます。したがって、国はまず国民のキャリア権
を阻害する政策を行わず、世の中に存在する阻害要因を排除するように務め、
そのうえでキャリア展開を促進する政策をとっていくことが求められます。た
とえば学校教育の充実がそうですし、生涯学習のための施策や休暇などもそう
でしょう。

-----労働時間管理とか。

諏訪 労働時間管理なんかも重要です。労働市場法、雇用政策法の分野でもや
るべきことはたくさんあって、たとえば職業能力開発もこれまでは企業に対す
る促進策が中心だったのを、ようやく90年代に個人に対する支援が入りはじめ
ました。

-----教育訓練給付金とか。

諏訪 私はその際の研究会の座長をしたのですが、個人を対象に支援をするこ
との法的根拠が曖昧でした。この経験もキャリア権を構想する必要性を痛感さ
せる出来事でした。ほかにも必要な政策はたくさんあって、労働市場が流動化
していくと、企業は人材投資を十分回収できなくなる可能性が高まって、教育
訓練を熱心にやらなくなる可能性がある。

-----米国ではそういう現実があるようです。

諏訪 それでも、どこかで教育訓練投資をしないと、人材が疲弊してきます。
人的資源開発を個人に全部まかせたらやるかといえば、そうはいきません。私
がよく引用する国の調査だと、大部分の人が生涯学習が必要だと感じているの
に、自分で主体的に職業教育訓練を受けたりした人は全体の4%しかいません。
それだけに、なんらかの政策的対応がないと、国全体の人的資源が劣化する懸
念もあります。

-----それは日本では企業がやってしまうからかもしれません。本人は仕
事だと思って勉強している。

諏訪 それもあるでしょう。それを企業がやらなくなれば大変になる。とりわ
け、現状でも非典型の雇用労働者は大きな課題です。非典型雇用にどのように
OJTやOff-JTの場を確保していくか、派遣や請負の場合の元と先を含
めて、企業にもどのように責任を分担してもらうのかは、政策的に重要な課題
です。これまで国は正社員と非正社員の処遇格差を問題にしてきましたが、そ
の背後にあるこうした訓練機会の格差に取り組まなければ結果としての処遇格
差も縮小しません。すでに非典型雇用比率は3分の1ですから、これだけ多く
の人たちが十分な職業能力を形成、蓄積できないということは、本人だけでな
く社会にとっても、長い目でみればたいへん大きな損失になります。

-----近年の若年雇用問題などで意識されている問題ですね。

諏訪 こういう問題への対処は個別の企業にやれといってもやりきれるもので
はありませんから、なんらかの政策としてやっていかなければなりません。国
の責務であり、地方自治体の責務でもあると思います。結局一番重要で効果的
なものは雇用機会の提供、すなわち雇用創出ですから、地方に産業と雇用を創
出してUターン、Jターンなどを促進していくといった政策は、国と地方自治
体さらには企業や諸組織などの協力のもとに推進される必要があります。その
ための政策を地方自治体が競って工夫していくべきです。よく言われているよ
うな教育訓練バウチャーも国として検討すべき課題ですし、バウチャーで利用
できる施設、たとえばアメリカのコミュニティ・カレッジのようなものを、な
るべくいいものとしてつくるのはこれかの地方自治体の不可欠な役割でしょう。

-----教育訓練バウチャーには、使う必要のある人は使わず、一部の教育
受講に熱心な人にしか利用されないのではないかという批判もあります。

諏訪 当たっている面もありますが、機会付与の方式のひとつでしょう。若い
うちから熱心な人もいますが、年とってから大切さに気付く人もいるでしょう。
気付いていても、勉強はそれほど面白くないことも多い。仕事帰りに同僚と一
杯呑むほうが楽しいですから、そこを勉強に向かわせるための刺激、動機付け
も必要です。こうしたことにも国として取り組む必要があるでしょう。啓発活
動とか、奨学金のような財政支援とか、いろいろ工夫はできると思います。

-----ここまでお聞きしてきたキャリア権というのは、基本的に職業キャ
リア権のことになるかと思うのですが、キャリアデザインといったときに、職
業キャリアに限らず、ワーク・ライフ・バランスといった観点も含めた生涯キ
ャリア、人生キャリア全体のデザインを考えるという観点もあります。こうし
た人生キャリアの中での、職業キャリア権の位置づけといったものを、最後に
お伺いしたいと思います。

諏訪 人生キャリアに関しては、憲法の幸福追求権とか、あるいは憲法が保障
する他のさまざまな基本的人権が、その展開を基礎づけています。しかし、そ
のうえでの選択において、近代国家が依拠しているのは生産活動ですから、そ
の担い手に対するインセンティブにとくに憲法は配慮します。それが労働権で
すし、キャリア権もその延長線上にあるものだと考えています。もちろん職業
キャリア以外のキャリアも大切ですが、憲法上の政策判断として、職業キャリ
アをより手厚く保護することは必要なことだと考えられていると思われます。
たしかに人生キャリアまでを包含した広い意味でのキャリア権という概念もあ
りうるとは思いますが、それは現行憲法では市民の自由の範囲内であって、私
のいうキャリア権のような社会権にまでは至らないものと考えています。もち
ろん、これからNPOやボランティア活動などを社会的にきちんと位置づけよ
うとしたときに、そういう分野にまで広がってくる可能性はありうると思いま
すが。

-----そこまで射程を広げて、あれやこれやと取り込んでしまうと、やや
概念としては発散してしまう懸念はありますね。

諏訪 それはそのとおりです。このキャリア権というのはやはり職業キャリア
権であって、労働権を一番の核としている以上は、その射程には一定の限界は
あります。

-----キャリア権は、人生キャリアのなかでもっとも重要な部分の一つで
ある職業生活を充実させることによって、人生全体を充実させるものと理解す
ればいいのでしょうか。

諏訪 そう考えます。人生は労働ばかりではありませんからね。働くことも、
幸福追求の重要な一部ではありますが、人生の喜びのすべてではありません。
ワーク・ライフ・バランスというのはワークが最初にありますが、そういう意
味ではライフ・ワーク・バランスといったほうがいいのかもしれません。ライ
フの中でワイフをどう位置づけるか。ワークとライフを分けるのではなく、ワ
ークをライフの一部として考えるべきなのでしょう。

-----企業でも、難しい仕事、高度な仕事ほど、ワークなのかライフなの
かの区別がつかなくなってくる部分が大きくなります。

諏訪 憲法の保障する個人としての尊重や幸福追求権は、個々人が人生キャリ
アの充実を求める権利(自由権)とも考えていいのではないでしょうか。その
なかで職業に関わる局面については、さらに一段高まったものとして労働権な
どの社会権が位置づけられている。それを基盤にしているのが職業キャリア権
だと整理すればいいのだと思います。

-----企業はどうしても、新しい権利というと身構えてしまうところがあ
るわけですが、お話を承っていて、すでに企業労使が取り組んでいる内容が多
いということもわかりました。実態に即したものであれば、労使双方にとって
有益なものになる可能性があると思います。

諏訪 当然、実態をふまえた権利関係の調整は適切に行われなければなりませ
んし、現場をよく知る労使の知恵が必要だと思います。キャリア権を現実に発
展させるか枯渇させるか、つまり生かすも殺すも、現場の皆様の実際の動きに
かかっていると考えます。これまでの政労使の取り組み、これからの方向性を
規定している隠されたコードとしてのキャリア権について、ぜひとも労使の実
務家に理解を深めてほしいと期待しています。
                  (聞き手・文責:編集委員 荻野勝彦)

 諏訪 康雄(すわ やすお)
 法政大学大学院政策科学研究科教授。労働法専攻。主な著書に『雇用と法』
(1999、放送大学教育振興会)、『判例で学ぶ雇用関係の法理』(1994、総合
労働研究所、共著)など。

2 キャリア辞典
  ~「キャリア」に関する用語をめぐるコラムです~

 「第2新卒」(1)

 このところ、いろいろな場面で雇用情勢の改善を実感するが、「第2新卒」
ということばを目にすることが多くなってきたのも、そのひとつだ。バブル期
にしきりに使われたこのことば、90年代の経済低迷時にはあまり見かけなかっ
たが、このところまたあちこちで目につく。
 そこで、第2新卒とはなんだろう。私の手元にある日経連政策調査局編「改
定新版人事・労務用語辞典」には「第二新卒者」という項があり、「高校、大
学、大学院などを卒業した後に3年以内の就職経験がある者で、新規学卒者と
ほぼ同等の条件で採用される者のこと。若者の定着意識が低下し、バブル期に
売り手市場という状況下で知名度やイメージで会社を選んだ学生が、入社後の
現実とのギャップに気づき早期退職するケースが増加した。」という解説がさ
れている。これは平成7年の本だから、まずまずバブル期の使われ方を念頭に
おいた解説とみていいだろう。ただし、若者の定着意識の低下に関しては、バ
ブル期は超売り手市場だったことから退職してもすぐに好条件の転職先がみつ
かることが多く、それが若者の定着意識を低下させた、という説明のほうが実
務実感には合っているように思う。それがひいては、正社員として働かず、条
件のいい仕事を求めて短期間で転職を繰り返す「フリーアルバイター」、略し
て「フリーター」を生むことになった。
 また、「3年以内」というが、3年半でも第2新卒扱いしていた会社もたく
さんあったのではないかと思う。まあ、これは高校が3年間ということで、い
かに「第2」でも「新卒」扱いされるのは3年が限度、というくらいの意味な
のだろう。
 それはそれとして、最も重要なポイントは「新規学卒者とほぼ同等の条件」
というところではないか。第2新卒は「新卒」といえども中途入社に違いある
まい。それをわざわざ「新卒」というのは、「中途採用」ということばに「経
験者」というイメージがあることから、「未経験者歓迎」(というか、基本的
に未経験者を採用する)というメッセージをこめていたのではないか。あるい
は、これとは逆に、当時のわが国では「中途入社」を「新卒入社」より格下と
みる風潮がまだ根強かったことから、そのマイナスイメージを与えないために
あえて「中途ではない、第2新卒」という表現としたのかもしれない。
 とにかく、「第2新卒」というのは「好条件」を訴求する、「ぜひ応募して
ください」という方向性のことばだといえるだろう。したがって、好況で人手
不足のときには「第2新卒」ともてはやされるが、不況で人余りになると「中
途採用」のなかに吸収されてしまうわけだ。
 ためしにGoogleで「第2新卒」を検索してみたら、約3,050,000件がヒット
した。これは「小泉純一郎」の約3,200,000件や「三菱商事」の約2,850,000件
に匹敵するものだ。ちなみに「第二新卒」でも約2,850,000件ヒットするから、
あわせて5,900,000件になり、これは「SMAP」の検索結果約6,160,000件に
迫る。だからどうしたと言われればそれまでだが、そのくらい「第2新卒」と
いうことばが世間に広がっているというのは、感覚的には雇用情勢の改善を実
感させるに十分ではないだろうか。
                         (編集委員 荻野勝彦)

3 キャリアイベント情報
  ~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~

◆読売新聞社「読売ジャーナリズムセミナー」
 平成18年5月16日~7月18日の毎週火曜日 18:00~20:00
 於 読売・日本テレビ文化センター恵比寿(東京都渋谷区)
 http://info.yomiuri.co.jp/event/04001/200604109994-1.htm

◆私のしごと館 ゴールデンウィークイベント
 私のしごと館では、ゴールデンウィーク期間中にいろいろなイベントを開催
 します。家族みんなで様々な職業、仕事に「触れて」、「体験」してみませ
 んか?
http://www.shigotokan.ehdo.go.jp/watashi/event/2006/gw/evt_gw2006.html

[編集後記]
 野球ファンお待ちかね、プロ野球が開幕しました。今年は昨年不振だった読
売ジャイアンツが好調な戦いぶりを見せています。監督が交代し、選手起用や
戦法も大きく変わったことが好調の理由といわれます。自身の企業経営、人事
管理にひきくらべて、いろいろと考えるところのある人も多いのではないでし
ょうか。ちなみに編集委員は阪神タイガースのファンですが、こちらはこちら
で考えさせられるものがあるかもしれません。まだまだ先の長いペナントレー
ス、熱戦を期待したいものです。(O)

【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.cdi-j.jp/

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◆働く若者ネット相談事業 ご利用のお勧め
 厚生労働省委託事業・日本キャリア開発協会受託・キャリア協議会協力
 webサイトを利用していつでもどこでもネットで相談できる仕組みです。
 また対面カウンセリングや電話カウンセリング、TVカウンセリングも行っ
 ています。詳しくはhttp://net.j-cda.org/まで。     (厚生労働省)

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
 
このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
無断転用はお断りいたします。

 編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)
      児美川孝一郎(法政大学キャリアデザイン学部助教授)

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail cdgakkai@hosei.org
   〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1

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