これまで長らく「見えにくい障害」として課題視されてきた高次脳機能障害。今年度から「高次脳機能障害者支援法」が施行され、当事者の方々に特化した支援や配慮に関する取り組みが法制化されました。
一方で、今、広く障害者の就労を取り巻く環境は新たな画期を迎えています。この7月から障害者雇用義務制度に基づく法定雇用率が民間企業で2.7%、公的機関は3.0%へと引き上げられることが決まっています。さらにはそのような障害のある方々の働く場の量的拡大だけではなく、いわゆる「雇用の質の向上」を企図した障害のある方々のキャリア形成に向けた支援にまつわることも昨年度より法制化されております。
DE&I の文脈で、障害のある方々が、合理的配慮を踏まえた上で、それぞれの特性を活かした能力発揮を通じ、これまで以上に社会に貢献していくことが期待される、そのような時代が来ています。
今回のキャリアデザインライブでは「脳卒中フェスティバル・キャリアランド」を主宰する小林純也氏をお招きし、障害のある方々のキャリア支援に向けた同氏の取り組みを紹介します。また、脳卒中を経験後、現在はワーキングマザーとして活躍中の山下明菜氏にも登壇していただき、高次脳機能障害の特性に関する理解を深めるとともに「障害のある方々のキャリアデザイン」について当事者目線で語り合ってまいります。

2026 年 7 月 27 日(月)19:00~20:45
(オンライン入場開始 18:50~)
オンライン(Zoom)による配信
※事前申込が必要です。先着順になります。
※お申込みいただいた方に ZOOMID を送付しております。
100 名(先着順)
【小林純也】(こばやし じゅんや)
NPO 法人ぼこでこ 一般社団法人脳フェス実行委員会 代表理事
20 年前に脳梗塞で意識不明。右片麻痺、感覚障害、運動失調、高次脳機能障害を経験。
障がいの残る右半身を「強み」に変えるため理学療法士免許を取得。
回復期病院に勤務する傍らで「脳卒中フェスティバル」を立ち上げ、現在はNPO法人ぼこでこの代表として活動している。
【山下明菜】(やました あきな)
接遇マナーインストラクター(本業)オシャレのリハビリコーチ(副業)
日系エアラインで客室乗務員 10 年 接遇マナー講師に転職。→ 5 年前に脳出血。リハビリを経てマナー講師に復職。
その後出産をして二年間の育児休暇を経て本年 4 月から時短勤務で復帰。副業でイメージコンサルタント業。
【【田沼泰輔】(たぬま たいすけ)】
事業構想大学院大学特任教授/当学会研究会企画委員会委員
学会員:無料
非学会員:1,000円
本年 7月から障害者雇用義務制度に基づく障害者法定雇用率が、民間組織では2.7%に、官公庁等公的機関では3.0%に引き上げられ、障害者のキャリアをめぐる環境は、新たなパラダイムを迎えました。この大きな変化の中にあって、今年度から高次脳機能障害者支援法という新しい法律も施行されています。そこで今回のキャリアデザインライブでは、高次脳機能障害の当事者であり、ご自身のキャリアはもとより、同じような障害特性を有する方々の支援に携わるお二人に登壇いただきました。
お二人には、それぞれこれまでのキャリアの変遷を語っていただきながら、同障害の特徴やこの障害にまつわる支援を中心とした課題について、実体験を交えて解説いただきました。山下さんからは 38 歳で脳出血を発症、失語症と高次脳機能障害を負った経験にまつわるお話がありました。発症後もっとも苦労したのは、言語のアウトプットが困難になったこと。ひらがな五十音でさえ、まともに書けなくなってしまった自分に愕然としながらも「絶対に講師業に戻る」という信念を貫き、五十音を書く練習からリハビリを開始、1 年半後には見事、元の職場・元の部署へ復職することができたそうです。復職に臨むにあたり言語聴覚士と共同で、自己の障害特性と配慮事項をまとめた「自分のトリセツ」を作成、上司・チーム全員に共有されたとのこと。働く上での合理的配慮事項について、アドボカシーを通じてしっかりまとめ上げた好事例と思いました。
この病気を発症したことで「上昇志向の階段型」のいわゆるキャリアアップ型から「アメーバのように柔軟に形を変えるキャリア」を目指すというキャリア観のシフトがあったというシェアが印象に残りました。健康面も含め、変化する環境に抗うのではなく、自然体で乗り越えていく、そんな心掛けを、より良いキャリアを育んでいく上で大事にしたいこととおっしゃっていました。また、副業として取り組んでいるおしゃれのリハビリコーチの活動を通じて、外見を整えることが生きる力・自己肯定感に直結することも実感されたそうです。
続いて小林さんからは、ご自身の障害発症の経緯についてお話がありました。23歳で脳梗塞を発症、右半身の運動障害・感覚障害・高次脳機能障害を経験、障害の残る右半身を強みに変えるべく理学療法士免許を取得されました。
また、国内の脳卒中の年間罹患者数は約 29 万人、総罹患者数約 174 万人、そこにかかる医療費約 1.8兆円、要介護原因第 2位という量的な概説に加え、この病気に罹った方々の中で、外出可能な運動能力があっても、実は 4割
の方々が閉じこもりになってしまうといった実態についても解説がありました。
そのような当事者の方々の暗い状況を、明るく楽しい未来に変えていこうということから、一念発起し『脳卒中フェスティバル』というお祭りを 2017年から開催。今や 1,000を超える来場者が集まる大きな催しにまで発展しています。その一環で、高次脳機能障害のみならず広く障害特性を有する方々のキャリアを支援する催し『キャリアランド』も 2024年から始動。企業協賛も募り、職業紹介の機会としても活かせる場づくりを目指されています。
「障害当事者は新月のようなもの。信頼し合える仲間との出会いを経て、光を取り戻し、やがて他者を照らす存在になっていく」という小林さんのシェアが心に響きます。現在の活動の柱となるコンセプトだと思いました。最後にお二人と聞き手(田沼)との対話の中で、印象に残ったトピックをいくつかご紹介します。
• 障害の有無は関係ない、人として「一緒だよ」という励ましをいただくことがある。だがそこに落とし穴があることを忘れてはならない。健常者が1つ忘れるところを当事者は10忘れる。善意の共感が逆に傷つける場合があるということをわかってほしい。
• 支援者へのアドバイスとしては「何かを足そうとしない」。まずゆとりを持って肯定的な空気感を作ることが先決だと思う。
• 見えない障害だからこそ、当事者はできないことを隠さず「これはできないが、これはできる」と発信することが雇用側との信頼構築につながる。だから障害に関する自己開示は自分にとっても周囲にとっても重要だと思う。
ともすると障害にまつわる話題は、美しい支援の物語に終始したり、逆に深刻な話になりがちですが、お二人は、障害をご自身の個性として捉え、果敢に人生にチャレンジし続けているありのままのご自分を表現されていました。聞いているこちらも明るくなるような、まさに人との関わりを通じて周囲を照らす存在でした。
PS.このライブ終了後、8月11日に今年度の『キャリアランド』がすみだ産業会館で開催されました。当日は豪雨の予報にもかかわらず、会場いっぱいの来場者が訪れ、大賑わい。小林さんの求める理想を体現するイベントに
なっていると改めて、この取り組みに感服した次第です。
研究会企画委員会