2016年にリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットによって「人生100年時代」が提唱されてから10年が経過しました。コロナ禍を経て働き方は急速に柔軟性を増し、日本においても「マルチステージの時代」は現実のものとなってきています。
大企業の人材開発における関心事として頻繁に耳にするのが、キャリア自律とシニア人材の活用です。少子高齢化はますます顕著になり、企業が若手採用に苦慮する一方で、シニア世代の社員のポテンシャルを十分に活用しきれていないことも事実です。
今回のキャリアデザインライブでは、「シニア世代の副業と越境のススメ」をテーマとして、現在も東京における本業と、地元・高知の中小企業2社で複業をされている比留間優子氏をお迎えし、大企業で働く50代女性社員の複業前・複業後の「リアル」についてお話を伺います。
比留間氏曰く、「決してキャリア志向ではなかった」会社員生活だったそうです。一社で長く働き続ける中で、仕事よりも子育てに中心軸を置いた時代や、働くモチベーションが低下する経験などを経て、軽い気持ちで応募した地元・高知での複業経験により、本業での役割の幅を広げることとなります。さらに、高知以外の地域からも複業人材としての依頼が来る状況が続いています。
比留間氏の語りには、現代の日本企業が抱える人材育成の課題を解決するヒントがたくさん詰まっています。越境、複業、シニア人材活用、キャリア自律などのキーワードが気になる方はぜひご参加ください。

2025年12月15日(月)19:00~20:30
(オンライン入場開始 18:50~)
オンライン(Zoom)による配信
※事前申込が必要です。先着順になります。
※お申込みいただいた方に、すでにZOOMIDを送付いたしました。届いていない場合は事務局までご連絡をおねがいいたします。
100名(先着順)
【比留間 優子】(ひるま ゆうこ)
首都圏総合エレクトロニクス企業勤務/パラレルワーカー
<略歴>
高知県高知市出身。新卒で入社した総合エレクトロニクス企業一社に勤務中。これまで部門異動および二度の産休・育休を経ながら、現在も法人営業として従事。
コロナ禍をきっかけに地元・高知に関わりたいと考えるようになり、高知市役所主催の「鏡川流域外関係人口講座」に1期生として参画。時同じくして社内スタートアップ事業のグループ会社兼務に応募し、1年間兼務の形で社内越境。また、本業の人事部から50代以上の社員にメール配信された地方企業視察ツアーに応募・参加したことをきっかけに、高知の中小企業2社で、現在営業・マーケティング支援を行っている。社内兼務や複業での経験が本業に変化をもたらし、実績が評価され昇格し、現在、自らがチャレンジしたい業務を選択できるポジションを獲得。
【谷口 ちさ】(たにぐち ちさ)
高知大学 学び創造センター キャリア開発ユニット 特任助教/当学会研究会企画委員会委員
学会員 無料 / 非学会員 1,000円
※いずれも事前の申込みが必要です。
※学会員の方は、会員サイトにログインの上お申込みください。
(ログイン前の申込みの場合は会員料金が適応されませんのでご注意ください)
※申込期限:12月11日(木)までにお支払いが確認できない場合はキャンセルとさせていただきます。
「2025年度第4回キャリアデザインライブ!」は、12月15日に、首都圏総合エレクトロニクス企業に勤務しつつパラレルワーカーとしても活躍されている比留間優子さんを迎え、高知大学学び創造センターキャリア開発ユニット特任助教の谷口ちさ先生のリードのもと、オンラインにて開催されました。
冒頭、谷口先生からは、少子高齢化がますます顕著になるなかで企業が若手採用に苦慮する一方、シニア世代社員のポテンシャルを十分に活用しきれていない現状があり、ミドル・シニアミドルにどう活躍してもらうかが課題であることが示されました。あわせて、越境学習の定義、「ゆるいつながり」の重要性、ネガティブ・ケイパビリティといったキーワードについても説明がありました。
お二人はともに高知県のご出身であり、「いつものようにドライブしながら話しているような雰囲気で進めたい」との言葉どおり、終始なごやかで親しみやすく、かつ分かりやすい 対談が展開されました。
比留間さんは、新卒で入社した総合エレクトロニクス企業に現在も勤務し、部門異動や二度の産休・育休を経て、現在は法人営業として活躍されています。越境に踏み出す前に、仕事に対するモチベーションが下がった時期が二度あったと比留間さんは語ります。一回目は子育て期で、「会社バイト期間」と公言して会社に「ぶら下がっていた」時期があったとのことです。「子どもが生まれると、女性は何に時間を振り向けるか決めないといけない。育児へ費やす時間より仕事に費やす時間を優先している同僚もいたけれど、自分はその選択はしなかった」と振り返り、サポート職として、在宅でも対応しやすい仕事を選んでいたそうです。二回目は、次男が10歳になり子育てが一段落した後のことです。営業職への役割変更を視野に入れ始めた頃、英語が得意ではないにもかかわらず海外営業部への異動となりました。その後8年間、海外営業部で業務に携わりましたが、自身の英語力では情報伝達はできても、交渉や駆け引きまでは十分に行えず、限界を感じていたと言います。「自分だからこそできている」という実感を持てないまま、最低限の評価と給与を得ながら、やはり会社に「ぶら下がっていた」感覚で働いていたそうです。そうした時期にコロナ禍を迎え、自宅待機などを通じて内省の時間を持つようになり、地元・高知へと意識が向いていきました。
この後、さまざまな越境を体験したことにより、本業への向き合い方が変わったと比留間さんは話します。越境の直接のきっかけは、49 歳以上の社員全員に定期的に送られてくる社内メールだったそうです。「次のキャリアを考えてほしい。会社としては外に出てもらえるのもありがたいし、あるいは何かを見出して社内にフィードバックしてくれてもよい」と記載は無かったが、そういう趣旨だと私にはとらえられる内容に見えた、シニア活用の一環として人事部が各種プログラムを打ち出したものでした。メールには、さまざまな地域への視察ツアーやイベント、さらにはそば打ち体験なども案内されていましたが、その中で比留間さんは「高知県」というワードに強く惹かれました。副業やキャリア形成を意識したわけではなく、「交通費も出るし」という軽い気持ちで応募したのが、2021 年に開催された高知県主催「高知県企業視察・交流ツアー」でした。
その後、高知市主催の関係人口創出講座を受講し、翌年も高知県企業視察ツアーに参加するなど、高知県企業とのご縁を重ねていかれました。その流れのなかで、2022年からは鋳物メーカーにて社外顧問、2024 年からは化学品メーカーにて社外顧問を務められています。副業先の社外顧問として、「現場社員と一緒に汗をかいてくれる伴走支援」を求める地方企業のニーズに応え、関わったマネージャーや若い社員の成長が見える成果を上げ、経営者から高い評価を得ました。こうした実績は本業にも好影響を及ぼし、越境を機に視座が高まり全体像を捉えられるようになったことで、事業部長クラスに対しても自信を持って自ら提案できるようになったと言います。さらに、本業では「地方課題に興味を持っている人」と一定の認知を得、地方自治体の案件なども比留間さんが担うなど、副業の成果が本業に届いていると話されました。二社目の社外顧問を始めた年に、「自分が長年会社で培ってきたノウハウが、アカデミックに見て正しいのか自信が持てなかった」「世の中が変化するなかで、自分たちが当たり前だと思ってきた営業・マーケティング戦略が本当に今の時代に合っているのだろうか」といった問題意識から、2024年11月より早稲田NEOを受講し始めました。早稲田NEOは、早稲田大学が展開する社会人教育の拠点のひとつで、最先端のビジネストピックなどを扱う各種プログラムを通じてビジネススキルの習得をめざす場です。2025年11月からは、自ら会社側に交渉し、会社が費用負担し、業務の一環で早稲田NEOの講座を受講されています。
比留間さんは、ご自身の歩みについて次のように語られました。
「私って、とっ散らかってると思うんですけど、『面白そう』とか『時間があるから行ってみようかな』と思って行動した点と点がつながって、気づいたらいろいろな足跡やノウハウが自分の身についているなって思っている。これをキャリアって言うんじゃないのかなと感じています。」「恥ずかしげもなく言いうと、この年齢になって初めて自分のライフキャリアがある程度見えてきているし、今、とても充実した時間を送らせていただいている。会社の仕事も、すごくやりがいを持って取り組めていて、『今が一番』だと感じています。」比留間さんは、「ライフキャリアが充実した理由」として、次の 4 点に整理してくださいました。
・「弱い紐帯」はキャリア形成につながる。自然体(オープンマインド)が重要。
・直観で「おもしろそう」と感じたら、関わってみる・行ってみる。
・目標にこだわらず、流れに対して「臨機応変」に。
・「未来」を不安がるより、「今」の気持ちに素直に。
以下は、報告者青木の感想となります。
比留間さんの語りからは、ひとりの個人の小さな一歩が、本業・副業・地域・学びの場を横断して変化を生み出していくプロセスが鮮やかに浮かび上がり、シニア人材活用やキャリア自律のあり方をあらためて問い直す契機となりました。
比留間さんの「面白そうだから動いてみた」という姿勢は、「計画的偶発性理論」を体現しているようにも感じられます。「高知」というキーワードに惹かれて参加した視察ツアーという偶然の出来事を、その後の社外顧問というキャリアへと発展させた背景には、彼女が備えていた「好奇心」「持続性」「柔軟性」「楽観性」「冒険心」という5つの行動特性が働いていたと言えるのかもしれません。「とっ散らかっている」と笑いながら振り返る比留間さんの明るさやオープンマインドさは、非常に魅力的でした。
また、社外顧問や地域、学びの場との関わりを通じて得た経験が本業にも還元され、視座の上昇や提案力の強化につながっている点は、越境学習理論の観点からも示唆に富んでいます。異なる文脈に身を置くことで暗黙知が揺さぶられ、自身の専門性を新たに再定義していくプロセスがうかがえました。
比留間さんは現在でも、本業での実践、越境先での経験、早稲田NEOでの学び(理論)を行き来しながら、実践と学びの往還を継続しています。答えの見えない不安な時期(育児期や海外営業部での葛藤の時期)を安易な解決に逃げずに耐え抜き、内省を深めながら「今できること」に向き合い続ける姿勢は、ネガティブ・ケイパビリティがシニア期の再跳躍においていかに重要であるかを示しているように思われます。
比留間さんの事例は、キャリアの停滞を感じているミドル・シニア層にとって、「越境」が単なる副業探しではなく、「本業の視座を高め、自己効力感を取り戻すための手がかり」となり得ることを、力強く示していると言えるのではないでしょうか。
研究会企画委員会