学会20周年記念!2023年度 第3回キャリアデザインライブ !ご報告

テーマ
企業内キャリアコンサルティングにおける「環境への働きかけ」を考える:コ ミュニティ心理学の視点から
開催日
2024年2月16日(金)
【 詳細 】

企業社員のキャリアデザイン支援に携わっている皆様は、相談者(クライエント)がキャリアデザイン上の課題を乗り越えるためには、相談者本人の認識変容・行動変容だけでなく、相談者の上司や同僚、あるいは人事部や経営層などの認識変容・行動変容、さらには社内制度や社内の様々な取り組みの変化が必要だと感じることがあると思います。キャリアコンサルタント倫理綱領においても、キャリアコンサルティングに際して相談者への支援だけでは解決しない問題については、「相談者の了解を得て、組織に対し、問題の報告・指摘・改善提案等の調整に努めなければならない」(第 12 条)とあります。しかし、実際にはキャリアコンサルタントが職場環境への働きかけを十分に実践できているケースはまだ多くないように思います。コミュニティ心理学は、相談者への直接支援のみならず、その周囲への働きかけも重視するアプローチをとります。そこで、今回のキャリアデザインライブ!では、コミュニティ心理学をご専門に研究・実践されている飯田敏晴先生(駒沢女子大学)をお招きして、企業内キャリアコンサルティングにおける「環境への働きかけ」の必要性や実践方策を参加者の皆様と一緒に考えます。なお、ファシリテーターを本学会研究会企画委員の小山健太(東京経済大学)が務めます

2023~2024年期 第3回キャリアデザインライブ!
開催日時

2024 年2 月16 日(金)19:00~20:30

会 場

オンライン(ZOOM を使用します)。参加予定者に前日までにURL をご連絡します。

定員

250名

参加費

会員/無料、非会員/無料 いずれも事前の申し込みが必要です。
今回は学会をよく理解いただくためのオープン企画として開催します。
非会員の方についても、会員の方からのご紹介があれば無料で参加できます。

登壇者

飯田 敏晴 (いいだ としはる)
駒沢女子大学人間総合学群心理学類准教授
公認心理師、臨床心理士、多文化間精神保健専門アドバイザー
2005 年4 月国立国際医療センター精神科心理療法士(非常勤)に入職後、身体医療における心理支援に従事。専門は、HIV 感染/AIDS に関わる心理支援及び啓発。保健所精神科デイケア、犯罪被害者支援センター、私設開業の相談所等の実務に関わる。
2013 年3 月、明治学院大学大学院博士後期課程修了(博士(心理学)。同年4 月山梨英和大学(助教)、立正大学(特任講師)、立教大学(特任准教授)を経て、2023 年4 月から現職。法務省 外国人支援コーディネーター研修カリキュラム等策定会議構成員、日本心理学会心理学における多様性尊重のガイドライン(2023 年4 月)策定ワーキンググループメンバー。日本コミュニティ心理学会教育研修委員長(2021〜2023 年度)。主要業績として、共編著として、『心の健康教育(金子書房)2021 年』、『援助要請・被援助志向性の心理学(金子書房) 2017 年』『事例から学ぶ 心理職としての援助要請の視点(金子書房) 2019 年』がある。

小山 健太 (こやま けんた)
東京経済大学コミュニケーション学部准教授、同大学グローバルDEI 研究所所長
国家資格キャリアコンサルタント、国家検定キャリアコンサルティング2 級技能士、厚生労働省職業能力開発専門調査員。博士(政策・メディア)(慶應義塾大学)。専門は組織心理学、キャリア心理学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教、東京経済大学コミュニケーション学部専任講師を経て、2018 年4 月より准教授。慶応大学と上智大学大学院でも非常勤講師。一般社団法人グローバルタレントデベロップメント協議会代表理事。
今回のテーマに関連する論文として、小山健太(2019)「セルフ・キャリアドックに関するコミュニティ心理学からの考察」『コミュニケーション科学』49, 203-221、小山健太(2023)「高度外国人材の入社後のキャリア支援:環境への働きかけに関する理論的考察」『アジア研究所・アジア研究シリーズ No.111 アジアの高度外国人材等の受け入れと日本の取り組み』、pp.18-27。そのほか、人事関連専門メディア『WEB 労政時報』『企業と人材』『労務事情』などに寄稿実績あり。

開催報告

2023年度第3回のキャリアデザインライブ!は、コミュニティ心理学を専門にご研究され、臨床心理士、公認心理師として福祉・医療・教育等の様々な現場でご活躍されている駒沢女子大学の飯田敏晴先生に、「企業内キャリアコンサルティングにおける「環境への働きかけ」を考える:コミュニティ心理学の視点から」というテーマで、必要性や実践方策等についてご講演いただきました。
冒頭、今回のファシリテーターである東京経済大学小山健太先生から、企業内キャリアコンサルティングについての問題提起がなされます。
個人に寄り添うキャリアコンサルタントの活動の場は、10年ほど前までは需給調整機関(ハローワーク等)が最も多い領域でしたが、現在は企業領域が最も多くなっているという実態や、昨今、キャリアコンサルタント倫理綱領が改正され、企業内キャリアコンサルタンティングでは、相談者への直接支援のみならず組織や職場などに起因する問題の調整についても相談者の了解を得て対応することが求められています。しかし、そうした相談者への環境への働きかけにはまだ課題が多いのではないかという問いかけがあり、この場では、「環境への働きかけ」をキャリアコンサルタントがどのような世界観で考えていくべきかを考える時間としたいとされ、飯田先生のご講演へバトンが渡されます。
まずは飯田先生の自己紹介からです。
ご専門はコミュニティ心理学、健康・医療心理学で、大学での教育・研究のみならず、医療機関などで心理支援の実践も重ねていらしたとのことでした。
オンライン越しに伝わってくる温かく柔らかいお人柄に、100名を超える参加者が一気に引き寄せられていきます。
次に、コミュニティ心理学の歴史についてです。
元は1960年代にアメリカで生まれ、日本では1969年に日本心理学会において、自らの属性が環境に与える影響や、組織と個人を適合させることなどの議論が始まり、今日に至るまで発展を遂げていきます。
「様々な異なる身体的心理的社会的文化的条件を持つ人々が、だれもが切りすてられることなく共に生きることを模索する中で、人と環境との適合性を最大にするための基礎知識と方略に関して、実際に起こる様々な心理社会的問題の解決に具体的に参加しながら研究を進める心理学(山本 1986)」と定義されるコミュニティ心理学は、現在も研究が蓄積されている分野ということです。
また、コンサルテーションの基盤をつくったといわれる、英国出身ユダヤ人のジェラルド・キャプラン(1917-2008)にも触れられます。
第二次世界大戦後の子どものメンタルヘルスの問題に対し、子どもたちが過ごす一つひとつの施設に足を運び、その子どもたちの世話をする人たちの相談を受けてきた人物です。
日常的に周辺から関わることが問題の未然防止となった自らの経験から、「予防精神医学」の構築へとつながったそうです。
ちなみに、コンサルテーションの語源は、ラテン語で熟議するという意味の「consultare」。単なる橋渡しではなく、しっかりとコミュニケーションを尽くした上であるということを再認識しました。
そして、これまでのお話しと飯田先生のお仕事上での実践が重なっていきます。
様々な現場で活躍される先生は、まずは必ず違う部署の人にご挨拶に行かれるそうです。
そして、支援をするにあたっては、バウンダリー(辺境)を訪れることも意識されていらっしゃいます。
支援者という立場になると、まずは当事者に目が向くものですが、実は、いかなる組織においても、当事者が知り得ないことは辺境にあると力説されました。
自らのレンズ(世界観)を通して、環境に関わっているという限界を意識しながら、マイノリティの意見など様々な人に働きかけることは、決して遠回りではなく、結果的に「チーム」をうみだしていくことにつながるということです。
後半は、質疑応答の時間です。
参加者それぞれがキャリアコンサルタントや管理職などといった、自ら置かれた環境とその中での関係性について、日頃感じていることや悩みなどが沢山チャットに書き込まれ非常に盛り上がりました。
飯田先生の、「悩みに寄り添う人の立場だけでは解決できないところに寄り添う」というお言葉は、支援の形は1対1だけではなく、それを基盤としながらも外部性を活かすなどマクロの視点をもつことの重要性について学ぶこととなりました。
コミュニティ心理学の視点は、キャリアに寄り添う立場の個人やその環境において、十分に応用されうるものと感じました。
キャリアコンサルタントや企業現場等の組織の一員として、飯田先生のように相手の周囲に積極的に働きかけ、多角的な観点からコミュニケーションを積み重ねることを通じ、個人も環境も共に発展することできるという希望の持てる時間となりました。

企画・運営

研究会企画委員会

日本キャリアデザイン学会は、今年20 周年を迎えます。20 周年記念企画の1つとして、ご好評をいただいているキャリアデザインライブを 2023 年12 月から2024 年9月まで10 カ月連続開催させていただく予定です。また、学会を多くの方に幅広く理解いただくために、キャリアデザインライブの大半を学会員以外の皆様にも公開いたします。この機会に是非、日本キャリアデザイン学会にご参加ください。